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第1章 暗 躍
6. 密告
しおりを挟むムバラートのもと側近の密告によると、知り得た情報は大きく二つ。一つは、救援を求めてきたイアリクの村人の話は嘘だったということ。そしてもう一つは、南の王国と、ベルニア国が共謀しているということ。
南の王国、つまりバラロワ王国は、ムバラートがほぼ王になることはないと知っても、あきらめてはいなかったのだ。国境警備隊の目を盗んで密かにつながることに成功し、巧妙に動かしていた。思い返せば、この一年、ムバラートは友好的だった。王位継承順位から遠く離れたことによって、誰もが野心を捨てたと思っていた。しかしその実、侵略戦争に勝つために、油断させることが目的だったとは。
それというのも、王位継承順位から遠退いても、バラロワ王国の君主の謀略に協力すれば、ウィンダー王国を征服した時、ウィンダー王国はムバラートに統治させると、かの国王は請け合ったという。そして、いずれは近隣国を次々と攻め落として、諸国家を制する皇帝となるつもりでいる。
そうとは知らずに、王アレンディルは、ラルティス総司令官率いる国境警備隊を送ってしまった。そして、彼らはまだ帰っては来ない。あとから様子を見に行かせた援兵も。
とにかく、この密告によって各地へすぐに急使が送られ、ひとまず、王都にいる権力者や騎士たち、それに近隣市内にいる領主たちによる会議が開かれた。
それには、ラクシア市の領主、ルファイアス騎士も参加した。ルファイアスは、領主たちの中では目立って若い。
会議の間は、王アレンディルがわざわざ場所を選んだ。その時は、エドリック騎士に相談をした。そして決めたのが、城の東にぽつんと建っている人気のない塔の、最上階の一室。塔の出入口には、衛兵が四人つくことになった。そして、招かれた者以外の立ち入りを禁じた。何だかものものしい感じだが、厳重な警戒の中、行われる会議も珍しくはなかった。
もと側近の話を代弁したのは、エドリック騎士だ。
王は、時と場合にもよるが、こういう話し合いの場では出席をあえてひかえ、まずは報告を待つ。王の前ではみな恐縮して、活発な意見の交換ができなくなると考えられてきたからだ。それでは浮かぶもの(名案等)も出てこないままになる。
そうすると当然、話ができるのは彼しかいない。もと側近はまだ動かしてもいい状態ではないし、本人も前に出てくることを望みはしないだろう。
話の途中からもう、会議の間は、抑えきれない様々な感情の声でざわついた。怒り、驚き、不快感、それに危険への恐れもあった。
とうとう、大戦争が始まる・・・。
「今や、バラロワ王国の目論見は暴かれた。イアリクの村人からの、野蛮な輩に襲われているという助けを求める知らせは、嘘だった。そこはすでにバラロワ王国の手に落ちていた。その狙いは、南の番人・・・つまり、ラルティス総司令官率いる警備隊をおびき寄せ、国境の警戒を弱くし、進軍をはかること。同時に、北からはベルニア国に侵略させ、挟み撃ちにして、ウィンダー王国を征服する。」
議長を任された者が、エドリック騎士の話をまとめた。集まった中では高齢で、王都より西の土地を治めている領主である。この場を仕切るにはエドリックは若く、立場上でもふさわしくない。彼はあくまで王の近衛兵にすぎないのだから。
「しかし、かの君主の真の狙いは、全てを手に入れることだ。我らを倒しベルニア国と一つになろうと、最終的には、何もかも自身の思うがままにするだろう。もはやバラロワ王国を警戒するだけでは済まない域にきた。いよいよ我々も動かねばならん。」
ムバラートのもと側近は、かの君主のこの悪巧みに勘で気づき、警告したが聞いてもらえず、ついには追放された。そしてやはり、口封じのために命を狙われたということだった。
「そうだ、迎え撃つ準備をしなければ。」
「しかし、彼(もと側近)の話は漠然としている。何をすべきか、効率のいい対策がとれない。」
「重要なのは、迎撃態勢を整えることだ。今の時点でできることは、北の警戒を強め、同時に王都の兵士を強化する。そして南の国境付近に援軍を送り、バラロワ王国の進軍を防ぐ。」
そんなふうに飛び交う意見を聞いているうち、エドリックは、この会議そのものが何か釈然としなくなってきた。みな、そこへ送られた国境警備隊のことを、もう誰も生きてはいないものと決めつけ、それを前提としている感がある。これでは、王も納得しないだろう。彼らのことは、早急に手をうつと請け合っていたのだから。
そこでエドリックは口を挟みたくなったが、何をどう言えばいいのか上手く言葉がまとまらずに、もどかしいままこの別の話し合いを聞いているしかなかった。
するとそこで、代わりにストップをかけてくれた者がいた。
兄だ。
「待ってください。」
エドリックの兄、今やラクシア市一帯の領主であり、カルヴァン城の城主である長男のルファイアスは、声を張り上げた。ちなみに彼は、先代王ラトゥータスと、現国王アレンディルのもと近衛兵でもある。
「南については、まずは、国境警備隊に何が起こったかを突き止める必要があるのでは。」
「ただの狼藉者だと思っていたところ、思わぬ強敵が待ち構えていたということだろう。」
「単に、そうは思えません。何か・・・常識では考えられないような罠をしかけられたのでは。それは、国境警備隊のみならず、南へ赴いた部隊全てをはめようとするものだとしたら。」
「ならば、偵察部隊を・・・」
「すでに様子を見に行った援兵も戻ってはいない!」
ルファイアスは思わずイラっとして、つい、きつい口調で言った。
場が静まり返った。
マズいことをしたと思い、ルファイアスは穏やかにため息をついてみせた。自分は冷静だ、と示すように。
「もし、そのような罠があるなら、ここは目立たぬように忍び込むのが得策かと。南の方の問題は、ひとまず私にお任せいただけないか。」
「ルファイアス騎士、自ら動くと?」
「ええ。今、戦力はなるべく温存しておいた方がいいでしょう。ですから、まずは私一人で。」
ルファイアスは、弟のエドリックに視線を向けた。エドリックも、何か言葉を交わすように見つめ返した。
ラルティス(兄さん)たちが帰ってこないのは、つまり、思わぬ強敵と戦いになり、全滅させられた・・・そうだろうか。いや、何かあるはずだ。いったい、そこで何が起こったのか。
二人はとにかく、不気味で得体の知れない嫌な予感が、無性にしてならなかった。
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