イルマの東へ

月河未羽

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第4章  旅の協力者

5. 賑やかな食卓 ― 心の休息

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 眠る部屋へと案内してもらった一行は、まず洗濯のために着衣をあずけて着替えをした。かんが良く、さすがに気がく若奥様に、親友であると気づいてもらえたアベルとリマールは同じ部屋を、女の子のラキアと、雰囲気だけで周りを気疲れさせるレイサーは、一人部屋を使うことになった。

 アベルとリマールは、壁際かべぎわのソファーにゆったりと腰掛けた。緊張がかれると、つい甘えそうになる。また危険な旅に出るのが辛くなってしまう。二人は嫌なことは考えないよう話をし、待っている人がいること、そして果たさねばならないことを再確認し、弱い気持ちをいましめ合った。

 そこへノックの音が聞こえた。ドアを開けると、夕食の案内をしに迎えが来ていた。

 二人は、その召使いについて一階の食堂へ下りていった。

 レイサーは先に来ていたが、席にはついていなかった。可愛いめいっこのアリーナにまとわりつかれて、適当に相手をしている。ただやっぱり不愛想ぶあいそうで、なのにアリーナはそれを全く気にしていない。

 アベルが食卓へ目を向けると、白い布がかけられた大きなテーブルに、蝋燭ろうそくを三本立てられる燭台しょくだいが、適当な間隔かんかくをとって二つ置かれていた。それぞれ小さな炎が三つとも燃えている。

 天井からも大きなシャンデリアが吊り下がっている明るい食堂だったが、貴族のならわしか、夕食時には決まり事のように蝋燭が準備される。そして、クッション材が張られた快適そうな椅子いすが、ちょうど人数分向かい合わせにあった。特別に用意してくれたのかもしれない。

 執事に促されて、彼らは次々とその椅子に腰を下ろした。

 そこへまた一人、十代なかばほどのお嬢様が現れた。ラキアだ。

 そう思ったのは、彼女がべに色の素敵なワンピースを着ていたから。手の込んだ優美な刺繍模様ししゅうもようは、庶民の服ではまず目にすることがない。

「アリーナのために、私の若い頃の服を置いておいてよかったわ。ほら、ぴったりよ。」 

 アヴェレーゼが、ラキアの両肩に手を置いて言った。そう、それはレイサーには見覚えのある服。可愛い顔と、髪の亜麻色あまいろがよく似合っている。ラキアもちょっと嬉しそう。

 それから、二人もいている椅子に座った。

 片側にアベルとリマール、そしてラキア。もう一方にアヴェレーゼ、娘のアリーナ、そしてレイサー。そうして全員が席に着くと、執事や召使いが、磨き上げられたグラスに芳醇ほうじゅんなワインを注いだ。

 いかにも上流階級の食卓という感じのそこに、前菜、サラダ、スープと続いたあとは、串に刺した高級肉のかたまりをあぶり焼きにした料理をメインに、次々と食べきれないほどの豪華な料理が運ばれてきた。

 アベルやリマールもそうだったが、ラキアは分かりやすく瞳をキラキラさせて、今まで食べたこともなく、見た目にも美しい料理の数々に少し興奮こうふんしている様子。ただ、右や左前にたくさん並べられたフォークやスプーンには困惑こんわくしているようだった。

 アヴェレーゼの「好きに召し上がって。」という言葉で、彼らは自由に食事を楽しんだ。

 アリーナはしょっちゅう横を向いては、レイサーの食事の邪魔をしている。

「レイサー、今日お泊りでしょー? 一緒に寝よー。」
ことわる。」
「えーなんでー、なんで断るなのー。」
「お前もう7歳だろ。罪になる。」
 このめいっ子も苦手なんだよと、レイサーはしかめっ面になった。

「何言ってんのかしら・・・。」
と、アヴェレーゼの方はあきれ顔。
「なぜだかレイサーのこと好きみたいなのよ。こんな愛想悪いの、どこがいいのかしら。一番(兄弟の中で)若いからかしら。きっと、そうね。」

 アベルもリマールも、ハキハキとテンポよくしゃべる彼女の声を気持ちよく聞いていた。

 アヴェレーゼさんはおしゃべり好きな人らしく、他愛たあいないことまでたくさん話してくれる。お転婆てんばな姪っ子のおかげもあって、いつまでもにぎやかな楽しい時間を過ごすことができた。旅の恐怖や困難こんなんを忘れていられる。

「女は私だけなの。四男一女よ。」

 彼女の話題は尽きることがない。なのでみな、ほとんど聞き手にてっした。

「主人はルファイアスお兄様と同じ王の近衛兵このえへいなの。だから今は、王都にいていないわ。もうすぐお兄様は家督かとくぐから、空いたポストにはエドリックがくんじゃないかしら。」

三男さんなんだ。今は騎兵隊きへいたいの隊長をやってる。」
 レイサーはなんかいやそうな顔をしてそれを言った。

「仲良くないんですか。」
 リマールが何の遠慮えんりょもなしにきいた。

「子供の頃からよく喧嘩けんかしてたものね。としが近いからか。」と、アヴェレーゼもはっきりと答えた。

 レイサーはただただ渋面じゅうめんを浮かべている。

 時間はそんなふうにあっという間に過ぎたが、気づけば空いた料理の皿は下げられ、まだ残っているうつわの中身もずいぶん殺風景さっぷうけいになっていた。逆に、アベルやリマール、それにラキアのおなかは苦しいほどもういっぱいだ。

 アヴェレーゼは、「好きに部屋へ戻ってお休みなさい。」と、この三人に微笑ほほえみながら言葉をかけ、立ち上がった。そしてアリーナの手をとり、はなぎわにレイサーを見た。

「レイサー、あとで二階広間のバルコニーにいらっしゃい。」

 レイサーは姉の顔を見はしたが、何の返事も返さなかった。


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