イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

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第5章  戦場へ

7. 村人たちの秘密

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 野営地では、村人たちから心のこもった炊き出しがふるまわれた。対面した時のおかしな様子は気のせいかと思えるようになるほど、その誰もが疲れた兵士たちに親切だった。

 広場の真ん中あたりには、大きな焚き火台があった。村祭りなるものが、ここで行われているのだろう。そこから離れた周りにも、火を起こせる土の場所が点々とある。何か儀式やもよおしがある夜には、きっとここに盛大な炎を燃え上がらせる。その設備が整っているおかげで、カルヴァン城の兵士たちは、手っ取り早くだんを取ることができた。

 イスタリア城の戦いに出陣するため、その部隊を率いてきた指揮官の一人、レイサー隊長は、隊員たちが自然と作るグループの一つ一つを見て回った。そうしながら時々 ねぎらいの言葉をかけ、目視によって部下の健康状態を判断した。そのまなざしは、彼の若い部下ばかりでなく、ほかの部隊、とくに中でも年齢が高かったり、体力面でおとる者たちのことを気にした。

 そしてそのあとは、落ち着かなげに辺りをうろついた。彼の視線は、度々、一軒の民家に向けられている。村長の住まいと聞いていたところだ。何かあれば、遠慮なく来て構わないと言われていた。

 レイサーは、エドラス騎士やほかの隊長たちをうかがった。自然と指揮官の場所になっている焚き火の周りで話をしている。

 レイサーは、その彼らの目を盗むようにして、そっと広場から離れた。

 そのまま民家が集まる方へ行くと、用水路もしっかり通してあり、村は全体的にきちんと整備されている。

 教えてもらったその家はほとんど方丈ほうじょう造りの木造で、近くに井戸があった。

 思いきって、勝手な行動をとりにきたレイサー。しかし、玄関の真ん前でためらった。だが自分の気配を中から感じているかもしれないと思い、そうなら無言で戻るのは不審ふしんなので、次に迷う前に声をかけた。

 間もなく玄関を開けてくれたのは、孫だと思われる女性だった。彼女はレイサーに中へ入るよう愛想よく促して、狭い台所へ戻っていった。

 家に入ってすぐのところで、めんどりが飼われていた。それについ気をとられたレイサーは、玄関をくぐる時、上部のわくに頭をぶつけそうになった。とても小さな家だ。

 レイサーは入室し、玄関ドアに向き直って丁寧に閉めてから、室内の様相を軽く見渡した。
 部屋は一つだけで、ベッドはあるが食卓テーブルが無かった。深くゆったりと腰掛けられそうな安楽椅子あんらくいすが目立っていた。長老は、その椅子に座っていた。トレーにせた食事を、そこで彼女に世話をしてもらって取るのだろうと思われた。

 長老は、そばにある丸椅子を指差して、それに座るようレイサーにすすめた。
 レイサーは、彼のそばにその丸椅子を持ってきて座った。 

「どうされたかの。」
 じつに穏やかな表情と声で、村長は話をきいてきた。

 レイサーは、ここまで歩いて来る時に考えていた、話し出す最初の言葉を口にした。
「道の確認を。ここからイスタリア城へ向かえる道には、あまりくわしくないので。」
「ああ、いいとも。今手にしているそれが地図じゃな。」
 長老は、レイサーがつつ状にして持っているものに視線を落とした。

 しかしレイサーは、内心ではこれを広げるつもりはなかった。
「はい。でも、これには分かりやすい道ばかりで。我々の今の状況では、敵に見つからずに進まなくてはなりません。森には、地図に無い道も多くあるでしょう。できれば、その中から最短の進路を行くことができたら・・・。」
「では、わしらが知る最も良いと思われる道を、行きれている者に案内させよう。」

 ここで礼が一つ返ってくるのが普通だが、目の前にいる若い隊長は無言で、どうも納得なっとくいかないまなざしをしている。

率直そっちょくにおうかがいします。」
 レイサーは、ついに不信感をぶつけた。
「あるんですね・・・特別な近道が。」
「それは通れん道じゃあ。」

 まず否定されると思っていたレイサーは、この意外な返しに思わず言葉を失った。そして考えた。そこは険しい道などではなく、きっとよそ者を入れてはならない聖域。村人たちの様子や、村の名をきいた時にされた話からそんな気がしていたレイサーは、気を取り直すとすぐさまこう言った。
「何としても、戦いに間に合わなければならないんです。防衛戦ぼうえいせんのために! どうか認めて、その道を・・・」
「ならん、無理だ。」
「なぜ。」
「話す必要はない。」

 長老の方では、訳を話したとして、この何か必死な様子でいる若い隊長がその話を受け入れ、分かってくれるとは思えなかった。

 レイサーは、台所にいる女性にちらと視線を向けていた。彼女の驚き、またおびえたような目と一瞬目が合った。そのあと先に視線をらしたのは、彼女の方だった。

 気まずい沈黙が落ちた。

 レイサーはため息をついて、うつむいた。
「怒らせてしまったのなら、謝ります。しつこく聞いてしまい、申し訳ない。」
「いや、そうではない。そこは・・・」

 災いをもたらす、禁断の場所・・・。

「わしこそ、すまん・・・。」

 レイサーはまた、長く尾を引くため息をついて立ち上がった。
「明日、案内をよろしくお願いします。ご親切に心より感謝します。」

 彼は丁寧に一つ頭を下げて、出ていった。

 その背中を見送った長老の胸は、罪悪感にも似た気持ちと、気の毒な思いでいっぱいになってしまった。


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