14 / 70
第2章 旅立ち
3. 人助け
しおりを挟む翌朝には天気は回復して、太陽に薄雲がかかっていた。少し光が射している。
外へ出たアベルは、リマールの誘導で洞窟の丘から細い道を下りて行き、やがて広い川沿いのより明るい場所に着いた。木の葉や茂みの植物、それに白や紫の小さな花についた雫がきらきらと輝いている。あちこちで小鳥がさえずっている。気持ちよく朝食が食べられそうな所。
二人共、食べられる野生の植物について詳しく、たくさんの種類を知っていた。それで今朝は、その川辺に生えている植物の根っこを洗って食べた。その周囲には、黄色い実が生っている木が並んでいた。二人はそれも食べ、さらにいくつか摘み取った。
この森はいつ抜けられるだろう。そのあと町まではどれくらいかかるのか。東の方へ抜ける道は行ったことが無かったので、ちょっと見当がつかなかった。食料は大事にしないと。
一時間もしないうちに、そこでできることを済ませた二人は、新たな気持ちで元気よく歩き出した。さあ、今日は行けるだけ行こう、東へ。王都アンダレアへ。早く薬を届けないといけない。
あ、でもその前に、この森で人に会わないと。ルファイアス騎士の弟さん。何人兄弟かも歳も聞いてないけど、末っ子の人。屈強のさすらい戦士と言っていた。
二人は立ち止まり、ルファイアス騎士から、手紙とは別に受け取ったメモを確認した。
森の中には、本流から分かれる川がいくつか通っている。その一つで、滝があるそばに住んでいるらしい。メモには、その滝の名称の下に《中途半端なツリーハウス》という謎めいた書き方がされていて、目に入れば遠くからでもすぐに分かると聞いていた。
この広い川沿いの道は真っ直ぐ、目の届く限り続いている。迷わないで行けそうなので、とりあえずここを進もうということになった。そして、分かれ道に出会う度に、足を止めて立札の文字を読んだ。
何時間も、とにかく同じペースで歩き続けた。昼と午後に二回休憩を取ったが、道はまだ伸びていて、果てしなく続いているようにさえ思える。途中、食べられる木の実を見つけてはもぎ取って、リュックに入れた。
日が暮れてきた。低くなった太陽が、薄い雲に覆われた空でぼんやりと燃えている。
斧を持った木こりに何人か出会った。家路についているところだろう。中途半端なツリーハウスのことをたずねてみると、なんとすぐに話が通じて、まだまだ先だと教えてくれた。
この調子では、たどり着くのは明日になりそうだ。
二人は、後ろに沈んでいく夕日を時々振り返りながら、いつ道を外れて、今夜の寝床を探そうかと考えた。
「助けてくれ・・・!」
声がした。茂みの方から、焦って、苦しそうな声。
「アベル・・・。」
「うん・・・聞こえた。」
二人は一緒に、声があがった方角へ目を向けた。
「誰かいないか・・・!」
「近い。」と、リマール。
「こっちだ。」
二人は地面を蹴り、川沿いから雑木林の方へ道を折れ、藪を飛び越えて、川沿いの道と平行している小道に出た。
「動けない、誰か助けてくれ!」
また同じ声がして首を向けると、男性が一人、仰向けで地面に肘を付いている状態のまま身動きがとれなくなっている。男性は、横から倒れてきたと思われる幹の太い木と、地面との間に下半身を挟まれていた。
「いた。ほら、あそこ。」
アベルがそちらを指差して言った。
近づいて見てみると、実際には木の葉が茂っている方の太い枝が、男性の左足首を圧迫している。
縮れ毛の髪と黒い肌の、木こりと思しき中年の男性だった。
「大丈夫ですか。」
リマールが声をかけた。
「ああ、若いの、助けてくれるのか。」
「もちろんです。」
「ありがたい。急に木が倒れてきて。」
「この前の嵐で幹がやられてたのかも。」
アベルが言った。
「いつからこの状態に?」
リマールが、折れた木と男性の両方の様子を窺いながらきいた。
「ええっと・・・30分くらい前からだ。」
リマールが圧迫されている部位をよく見てみると、まだ腫れておらず、変色も見られず、感覚もあるとのことだった。
男性のそばには斧が落ちていたが、斧で木を叩けば強い衝撃を与えてしまう。そこで今度は、邪魔な周りの小枝を折り、挟まれている足元の土を見てみる。彫って助けることができそうだった。
近くの木によじ登ったリマールは、腰から短剣を抜いて固い枝を切り落とすと、先を斜めに削って少し鋭くしたものを二本作った。一本はアベルが。そして、男性の挟まれている足周りを慎重に掘り進めていく。
幸い、思ったよりもすぐに抜けてくれた。
背後から男性の両脇を抱えてその体を引きずり出すと、リマールはすぐに男性の痛めている足の具合を診た。
「体は大丈夫ですか。倒れてきた時に体も打ったのでは。」
「ああ、大丈夫だ。かすり傷で済んだ。」
「腫れてはいないみたいだけど、痛みますか。あとで腫れてくるかも。」
「ああ・・・ちょっと・・・立てないな・・・。」
「肩を貸しましょう。家まで送ります。」
「すまない。」
「荷物は僕が。」と、アベルも気を利かせて、リマールのリュックと男性の斧を抱えた。
彼らは今いる小道から北へ向かう道に出て、ゆっくりと歩いた。そうしながら互いに名乗り合い、少し会話をした。男性の名はベルゴ。彼は、何をしにどこへ行くのかときいてきたので、二人は、「王都アンダレアへ。」とだけ正直に答え、あとは、「知り合いに呼ばれて。」と適当にごまかした。
0
あなたにおすすめの小説
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる