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伝説の変異種と種特異性吸血鬼
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吸血鬼族の国は北の果てにある。高い大山脈に囲まれ、一日のうち日光が当たる時間が短いそこを拠点としながら、生き血を求めて人間が住む町へとひとっ飛びする者、町にしばらく滞在する者など、多くは自由に暮らしている。王と呼ばれる君主は存在するものの、これまで強い支配力を示す者はいなかった。あまり干渉しようとしない彼らは、もともと孤独な生き物である。
そんな吸血鬼族の王子とその妃のあいだに生まれた令嬢は、ラビアンと名付けられた。
「おかしいわ・・・牙が発達しないなんて・・・。」
「これでは自力で満足に生き血を吸えない・・・。」
「なんてこと・・・この子は一人では生きていけないわ。」
幼い娘が吸血できないことで辱めを受けると心配した王子と妃は、娘は体が弱いと外へあまり出さずに隠し続けた。
そんな娘には、不思議なところが多かった。吸血できない代わりに人間の食べ物でも栄養をつけられた。
狩り場の部屋にあったリンゴを美味しそうにむさぼる娘の姿に、両親は驚いた。試しにほかの食べ物も与えてみれば、興味津々で満足そうに食いつくのである。
そしてある日、その娘のラビアンが夜のあいだにいなくなってしまった。
「早く見つけないと。」
「いや、これ以上は無理だ・・・もう陽が昇る。もしかしたら、洞窟などに隠れて生きながらえるということもじゅうぶんにあり得る。夕暮れになったらまた捜しにこよう。」
そして日が暮れる頃、王子と妃はラビアンを森の中で見つけることができた。その発見現場は、天気が良ければ陽の光がたっぷりと降り注ぐ湖のほとりだった。そこでラビアンは気持ちよさそうに昼寝をしていたのである。手に赤い木ノ実を握りしめて。
「この子は陽の光も平気なんじゃないかしら。血を飲まなくても衰弱しないし、人間の食べ物もおいしそうに食べるし・・・もしかして・・・。」
「変異種か・・・。」
聞いたことがある。昔、人の子と同じように太陽の光を浴びることができ、水の中でも力を使える変異種が生まれたという話。ただし、牙が発達しなかったせいで、容易に生き血を吸うことはできなかった。代わりに、人間の食べ物でも空腹を満たすことができたという。
実は、それは吸血鬼族に王族が誕生した謂れにもなっている伝説だ。
ことの発端は、初代の王と王妃が若いころまでさかのぼる。もともと恋人同士であった二人だが、彼女は確かに吸血鬼でありながら、まるで人間のようだった。
人間界の討伐隊に追われて襲撃を受け、彼が重傷を負った時、人間と同じ性質をもつ自分の血なら回復できるかもしれないと考えた彼女は、彼に自分の血を与えてみたのである。するとその効果は想像を絶するものだった。みるみる回復しただけでなく自身の能力が爆発的に強まった彼に、討伐隊はあっけなく一掃されたのである。しかも、彼女と同じように陽の光も恐れるものではなくなり、水にも怯まない体質に生まれ変わった。
そうして最強の体を手に入れた彼は同胞から崇められ、王となり、王族が誕生したのだという。
ところが、彼に力を与えた彼女の方の吸血鬼としての能力は消えてしまい、人間と同じほどの寿命で亡くなってしまった。
ゆえに、その恩恵を受けられるのは一人だけだと分かった。
ただ、寿命については、変異種としてもともとそうだったのでは・・・とも言われている。能力を失った時の彼女はまだ若く、女性でもあったことから、それまで成長速度がほかの吸血鬼より早かったとしても、見た目に明らかな違いがなかったからだ。
そうして彼女は、もともとそうだったのか、能力が消えてしまったからなのか分からないまま、その後も人間と同じように老いていった。
二人が子孫を残したことで王族は繁栄したが、王は妻を亡くした百年後に自死した。ずっと孤独感に苛まれていたのではとも噂されたが、真相は明らかになっていない。最強の王がいなくなると、さらに知恵をつけた人間は吸血鬼の弱点をついた討伐を再び始めるようになり、今に至る。
かつて完璧な体となった彼、王は、種特異性吸血鬼とも呼ばれたが、彼をそのようにした彼女、王妃のような変異種は、その後これまで子孫の中にも現れなかった。
だが、ついにラビアンが受け継いだことになる。
伝説では、王妃は大切にされて一生を終えたというが、それは王に愛されていたからだ。そうでなければ、ただその能力を欲しさに奪い合う争いが起きるかもしれない。暴君と成りあがる者が現れ、吸血鬼族のあいだで大きな権力争いが起こるかもしれない。それに、能力を全て奪われれば、吸血鬼として一緒に生きることも難しくなる。そうなれば、この子は迫害されるかもしれない・・・。
「変異種なら、きっと・・・命もすぐに尽きてしまう。人間と同じように生きられるのなら・・・むしろ・・・。」
そうして、娘の行く末を悲観した吸血鬼族の王子と妃は、催眠術を使って暗示をかけ記憶を失わせた。そうしてある真夜中、眠っているあいだに娘を人間界の孤児院に託すことにしたのである。ラビアンと名前だけを添えて。
