33 / 70
第4章 旅の協力者
1. 密偵
しおりを挟む精霊使いの少女ラキアを迎えて、新しい旅が始まった。
しばらく見通しの良い草原を進んできた一行は、先日からまた樹木が立ち並ぶ森に入っていた。ローウェンの村から来た道を戻らず、大街道の方へと少しずつ斜めに横切るような進路をとると、その通り道にある美しい森。もともと大街道はウィンダー王国の中央より南寄りにある。そこからローウェンの村までさらに南下し、丸一日は街道と平行して進んできたので、森は南の国境近くにあった。
美しいその森は、イルマ山の麓の森とはまた違う様相をみせた。まず、藪が少ない。上へ向かってほぼ真っ直ぐに伸びている凹凸の目立たない木が多く、木の葉は鮮やかな黄緑色をしている。それらが根を張っている地面には丈の短い野草が絨毯のように広がり、そこに今は陽光がよく降り注いで、全てが輝いて見えた。陽気な気分にさせてくれる風景だ。
現に、ラキアは本当にピクニック気分で、その中を弾むように元気よく歩いている。生まれ育った村から離れた土地へあまり行ったことが無かったので、これから初めて見たり体験することを、もういろいろと想像しているのだろう。
だがレイサーは用心し、アベルは落ち着かなかった。時々、嫌な気配を感じる・・・ついて来るような。そうと思うと、ある時、違う方向へ消えていく。しかし、またしばらくすると現れる・・・気持ちが悪い。
ここには道はあるが、どこでも歩きやすく馬でもすっと通れる場所だ。行き交う人はけっこういて、自由気儘に往来している。そんな中で、あれ・・・と、不意に気づくのである。もしかして・・・つけられている?と。
「一人じゃないな・・・。」
そわそわしているアベルに、レイサーがささやきかけた。
「顔を隠した方がいいでしょうか。」
「今さら遅いと思うぞ。どうせもう、俺たちは三人とも知られてる。雰囲気で目をつけられるだろう。だが、ラキアでごまかせているのかもしれない。それで相手も迷って偵察中か・・・。今気になっているのが、密偵なら・・・の話だが。」
一方、リマールは二人のこの会話でようやく状況を理解した。そして、ならばそれらはどこの何者かと思い、この森や周辺には何があるのかと地図を広げた。
様々なものがあった。
それで、リマールは言った。
「この森には村や果樹園、宿泊施設、それに船着場もあるみたいだ。森を抜けた先には町もある。人気が多いのはそれでなんだ。」
そう話していると、よく通る角笛の音まで響いてきた。
アベルとリマールはそちらへ首を向けた。
「ああ大丈夫、あっちは国境警備隊だ。往来する人が多いのは、そのおかげで安心できるってのもある。本来、悪党を取り締まるために常駐しているわけじゃあないんだが。」
「よく知ってるんですか。この森やその国境警備隊のこと。」
アベルがきいた。
「ここには昔来たことがある。国境警備隊には、まあ、その・・・知り合いがいるんだ。」
アベルもリマールも、おや・・・と思った。今、言葉を濁したような?
