イルマの東へ

月河未羽

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第4章  旅の協力者

7. 大河に架かる橋 ― 関所

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「かった・・・まず・・・。」

 ラキアは文句もんくたらたらで、カチカチのパンを嫌々いやいやかじっている。 

 一行いっこうは、そこかしこに小さな野花のばなが咲いている水辺で、口に入れるしか仕方がない最後の食料を食べていた。これは朝食。

 アヴェレーゼの屋敷を出発したのが4日前。その時には、アヴェレーゼが干しブドウや刻んだベーコン入りのパンを持たせてくれたのだが、美味しさをそこなわないうちに食べてしまったので、今日の午後に関所せきしょがある町へ到着する予定でいる今朝、残りの食料は、この日持ちするかたパンと干し果物くだものしかないのである。

「ほら、これと交換こうかんしよう。」

 アベルが干し果物をあげようとした・・・が、ラキアは、自分の発言が何だか急に我儘わがままで恥ずかしくなり、それから胸が少しキュンとなった。

 アベルとリマールは、いつもおだやかで優しい。でも、こんなふうによくかまってくれるのはアベルの方だった。

「甘やかすな、アベル。あとあと面倒臭めんどうくさいことになる。」

 この人も、いつもこんな感じだ・・・。さすらい戦士、レイサー。ラキアとは10才くらい歳の差がある、愛想あいその悪い用心棒ようじんぼうのお兄さん。

「だって・・・。」
「あ、うそうそ、大丈夫!うん、慣れればぜんぜん食べられるからっ。」
 ラキアは食べかけの堅パンを頬張ほおばった。

 5歳児と変わらない言動ばかりする彼女なので、アベルも、最初のうちは困惑させられることも多かった。だが、慣れた今は、そんなラキアが妹のように可愛いと思えるようになり、軽く頭に手を乗せてあげる仕草しぐさも自然に出る。

「もう少しで町だ。そこでふわふわのパンを食べよう。」

 ラキアは、今度は胸がちょっとドキドキした。 






 関所は町の郊外こうがいにある。ちょうど大河たいがで二つの町がへだてられている。つまり、関所の大橋を渡ればその隣町となりまちラトリ市だ。そこはイスタリア城の城主エオリアス騎士の領地。イスタリア城は、旅の大きなポイント地点である。

 そして、彼らが今いるこちら側がラジリーク市。その中心街で旅の支度したくを整え直し、約束通りにふわふわのパンを食べ、午前中いっぱい息抜きをしてきた一行は、午後少し暗くなり始めた頃に関所に着いた。 

 大橋は、二つのそびえ立つ四角いとうの間にあり、いくつものアーチの橋げたに支えられて、真っ直ぐに向こう岸へけられている。その下の川は青く、幅が広くて力強く流れ、小島のような岩に白波を立てて打ちつけていた。

 橋を横から眺められる川沿いに佇み、まさにそこを渡っている通行人を数えるように見ていた一行は、レイサーの声で動きだした。

 大橋の入口には、向かい合わせに立って、見えないバリアを張っている二人の衛兵えいへいがいる。その周辺にも、何人か警戒しているほかの衛兵がうろついている。

 普通なら、まずは橋の横に建っている塔へ行き、検問けんもんを受けて通行証を受け取り、その入口の衛兵に問題ないというしるしの通行証を渡して、やっと通してもらえる。対岸たいがんにも同じような塔があり、やはりそこでも同じことが行われている。この大橋の関所は大街道の通り道にあり、ウィンダー王国の中心と言っていい場所に位置している。不審者ふしんしゃ罪人ざいにんを取り締まるということでは、検問所の中でも特に厳しい目を向けられる関門だった。そうと分かって、アベルはルファイアス騎士に指示された秘策ひさく納得なっとくした。

 信頼できる、助けてくれる人に会わなければ。

 彼らは、通行証を発行している塔へは入らず、書類を抱えてその近くに立っている衛兵に近づくと、アベルが声をかけた。

「すみません。あの、マルクスという方にお会いしたいのですが。」
「用件は?旅の案内をご希望かな。」

 衛兵はにこやかに答えてくれた。番人といえど、何の問題もなければとても友好的だ。

「あ、はい、そうです。」
「そうか。だが申し訳ない。急な予定が入り、関守のマルクス様は明日の朝まで不在だ。」

「兄貴のヤロウ・・・。」
 レイサーは、そばにいるその衛兵には聞こえない声で、普段は間違いのない長男をうらんだ。こういう事態を想定してなかったのか。

「だが、私でも教えてあげられることはある。よければ話を聞くが。」
「えっと・・・いえ、あの・・・マルクスさんでないと・・・。」
 アベルは言葉をにごした。語尾は消えていくようだった。

「君たちで、今日は五組目だよ。だが、みなあきらめめて橋を渡っていった。どうするね? 君たちも会わずに通るなら、あそこで名前と年齢、そして橋を渡る目的を書いて、検問を受けて。あとはこっちで記帳きちょうするから。」

「あと・・・って。」
 リマールがまゆをひそめた。

特徴とくちょうなどだ。」
 レイサーが教えてやった。彼は何度もここを通ったことがある。

「そのとおり。」
 衛兵がうなずいた。

 彼らは顔を見合わせ、男に背を向けて少し離れた。

「名前や年齢はいつわれるとして・・・。」
 リマールが、困ったな・・・という顔をしてまず言いだした。

「どうしよう。」
 アベルは振り返り、橋の入口に立っている衛兵や関係者とおぼしき男達に、注意深く目をらした。ほかに誰か話ができそうな人は、また、怪しい人物はいないかと。

「兄貴が関所の責任者に会うよう指示したのは、恐らく、いろいろと免除めんじょしてもらえる手筈てはずだったからだろう? その連絡が回っていないということは、ここにも怪しい者がいる恐れがあるからだろう。とりあえず、記帳せずに密かに通してもらえるだけでも、橋をまだ渡っていないことにできる。」

 ということは、もし密偵みっていが関係者の中にひそんでいれば、まだ先へは進んでいないと思い込ませることができるのでは。

「じゃあ、マルクスさんを待った方がいいのかな。」
 リマールが言った。

「でも、せっかく振り切った刺客しかくに追いつかれてしまうかも。」とアベル。

 実際、途中とちゅう寄り道をしたので、刺客たちは追い越した可能性もある・・・が、何らかの方法で密かに通してもらえれば、敵は橋をまだ渡っていないと判断し、あざむかれたと気づくまでここに居てくれるだろう。

 しかし もう既に、この様子を密偵がうかがっているかもしれない。アベルはまた周囲を見回した。自分の心境としては、早く先へ進みたい・・・と思った。 

手掛てがかりを残すようなことはあまりしたくないけど・・・会えなくても渡った方がいいのかな。」

 そんなことをぶつぶつ話しあっていると、後ろにいる衛兵がかさね持っていた書類の一枚をしげしげと見つめだし、視線を向けてきた。彼は、それを一枚つまみ上げているまま、つかつかと歩み寄ってくる。

 気配に気づいた一行は、その衛兵の方へ体を向けた。

「君たち、ちょっといいかな。」

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