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第3章 旅の仲間
13. 到着、ローウェンの村
しおりを挟む結局、レイサーが脅して荷馬車で送らせた農夫とは、意外と仲良くなれた。あのあと昼には霧もすっかり晴れ、もえぎ色の川辺には、白や黄色や藤色の花が誇らしげに咲いている。高く昇った太陽に照らされてきらきらと輝く川の水面、そして、大街道の遥か彼方にある、まさに青い山脈までよく見ることができた。
その一幅の絵のような景色を望みながら、一緒に昼食を食べた農夫は、気前よく商品の果物をただで分け与えてくれたのである。
農夫と別れたあとは、教えてもらった通りに大街道を外れて、南へ向かう見通しのきいた分かりやすい道を歩いた。
こうして次の目的地までのおよそ2時間のあいだに、いくつもの畑や果樹園を通り過ぎ、丘を二つ超えてきた。正確には、二つ目の丘は今から超える。三人は、ちょうどその頂に立っていた。この麓に見えているのが、ローウェンの村だ。
今日は昼からすっきりと晴れていたので、今、頭上には、鮮やかな赤と黄色と青で彩られた夕焼け空が広がっている。その下の、夕映えで輝いている緑の中の小さな村にも心惹かれた。のどかで、居心地の良さそうな村に見えた。
思えば、ここまでだけでもいくつもの危険を切り抜けてきた・・・一度、じゅうぶんな休息が必要だ。彼らは目でそんな意思疎通をすると、丘から麓へ続く九十九折の道に沿って下りて行った。
ヘルメスの話では、友人の術使いであるコラルという人から、旅の助言をしてもらえることになっている。助言・・・といっても、どういうことなのか、アベルもリマールもよく分からなかった。まさか明日の天気を教えてくれるとか? そんな感覚でいた。だが、これまでのことを振り返って、もし分かるのなら切実に教えて欲しいことができた。
それは、〝敵に見つからずに進む方法〟。
そうか、こっちから知りたいことをきけばいいんだ! ということに、二人とも気づいたのである。
丘の上からも見えていたが、村には人の姿がけっこうあった。村の大人達が畑仕事を終える頃と、子供達が遊び終えて帰宅する時間に鉢合わせたようだ。すれ違う者はみな、よそから来た人を観察するような顔をし、子供たちなどは好奇の目を向けてきたが、その誰もが感じ良く挨拶をしてくれた。中には先に察して、精霊使いの一家のところへ行くのかときいてき、詳しい道を教えてくれる人もいた。だいたいの目印はすでに聞いていたが、それによると、村の中心にある吊り橋を渡ってすぐの家。庭にサクランボの木が生えているのだそう。
まばらに建っている民家は、どれも茶色い石の壁と灰色の屋根でできているので見分け辛い。とにかく特徴は、吊り橋とサクランボの木だ。
そして見えた吊り橋と、その向こうに恐らくサクランボの木。それには、まだ実が生っていなかった。
ぎしぎしと揺れる吊り橋を渡っている途中、その家の庭に女の子がいるのが見えた。
だんだん近づいて行くと、その少女は背中を向けて何か不思議なことをしていた。その子の右腕は指揮者のように滑らかに動いて、かと思うと、その指先で虚空に文字を書くような動作をしたりするのである。
それを神秘的だと思い、つい見惚れていたアベル。
「あの子、何やってるんだろ。」
「踊りの練習じゃないかな。村の伝統の踊りとか。」
リマールが推測した。
「ああ、そっか。」
それにしては足は動いてないけど・・・変わった踊りだな。
するとその時、少女の目の前で突然、風が渦を巻いたように見えた。
「え・・・。」
アベルは思わず足を止めていた。
「どうしたの?」
「今・・・つむじ風が。あの子の前に。」
「そうなんだ。僕は風なんて感じなかったけど。」
うん・・・妙な風・・・というより、現象だった・・・と、アベルは思った。自然のものではなく、彼女が起こしたような・・・錯覚かな。
さらに近づくと、少女も気づいて振り向いた。食い入るような瞳で真っ直ぐに見つめてくる。アベルとリマールが微笑みながら会釈すると、少女も無表情だったが軽く頭を下げてくれた。
「可愛い子だね。」と、リマール。
「うん。コラルさんの子供かな。」
一方、一緒にいるレイサーは少しも興味を示さず、そんな二人の会話には全く入ってこなかった。
やがて、その家の玄関にたどり着いた。少女は庭のそう離れてはいない場所に立っているが、また背中を向けていて、家に入り先に知らせるということを、どうもしてくれそうではなかった。
なので普通に、レイサーが軽くノックをして呼んでみた。そのままの渋い地声で。
「すみません。」
すぐに、「はーい。」という、女の人の明るい声が。
間もなく玄関が開き、女性が出て来て対応してくれた。亜麻色の長い髪をバンダナで一つにまとめている、溌剌とした若い奥さんという感じの人だった。
レイサーが一歩引いて、代わりにアベルが前へ出た。
「あの、イルマ山のヘルメスという人に言われて来ました。コラルさんはいらっしゃいますか。」
「まあ、そうなの。でもごめんなさい、おじいちゃんは仕事の依頼で主人と旅に出てるのよ。」
女性が申し訳なさそうな顔をして答えた。
「あの子はコラルさんのお孫さんみたいだね。」
リマールがそっとアベルにささやいた。
「ご用件は?」と、彼女の方からきいてくれた。
もはや話しても意味は無さそうだったが、アベルは答えた。
「占いで旅の助言をしてもらえると。」
「まあまあ困ったわね。あ、そうだわ。」
そこで彼女が声をかけたのは、庭にいる少女である。
「ラキア、あなた精霊占いできる?」
「知らない。」
「まあまあ困ったわね。」
肩の下まである亜麻色の髪と、大きくて澄み切った緑色の瞳。美少女といえる可愛い子だとアベルは思っていたが、今の受け答えから雰囲気はずいぶん幼く感じる。自分と同じくらいに見えるけど、何歳だろう・・・。
「まだ三日は帰らないと思うのよ・・・。」
彼女がため息とともに言った。
アベルは、レイサー、そしてリマールの表情をうかがった。自分たちの間に、あきらめるほかあるまいという空気が漂った。泊めてもらいたかったけど・・・本人がお留守じゃ言いにくい。
「それじゃあ・・・またの機会にします。失礼します。」
三人はそろって頭を下げ、背中を返した。
「ちょっと待って。」
慌てて一行を呼び止めた彼女は、それから強い口調で言った。
「ねえ、よかったら泊まっていきなさい。今からなら、どうせ野宿でしょう?」
アベルは反射的に、「いいんですか。」と決まり文句を口にしておきながら、これには幸運とばかりに喜んで素直に好意を受けた。レイサーもリマールも同様で、嬉しそうな顔をしている。
そのあと互いに名乗り合った。彼女の名前はメイサ。そして、その娘である庭の少女のことはさっき知った。ラキアだ。
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