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 付き添いのドレスは、デビュタントの衣裳より色味も飾りも控えめにするものだ。意見を求められたコルネリアは、王宮でのマナーに反さないような提案をして、その場を辞した。
 仮縫いには呼ばれなかったが、仕立て屋にはコルネリアの寸法はすでに知られている。少しは痩せてしまっているかもしれないが、許容範囲だろう。

 楽観的に過ごしているコルネリアの周りで、うわさを聞きつけた女中仲間たちは、暇を見つけてはせっせと「大切なお嬢さま」を磨き上げようとしてくれた。肌に良いという化粧水を分けてくれたり、ディアナの使い残しの香油を集めては髪の手入れをし、髪の結いかたを研究したりと余念がない。
 コルネリアは見た目に頓着しないほうだったが、女中たちの楽しみを邪魔するのも悪いかと、されるがままにしていた。

 迎えた建国記念日当日、準備のためにとディアナの居室に呼ばれて向かうと、そこにはさすがのコルネリアも目を剥く事態が待ち受けていた。デビュタント用の純白のドレスを纏ったディアナが、化粧の真っ最中だったのだ。

 ディアナはすでに18歳になっている。彼女が16歳のころは、叔父が爵位を得ておらず、貴族の身分ではなかったため、王宮でのデビューはしていない。しかし、たとえ16歳のときにデビューしていなくても、今夜の宴で純白を纏う資格はないはずだ。新たに貴族となる以上、どこかのお茶会か夜会で顔見せをすることにはなっても、それはいわゆるデビューではない。

 あまりのことにことばを失っているコルネリアに、付き添いのドレスを着せるよう、ディアナの侍女が女中たちに命じる。女中たちは反発する気配を見せたが、コルネリアは首を横に振り、彼女たちを制した。おとなしく付き添いの地味な濃緑のドレスに袖を通し、髪を結い上げてもらう。

 鏡ごしにかいま見るディアナは、ため息が出るほどうつくしかった。白い肌は触れずともわかるほどしっとりとしていて、ストロベリーブロンドの髪は手を伸ばしたくなる艶を放っている。同色の長いまつ毛でくっきりと縁取られた目元には、見る者を絡めとるような力がある。眉とくちびるには自信が満ちあふれている。

 コルネリアはディアナが無言で差し出す腕に、侍女のかわりにデビュタントの証とも言える白い長手袋をはめてやり、諦めて彼女に付き従った。馬車のなかでも、ディアナは浮かれて話し続けていたが、大半は聞き流して、慎ましく微笑むに留めた。ここで怒り狂っては、相手と同じに成り下がってしまう。それを堪えるだけの矜持は、コルネリアにもあった。
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