イルマの東へ

月河未羽

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第2章  旅立ち

6. 北の暗殺者

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 迂闊うかつだった。げ口や聞き込みをされることを考えていなかった。

 二人はぞっとしながら走った。危険がすぐ近くまで迫っていた。アベルは急におのれの立場を自覚し、現実的になり、嫌というほど痛感した。そうだ、僕は命を狙われてる。もっと用心深く、慎重に行動しくちゃいけない。何としても、無事に王都へ着かなければならないというのに・・・!

 二人は追っ手がいる方とは反対側の裏道を、暗闇の中手探てさぐりで静かに逃げた。よく見ることができないので状態が分かり辛い。これは道と呼べるのか。足にはやぶを踏みつけているように植物がからみついてくるし、頭や顔には小枝か固いくきがピシパシと打ちつけてくる。少し上り坂になっていて、でこぼこしている。足首をくじいてしまいそうだ。

 でもとにかく、少しでもここから遠く離れないと。あの男達・・・敵が追いかけて来るかもしれない。

 もし捕まったら、どうなるんだ? そんなこと・・・きっと、すぐに殺されるに決まってる。敵が望んでいるのは、現国王の早い病死とそして、法律で守られている真の次期王位継承者が完全にいなくなること。だから、僕を生かしておく意味はない。奴らは暗殺者なんだ!

 そう冷静に考えたアベルは、いよいよ恐ろしくなり、追っ手が気になって後ろを見た。

 はっ・・・小さな灯りが近づいてくる・・・!

 ランタンの黄色い炎が一つ、ゆらゆらと揺れていた。ひづめの音はしない。大勢ではなさそうだ。だがそれは、こんな険しい道でも慣れたようにみるみる迫ってくる。

 一方の二人は、暗い夜道を灯りも点けずに進んでいるため、早く行くことができない。
 そこであわてて道をれ、丈高たけたかい植物を掻き分けて、やぶの中に身をひそめた。
 すると、次第しだいに何かしゃべっているのが聞こえてきた。
 灯りは二人が隠れている場所よりまだ数メートル後ろにあったが、そこからの声は聞くことができた。

「アベル、リマール、どこだ?」

 追いかけてきたのは主人だ。

「話がある。大事な話だ。あんた達にとって、とても重要なことだ。信用してくれ。俺は大丈夫だ。どこにいる?」

 周りを気にするような声で、主人はそんなことを口にしながらやってくる。
 ところが、通り過ぎてくれるのを待っているというのに、彼はふらふらと地面に両ひざをついて歩くのを止めてしまった。

「ああ、俺は、なんてバカなことをしようとしたんだ。あの二人はいいヤツだった。なのに・・・」

 ひとり言と取れるこれは小さな声だったが、暗闇の中それはあわれに響いた。
 二人は驚いて顔を見合う。 
 リマールは思わず立ち上がろうとしたアベルの腕をつかみ、強く下へ引っ張った。
 アベルは少し浮かした腰を落とした。

「奥さんは逃がしてくれた。」
「個人的に・・・ってこともある。」
「誰もいないところで、あんなふうにうそ泣きする人なんていないよ。」
「僕たちをおびき出す作戦かもしれない。」

 二人は息遣いきづかいと変わらないようなかすかな声で、ひそひそと言い合った。

「でも・・・。」
「僕が行く。」

 意外な返事に、アベルは胸をつかれて黙った。

 かたや、リマールが決心した理由はこうだった。
 これはけだ。もし例の薬を作れる薬剤師だと知られていたら、今出て行って捕まり、奴らのところへ連れて行かれれば、やはり殺されるだろう。でも、主人は大事な話があると言っていた。先ほどのその姿に嘘が無いなら、彼は自分たちにとっても有益ゆうえきな情報を持っているはず。奴らのことを知っているのだから。ならばそれは、この先の危険を回避かいひするために、きっと覚えておいた方がいいことだ・・・と。

 そうしてリマールは、アベルの居場所を悟られないよう、くさむらの中を静かに歩いて距離をとると、まるで幽霊のようにそっと道へ戻った。


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