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第3章 旅の仲間
12. 検問
しおりを挟む幕を下ろしている幌の中は暗く、あまり睡眠がとれなかったアベルとリマールは、整然と積み上げられた荷物にもたれてうとうととしていた。だが、馬車が ガタン! と跳ねるたびに我に返った。
一方、一番休めていないレイサーだったが、彼は垂れ幕の隙間から外の様子を窺いつつ、ずっと気を緩めずにいた。
霧が晴れてきて、見通せる距離が長くなった。この荷馬車が騒音をたてるので、音だけで危険を察知するのが難しかった。
「あれ・・・。」
農夫がそう声を上げた時、レイサーは眉間に皺を寄せて、可能な限り道の先に目を凝らしていた。
正面、前方百メートルほどの場所に、馬に乗った黒い人影が五つ見える。
運を味方につけることはできなかったか・・・。
朝霧が無ければもっと早く気づけただろうが、どのみち、この遮るものがたいして無い景観の中では、馬車から降りた瞬間に気づかれるだろう。ここは何とかやり過ごすか、いざという時にはやり合うしかない。
今あそこに居る・・・宿に集まっていた男たちと。
レイサーは息を吸い込み、大きく吐き出した・・・と同時に、気を引きしめる。
「いいか、俺たちのことを聞かれても知らないと。頼む。」
背後からそう農夫にささやいて、レイサーは隙間をぴったりと閉めた。その時、不安そうな顔になったアベルとリマールには、軽く片手を上げて、「静かに、そのまま。」という仕草をしてみせていた。
それから、後ろにいるその二人をまたいで後方へ移動したレイサーは、剣を抜いて臨戦態勢をとった。
農夫は、レイサーの言うことをきいてやろうと思った。そして、少し速度を上げれば、あの者たちは道端に避けてくれないか・・・とも考えた。だがすぐに首を振った。いや・・・そうは思えない。それらは道を塞ぐように横一列に並んでいる。待ち構えているんだ。
農夫の荷馬車は、そのうちにもあっという間に五人の手前までやってきた。
「止まって。」
真ん中にいる男の厳しい声がかかった。
農夫は素直に従い、手綱を握っている両手を腿の上にぴたりと下ろした。
男たちが全員馬から降りて、農夫の真横にまで近づいてきた。その気配は、今ははっきりと感じることができる。
アベルもリマールも、緊張しすぎて心臓が破裂しそうだった。
「これは兵士の方々。」
愛想のいい笑顔をみせながら、農夫はその男たちを眺めた。
全員が軽く武装している。黒の軍服に灰色の防具、そして腰には長い剣。
「俺の荷馬車に何か問題でも?」
「それがあるかどうかを確かめたい。」
馬車を止めた男が答えた。若くはないが、がっしりとした体格の男だ。
「我々は人を探している。そこでまず聞くが、若い男の三人組を見かけなかったか。そのうちの二人は金髪と栗色の髪の少年で、どちらも歳は15くらい。あとの一人は、黒髪の背の高い青年なんだが。」
「さあ。それらしい者には誰にも会わなかったよ。あんた達は何だね。」
「この辺りを警備している者だ。」
「その三人組はいったい何をしたんだい。」
「宿から支払いをせずに逃亡した。」
相当の料金を置いてきたが? と、レイサーは後ろに隠れながら密かに反論。
「荷台には何を。」
「商品さ。葡萄や葡萄酒。それに野菜。」
「確認していいか。」
「何を疑っていなさる。ぎゅうぎゅう詰めにしてるから、止めた方がいい。風を通すのに開ける時には、いつも崩れてくる。」
「上手くするから。」
そこで会話がきれた。
レイサーはいよいよ全神経を研ぎすまし、集中力を高めた。相手は五人。やれない数ではない。いきなり斬りつけるような真似はしたくないが、戦いになったら容赦はしない。
一人残らず倒すまで・・・!
「ああ、そうだ。」
そんな農夫の声が不意に聞こえて、レイサーは少し調子を狂わされた。しかしその時、馬車の後ろへ回り込もうとしていた男たちが、そろって足を止めたのを感じた。
続いて、御者台から顔を出した農夫が、五人の兵士にこう話すのが聞こえた。
「お前さんたち、いちばん手前にあるのは薬草だけど、下手に触ると危ないよ。作り方によっては薬にもなるようだが、肌に触れるとひどくかぶれるらしい。死ぬほど激しい痒みや痛みに、一週間は苦しむことになるそうだ。俺も頼まれて運んでいるだけで、積み下ろしは扱いに慣れている防護服を着た専門の者がやってくれることになっている。後ろを開ける時には、いつもひやひやするよ。頼むから、その箱だけは絶対に落とさんでくれ。」
顔を見合わせたアベルとリマールは、そのいちばん手前にあるという木箱に目を向けた・・・キャベツだ。
すると男たちが頭を寄せ合い、何やら相談を始めだした。
そのあいだ、レイサーは再度剣を構えて油断なく男たちの気配をうかがい、アベルとリマールは固唾をのんで神に祈った。
そして数分後。
物騒なことは何も起こらず、馬車は再び動き出した。無駄にひどい目に遭うのは割に合わないと決まったらしい。
そのまましばらくしても、灰色と黒の男たちが追ってくるようなことはなかった。
レイサーは後部の幕を少し開けてみた。
五人の兵士は背中を向けて、またさっきと同じように騎乗したまま横一列に並んでいる。
上手くいった。
「信じてくれて、ありがとう。」
アベルが幌の垂れ幕を横から少し開けて言った。
農夫は振り向いて、片目をつむってみせた。
「あいつらは嘘をついてる。北の奴らだな。あんたらの方が、よほど感じがいい。」
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