イルマの東へ

月河未羽

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第4章  旅の協力者

4. 長女 アヴェレーゼ

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 セネガルとヴルーノが正規軍せいきぐんの兵士だと分かれば勘付かんづかれてしまうため、ラルティスの指示通りに二人は変装へんそうし、帰りのために馬は連れて行ったが手綱たづなを引いて歩いた。

 一行は森を抜けて、南の国境付近から北へ伸びている道に入り、再び大街道の方へと向かっていた。しかし、大河にけられた大橋を渡るまでは、例によってもう大街道は通らない。そのあとも。山や森の中に隠れ、様々な方向へ複雑に分かれている下道を進む。イスタリア城も、フェルドーランという名の広大な森の中にある。その森は、王都アンダレア、さらには東の大山脈へ続く大街道とほぼ平行して広がっている。

 ラルティスが立ち寄るようにすすめたアヴェレーゼの屋敷は、ちょうど通り道といっていい場所にたたずんでいる。正確には、ベレスフォード家の長女アヴェレーゼは、嫁として迎えられた立場。だがその主人は留守るすにすることが多いため、しっかり者の彼女は、代わりに圧倒的あっとうてきな存在感を放っているそう。

 そのお屋敷は、閑静かんせいな住宅街で際立きわだっていた。よく手入れされた整形せいけい庭園の奥にあり、大きく張り出している二階のバルコニーが印象的な豪邸ごうていだった。赤茶色の屋根をかけ、突き出している多角形の部屋の外壁がいへきには、ほどよく緑のつたっている。

 二人の護衛が付き添ってくれたが、ここまで何事も起こらず、一行は無事にたどり着いた。

 庭園の門には、門番が一人立っていた。レイサーの顔を知っている人物だったので、すぐに通してもらうことができた。

 灯りがともったばかりの庭園を通り抜け、玄関扉の前に立つと、ヴルーノがノッカーを鳴らした。

 扉を開けてくれたのは執事しつじだった。生真面目きまじめそうな四十前後くらいのひょろりと背の高い男性で、レイサーを見ても動じず、穏やかな表情のまま、彼は極めて礼儀正しい挨拶を行った。そして、突然の客人のことを知らせに、いったん扉を閉めた。

 しばらくして、再び執事の手によって扉が開けられ、その向こうに、今度は女性が一人立っていた。

 げ茶色の長い髪を優美にまとめ上げ、丈の長い空色の上品なドレスを身に着けている彼女こそは、ベレスフォード家の長女アヴェレーゼ。

「まあ、ほんとに・・・!」
 アヴェレーゼは目を見開き、口を開けたままレイサーの顔を凝視ぎょうしして、それからやっと言った。
「いらっしゃい。珍しいわね、レイサー。」

 そのレイサーは、視線をやや横へらしている。
「ラルティス兄貴あにきに言われて。」
「詳しい話はあとで聞くわ。とにかくお入りなさい。」

 アヴェレーゼは鋭く、その一言で彼らが昨夜は野宿をしたのだと悟った。それに着衣は薄汚うすよごれているように見え、女の子などは特に歩き疲れているような感じだった。

「そちらの可愛いお嬢さんは、あとで私についてきてね。すぐに綺麗にしてあげるから。」

 そうして一行いっこうが天井の高いエントランスホールへ入っていくと、いきなり頭上から元気いっぱいの歓声かんせいが聞こえた。

「レイサーだ!」

 反射はんしゃ的に、玄関にいる全員が一斉いっせいに見上げた。

 ゆるやかにカーブして二階へ続いている階段の上に、栗色くりいろの髪をポニーテールにむすんでいる女の子がいる。欄干らんかんから身を乗り出して、うれしそうにこちらを見ている。

 その女の子は軽快けいかいに階段を下りてきて、レイサーの腰に抱きついた。

 一方のレイサーは、どうしたのか一歩引いて絶句ぜっくしている。

「この年頃の子に何年も会ってなかったら、こうなるわよ。」
 というアヴェレーゼの言葉で、アベルもリマールも納得なっとくした。以前会った時よりも、身長が恐ろしく伸びて体型が変わっているんだ。

「それでは、我々はこれで。」
 ヴルーノが言った。

 二人の兵士は並んで立ち、ぴんと姿勢を正した。 

「あら、いいのよ。遠慮しないで泊まっていって。」
「いえ、我らは職務に従い、すみやかに戻らねばなりません。お気持ちだけで。」と、セネガル。
「じゃあ、せめて飲み物と食べ物くらい用意させて。その方が、あなたたちも元気がついて、早く戻れるでしょう。」

 アヴェレーゼは執事しつじに何か申しつけ、執事は「かしこまりました。」と言って一礼したあと、夕食の準備が進められている厨房ちゅうぼうへ向かった。

 それから少しして、執事がびん入りの飲料水を二本、そして召使めしつかいが食べ物の入ったつつみを持ってきた。

「夕食から取り分けさせたから、早めに食べてね。」
「恐れ入ります。」

 二人の兵士は恐縮きょうしゅくしながらもそれらのおくり物を受け取り、外へ出て、馬のくらにつないでいるカバンや袋に入れた。

 そして別れの時。彼らが馬の背にまたがると、アベルが進み出てきて言った。
「ありがとうございました。」

 それにならって、リマールも頭を下げた。

道中どうちゅうのご無事をお祈りしております。」
 精悍せいかんな笑顔でこたえたセネガルとヴルーノは、馬を回して同時に馬腹ばふくりつけた。 

 そうして、南の国境警備隊の副隊長たちは、何事も起こらなかったが確かに任務にんむたし、ラルティス総司令官のもとへと馬を飛ばして帰っていった。 


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