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第3章 旅の仲間
14. 精霊使いの少女 ラキア
しおりを挟む晩ご飯の前に体を清潔にしてらっしゃいとメイサに言われて、一人ずつ洗面所で体を流してくることになった。急に食事の量を増やさないといけなくなったメイサは大忙しのため、そのお世話はラキアがしてくれることになり、まずはアベルから洗面所まで案内してもらった。
洗面所には大きなたらいがあった。ラキアはそこに湯を張り、バスタオルと短いタオルを洗面台に用意すると、「どうぞ。」とだけしゃべって出て行った。
野宿が多い旅なので、こういう機会に恵まれるのはありがたい。アベルは汚れた服を脱いで、何となく痒くなってきた体を洗った。
入浴のあと食堂に行くと、ラキアが座る場所を教えてくれた。テーブルに合う椅子は四つだけなので、間に合わせで低い脚立が置かれていた。
お客であるアベルは当然、普通の椅子へ誘導され、何だか悪いなと思い脚立を見つめていると、「それには座らないでね。」と、メイサが声をかけてきた。
最後に洗面所から出て来たレイサーが食卓についた時には、夕食の支度がすっかり整っていた。
テーブルには、それぞれが使う食器が綺麗に準備してあるほか、色とりどりの野菜やチーズをたっぷりと使って焼き上げた料理と、食べ物を入れた木製のボウルが二つ載っている。一つはパンの、もう一つは果物の盛り合わせである。
釜戸にかけられた鍋からも、何かスープの食欲をそそるいい匂いがしている。食事を始める直前に配られたそれは、レンズ豆と刻み野菜のスープだった。
とても充実した料理が目の前にそろった。
「どうぞ、召し上がって。」
というメイサの声で、ラキアと客人たちは口をそろえて「いただきます。」と言ったあと、むしゃむしゃと食べ始めた。想像した以上に美味しくて、アベルやリマールは手厚いもてなしに心から感謝した。
「旅はまだまだ続けるの?」
あまりにも自然に粗末な脚立に腰掛けると、メイサがきいてきた。片足だけをさりげなく踏み段にかけ、そんなものをクールに座りこなしている。
「はい・・・そうですね・・・まだちょっとかかります。」
アベルが答えた。
「わざわざ来てくれたんだから、何か知りたいことがあったのよね。」
「はい・・・まあ。」
「せっかくヘルメス様の紹介で来てもらったのに、何か悪いわね。ただで帰すわけにはいかないわねえ・・・。」
「いえ、気にしないでください。泊めてもらえただけで、じゅうぶんですから。」
ほんとにそうだとアベルは思った。一夜の宿泊も予定していたことだから。
「ラキア、あなたついて行ってあげたら?はしくれなんだから、何か役に立てることがあるでしょう。」
「あ、大丈夫です。ほんとに気にしないでください。」
危険に巻き込んでしまうと思い、アベルは右手をぶんぶんと振りながら言った。
リマールも同感だったが、興味があってラキアにきいてみた。
「君、何ができるの?」
「幽霊とお話。」
リマールはぞっとして、同じような顔をしたアベルやレイサーと目を見合った。
それはきっと役に立たない・・・。
それにしても奇妙な世界だ。同じ人間なのに、大きく二種類に分けられる。生まれつき霊能力というものを持つ者と、そうでない者たち。しかし霊能力者の存在は、ほんの一握りだ。
そして精霊使いというものには、その霊能力という神秘のいわば第六感を持つ者だけがなることができる。その超能力者が、大昔に発見されたとある方法に則ったことを正確に行えば、木の精、川の精、植物の精など様々な精霊を意に従わせ、操ることができると分かった。すなわち精霊使いは、霊能力者の中でもその方法を習得した者ということなので、その存在はさらに稀になる。
とにかく常人に言わせれば、摩訶不思議な現象を起こすことができる者達ということ。霊能力というくらいなので、その能力があるだけでも亡くなった者の魂、つまり幽霊まで見えてしまうらしい。
すると、これまで何の関心も示してこなかったラキアが、幼い子のように無邪気な声できいてきた。
「ねえ、どこに行くの?」
「王都アンダレアだよ。」
アベルが答えた。
「王都!」
ラキアが突然大きな声を出すので、アベルは少しビクッとした。
「ねえ、あたしほかにもできるよ。長くは無理だけど、光を呼んだり、風を起こしたり。」
声を弾ませてラキアが言った。
「光を・・・呼ぶ?」と、リマールはやや眉根を寄せて怪訝そうな表情。
だがその隣で、アベルは一つ確信していた。
さっきのつむじ風は、やっぱりこの子が起こしたんだ。すごい・・・。
「一緒に行きたいの?」
リマールが確認した。
ラキアは5歳児のような好奇心いっぱいの顔で、うん! とはっきりうなずいた。
三人の間でひそひそ話が始まった。とはいえ、食卓の上で開かれた会議なので、どう考えても聞かれてしまうと分かりながら。
「ランプ無しでも明るくできるってことかな。」
リマールが小声で言った。
「そうだよ。」
ラキアの声が入ってきた。やっぱり聞こえている。
「なら、便利だな。」と、レイサー。
「でも危険だよ。女の子だし。」と、アベル。
「けど、殺られるならまずお前と俺だろう。次にこいつ(リマール)。あの子は狙われないんじゃないか・・・女の子だし。」
レイサーのこれには、ラキアは何も言ってこなかった。いくつか衝撃的な単語が出て来たので、さすがに言葉を失ったのだろう。そう思い、三人は様子をうかがうように見てみたが、その顔はただきょとんとしていて、どういう心境でいるのか分からなかった。
アベルは、そんなラキアに体を向けた。
「あのさ、一つよく言っておかなくちゃいけないことがあるんだ。」
「うん・・・。」
「僕は命を狙われてる。」
アベルは事情をより詳しく丁寧に、そして正直に説明した。自分は王弟で、刺客が何人もいることと、その訳。それらの敵が狙っているもののこと。もういくつもの危険に直面しながら、やっとの思いでここまで来たこと。真実をありのままに。
「それでも・・・行きたい?」
「うん!」
ラキアは相変わらずのきらきらした表情で、軽い返事。
「あの・・・ちゃんと聞いてた?」
「聞いてた。」
分かってるのかな・・・。
アベルは、今度は母親のメイサの顔をうかがった。今の話を聞いて、ラキアよりも状況を理解し、深刻な気持ちでいるはず。
メイサは確かにそんな様子でアベルの目を見つめ返していたが、やがてふっと固い表情を崩すと言った。
「それじゃあ、旅の道連れになるのは、とても光栄な任務ってことね。」と。
アベルは胸を突かれた。確かに精霊使いという存在は計り知れない力を秘め、困った時にはどうにか助けてくれそうな気がした。だが、安易に誘えるような旅ではない。だから、事情を話せば気持ちが冷めて簡単に話が終わると、そう思っていたところもあった。
ほんとにいいのかな・・・。
実は、アベルと同じようなことを、レイサーやリマールも思っていた。
ところが、全くそうはならなかった。
「ラキア、遊びに行く気分でいるのもいいけど、あなたができることで、彼をしっかり守ってあげなさい。」
メイサの声はとても決然としている。ラキアもその気だ。
意外な展開を迎えた。女の子を連れて行くことになるとは・・・。
期待と同じくらい・・・正直、それ以上な気もするけれど・・・心配を抱えながら、こうして旅の仲間に新しく一人加わることとなった。
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