イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

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第2章  敵の罠

6. アスティンの帰還

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 やがて、広い川沿いの平坦な道に出た三人と一頭のロバ。まだ夕焼けが残っている時間に、国境警備隊の基地が近くにある橋のところまで帰ってこられた。対岸の森には、あかりがポツポツと見えている。村や宿からの灯りだ。彼らは、ラルティス総司令官が部隊を率いて向かった先とは、全く別方向から戻ってきた。

 橋を渡りきって、アディロンの未開の森の対岸にある林道を進んでいくと、間もなく見えてきたのは、南の国境警備隊の基地。そこはいくつものかがり火に照らされて、勇ましく輝き、活気づいていた。夕食の準備をしたり、馬の世話をしている活き活きとした人の動き。木につながれた綺麗な馬たち。アスティンにはなつかしい光景のはずが、まるで別世界の絵のよう。

 一途いちずに、がれるように思い続けた、自分の本来の居場所。それを見ても、アスティンは飛び跳ねて喜ぶ気になれなかった。熱のせいもあるだろう。今はただ、目をうるませて、うっとりと陶酔とうすいしながら眺めることしか・・・。

 訪問者ほうもんしゃに気づいた若い隊員が一人駆けてきて、三人のそばで止まった。
 彼は少女と老人、そして、全てを覆うように外套がいとうに身を包んでいる、ロバに乗った少年(そこそこ背丈があって細い足が見えていたので、そう思った)に、にこやかに挨拶あいさつをして言った。

「どうされました? あ、もしかして、ラキアさん!」と。

 ラキアは以前、一度ここへ来ている。その時一緒にいたのは、アベルとレイサー、そしてリマールだ。ここでは彼女は、王都へ向かう王弟アベルディン殿下のお供、または護衛(?)だった者と認識されている。

「こんばんは。こっちはおじいちゃん。」

 ラキアに紹介されて、コラルも挨拶をした。だが二人とも、アスティンのことは言わなかった。彼らの方がよく知っているからだ。その通り、その若い隊員は、フードの中の顔を見ると、驚きと喜び、だが戸惑とまどいや不安も混じった複雑な気持ちで叫んだ。

「ア、アスティンです! アスティンが戻りました! 誰か隊長たちに報告を! 」

 聞き取った者たちが一斉いっせいに目を向け、たちまち駆け寄ってくる。言われた通りに、離れた場所にいる隊長や副隊長のもとへ走った者もいる。

「アスティン!」 
「おい、何があった!」
「ほかの皆はどうした。」 
「ラルティス総司令官は?」

 こんなふうに次々と興奮してわめき立てているのは、アスティンと変わらない年齢の若い隊員ばかりだ。

「これこれ。」
 コラルがあきれて手を払った。
「病気で傷ついている者を質問攻めにすることはなかろう。」

 殺到さっとうしている若者たちが、さっと動いて道を空けた。
 そして、指揮官と見える風格ある男性が六人、そこを通って前へ出て来た。隊長や副隊長たちだ。彼らはみな冷静を崩さないでいるが、当然、内心では周りの部下たちと同じ思いでいる。そして、素直に喜べないことも。戻ってきたのは、彼だけ。これは嫌な予感を裏付けるものであるし、良い兆候ちょうこうではない。

 実は、ここへ立ち寄ったルファイアス騎士から、彼らは、アスティンが関わったことの真実を聞いていた。それからというもの、誰もが、待つことしか許されない不安の中にいたのである。

 集まった者たちは、そこでみな気づいて注目した。その視線は、ことごとく、アスティンの下半身に向けられている。
 外套の合わせ目から伸びている、彼の生足の、なんとおとろえていること・・・。
 恐る恐る、副隊長のヴルーノはアスティンのフードに手をかけた。そっと後ろへ払いのけると、頬はこけて、無気力な目をした、やや紅潮こうちょうしているその顔があらわに。その時、少し着衣が開いて胸が見えた。ガリガリだ。外套の下は、何も身に着けていないことにも気づいた。ヴルーノは、それから腕をとって袖もまくり上げた。同じように脂肪や筋肉は悲惨にそげ落ち、所々にあざまである。

「お前・・・。」
・・・なんて姿に。そう言いそうになって、ヴルーノは声を飲み込んだ。

 アスティンの方は、そうされてもまだ、何かをしゃべる気にはなれなかった。ロバから降りて、着替えをして、すっかり落ち着いてから、いっきに事情を話したかった。

 それで彼は、今は弱々しく一言だけ口にした。
「ただいま・・・戻りました。」

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