3 / 27
吸血鬼の美青年
しおりを挟む
窓から突然現れた彼はとても綺麗で・・・つい気を許したら・・・吸血鬼だった。
「ありがとう、ゴメンね・・・目が覚めたら動けるようになってるから。でも・・・。」
眠っている彼女の耳元で、レインはそうささやきかけた。
最初は戸惑いながらも部屋へ招き入れてくれた彼女。口には合わなかったけど、血の色をしたワインなるものを出してもくれた。そのうち楽しくおしゃべりして、何だかいい感じになって・・・優しく触れ合って、キスをしてくれた。
なのに・・・。
結局、殺さないでと泣きながら命乞いをしてきた。
「俺が吸血鬼だってわかったとたん・・・怖がられたのは悲しかったな・・・。」
吸血鬼の青年レインは重いため息をついた。
我慢を知らず絶命させてしまう愚か者がいるせいで、いちいち騒がれそうになる。快楽を得られるだけと分かってもらえたら、もっと吸血がしやすくなるだろうに。どうやらこの町にも、そんな愚か者が来ていたようだ。
吸血鬼の多くは人間を餌だと思っているらしい。満腹になるまで血を食らい、殺してしまっても、どこかでまた新たな命が生まれるからか何とも思わないのだろう。吸血鬼に寿命など無いのも同然だが、望まなければ増えることもないため、絶え間なく産まれてくる人間の方が遥かに数が多い。
だが俺は、彼らをただの食料にはしたくない。一人でいい。助けてくれる人が欲しい。苦しまないように大事にするから、一緒に生きてくれる人。
今は穏やかな寝顔でいるものの、首の小さな傷から少し血を流している彼女は、レインが食事の相手に選んだ若い女性だ。その彼女のことを、ベッドの縁に腰をおろしたレインは、そんなふうに憂鬱な気持ちで見下ろしていた。今夜も上手くいかなかった。だから、そろそろ行かないと・・・と思うも、気力がわかない。レインはのろのろと手を動かして、彼女の頬をなでた。
ほのかに明るく色づいた人間の肌の色が好きだ。素敵な笑顔を見せてくれると、もっと心地よくなる。暗い場所でしか生きられない俺は、人間が知っているいろんな温もりに憧れている。人は美味しいと感じるものを気持ちよく食べられる。特に若い女性の生き血は美味い。でも・・・それを、俺は気分よく味わったことがない。そんな温もりを、俺は知らない。後味はいつも虚しさで・・・出会い方がいいほど苦くなる。
わかってもらえたら、俺も知ることができるはずなのに・・・結局、台無しにされる。怯えきって泣きじゃくる、嫌悪と恐怖でゆがんだ顔に・・・もう、うんざりだ。
バタンッ!
何やら気配がみるみる近づいてくるかと思うと、この部屋のドアが突然、大きな音をたてて開いた。
そして目の前に現れた見知らぬ男は、状況をひと目見ると、全てを察した様子でいきなりこう怒鳴りかけてきたのである。
「この・・・賤しい吸血鬼が、俺の婚約者を・・・よくも!」
婚約者・・・ああ、なんだ・・・そっか。レインは、はあ・・・とまた重いため息をついて、ようやく腰を上げた。
「そうなんだ・・・。でも大丈夫。疲れて眠ってるだけだから、死んでないよ。痛みもすぐに快感に変わるから苦しめていないし。」
「ふざけるな!」
「彼女、美人だね。でも、さ・・・彼女でいいの?」
「は?どういう・・・。」
レインはほほ笑んでみせた。そして、あなたのことは何も言わなかったし、ここには喜んで入れてくれたよ・・・と伝えたかったが、やめた。
「まあ、いいや。とにかく手を出してゴメン。それじゃあ・・・。」
バルコニーに立ったレインは変身能力を使い、背中からコウモリの羽のような大きな翼を生やした半獣になった。ここは高層住宅街の三階だ。このまま空を飛んで去れば簡単だし面倒がなくていい。そもそも、ここに来たのだって、このバルコニーからだった。
「こいつ、くそ!窓から逃げたぞ!」
男が叫ぶ声が聞こえてよく見てみれば、周りの建物のベランダやバルコニーに、クロスボウを構えた大勢の男たちがいる。組織化された集団に狙われるのは初めてだ。
待ち伏せか・・・ああ、この町もとうとう始めたのか。そう理解すると同時に、彼女はおとりになったのか?とも考えたが、それにしては、あの男の登場が遅すぎる。俺でなければ、彼女は死んでいたかもしれないのに。恐らく窓から入ったのを見られて、通報されたのだろう。
こんな時についそう考え事をしていたせいか、もっと高い夜空に飛びたったつもりが、思いがけず強烈な痛みに襲われた。しまった、背中をやられた。突き刺さっているのは、矢というより銀針のようだ。太い。衝撃と痛み、そして混乱と焦りのせいで体勢を崩したレインは墜落しかけた体を無理にたてなおした。そして幸い、射程範囲を抜けることができ、どうにか意識を保ったまま討伐隊の視界からも逃れて、街から遠く離れた森まで来ることができた。が、まともに立つこともできないほど応えていた。もう、飛ぶことも。だが、朝になるまでに暗い場所に隠れなければ、太陽に照らされたら灰になって死んでしまう。
そう恐怖にかられたレインは、陽の光をずっと遮れる場所が近くに無いかと顔を上げた。人間の視力では何も見えないほど森の中は暗いが、吸血鬼であるレインには小道が見えた。それをたどると、木々をかすめて明かりが灯っているのが分かる。人間の家だ。そう遠くない。
傷を癒さないと・・・人間の血・・・。
ポツンと見える小さな灯りに誘われて、レインはほとんど体を引きずりながら動きだした。しかし、そこへと辿り着く前にとうとう意識が朦朧としてきて、これ以上耐えることはできなかった。