それから二人は思い出した。そういえば、ルファイアス騎士の話にもあった。近隣国の敵を警戒して、国境警備隊を強化していると。
「大丈夫なんですか、ここにいて。」
アベルは少し話を戻して言った。密偵のことだ。
「そうだな・・・けど、国境警備隊のおかげで、部隊に襲われる確率は低くなる。密偵なら、俺がついていれば問題ない。」
「すごい自信ですね・・・。」
「伊達に孤独なさすらい戦士を名乗ってるわけじゃない。」
レイサーは、あの英雄ルファイアス騎士も認める屈強。それは確かなのだろう・・・剣を握ったといえば、まだ農夫を脅したところしか見てないんだけど。
そうこう話しているうちに、一行は地元の人がふだん利用している湧き水の場所へとたどり着いた。旅人も誰でも好きに汲むことができる水飲み場で、森にはほかにも井戸が点在している。
彼らはそこで、今日初めての休憩をとった。その水飲み場には他にも人がいて、おしゃべり好きな地元の人が二人話しかけてきた。そして、森にあるもののことや、ここでできることなどを得意気に教えてくれた。特に薬草の話になった時には、リマールが食いついて、もう自分からあれこれと質問を投げかけていた。
それから、充実しているこの森の中で、滞りなく先へ進むために、不足した物資を補充しにかかった。
ようやく一通りそろえ終えた頃には、きらきらと眩しかった森は、落ち着いた光に包まれていた。恐らく今は、午後の4時から5時といった時間だろうと思われた。
その時、道からずいぶん離れたところに小さな茂みを見つけた。一行は、その陰で二度目の休憩をとることにした。
そこから周りを見てみると、遠くに人が通る姿はあったが、近くには誰もやって来なかった。この森の中でも人気の無い場所のようだ。通行人の数もぐんと減った。夜には道にも人の姿は無くなるだろう。
レイサーは、ここで仮眠を取ることにした。
「怪しい気配がしたら、すぐに起こしてくれ。」
そして彼は、話しかけてはいけない状態になった。
森には宿もたくさんあったが、夜になったらもう少し先へ進んで、野宿しようということに決めていた。
20分くらい経って、それまで周りの茂みの下の方に目を凝らしていたリマールが、申し訳なさそうな顔でアベルに言った。
「ちょっと近くを見てきてもいいかな。ここは初めて来たから、もし薬草があるなら調べて、覚えておきたいんだ。」
彼は、水飲み場での地元の人の話がずっと気になっていたらしい。そう悟って、アベルは「いいよ。」と笑顔で答えた。
一方、ラキアもうずうずしている様子。彼女の場合は、何もしないでじっとしているのに飽きただけのようだが。こういう時に体を休めておくものなんだけど。
すると突然、そのラキアがパッと弾かれたように動き出した。
「あ、何かいた!」と声を上げて。
ラキアは、野ウサギのように頭から横の茂みに突っ込んで、行ってしまった。
アベルは唖然となり、だが慌てて声をかけた。
「ラキア、遠くに行っちゃダメだよ!」
それからハッとして、傍らに目を向ける。
レイサーはそのまま目を閉じていた。でも・・・きっと起こした。なのに気にしていないその様子に、すぐに連れ戻さなくていいのかと考えていたアベルも、しばらく待ってみることにした。
そうしていると、また微かに角笛の音が聞こえた。
辺りが薄暗くなってきた。
茂みから顔を上げて通りを見てみると、今は誰もいなかった。
レイサーは眠ることができているのだろうか。
かたや、二人ともなかなか帰って来ない。完全に気配が消えていた。
リマールは近くにいるはずだけど、ラキアはなんだか危なっかしくて心配だった。ちゃんと戻って来られるのかな。もし迷ったのだとしたら・・・。
とうとう、アベルは居ても立ってもいられなくなってしまった。
「もう・・・。」
アベルは身動きしないレイサーを一度見て、悩みながらもそばを離れた。
とりあえず、ラキアが消えた方へ探しに行った。
道はやがて上り坂になった。そして、川の近くまで出てきた時。
アベルは急に立ち止まった。こんな時に、どうして思いつかなかったのかと。
彼は焦る気持ちを抑えて、耳をすまそうと目を閉じた。
ところが、川の方から ドボン・・・! という音が。
大きな水音。
え・・・まさか!
何か重いものが川に落ちたと思い、アベルはすぐさま足元を蹴って、夢中でそこへ駆け出した。
木々を抜けた先には、流れの上に張り出している崖の突端があった。
その際に立ったアベルは、ただ慌てて下を覗いた。川の流れは速い。アベルは祈りながら、一生懸命に目を凝らした。
今の水音、ラキアじゃありませんように!
とそこへ、いきなり背後から何者か走り寄ってくる気配が。
ぞっとなったアベルは、声も出ないほど驚きながら振り向いた。赤い色が目に入った。
次の瞬間・・・!
強い衝撃とともによろめき、地面から足が離れて、体が逆さまになった。下へ向かって落ちていく。
流れの速い川の中へ・・・!
アベルは、崖から誰かに突き落とされた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる