命の対価

桜庭 葉菜

文字の大きさ
44 / 47

無力【新島雅也】

しおりを挟む
「――――が事故で亡くなったそうよ」

 母親から告げられたその事実を、受け止めることができなかった。

 それから俺の生活は一変してしまった。

 その日、大事な友人を1人亡くし、そしてもう1人の大事な友人は次の日から部活に来なくなった。

 もう一度、あいつがサッカーをしたくなった時にいつでも戻ってこられるよう、俺は部活を続け、毎朝家にも寄った。

「ごめんなさいね、今日も……」

「はい、大丈夫です。毎日朝からご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いえ、私はいいのよ、ただ――」

 と、もうかれこれ1年ほどこのテンプレと化してしまった会話を続けている。

 あの日、何とか友人を助ける方法はなかったのか。

 そんなことを考えても、俺は医者じゃないし、ましてやその場にもいなかった。

 何もできまい。

 せめて目の前で苦しんでいる友人だけでもと毎日こうしているが、それでもうまくいかない。

 あいつの苦しみは俺には到底理解ができないほどのものだろう。

 なんて無力なんだ。

 大事な友人を1人も助けることができないなんて。

 朝もぎりぎりの時間にきて、放課後もすぐに帰ってしまうその友人は、いつ壊れてしまってもおかしくないほどに弱々しい。

 そいつの優しさを、俺は知っている。

 だから、毎日自分のことを責めているであろうことも予想がつく。

 そんな時、俺はなんと声を掛けたらいいのだろう。

「雅也はほんとに頭いいよな」

 頭がよくたって意味がない。

「次の部長は絶対雅也がいいと思う」

 仲間を失って、それでもリーダーになんてなれない。

 次の日、俺はいつもどおりの時間に家の前に行った。

「ごめんなさいね、少し待っててもらえる?」

 いつもと違う返事。

「待つ、とは……?」

 そう聞き返してすぐに「待たせた」と声が聞こえた。

 そこには懐かしいリュックを背負った友人がいた。

 ああ、俺は、全くの無力ではなかったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

好きって伝えたかったんだ。

まいるん
恋愛
ごめんなさい。 あの時伝えてれば。素直になれていたら。 未来は変わったのだろうか。 ずっと後悔してる。 もしもう一度君に会えたら。 もしもう一度君と話せたら。 高校1年生のすいは、同い年で幼なじみの蓮のことが好きだけど、告白できずにいた。想いを伝えることはできるのか。2人は結ばれるのか。 幼なじみ同士の少し不思議で切ない物語。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...