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第5章 試 練
12. 黒の暗殺兵団 対 紺の騎兵隊
しおりを挟む男はなかなかに狡猾で、こいつに痛みや恐怖を与えても無駄だと判断されたレイサーは、駆け引きのような誘導尋問をしつこく受けた。例えば、王都へ行くのを止め、ここで殺されたことにして山へ帰ってくれれば見逃してやる、とかだ。そんなことを、男は何とも巧みな話術でささやきかけてくるのである。
しかし、レイサーは嘘だと見抜いて、話を聞かないよう意識を遮断した。このあいだ、ラキアにはなぜか構おうとしないことだけが、レイサーには救いだった。だが、信用してはいなかった。最後はここに放置する以外、何もしないと言っていたこの敵の指揮官だが、迫り来る恐怖に、すぐに吐くだろうと踏んでいただけかもしれないから。そして、改めて思った。この男は、本当に、自分たちをこのまま置き去りにして去るだろうか。手掛かりを得られないまま、夜になってこの森を捜索するのは困難だ。やはり、最終的には拷問に踏み切るんじゃないか・・・。
「さて、もう夜になる。我々もゆっくりはしていられなくなってきた。」
頑ななレイサーに方策尽きた男は、呆れたように離れて部下を振り返った。
「お前、小娘の手拭いを外せ。」
ギクッとして、レイサーは思わず少し取り乱した。
「手は出さないと言ったろうっ。」
「ああ。手は出さん。手・・・はな。」
その時、また遠吠えが。狼は、この男と打ち合わせでもしたかのように、タイミングよく効果音を入れてくる。
「ほら、もうすぐここにも来るぞ。」と、男はラキアに顔を近づけ、憎たらしく言った。
なるほど、あくまで乱暴は働かない代わりに、とことん精神的に追い詰めていく。口は遠慮なく出すというわけか。こんな非道なことでなければ立派なんだがと、男のことを残念に思いながら、レイサーはただ様子を見守るほかなかった。
「どうせそう遠い場所ではあるまい。あの二人は、お前達が来るまでずっと待っているような奴らじゃないか?」
ラキアは目をぎゅっと閉じ、口を真一文字に結んでいるが、縛られていては耳まで塞ぐことはできない。
「少し時間をかければ見つけられることだ。お前が今ここで教えてくれたって、誰も責めはしない。無駄死にするだけだぞ。」
その通りだ。レイサーはむしろ吐いてくれと思ってしまった。ラキアが狼に食われるのを見るのは耐えられない。一瞬思わず想像してしまい、サッと血の気が引いた。
レイサーは決心した。ラキアがしゃべりそうになったり、男達がこの場を離れそうになったら、自分が言おうと。きっと、夜になっても自分達が戻らなければ、リマールが引っ張ってでもアベルを連れて先へ進むはず。だから、できる限り時間を稼がなければならない。
その間にも、男は悪魔のささやきや恐ろしい言葉をラキアの耳元でかけ続けていた。教えてくれれば仲間は悪いようにはしないとか、狼は体のどこから食べ進めていくかと。
ラキアは度々悲しそうにうめいたが、声までは上げなかった。
レイサーも見ていられず、「止めろ、黙れ! 」と邪魔をした。だが、男の部下の一人、巨漢のその大きな掌で口を塞がれてしまった。
辺りがさらに暗くなったようだった。
そんな中、レイサーは日没までを予想して、それからまたラキアを見つめた。まだ固く目をつむったまま、無言であらがい続けている。あまりに健気で、思わず抱きしめたくなった。しかし、男の神経を刺激しないか心配だ。イライラさせれば、平手打ちの一発くらいは食らわされるかもしれない。そう思い、今度は男に視線を向けると、男は相変わらず感心するほど冷静である。
そうして、ある意味紳士的にあれこれと頑張った暗殺兵団の隊長だったが、結局は派手なため息とともにラキアから離れて立ち上がり、辺りを見回した。
「そうか・・・もういい。」と、男はついに吐きすてた。「引き上げるぞ。確か、この小娘は向こう岸で捕まえたと言ったな。もう一度、その辺りをよく探せ。」
「待て・・・。」
レイサーは、上目づかいに男を見た。
男は、ふ・・・と笑みを浮かべる。
「ようやく、その気になったか。」
「ああ。だが、確実じゃない。思う場所が同じなら、きっとそこに来るってだけだ。」
「それは、どこだ。」
「案内する。まず、その子を解放してくれ。」
「ダメだ。お前は危険だ。その小娘に案内させる。事が終わるまでは、お前はこのままここにいてもらう。」
そんな裏切り行為を、ここまで我慢したラキアにさせるわけにはいかない。
「待ってくれ、口で説明する。難しい場所じゃない。向こう岸の川沿いにある・・・」
全く唐突だった。
蹄のとどろきと勇ましい叫び声が聞こえ、地響きが周囲をのみ込んだのだ。
「全て捕えよ!」
レイサーもラキアも、そこにいる誰も彼もが驚いて目を向ける。
森の木々をかすめて、いくつもの灯りが近づいてくる。その灯りの中できらめく武器と、さらに大勢の人影がはっきりと目に映った。
「一人も逃がすな!」
そして間もなくやってきたのは、鮮やかな紺色の軍服を着た騎兵の小隊。紺はウィンダー王国を象徴する基本色の一つ。彼らがみな手にしているのは槍ではなく刃渡りの長い剣だ。次々と馬から下りて、接近戦にのぞもうとしている。
対して、暗殺兵団もリーダーの合図で剣を引き抜き、戸惑いもせずに真っ向から雄叫びを上げて応戦した。
地面に置かれた灯りが、この場でたちまち始まった剣戟の戦いを照らし出した。
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