孤児院に預けられたラビアンは、自身のそんな素性を知らないまま18才の頃まで人の子と同じように歳を取り、主が亡くなったあとも孤児院に残って、代わりに子どもたちの世話をしながら暮らしていた。
その孤児院は、近年、吸血鬼が出没するようになった大きな町の郊外にある。
そんな吸血鬼族の王子とその妃のあいだに生まれた令嬢は、ラビアンと名付けられた。
「おかしいわ・・・牙が発達しないなんて・・・。」
「これでは自力で満足に生き血を吸えない・・・。」
「なんてこと・・・この子は一人では生きていけないわ。」
幼い娘が吸血できないことで辱めを受けると心配した王子と妃は、娘は体が弱いと外へあまり出さずに隠し続けた。
そんな娘には、不思議なところが多かった。吸血できない代わりに人間の食べ物でも栄養をつけられた。
狩り場の部屋にあったリンゴを美味しそうにむさぼる娘の姿に、両親は驚いた。試しにほかの食べ物も与えてみれば、興味津々で満足そうに食いつくのである。
そしてある日、その娘のラビアンが夜のあいだにいなくなってしまった。
「早く見つけないと。」
「いや、これ以上は無理だ・・・もう陽が昇る。もしかしたら、洞窟などに隠れて生きながらえるということもじゅうぶんにあり得る。夕暮れになったらまた捜しにこよう。」
そして日が暮れる頃、王子と妃はラビアンを森の中で見つけることができた。その発見現場は、天気が良ければ陽の光がたっぷりと降り注ぐ湖のほとりだった。そこでラビアンは気持ちよさそうに昼寝をしていたのである。手に赤い木ノ実を握りしめて。
「この子は陽の光も平気なんじゃないかしら。血を飲まなくても衰弱しないし、人間の食べ物もおいしそうに食べるし・・・もしかして・・・。」
「変異種か・・・。」
聞いたことがある。昔、人の子と同じように太陽の光を浴びることができ、水の中でも力を使える変異種が生まれたという話。ただし、牙が発達しなかったせいで、容易に生き血を吸うことはできなかった。代わりに、人間の食べ物でも空腹を満たすことができたという。
実は、それは吸血鬼族に王族が誕生した謂れにもなっている伝説だ。
ことの発端は、初代の王と王妃が若いころまでさかのぼる。もともと恋人同士であった二人だが、彼女は確かに吸血鬼でありながら、まるで人間のようだった。
人間界の討伐隊に追われて襲撃を受け、彼が重傷を負った時、人間と同じ性質をもつ自分の血なら回復できるかもしれないと考えた彼女は、彼に自分の血を与えてみたのである。するとその効果は想像を絶するものだった。みるみる回復しただけでなく自身の能力が爆発的に強まった彼に、討伐隊はあっけなく一掃されたのである。しかも、彼女と同じように陽の光も恐れるものではなくなり、水にも怯まない体質に生まれ変わった。
そうして最強の体を手に入れた彼は同胞から崇められ、王となり、王族が誕生したのだという。
ところが、彼に力を与えた彼女の方の吸血鬼としての能力は消えてしまい、人間と同じほどの寿命で亡くなってしまった。
ゆえに、その恩恵を受けられるのは一人だけだと分かった。
ただ、寿命については、変異種としてもともとそうだったのでは・・・とも言われている。能力を失った時の彼女はまだ若く、女性でもあったことから、それまで成長速度がほかの吸血鬼より早かったとしても、見た目に明らかな違いがなかったからだ。
そうして彼女は、もともとそうだったのか、能力が消えてしまったからなのか分からないまま、その後も人間と同じように老いていった。
二人が子孫を残したことで王族は繁栄したが、王は妻を亡くした百年後に自死した。ずっと孤独感に苛まれていたのではとも噂されたが、真相は明らかになっていない。最強の王がいなくなると、さらに知恵をつけた人間は吸血鬼の弱点をついた討伐を再び始めるようになり、今に至る。
かつて完璧な体となった彼、王は、種特異性吸血鬼とも呼ばれたが、彼をそのようにした彼女、王妃のような変異種は、その後これまで子孫の中にも現れなかった。
だが、ついにラビアンが受け継いだことになる。
伝説では、王妃は大切にされて一生を終えたというが、それは王に愛されていたからだ。そうでなければ、ただその能力を欲しさに奪い合う争いが起きるかもしれない。暴君と成りあがる者が現れ、吸血鬼族のあいだで大きな権力争いが起こるかもしれない。それに、能力を全て奪われれば、吸血鬼として一緒に生きることも難しくなる。そうなれば、この子は迫害されるかもしれない・・・。
「変異種なら、きっと・・・命もすぐに尽きてしまう。人間と同じように生きられるのなら・・・むしろ・・・。」
そうして、娘の行く末を悲観した吸血鬼族の王子と妃は、催眠術を使って暗示をかけ記憶を失わせた。そうしてある真夜中、眠っているあいだに娘を人間界の孤児院に託すことにしたのである。ラビアンと名前だけを添えて。
孤児院に預けられたラビアンは、自身のそんな素性を知らないまま18才の頃まで人の子と同じように歳を取り、主が亡くなったあとも孤児院に残って、代わりに子どもたちの世話をしながら暮らしていた。
その孤児院は、近年、吸血鬼が出没するようになった大きな町の郊外にある。
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