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第2章 旅立ち
4. 少女の病
しおりを挟む道はそのうち緩い下りになった。やがて木が少なくなり、前方にポツポツと小さな灯りが見えて、平屋の住居と納屋が並んで建っている裏側にたどり着いた。
ここがベルゴの住まいらしい。
そこから表玄関へ回る。窓から何か美味しそうな匂いが漂ってきて、食欲をそそられた。
軒先には、気配に気づいた奥さんが出て来て、待っていた。訳を聞いた彼女は二人に御礼を言い、代わって夫を支えた。
「それでは、僕達はこれで。」
リマールが言って、二人は速やかにその場を去ろうとした。
すると、主人に呼び止められた。
「いやいや、このまま恩人をかえすわけにはいかない。助けてもらったお礼がしたい。もう日が暮れるし、良ければ今晩、泊まっていかないか。」
「お気遣いなく。お礼をしてもらえるほどのことではないので。」と、リマール。
「いや、あんた達がいなかったら、俺はどうなっていたか分からない。だからそう言わずに。温かい食事でもてなそう。」
温かい食事! 二人とも、急に音をたてて胃袋が鳴る思いがした。夜眠るのも、建物の中というだけで全然違う。
結局、二人は簡単にお言葉に甘えることにした。
誘われるままに家の中へ入り、奥の食堂へ向かう廊下を、主人を支えている奥さんのあとについていった。その間に、ドアの無い部屋が二つあった。
左の部屋の方から辛そうな唸り声がかすかに聞こえて、アベルもリマールも、入口のところで思わず足を止めた。女の子の声のようだった。薄暗い部屋に、キャンドルグラスの小さな火がぽつんと燃えている。
その灯りで、ベッドの上に体を丸くして横になっている子供の姿が分かった。
「お子さん・・・病気。」
気遣いながら、アベルがほとんどつぶやくように言った。
「ああ実は、もう五日も具合が良くなくて・・・恥ずかしい話だが、医者に診せる金がない。」
同じく立ち止まり、振り返った主人が暗い声でそう答えた。
「僕は医者じゃないけど、ちょっと診させてもらってもいいですか。」
リマールが申し出た。
医者じゃないのに診たがるその意味が分からない様子で、夫婦は顔を見合う。
「あ、ああ。」と、それで主人は少し戸惑い気味にうなずいた。
「ランタンがあれば持ってきてください。」
リマールは部屋に入り、ベッドの枕元に腰を落として、女の子の額に手を当てた。
それをしてきたのが知らないお兄ちゃんと気づいたその子は、一瞬、驚いた顔になったが、そばに父親もいるのを見て何も言わなかった。
「熱が高いな。ずっとですか?」
「いや、下がったかと思ったら、また上がる。その繰り返しだ。」
「なるほど。」とつぶやいたリマールは、「ちょっと、ごめんね。」と言うと、今度は少女の左右の耳の後ろから顎の下にかけて、撫でるように軽く手を当てていく。
「気分は?気持ち悪い?」
それをしながら、リマールは少女に優しく話しかけた。
「ううん。」
少女はだるそうな虚ろな目をして、のろのろと首を振った。
「だと思った。頭痛い?」
「ちょっと。」
「そっか。咳は出る?」
「ない。」
「うん。じゃあ、お口を大きく開けてくれるかな。」
リマールは、夫人が手元に用意してくれたランタンをかかげて口の奥を覗いた。
穏やかな表情と口調で、実に滑らかに診察しているリマールを見たアベルは、彼は医者を目指せばきっと皆に慕われるいい先生になれるだろう・・・と感心した。
そのリマールは、少女の喉の上の方が赤く腫れているのを確認。
「ああやっぱり、そうだ。」
そして、主人に笑顔を向けた。
「大丈夫、これならちょうど効く薬を持っていますよ。さし上げます。」
「本当か!? でも、あんた医者じゃあないんだろう?」
「薬剤師です。医者ほど病気や怪我についての広い知識も技術もありませんが、限られたものになら。口の中に典型的な症状が出ています。この病気なら、治す方法を知っていますよ。」
リマールはリュックから茶色い革袋を引っ張り出した。中には、数種類の薬と匙や薬包紙がセットになって入っている。王様に届けなければならない薬も、念のために分けてここにも入れてある。リマールは匙を手にとって、少女の体格と病状に合う特効薬をあっという間に用意した。
「今夜は僕がみるので休んでください。ずっと看病してたんでしょう?」
「いや、そんなことをさせたらお礼にならない。」
「副作用が出ないかなど、経過も知りたいので。」
リマールのきっぱりとした口調に、夫婦もそれ以上は何も言えなくなり、ただ申し訳なさそうな顔をして目を見合う。
そして薬を飲ませたあとは、とりあえずは少女を一人にして、彼らは食堂へ移動した。
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