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コルネリアたちが応接間に到着し、扉を閉めるなり、グイドはフェリクスに食ってかかった。
「あんた、バカですか! 初夜の前に説明したじゃないですか、ホントに目ん玉ついてます?」
「ついてるさ。証明書類にどれも別人の名前が書いてあった件だろう? それがなんだって言うんだ」
「だから! 前提がそもそも違うんだよ!」
グイドは敬語も忘れてフェリクスを怒鳴りつけると、書類を取ってくるから待ってろと言い残して足早に出ていく。それを見送って、フェリクスはコルネリアに椅子を勧め、自らも隣に腰を下ろした。
「驚いたろう。グイドは幼なじみなものだから、外部の目がないときは、いつもあんな感じなんだ」
フェリクスの母と仲の良い技術者の妻があり、グイドはその子どもなのだと言う。彼の両親は敷地内に住んでいて、妹たちがいてと、話を聞いている間に、当の本人が戻った。
「陛下からいただいた建国記念日の招待客名簿の写しがコレ」
グイドは長机に手際よく書類を並べていく。招待客名簿には、コルネリアとディアナの名がある。
「男爵家のご令嬢がデビュタント以外に王宮の夜会に呼ばれることはない。貴族録の記載から、自分が会ったのはディアナ嬢だろうと推測した。そこまではいいでしょう。で? 本人がお持ちの婚姻証明書と身元保証書にはコルネリア嬢の名前がある。俺が止めるのも聞かずに初夜の寝室に乗り込んでって、朝まで出てこないから、てっきりちゃんとうまくいったんだと思ってましたよ、ええ! ──念のため聞くけど旦那様。あんた、奥様ご本人から、なんて名乗られました?」
長机に両手をつき、顔を近づけながら、グイドはフェリクスに鋭い視線を向ける。コルネリアは仲裁すべきかとハラハラしたが、フェリクスのほうは急に真面目な顔つきになり、戸惑ったようすでこちらを見遣った。それから、執事に向き直る。
「……コルネリアと聞いた」
「それならどうして、そのとおりお呼びしないんですか。ご本人の申告ですよ?」
強い口調でなじられているフェリクスが見ていられなくて、コルネリアはさえぎるように手を伸ばした。
「待って。フェリクスさまは、わたくしの名など、ご存じでいらっしゃいます。ディアナに求婚してらしたのに、わたくしが参ったのが悪いのです。代わりくらい、務められます。二年経てば、お約束どおり出ていきますし、離縁もいたしますから」
「──えっ」
フェリクスが目を見張って、勢いよく振り返る。呆れたようすでグイドは額に手を当て、天井をあおいだ。
「あんた、仕事はできるくせに恋愛に関してはとことんポンコツだよな。陛下が見兼ねて手助けしてくださる時点で自覚しろよ!」
まったく情けない! と言わんばかりの声音だった。顔をこわばらせて凍りついているフェリクスの襟首を掴んで引き立たせると、グイドは応接間の扉のほうへと主人を押しやった。
「いまから、奥様にきちんと説明してさしあげろ。平伏して許しを乞うてこい!」
再度怒鳴りつけると、グイドは書類をまとめて憤然と出ていく。フェリクスは立ちすくんでいたが、やがて、長椅子に腰をおろしたままのコルネリアのほうを向き、手を差し伸べた。
「あんた、バカですか! 初夜の前に説明したじゃないですか、ホントに目ん玉ついてます?」
「ついてるさ。証明書類にどれも別人の名前が書いてあった件だろう? それがなんだって言うんだ」
「だから! 前提がそもそも違うんだよ!」
グイドは敬語も忘れてフェリクスを怒鳴りつけると、書類を取ってくるから待ってろと言い残して足早に出ていく。それを見送って、フェリクスはコルネリアに椅子を勧め、自らも隣に腰を下ろした。
「驚いたろう。グイドは幼なじみなものだから、外部の目がないときは、いつもあんな感じなんだ」
フェリクスの母と仲の良い技術者の妻があり、グイドはその子どもなのだと言う。彼の両親は敷地内に住んでいて、妹たちがいてと、話を聞いている間に、当の本人が戻った。
「陛下からいただいた建国記念日の招待客名簿の写しがコレ」
グイドは長机に手際よく書類を並べていく。招待客名簿には、コルネリアとディアナの名がある。
「男爵家のご令嬢がデビュタント以外に王宮の夜会に呼ばれることはない。貴族録の記載から、自分が会ったのはディアナ嬢だろうと推測した。そこまではいいでしょう。で? 本人がお持ちの婚姻証明書と身元保証書にはコルネリア嬢の名前がある。俺が止めるのも聞かずに初夜の寝室に乗り込んでって、朝まで出てこないから、てっきりちゃんとうまくいったんだと思ってましたよ、ええ! ──念のため聞くけど旦那様。あんた、奥様ご本人から、なんて名乗られました?」
長机に両手をつき、顔を近づけながら、グイドはフェリクスに鋭い視線を向ける。コルネリアは仲裁すべきかとハラハラしたが、フェリクスのほうは急に真面目な顔つきになり、戸惑ったようすでこちらを見遣った。それから、執事に向き直る。
「……コルネリアと聞いた」
「それならどうして、そのとおりお呼びしないんですか。ご本人の申告ですよ?」
強い口調でなじられているフェリクスが見ていられなくて、コルネリアはさえぎるように手を伸ばした。
「待って。フェリクスさまは、わたくしの名など、ご存じでいらっしゃいます。ディアナに求婚してらしたのに、わたくしが参ったのが悪いのです。代わりくらい、務められます。二年経てば、お約束どおり出ていきますし、離縁もいたしますから」
「──えっ」
フェリクスが目を見張って、勢いよく振り返る。呆れたようすでグイドは額に手を当て、天井をあおいだ。
「あんた、仕事はできるくせに恋愛に関してはとことんポンコツだよな。陛下が見兼ねて手助けしてくださる時点で自覚しろよ!」
まったく情けない! と言わんばかりの声音だった。顔をこわばらせて凍りついているフェリクスの襟首を掴んで引き立たせると、グイドは応接間の扉のほうへと主人を押しやった。
「いまから、奥様にきちんと説明してさしあげろ。平伏して許しを乞うてこい!」
再度怒鳴りつけると、グイドは書類をまとめて憤然と出ていく。フェリクスは立ちすくんでいたが、やがて、長椅子に腰をおろしたままのコルネリアのほうを向き、手を差し伸べた。
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