イルマの東へ

月河未羽

文字の大きさ
30 / 70
第3章  旅の仲間

12.  検問

しおりを挟む



 まくを下ろしているほろの中は暗く、あまり睡眠がとれなかったアベルとリマールは、整然せいぜんと積み上げられた荷物にもたれてうとうととしていた。だが、馬車が ガタン! とねるたびに我に返った。

  一方、一番休めていないレイサーだったが、彼は垂れ幕の隙間すきまから外の様子をうかがいつつ、ずっと気を緩めずにいた。

 きりが晴れてきて、見通せる距離が長くなった。この荷馬車が騒音そうおんをたてるので、音だけで危険を察知するのが難しかった。

「あれ・・・。」

 農夫がそう声を上げた時、レイサーは眉間みけんに皺を寄せて、可能な限り道の先に目をらしていた。

 正面しょうめん、前方百メートルほどの場所に、馬に乗った黒い人影が五つ見える。

 運を味方につけることはできなかったか・・・。
 朝霧が無ければもっと早く気づけただろうが、どのみち、このさえぎるものがたいして無い景観の中では、馬車から降りた瞬間に気づかれるだろう。ここは何とかやり過ごすか、いざという時にはやり合うしかない。

 今あそこに居る・・・宿に集まっていた男たちと。

 レイサーは息を吸い込み、大きく吐き出した・・・と同時に、気を引きしめる。

「いいか、俺たちのことを聞かれても知らないと。たのむ。」

 背後からそう農夫にささやいて、レイサーは隙間をぴったりと閉めた。その時、不安そうな顔になったアベルとリマールには、軽く片手を上げて、「静かに、そのまま。」という仕草しぐさをしてみせていた。

 それから、後ろにいるその二人をまたいで後方へ移動したレイサーは、剣を抜いて臨戦態勢りんせんたいせいをとった。

 農夫は、レイサーの言うことをきいてやろうと思った。そして、少し速度を上げれば、あの者たちは道端みちばたけてくれないか・・・とも考えた。だがすぐに首を振った。いや・・・そうは思えない。それらは道をふさぐように横一列に並んでいる。待ち構えているんだ。

 農夫の荷馬車は、そのうちにもあっという間に五人の手前までやってきた。

「止まって。」

 真ん中にいる男の厳しい声がかかった。

 農夫は素直に従い、手綱たづなを握っている両手をももの上にぴたりと下ろした。

 男たちが全員馬から降りて、農夫の真横にまで近づいてきた。その気配は、今ははっきりと感じることができる。

 アベルもリマールも、緊張しすぎて心臓が破裂はれつしそうだった。

「これは兵士の方々。」

 愛想あいそのいい笑顔をみせながら、農夫はその男たちを眺めた。
 全員が軽く武装ぶそうしている。黒の軍服に灰色の防具ぼうぐ、そして腰には長い剣。

「俺の荷馬車に何か問題でも?」
「それがあるかどうかを確かめたい。」

 馬車を止めた男が答えた。若くはないが、がっしりとした体格の男だ。 

「我々は人を探している。そこでまず聞くが、若い男の三人組を見かけなかったか。そのうちの二人は金髪と栗色くりいろの髪の少年で、どちらも歳は15くらい。あとの一人は、黒髪の背の高い青年なんだが。」
「さあ。それらしい者には誰にも会わなかったよ。あんた達は何だね。」
「この辺りを警備している者だ。」
「その三人組はいったい何をしたんだい。」
「宿から支払いをせずに逃亡した。」

 相当の料金を置いてきたが? と、レイサーは後ろに隠れながら密かに反論。

「荷台には何を。」
「商品さ。葡萄ぶどうや葡萄酒。それに野菜。」
「確認していいか。」
「何を疑っていなさる。ぎゅうぎゅう詰めにしてるから、止めた方がいい。風を通すのに開ける時には、いつも崩れてくる。」
「上手くするから。」

 そこで会話がきれた。

 レイサーはいよいよ全神経をぎすまし、集中力を高めた。相手は五人。やれない数ではない。いきなり斬りつけるような真似はしたくないが、戦いになったら容赦ようしゃはしない。

 一人残らず倒すまで・・・!

「ああ、そうだ。」

 そんな農夫の声が不意に聞こえて、レイサーは少し調子を狂わされた。しかしその時、馬車の後ろへ回り込もうとしていた男たちが、そろって足を止めたのを感じた。

 続いて、御者台ぎょしゃだいから顔を出した農夫が、五人の兵士にこう話すのが聞こえた。

「お前さんたち、いちばん手前にあるのは薬草だけど、下手にさわると危ないよ。作り方によっては薬にもなるようだが、肌に触れるとひどくかぶれるらしい。死ぬほどはげしいかゆみや痛みに、一週間は苦しむことになるそうだ。俺も頼まれて運んでいるだけで、積み下ろしはあつかいにれている防護服ぼうごふくを着た専門の者がやってくれることになっている。後ろを開ける時には、いつもひやひやするよ。頼むから、その箱だけは絶対に落とさんでくれ。」

 顔を見合わせたアベルとリマールは、そのいちばん手前にあるという木箱に目を向けた・・・キャベツだ。

 すると男たちが頭を寄せ合い、何やら相談を始めだした。

 そのあいだ、レイサーは再度剣を構えて油断なく男たちの気配をうかがい、アベルとリマールは固唾かたずをのんで神に祈った。

 そして数分後。

 物騒ぶっそうなことは何も起こらず、馬車は再び動き出した。無駄にひどい目にうのはわりに合わないと決まったらしい。

 そのまましばらくしても、灰色と黒の男たちが追ってくるようなことはなかった。
 レイサーは後部の幕を少し開けてみた。
 五人の兵士は背中を向けて、またさっきと同じように騎乗きじょうしたまま横一列に並んでいる。

 上手くいった。

「信じてくれて、ありがとう。」

 アベルがほろの垂れ幕を横から少し開けて言った。

 農夫は振り向いて、片目をつむってみせた。

「あいつらはうそをついてる。北の奴らだな。あんたらの方が、よほど感じがいい。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...