イルマの東へ

月河未羽

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第3章  旅の仲間

9. 戦士の勘

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 先に完食したレイサーは、食後の珈琲コーヒーが出て来るのを待ちながら、窓の外や店内を観察した。この頃には、ほかの客はもう食事を終えて部屋へ戻っていた。よって、吹き抜けのこの食堂に今いるのは、レイサーとリマール、そして、いているテーブルを順番にいて回っている従業員じゅうぎょういんの青年だけだった。

 青年はそのあと、壁際かべぎわの小さなカウンターに入った。そこのたなには酒類がズラリと並んでいる。夜更よふけには、そこはバーになるに違いない。本当なら一杯ひっかけたいところだが。

 そんなことを考えながら眺めていると、二階から宿の主人が下りて来た。彼は厨房ちゅうぼうへは入らず、食堂の片隅かたすみにあるそのせまいカウンター席に座り、何やら書きものを始めた。恐らく帳簿ちょうぼをつけているのだろうと、レイサーは、何となくその背中に目をやっていた。 

 すると、不意に首を向けてきた主人と目が合った。その時、なぜか一瞬ビクッとされたように見えた。レイサーがへんに顔をそむけず堂々としていたので、主人は取りつくろうような笑顔でこたえてから事務仕事に戻った。

 レイサーは、妙な気分にとらわれた。戦士のかんが危険を知らせているのに気づいた。

 それである時、ふと見てみるとまた合った。今度はさりげなく視線をらす。それからは目を向けずに意識していたが、やはり度々どうも視線を感じる。

 ますます嫌な予感がつのった。

 主人が帳面ちょうめんを閉じて椅子から立ち上がり、カウンターの中へ入っていった。そして従業員の青年と話をしたあと、青年の方はそこから出て来てほかの場所へ行ってしまった。代わって中へ入った主人は、何か小さな動きで作業をしている。しばらくすると、際立きわだつ珈琲の香りが食堂に充満じゅうまんした。

 間もなく、珈琲カップを二つせたトレーが主人の手によって運ばれてきた。

 彼がこちらを見ていたのは、珈琲を出すタイミングを見計みはからっていたのかとも考えられるが、そのままウェイターの青年に任せておけばいいことで疑念ぎねんは残った。

「料理はお口に合いましたか。」
 カップをテーブルに下ろしながら、主人はにこにこと話しかけてきた。
「はい、とても美味しかったです。」
 リマールが答えた。
「明日はやっと気持ちよく晴れてくれそうですな。次はどちらへ旅をされる予定です。」
「ガルシアへ。」と、レイサーが言下げんかに答えた。

 リマールはちょっと驚いてレイサーを見たが、すぐにさっして何も言わなかった。

 次の目的地は、ヘルメスの知り合いの精霊せいれい使いが住むローウェンの村だ。ガルシアはここからそこまでの間にある町の一つだが、全く違う道を行くことになっていた。

「それはいい。毎日広場で音楽が流れ、大道芸が盛んだという陽気な街。しかしお連れ様の具合が良くないのでは、出発を少し遅らせた方がよろしいのでは。部屋は明日も空いていますし、お安くしておきますよ。」
「ありがとう。様子を見て考えます。」
「では、そろそろお連れ様のお食事を用意しましょう。」
「お願いします。」

 主人は愛想のいい笑顔のまま空いたリマールの食器を下げて、再び厨房へ姿を消した。

 レイサーは、また窓の外を見た。馬はまだそこにいる。それらの主人は店内でくつろいでいるのかもしれない。

 やがて、バランスよくセットになったアベルの食事が運ばれてきて、結局、馬の持ち主の正体しょうたいは分からなかった。





 レイサーとリマールが部屋へ戻ると、アベルがドアを開けてくれたが、鍵を外す音がしなかった。

「鍵をかけなかったのか。」
 あきれたようにレイサーが言った。
「あ・・・はい。」
 驚きと不安のせいで掛け直すのを忘れていた・・・と、アベルは気づいた。
「しっかり用心ようじんはしておいた方がいいぞ。」
「すみません・・・。」

 これくらいで分かりやすく落ち込むアベルを妙だと思いながらも、リマールは元気づけに食事を載せたトレーを差し出し、「ほら、見て。これにあと珈琲がついていたけど、ほかは僕たちと同じ食事だ。すごく美味しかったよ。」

 そしてそれは、机が無いので寝椅子のはしに置かれた。 

 アベルは料理に目を向けたが、悲しいことに食べたいという気持ちがどこかへ行ってしまっていた。不安で息が詰まりそうだった。

「あれ・・・どうかした?」 
「あ、ううん、なんでも・・・ありがとう。いただきます。」

 アベルは、トレーの横の空いている場所にのろのろと腰掛けた。しかし食事に手を伸ばし、フォークをつかみながらもうわの空で、ため息を止めることもできなかった。
 どうしよう・・・不用心に出て顔を見られたって・・・言い出しにくいな。
 
「・・・顔を見られたのか。」

 そう声をかけてきたレイサーを見て、アベルは肩をすくめた。そして、おずおずと二人の顔をうかがう。
「はい・・・ノックをされて、二人が戻ったのかと・・・すみません。」

 レイサーとリマールは、顔を見合った。だがリマールはかすかに苦笑してみせただけで、レイサーは全く表情を変えなかった。 

「まあ・・・気にするな。それより、ちゃんと食っておけ。」 

 これは意外だった。リマールは予想通りの反応だったが、レイサーには多少しかられると思っていたアベル。彼はいくらか気が楽になり、やっと食事に手をつけた。

 だが問題はそこじゃない。顔を見られたことは、やはり気にしなければならないし、反省すべきだ。レイサーがそれを口に出さないのは、自分が沈みこんでいるのを見て、きっと察してくれたのだろう。言わなくても分かっていると。

 そうあれこれ考えながらも、アベルは完食した。気持ちの問題で美味しさは半減してしまったが、それなりに味わうことができ、胃袋は満たされた。 

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