「ありがとう、ゴメンね・・・目が覚めたら動けるようになってるから。でも・・・。」
眠っている彼女の耳元で、レインはそうささやきかけた。
最初は戸惑いながらも部屋へ招き入れてくれた彼女。口には合わなかったけど、血の色をしたワインなるものを出してもくれた。そのうち楽しくおしゃべりして、何だかいい感じになって・・・優しく触れ合って、キスをしてくれた。
なのに・・・。
結局、殺さないでと泣きながら命乞いをしてきた。
「俺が吸血鬼だってわかったとたん・・・怖がられたのは悲しかったな・・・。」
吸血鬼の青年レインは重いため息をついた。
我慢を知らず絶命させてしまう愚か者がいるせいで、いちいち騒がれそうになる。快楽を得られるだけと分かってもらえたら、もっと吸血がしやすくなるだろうに。どうやらこの町にも、そんな愚か者が来ていたようだ。
吸血鬼の多くは人間を餌だと思っているらしい。満腹になるまで血を食らい、殺してしまっても、どこかでまた新たな命が生まれるからか何とも思わないのだろう。吸血鬼に寿命など無いのも同然だが、望まなければ増えることもないため、絶え間なく産まれてくる人間の方が遥かに数が多い。
だが俺は、彼らをただの食料にはしたくない。一人でいい。助けてくれる人が欲しい。苦しまないように大事にするから、一緒に生きてくれる人。
今は穏やかな寝顔でいるものの、首の小さな傷から少し血を流している彼女は、レインが食事の相手に選んだ若い女性だ。その彼女のことを、ベッドの縁に腰をおろしたレインは、そんなふうに憂鬱な気持ちで見下ろしていた。今夜も上手くいかなかった。だから、そろそろ行かないと・・・と思うも、気力がわかない。レインはのろのろと手を動かして、彼女の頬をなでた。
ほのかに明るく色づいた人間の肌の色が好きだ。素敵な笑顔を見せてくれると、もっと心地よくなる。暗い場所でしか生きられない俺は、人間が知っているいろんな温もりに憧れている。人は美味しいと感じるものを気持ちよく食べられる。特に若い女性の生き血は美味い。でも・・・それを、俺は気分よく味わったことがない。そんな温もりを、俺は知らない。後味はいつも虚しさで・・・出会い方がいいほど苦くなる。
わかってもらえたら、俺も知ることができるはずなのに・・・結局、台無しにされる。怯えきって泣きじゃくる、嫌悪と恐怖でゆがんだ顔に・・・もう、うんざりだ。
バタンッ!
何やら気配がみるみる近づいてくるかと思うと、この部屋のドアが突然、大きな音をたてて開いた。
そして目の前に現れた見知らぬ男は、状況をひと目見ると、全てを察した様子でいきなりこう怒鳴りかけてきたのである。
「この・・・賤しい吸血鬼が、俺の婚約者を・・・よくも!」
婚約者・・・ああ、なんだ・・・そっか。レインは、はあ・・・とまた重いため息をついて、ようやく腰を上げた。
「そうなんだ・・・。でも大丈夫。疲れて眠ってるだけだから、死んでないよ。痛みもすぐに快感に変わるから苦しめていないし。」
「ふざけるな!」
「彼女、美人だね。でも、さ・・・彼女でいいの?」
「は?どういう・・・。」
レインはほほ笑んでみせた。そして、あなたのことは何も言わなかったし、ここには喜んで入れてくれたよ・・・と伝えたかったが、やめた。
「まあ、いいや。とにかく手を出してゴメン。それじゃあ・・・。」
バルコニーに立ったレインは変身能力を使い、背中からコウモリの羽のような大きな翼を生やした半獣になった。ここは高層住宅街の三階だ。このまま空を飛んで去れば簡単だし面倒がなくていい。そもそも、ここに来たのだって、このバルコニーからだった。
「こいつ、くそ!窓から逃げたぞ!」
男が叫ぶ声が聞こえてよく見てみれば、周りの建物のベランダやバルコニーに、クロスボウを構えた大勢の男たちがいる。組織化された集団に狙われるのは初めてだ。
待ち伏せか・・・ああ、この町もとうとう始めたのか。そう理解すると同時に、彼女はおとりになったのか?とも考えたが、それにしては、あの男の登場が遅すぎる。俺でなければ、彼女は死んでいたかもしれないのに。恐らく窓から入ったのを見られて、通報されたのだろう。
こんな時についそう考え事をしていたせいか、もっと高い夜空に飛びたったつもりが、思いがけず強烈な痛みに襲われた。しまった、背中をやられた。突き刺さっているのは、矢というより銀針のようだ。太い。衝撃と痛み、そして混乱と焦りのせいで体勢を崩したレインは墜落しかけた体を無理にたてなおした。そして幸い、射程範囲を抜けることができ、どうにか意識を保ったまま討伐隊の視界からも逃れて、街から遠く離れた森まで来ることができた。が、まともに立つこともできないほど応えていた。もう、飛ぶことも。だが、朝になるまでに暗い場所に隠れなければ、太陽に照らされたら灰になって死んでしまう。
そう恐怖にかられたレインは、陽の光をずっと遮れる場所が近くに無いかと顔を上げた。人間の視力では何も見えないほど森の中は暗いが、吸血鬼であるレインには小道が見えた。それをたどると、木々をかすめて明かりが灯っているのが分かる。人間の家だ。そう遠くない。
傷を癒さないと・・・人間の血・・・。
ポツンと見える小さな灯りに誘われて、レインはほとんど体を引きずりながら動きだした。しかし、そこへと辿り着く前にとうとう意識が朦朧としてきて、これ以上耐えることはできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる