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第3章 旅の仲間
5. 用心棒を得て
しおりを挟むレイサーのおかげでいちいち案内札を確認する必要が無くなり、一行は、ただただ東へと歩き続けた。依然として、本流の広い川沿いの道は避けた。レイサーが良く知っていて、道とは呼べないが比較的歩きやすい場所を進んでいた。灌木の間を楽に通り抜けることができ、草が茂っていても、うっとおしいと思うほどではなかった。シダが生えている小川を横切った。
「この森はいつ抜けられますか。」
ある時、リマールが新たに加わった仲間・・・正直、まだ用心棒という意識しか無かったが・・・に、そう声をかけた。
「今日は無理だな。今夜は野宿して、明日の朝早く立てば、午前中には出られるだろ。」
でもやっと、森を抜ける目途がつくところまではやって来られたんだ・・・と、アベルとリマールは顔を見合わせ、ホッと吐息をついた。
嵐にも遭ったし、病気にもなったし、何より刺客に追いつかれたことで、この山の麓の森にはすっかり悪いイメージがついてしまった。こんな不吉な森からは早く脱出したい! と思っていた。ああ、そうだ! 今朝は山賊にも出くわしたじゃないか!
「その先には、何がありますか。町は?こっちの方へは行ったことがないので。」と、もう少し話がしたくて、今度はアベルがきいてみた。
「村・・・だな。宿もあるが、町と呼べるほどの所へたどり着くには、もうニ、三日かかる。だが、村でも食料や物資は手に入るよ。」
「詳しいんですか。行き慣れているとか。」
「それほどじゃない。俺はいろんな所へ行ってるし、素通りすることもよくある。」
これまでのところ、レイサーの方から、何か個人的な質問をしてくるということはなかった。
アベルの方では、本当は彼自身のことも知りたい気がしたが、そういう質問は妙に抵抗があって口にできなかった。なぜだろう・・・きけば淡々と答えてくれるし、心配したほど感じが悪いこともないんだけど。
そうしてそのまま、薄暗くなるまで先へ進んだ。
そしてようやく、レイサーが、「今夜はここにしよう。」と足を止めて、野宿の場所が決まった。一メートルほど低くなった少し開けた場所で、地面を枯れ草が覆っている。
まだ明るい中、質素な夕食を早めに済まそうとすると、レイサーが小さな鍋を荷物の中から取り出した。それに、今日出発したばかりなので、キノコやタマネギやジャガイモなどの野菜も少し。彼は手際よく火を起こし、鍋をかけ、それらの食材をナイフでザクザクと乱切りにしたものを豪快に投入。香草と一緒に煮込んで、最後に塩で味を調えただけの簡単な野菜スープをごちそうしてくれた。
感動するほど美味かった! 作り方は簡単なのに、野菜の旨みが溶けだしたスープは、夕方になり冷え冷えとしてきた体を温めてもくれた。
アベルとリマールが実際に口に出してそう言うと、彼は、「機会があったら、また作ってやる。」と言って目元を緩めた。
少し距離が縮まった気がした。
そのあとは、スープに使って少なくなった飲料水を、リマールが進んで汲みに行ってくれた。
レイサーは荷物を枕にして、アベルの隣に横になった。
「それじゃあ、俺は今夜、番をするから寝る。夜が更けたら起こしてくれ。」
そうして目を閉じた彼は、身じろぎもしなくなった。
そんな数秒で眠りにつけるとは思えなかったが、とにかく話しかけてはいけない状態になった。
アベルは自分のわきを見下ろして、とりあえず彼を観察した。
まだ戦うところを見てはいないし、この人のことをよく知らないけど、一緒にいてくれるだけでずいぶん心強くなった。そばに置いてある長剣も、やや大振りのもので、とても堂々としているように見える。格好良くて、高価そうな剣だ。濃い鋼色の鞘に明るい銀(シルバーホワイト)の装飾が入って、柄の根元には小さな青い石が付いている。どこかぶっきらぼうで鋭いこの人には、ぴったりの剣だと思った。
戦う姿はどんなふうだろうと想像しながら、アベルはまたレイサーの寝顔を見つめた。
この状況から、今は自分が見張り番の立場なのだが、特にすることがなくて暇だった。
すっきりしない天気が続いているので、木の葉越しに見えている空には、薄暗い藍色の雲が広がっている。もうすぐ夜になろうとしているが、視界が暗闇に閉ざされるまでにはまだ少し時間がありそうだ。
そんな暗い空を眺めていても、たいして暇潰しにはならない。
辺りはとても静かだった。風の声をよく聞くことができそう。アベルは陰気な空を見るのを止めて、目を閉じることにした。それに自分の場合、番をするならこの方がいいかもしれない。
アベルはしばらく、そのまま静かな音を聞いていた。
十分かそれくらいたって、アベルは風の声の変化に気づいた。
何か気配を知らせてくれている。
近付いてきているのは・・・災い?
そうと確信したとたん、アベルは体じゅう緊張感に支配された。恐る恐る立ち上がり、戦慄を覚えてあちこちに目を凝らす。今いる場所は窪地だが、身を隠すにはじゅうぶんではないと思った。
でも、レイサーは仮眠中だし、どうしよう・・・起こすのは悪いな。
一人悩んでいるそこへ、水を汲みに行っていたリマールが戻ってきた。
とりあえずレイサーを起こさないようにして、二人は小声で相談した。
結果、リマールが、「場所を変えた方がいいと思う。」と判断し、アベルも同意して眠っているレイサーの肩を軽く二度叩いた。
「起きて。」
すぐに目覚めたレイサーは、さすがに意識もしっかりしていた。彼はまず空を見て、それから視線を周囲に向けると、怪訝そうにアベルを見た。
「・・・まだ少し明るいじゃないか。」
「人が来ます。それに、きっとまた雨が降る。」
「・・・何も聞こえないぞ。」
「時々、風が教えてくれるんです。イルマで育てば自然と身に着くことだと言われました。ただ、町では自然以外の多くの音が入ってくるから、風の声を聞くのは難しくなるらしいけど。とにかく、この音・・・嫌な感じだ。」
それを聞いたレイサーはすぐには何も反応せず、アベルを見つめているだけだった。だが、胡散臭そうに人を見る目ではなかった。単純に不思議な人を眺めるような、そんな表情。
そして、一言こう言った。
「よし、移動しよう。」
レイサーは身軽に窪地から出ると、また二人を連れて歩きだした。
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