27 / 70
第3章 旅の仲間
9. 戦士の勘
しおりを挟む先に完食したレイサーは、食後の珈琲が出て来るのを待ちながら、窓の外や店内を観察した。この頃には、ほかの客はもう食事を終えて部屋へ戻っていた。よって、吹き抜けのこの食堂に今いるのは、レイサーとリマール、そして、空いているテーブルを順番に拭いて回っている従業員の青年だけだった。
青年はそのあと、壁際の小さなカウンターに入った。そこの棚には酒類がズラリと並んでいる。夜更けには、そこはバーになるに違いない。本当なら一杯ひっかけたいところだが。
そんなことを考えながら眺めていると、二階から宿の主人が下りて来た。彼は厨房へは入らず、食堂の片隅にあるその狭いカウンター席に座り、何やら書きものを始めた。恐らく帳簿をつけているのだろうと、レイサーは、何となくその背中に目をやっていた。
すると、不意に首を向けてきた主人と目が合った。その時、なぜか一瞬ビクッとされたように見えた。レイサーがへんに顔を背けず堂々としていたので、主人は取り繕うような笑顔でこたえてから事務仕事に戻った。
レイサーは、妙な気分にとらわれた。戦士の勘が危険を知らせているのに気づいた。
それである時、ふと見てみるとまた合った。今度はさりげなく視線を逸らす。それからは目を向けずに意識していたが、やはり度々どうも視線を感じる。
ますます嫌な予感が募った。
主人が帳面を閉じて椅子から立ち上がり、カウンターの中へ入っていった。そして従業員の青年と話をしたあと、青年の方はそこから出て来てほかの場所へ行ってしまった。代わって中へ入った主人は、何か小さな動きで作業をしている。しばらくすると、際立つ珈琲の香りが食堂に充満した。
間もなく、珈琲カップを二つ載せたトレーが主人の手によって運ばれてきた。
彼がこちらを見ていたのは、珈琲を出すタイミングを見計らっていたのかとも考えられるが、そのままウェイターの青年に任せておけばいいことで疑念は残った。
「料理はお口に合いましたか。」
カップをテーブルに下ろしながら、主人はにこにこと話しかけてきた。
「はい、とても美味しかったです。」
リマールが答えた。
「明日はやっと気持ちよく晴れてくれそうですな。次はどちらへ旅をされる予定です。」
「ガルシアへ。」と、レイサーが言下に答えた。
リマールはちょっと驚いてレイサーを見たが、すぐに察して何も言わなかった。
次の目的地は、ヘルメスの知り合いの精霊使いが住むローウェンの村だ。ガルシアはここからそこまでの間にある町の一つだが、全く違う道を行くことになっていた。
「それはいい。毎日広場で音楽が流れ、大道芸が盛んだという陽気な街。しかしお連れ様の具合が良くないのでは、出発を少し遅らせた方がよろしいのでは。部屋は明日も空いていますし、お安くしておきますよ。」
「ありがとう。様子を見て考えます。」
「では、そろそろお連れ様のお食事を用意しましょう。」
「お願いします。」
主人は愛想のいい笑顔のまま空いたリマールの食器を下げて、再び厨房へ姿を消した。
レイサーは、また窓の外を見た。馬はまだそこにいる。それらの主人は店内で寛いでいるのかもしれない。
やがて、バランスよくセットになったアベルの食事が運ばれてきて、結局、馬の持ち主の正体は分からなかった。
レイサーとリマールが部屋へ戻ると、アベルがドアを開けてくれたが、鍵を外す音がしなかった。
「鍵をかけなかったのか。」
呆れたようにレイサーが言った。
「あ・・・はい。」
驚きと不安のせいで掛け直すのを忘れていた・・・と、アベルは気づいた。
「しっかり用心はしておいた方がいいぞ。」
「すみません・・・。」
これくらいで分かりやすく落ち込むアベルを妙だと思いながらも、リマールは元気づけに食事を載せたトレーを差し出し、「ほら、見て。これにあと珈琲がついていたけど、ほかは僕たちと同じ食事だ。すごく美味しかったよ。」
そしてそれは、机が無いので寝椅子の端に置かれた。
アベルは料理に目を向けたが、悲しいことに食べたいという気持ちがどこかへ行ってしまっていた。不安で息が詰まりそうだった。
「あれ・・・どうかした?」
「あ、ううん、なんでも・・・ありがとう。いただきます。」
アベルは、トレーの横の空いている場所にのろのろと腰掛けた。しかし食事に手を伸ばし、フォークをつかみながらもうわの空で、ため息を止めることもできなかった。
どうしよう・・・不用心に出て顔を見られたって・・・言い出しにくいな。
「・・・顔を見られたのか。」
そう声をかけてきたレイサーを見て、アベルは肩をすくめた。そして、おずおずと二人の顔を窺う。
「はい・・・ノックをされて、二人が戻ったのかと・・・すみません。」
レイサーとリマールは、顔を見合った。だがリマールは微かに苦笑してみせただけで、レイサーは全く表情を変えなかった。
「まあ・・・気にするな。それより、ちゃんと食っておけ。」
これは意外だった。リマールは予想通りの反応だったが、レイサーには多少叱られると思っていたアベル。彼はいくらか気が楽になり、やっと食事に手をつけた。
だが問題はそこじゃない。顔を見られたことは、やはり気にしなければならないし、反省すべきだ。レイサーがそれを口に出さないのは、自分が沈みこんでいるのを見て、きっと察してくれたのだろう。言わなくても分かっていると。
そうあれこれ考えながらも、アベルは完食した。気持ちの問題で美味しさは半減してしまったが、それなりに味わうことができ、胃袋は満たされた。
0
あなたにおすすめの小説
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる