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第6章 祝 福
4. 13年を経て
しおりを挟むゼルフィンがノックをし、先に一人で入っていった。
だがすぐにまた現れて、王の言葉を一行に伝えた。
「アレンディル様は、お供の方々とも直接話し、礼を述べたいとおっしゃっておいでです。」
リマールとラキアが驚いて目を見合ったが、まずはルファイアスとアベルだけが入室することになった。
ところが、アベルはハッとした。自分が今、何か恐れおののいていることに気づいた。立ちすくんだまま、足が一歩も動かない。
その異変に気づいたルファイアスも眉をひそめ、しばらく待った。リマールやレイサー、それにエドリックも心配そうに見つめている。
ルファイアスが、アベルの肩に優しく手を置いて言った。
「陛下や王太后様も、殿下と同じ気持ちでいらっしゃるはず。ゆっくり深呼吸をして。大丈夫、さあ行きましょう。」
アベルは目を閉じて、深呼吸をした。右足が、体が動いた。少し振り返る。仲間たちがほほえみかけてくれていた。
再び扉が開かれた。
光がまぶしくて、反射的にアベルは目をつむった。目にしみなくなると、ゆっくりと瞼を上げてみた。そしてよく目をこらし、自分の目に映っているものを真っ直ぐに見つめた。
正面に、両手で口を押さえている女性が立っている。若いとは言えないが、自分と同じ金髪と褐色の瞳をもつ美しい人だ。渋い緑と黄色のドレスを着て、胸元には輝く宝石の首飾り。
この人が、きっとお母さんだ・・・と分かった。お母さん。心の中でそうつぶやいたとたん、胸がつまった。助けを求めるように、アベルは隣を見上げていた。勇気を出して、という笑顔で、騎士は一つうなずいた。
すると、戸惑っている間に、彼女の方から近づいてきてくれた。そして、とても優雅な動きで、アベルは彼女に左手をとられた。
「アベルディン、会いたかった。」
心から喜びがあふれているその女性の表情を見ると、これまでの不安や疑念はあっけなく拭い去られた。全身が震え、目頭が熱くなった。その女性は、泣きながら両手で握りしめた左手に頬ずりをしてくれる。どんな顔をしたらいいのか、分からない。
「ごめんなさい・・・。」
何に対して・・・? と、アベルは少しだけ考えた。仕方がない事情とはいえ、やはり見捨てたような形で別れ、存在を抹消した国のやり方を容認していたことを詫びているのだろう。罪悪感があったのだと理解して、アベルのすさんだ気持ちはまた軽くなった。
「あの・・・僕は大丈夫です。」
返事になっていたのかどうか、どう言葉を続ければいいのか分からず、それ以上は会話にならなかった。
アベルは、広々としたベッドに背中を起こして、ずっと見つめてくる青年の方に目を向けた。
王様だ。そして、実のお兄さん。
消えてしまいそうなほど古い記憶にある、優しい顔をした少年。その成長した姿が、彼。なんとなくだった面影が、見事に重なったようだった。第一印象は、本当に綺麗な男の人だと思った。色白の細面に、すっと伸びた眉と、真っ直ぐに通った鼻、薄い唇、まつげの長い優しい瞳がバランスよく収まっている。確かに髪と目の色は同じだったが、自分は、とてもこんなに気品があって整った顔はしていないとアベルは思った。
終わった・・・今、若い王様と自分との間にあるのは、大理石の床だけ。そこにはもう危険も、不安も恐怖もない。
母である王太后エトランダに手を引かれて、アベルは王のそばに立った。
「アベルディン・・・私の弟。」
「王様・・・。」
「兄上と・・・そう呼んでくれないか。」
アベルは素直にうなずいた。
「良かった・・・こんなに大きくなって。」
王アレンディルは安心したように微笑み、そろそろと片手を伸ばして、アベルの頬に触れた。
アベルは緊張して、心臓がドキドキした。また何も言葉が出てこない。
すると、アレンディルが悲しい顔をして言った。
「私が果てたら・・・国を頼まれてくれるか。」
その言葉には、アベルはゆっくりと首を横に振ってみせた。
「必ず治ります。アリシア姫と一緒になって、どうか元気な次期王の誕生を。」
思わず、そう力強い口調で答えることができた。
そのあとアベルは、ここへたどり着くまでの苦労を気遣い、穏やかにたずねてくる兄に、ぽつりぽつりと短い返事を返した。そのうちやっと声が出てくるようになって、旅路の困難以上に、旅の仲間たちのことを話した。どんなに助けられたかを。そして、お供ではなく親友だと。
「では、今こそ彼らを招き入れねば。レイサー殿、リマール殿、そしてラキア嬢をここへ。」
アレンディルは、扉の横にひかえているゼルフィンを見た。
母エトランダも、ベッドのそばに置かれた肘掛け椅子に座って、嬉しそうにうなずいていた。
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