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 王宮の宴会場にたどり着くと、ひとびとの視線は自然とディアナに集まった。それだけで彼女はご機嫌になり、友人を作ろうというのか、デビュタントの群れに突進していった。

 ──うまくいけばいいけど。

 父親こそ貴族の生まれだが、基本的にディアナは貴族の令嬢として育ってきたワケではない。マナーにも至らない点があるだろう。もし、友人ができなかったら、帰りの馬車で散々に八つ当たりされるかもしれないと思うと、いまから気が重くなる。

 コルネリアがそっとその場を離れても、気にするひとはいない。招待客の一覧に目を通すのは、主催者側ばかり。招かれた側はみな、装いで他人を判断する。本来ならば、この場で社交界にデビューしていただろうコルネリアには、顔見知りと言える相手がいない。でも、白いドレスではないというだけで、はたからは、社交界に数年身を置いているくせに公の場で挨拶をする友人すらない陰気な女性に見えるに違いない。

 そんな嫌な勘繰りをされそうな場所からは、さっさと退散するに限る。コルネリアは意気揚々と庭園に足を向けた。せっかく王宮に来たのだから、せめて観光して帰りたい。

 夜会の最中は、警備の都合上、庭にも灯火があり、暗がりはない。そぞろ歩くには不自由しないが、昼さなかのように庭の景観を楽しめるほどの明るさはない。それでも、今夜を逃せば一生、王宮の庭には縁がないはずだ。デビューを兼ねる建国記念日を除けば、王宮の夜会に招かれるのは、伯爵位以上の高位貴族ばかりだ。前男爵の令嬢など、お呼びではない。

 濃緑のドレスの裾は、短く刈り込まれた芝に溶けこむ。大理石の床のうえでは高く響く靴音も、庭園に降りたとたんに会場から漏れ聞こえる音曲に紛れた。まるで、自分が空気になったような感覚で、コルネリアは足を進める。

 まばらな木立を縫うように設けられた散歩道をたどっていくと、やがて、水音が聞こえはじめる。胸が高鳴った。木立を抜けた先、腰高の低木の生垣に囲まれて、求めるものは見つかった。

 馬車が数台すっぽり入りそうなほど大きな円形の水盤がある。ふちは腰掛けるのにちょうど良い高さで、側面に彫刻が施されている。中央には見上げるほどの背の高い女神像があった。彼女が片腕を伸ばして傾ける盃からは、途切れることなく滔々とうとうと水が流れ落ち、水盤を満たしている。

 ──これが、噴水。

 庭園の淡い灯火に、水はうつくしく煌めいていた。年月を経た銅製の女神像は少し酸化して緑青をまとっているし、水盤のレリーフも雨で風化している。それでも、本で読んだとおりの光景に出会ったコルネリアは、ほう……と感嘆の吐息を漏らして、その場に立ち尽くした。
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