25 / 69
第2章 敵の罠
11. 捕えられたルファイアス
しおりを挟む「まだ生きている。」
「しかし、本当にこの男もそうなのか。たった一人で来るとは。」
「見てみろ。立派な長剣を持っている。この辺りに来た戦士はすべて殺せ・・・が基本だ。」
ルファイアスは、そんなことをそばで話し合っている相手を見て、やはりと思い深いため息をついた。五人いる。ただ不可解なのは、そのうちの三人は見覚えのある軍服を着た兵士だったが、後ろにいる二人のうち、一人は農夫か木こりという恰好。そしてもう一人は、修道服のようなフード付きの長い外套を着ている。
しかし飢えているせいで闘志もかなり衰え、それを意志が支えている状態。あれこれ考えたり、疑問に思う余裕はあっても、戦える力などほとんど残ってはいないだろう。
それでも、ルファイアスは気力を振り絞り、武器を抜いて立ち上がった。兵士の一人の剣が、もう無言のうちに向けられているからである。自分よりも遥かに若い兵士だ。わきにいる中年の男だけは何もしゃべらず、さっきからなぜか顔をしかめながら、異様に見つめてくる。
後ろの農夫か木こりと、修道士のような二人は、何やらぶつぶつ言っている。
「待て。」
と、無言でいた仏頂面の中年男が言った。
「殺すな。」
そして男は振り返り、後ろの二人にこうきいた。
「今、なんて言った。この男を知っているのか。」
「へえ、ルファイアス騎士です。」
農夫か木こりが答えた。
この中では指揮官らしいその男が、顔を覗き込むようにしながら近づいて来た。
「騎士ルファイアス・・・そうか、そういうのか、この男は。やっと確信したぞ。国ではさぞ英雄として扱われているのだろうな。これは思わぬ復讐の機会に恵まれたものだ。」
この男は私を知っている・・・? 復讐・・・そうか、かつての戦争の時代に・・・。
男のその言葉に反応して、思考が活発に働いた。
先代王の近衛兵として、ルファイアスは、陛下の行くところどこでもついていった。時には、外交使節として送られることもあった。そこで話し合いに応じたのは、相手方は王の代理人ばかりだった。その時、この男とも会ったことがあるのだろうかと、ルファイアスは考えた。
そして同時に、謎が全て解けたというわけではないが、頭の中で一つの推理が成り立った。
もう死んだか。まだ生きている。
そんな妙な会話を聞いているうちに。
つまり、彼らはこの森を制している・・・ 迷わずに動ける、ということか? それが単に、この森に慣れていて詳しいだけでできることなら、なるほど、利用することもできよう。それが可能なのは、地元の者・・・イアリクの村人だけだ。軍服を着ていない、後ろの二人がそうだろう。敵は彼らを服従させ、協力させた。
だとすれば、これは、まさに罠。
だが、まだだ。自分も、昔はその村へ苦労せずに行くことができた。時を経て森の様相や道が変わったのだとしても、敵もこの森には不慣れで、同じ目に遭うはず。ここはあくまでウィンダー王国の領土なのだから。なのに、まずどうして村へ行けたのか。危険はなかったのか。
分かるようで分からない・・・そんな複雑な気持ちのまま、ルファイアスは抜き身の剣を少し動かした。
指揮官の目が白刃を見た。いやに涼し気な、冷酷そうな表情を少しも変えることなく。
「お前、戦うつもりか、その体で。空腹で今にも死にそうなんじゃないか。好きに動けないだろう。」
その通りで、体は自分が思う以上に衰弱していた。意思に反して、全く思うように動いてくれそうにない。足腰が情けないほど弱っている。
「ここに、私以外にも多くの兵士が来ただろう。その者たちはどうした。」
「心配するな。全て綺麗に片づけてやった。」
「どういう意味だ。」
「きちんと水葬してやったということだ。指揮官と、使えそうな数名の部下以外は、全てな。」
「まさか・・・!」
ルファイアスは、沼がある方へ視線を振った。
沼はハスの葉やもやもやした水草に覆われ、水中は少し暗く濁っている。だが、よくよく覗き込めば気づいたかもしれない。
あの中できっと、消えた隊員たちが永眠っていることに・・・。
ルファイアスは努めて冷静になり、男に目を向け直した。
「指揮官と・・・。その者たちは、今どこにいる。」
「連れていってやろう。ついてくるか、このままここで死ぬかだ。」
「ならば、ついて行くほかあるまい。」
そのあと、男の指示を聞いて動いた手下に、ルファイアスはおとなしく両腕を縛らせてやった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる