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第3章 旅の仲間
11. 大街道をゆく馬車
しおりを挟む早朝、広い川が真っ直ぐに流れている草原には、濃い朝霧が漂っている。
一行は、その広々とした草原に太い線を引いている、大街道付近の微妙な細道を歩いていた。とはいえ、辺りは今ひんやりとした白い世界に包まれているので、広い視野でそれらを見渡すことはできない。ただ、地図によるとそのはずで、長い時間、樹木を一本も見ていなかった。目に入るのは、ふさふさした緑の野草ばかりだ。それらしい道が通っているのもぼんやりと見ることができる。おかげで、自分たちも霧に隠れることができているが、その分一切余計なことをしゃべらず、より注意深く耳をすまして歩かなければならなかった。
すると。
ガタ・・・パカ、パカ・・・ゴトン! パカ、パカ・・・ゴトン!
霧の中から、ある時そんな音が響いてきた。
彼らは立ち止り、目を見合った。これは騎兵の気配じゃない・・・おそらく荷馬車の音。
そう思い、そろって後ろに目を凝らしていると、濃霧の中少しずつ見えてきたのは、やはり一台の幌馬車。大街道をやってくる。もう、すぐそこだ。
レイサーは瞬時に考えた。
見ず知らずの関係ない馬車に隠れて進むのはいい作戦かもしれない。アベルは大街道を避けて行くよう助言されたらしいが、今はその方がきっと得策だ。霧が次第に晴れてくれば、馬の背からだと遠くからでも見つかる危険がある。まだこの近くを、追っ手があちこち自分たちを捜し回っているだろうから。
レイサーは急いで道の無い方へ押し曲がり、二人を連れて街道へ向かった。
「どうするの?」
乗せてもらうつもりかな・・・そう考えながら、アベルはきいてみた。
「あの馬車、使えるかどうか確かめる。」
・・・どういう意味? と思ったが、理解が悪そうな質問をこの人にするのはちょっと抵抗があったので、アベルもリマールも黙って成り行きを見守ることにした。
すると、半ば街道へ飛び出したレイサーは、スラリと剣を引き抜いて、何を思ったかいきなり御者を脅しだしたのである。
アベルもリマールもびっくりした。この人、面倒臭がりなのか、やり方が荒いし怖い。
おかげで荷馬車を急停止させた御者の男性は、目を見開いて息の根が止まったような顔をしている。
「犯罪だよっ。」と、リマール。
「確かめるだけだ。」
そう答えて、レイサーは御者の男に目を向けた。
「どこから来た?」
「レ、レネイシア(農園)・・・からだ。確かめるって、何を。」
麦わら帽子をかぶり、鼻の下に濃い真っ直ぐな髭を生やした、いかにも農夫というその男性がたどたどしく答えた。歳は五十代後半ほどに見受けられる。
「どこへ行く。荷台には何を乗せている。」
最初の驚きから醒めた農夫は、落ち着いて一つ深呼吸をすると、これよりあとは滑らかに返した。
「商業都市イヴァンさ。後ろの積荷は全部商品だよ。葡萄と葡萄酒。それに他にも野菜や燃料。何を心配してるか知らんが、嘘じゃない。」
レイサーは男の目をじっと見つめて、やや黙った。
「積荷を見せてもらってもいいか。」
「ああ。好きにしろ。」
レイサーは、そのあいだ農夫が怪しい行動をとったり豹変することがないよう、一緒に荷物を見に行かせた。
後ろを開けると、いくつもの木箱や籠が、振動で崩れてこないよう綺麗に並べられ、ロープで固定されていた。だがスペースに余裕が無いということはなかった。
貴族として育ち、毎日のように葡萄やワインを味わっていたレイサーは、それについては少し詳しく、種類によっては見極めることができた。そして、積荷の葡萄は確かにレネイシア産のものだ。その農園は、ここから近い場所にある。朝採りのみずみずしさが一目瞭然だった。ほかの荷物を見ても不自然な点は一切ない。どうやらこの農夫は、あの気に食わない宿泊街とは何の関係もないらしい。
「途中までこの中に乗せてくれないか。」
農夫は、レイサーのことはしかめっ面で見たが、馬車の横で申し訳なさそうな顔をしている二人の少年に気づくと、嫌な気はしなくなった。この黒髪の男は危険な匂いがプンプンするが、連れの二人は表情も雰囲気も穏やかで、とうてい悪党には見えない。
「いいけど、あんた達、いったい何者だい。」
レイサーは答える代わりに、「ああそれから、もし誰かに俺たちのことを聞かれても、普通に知らないと言ってくれ。」
「全く、怪しいのはそっちだよ。」
「俺たちは極めて善良で、正統だ。」
荷台に上がった農夫は、積荷の木箱などを整理し直して、手際よく場所を空けてくれた。
もちろん、その作業は皆で手伝った。それでも無理があったので、農夫は高身長のレイサーに、自分の隣には座れないのかときいた。
レイサーは、「座れない。信じて察して欲しい。」と答えた。
それで農夫は、レイサーの代わりに木箱を四つ御者台に乗せることにした。
そうして、荷台には一人分通れる通路ができた。御者台のすぐ後ろにレイサー、そしてアベルとリマールが一列に並んで座った。
馬車はまた、視界がよく見通せない霧の街道を進み始めた。
「で、途中までって、どこまで送ればいいんだい。俺は、今日はずっとこの大街道を真っ直ぐに進むが。」
農夫がそうきいてきたので、レイサーは、荷台と御者台とを隔てている垂れ幕を少し開けた。
「ローウェンの村へ行きたいんだ。どこまで一緒に行ける?」
「なら、糸杉の丘までだな。頂上に礼拝堂がぽつんと建っている丘だ。それを越えたら南へ伸びている道がある。今は霧で見えないが、左手の広い川の支流が流れているから、その細い川に沿って歩いて、2時間くらいだ。礼拝堂には午後遅めの時間に着くことになるけど、夜までには村へ行けるだろうよ。」
「行ったことが?」
「ああ、ある。その村はちょっと有名だよ。精霊使いの一家が住んでいるからな。ひょっとして、それでかい。」
「ああ。」
そのあと、会話の流れのままに用事は何なのかと農夫はききそうになったが、ふと考えて止めた。この状況から、彼らにいろいろと詮索がましく質問をするのは、無神経のように思われたからだ。
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