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第4章 旅の協力者
8. 留置所に・・・
しおりを挟む「どこから来た?」と、衛兵がきいてきた。
アベルはややためらい、そしてこう答えた。
「西の方からです。」
「どこへ寄ってきた。」
にこやかだった彼の表情が、この時から明らかに変わった。真面目で抜かりない、軍人の顔つきになった。
アベルはとたんに不安を覚え、心臓がドクドクするのを感じた。
嫌な胸騒ぎがする・・・。
「なぜですか。」
衛兵の男はそれには答えず、視線をラキアの方へ向ける。
「君はずっと一緒に旅を?」
「ううん。この前から。」
彼は、再びアベルやレイサーの顔を見た。
「ガゼルの宿泊街には行かなかったか。」
きちんと支払いをせずに逃亡したことで、手配書が回っているんだ・・・と、アベルははっきりと理解して、レイサーやリマールと目を見合い、黙った。
その衛兵はいよいよ鋭い目つきになり、厳しい声で言った。
「少し話を聞かせてもらいたい。」
一行はそのあと荷物と武器を預け(実質、没収)、塔の中にある取調室のような部屋に連れて行かれた。そこへ、もう一人あとから来た衛兵が加わった。アベルは、この男性に見覚えがあった。橋の周辺に目を凝らしていた時だ。彼は四、五人集まっている衛兵に、何やら指示を出しているように見えた人。
そのあと彼らは、この二人から、旅の目的や目的地などたっぷりと質問攻めに合った。
しかし答えは二転三転し、当然、関守のマルクスに会いたがった理由も追及されたが、曖昧な返事とごまかしばかりしていたので、よけいに怪しく印象を悪くする羽目に。
そしてとうとう、無銭飲食の容疑をかけられ、橋から少し離れた留置所で拘束されることになってしまった。
その時一緒にいなかったラキアだけは、ひとまずそのまま塔の別部屋で待たされることになった。
その小さな建物に入ると、事務室の机の椅子に当番の兵士が一人座っていた。
最初に彼らを取調室へ連れていった衛兵は、その兵士に近づき、連れてきた者達のことを話した。
話を聞いている兵士が、三人の方に視線を向けてきた。
そして最初の衛兵は出て行った。
「さて、ここは近辺で犯罪をおかした者や、君達のような怪しい者を一時閉じ込めておく所だ。ついて来なさい。」と、当番の兵士が言った。
「そのあとは。」
レイサーがきいてみた。
「君たちには、ガゼルの宿泊街で罪をおかした疑いがかけられているんだろう? なら、アイゼン市の役所へ送られ、またじっくりと取り調べを受けたあと、場合によってはそこの領主様かお代官の前へ引き出されることになる。」
「それはいつ。」
「明日の朝だ。」
「あの、それなら関守のマルクスさんに先に会わせてもらえませんか。それまで待ってください。」
アベルは身を乗り出して、すがるように頼んだ。
「なぜ。」
「それは・・・。」
「とにかく、会わなければいけないんです。そうすれば疑いはすぐに晴れます。僕たちは潔白です。」
リマールが代わって訴えた。
「それなら、どこへ行っても恐れることはない。アイゼン市で証明するといい。」
「そんな時間は無いんです。」
アベルが少し苛立って詰め寄った。せっかくここまで来たのに戻るなんて、どんなに時間を無駄にすることか。王様の命がかかってるのに・・・。
「あの、それじゃあ、橋の向こうのラトリ市の領主様に会わせてください。イスタリア城の城主様に。お願いします。」
兵士は呆気にとられた。いったい、どういうつもりか。
「君は、いきなり何を言っているんだ。」
兵士はクローゼットから、たたんで常備してある毛布を三枚手に取り、壁についているフックから鍵の束を外して、再びついてくるように言った。
奥のドアを開けると細い廊下が伸びていて、川沿いに小部屋が三つ並んでいた。そこはシンとしていて、何の物音もしてこない。どうやら不届きな先客はいないようだ。
そういうわけで、三人は手前の小部屋に入れられた。石畳の床にゴザが敷いてあり、部屋の隅っこには、どうぞご自由にお使いくださいといった具合に、藁の塊がドンと置かれてあった。
兵士は、レイサーに三人分の毛布を手渡して言った。
「朝、迎えが来るまで、君たちの世話は私が引き受ける。もし具合が悪くなったりしたら呼びなさい。」
その兵士がそんな優しい声をかけてくれたのには、訳があった。武器や荷物を取り上げられた時、リマールがベルト通しにくくりつけている大事な薬だけは、持病があって発作止めだと説明したら、水筒と一緒にそのまま持たせてくれたのである。
兵士はドアに鍵をかけ、隣の部屋へ戻って行った。
無情に響く、次第に離れていく足音を、アベルは泣きたい気持ちで聞いていた。
ゴザの上に毛布を置いたレイサーは、灰色の壁と、石畳の無機質な室内をぐるりと眺めた。
「牢屋と変わらないな。俺たちはまだ重要参考人のはずだが?」
「やっぱり正直に話そうか。通してくれるかも。」
アベルが言った。
「さっきの世話係という名の看守にか? 上の者から聞いてないなら、そうはいかないだろう。」
「それに、なるべく正体を隠すように言われてるよ。マルクスさんと会うことさえできれば、無罪放免なんだろうけど。」
リマールが言った。
「これはある意味、罠にはまったようなものだ。アイゼンへ送られる途中、おそらく刺客の一団に襲われる。」
「そんな・・・。」
アベルとリマールは、そう声をそろえてがっくりと肩を落とした。
レイサーは、藁の塊をいい感じに崩して広げると、ガタガタしても仕方がないと言わんばかりに腰を下ろして寛ぎだした。
「ほら、ゴザよりはきっと快適だぞ。」
アベルもリマールも、暢気なレイサーに呆れながらもそばへ行き、同じように座ったあと、長いため息をついた。
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