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わたしのつなぎたい手
【第44話:暴風の中でいろいろ】
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夜半にかぜが強くなり、翌日は強風だった。
カーニャの馬車には防御術式も複合材に組み込まれており、生半可な攻撃ではびくともしない。
オートジャイロも内蔵で自動姿勢制御もかなりのもの。
本来は夜番など要らないのだが、空からの攻撃には若干弱いところがあり、不寝番を立てていた。
夜半の強風は凄まじく、夜番をあきらめ3人共馬車に入った。
朝を迎えても収まらない風が馬車を揺らしていた。
「すごいかぜです」
横の窓に顔を押し付け周りを確認するアミュア。
よく見えないのか変顔になるのも構わず押し付けてみている。
その背中をほほえましく見ながらカーニャ。
「このまま中からも操縦できるけど、知らない道にそれで進むのはこわいわね」
「一旦偵察行ってくるよ。あたし一人ならこれくらい大丈夫」
ユアが自信を見せながら提案した。
「進行に邪魔になるものがあった、くらいならいいけど。谷側に道が崩れてるとかあったら致命的」
カーニャも偵察に賛成のようだ。
「じゃあそこの窓から見える位置で偵察して、後ろからついてくる?」
前側の窓を指さすユア。
「それしかないかな。天候回復を待つのも有りだけど、進んでいけば風が変わる可能性もある」
山道は山頂を控え、何度も折り返している。
見通しが悪いのと、風当りも曲がる度に変わる可能性もある。
ユアがドアに手を添えいう。
「一旦ある程度先まで見てくるから、戻ってからもう一度話し合おう」
「それが正解かもね、おねがいユア気を付けてね」
「いってらっしゃい、無理しないでね」
ちょっと心配そうなカーニャと、振り返ったアミュアに見送られユアは外に出た。
ドアが持っていかれそうな風に逆らい、なんとか外に出るユア。
「ふぉぉ、すごいです風」
アミュアが飛ばされそうになり、下がりつつぺたりと床に座った。
「この風じゃ銀嶺の古竜のうわさも現実味あるわね」
カーニャの言ううわさが気になるアミュア。
「ぎんれいのこりゅう?」
にこっとアミュアを見て話し出すカーニャ。
「こっちに来る前に色々調べたのよ、ミルディス公国までのルートをね」
すっと風で乱れた髪をなおしつつ続けるカーニャ。
「なんでも雪月山脈には伝説がいくつもあってね、中でも有名なのが古竜の話だった」
しばらく説明したカーニャの話が終わるころユアが戻る。
コンコン
聞こえないかもと思ったか、強めのノックと声が聞こえた。
「開けるよー大丈夫?」
ゴ―っとうなる風を押しのけドアが開き、わずかな隙間をするっと入ってくるユア。
「だめだめだったよ!うはあ危なかった」
もどるなり報告のユア。
「そんなひどい状況だった?道に問題あるの?」
床にあぐらをかくユアの乱れまくった髪を、ブラシで整えてあげながら背中から訊ねるカーニャ。
「ありがと、いや道はわからなかった。そこの角曲がると風が凄くてね、一段下まで飛ばされちゃったよ」
ふんふんと前で聞いてるアミュアを見ながら続けるユア。
「油断したらもうあっという間に空飛んでた!ちょっと楽しかった!アミュアも行ってみる?」
「むりです、きかんコンナンです」
ふるふる首を振るアミュアにユアもカーニャも自然に微笑んでしまった。
昼前に風が一度弱くなり、偵察しながらしばらく進んだ。
午後早くにまた風が強まり閉じ込められる3人。
そんな事を繰り返しながら、その日はあまり進めなかった。
夕方にはすっかりあきらめて、野営についたのだった。
「外にでれないと火が使えないから、ご飯は保存食そのままになるね」
ちょっと残念そうなカーニャに首をふるユア。
「カーニャの持ってきてくれた保存食そのままでもおいしいよ!」
「とてもおいしいです、一つでおなかいっぱいになるし」
馬車の収納には十分な保存食があり、飲料水は生活魔法でまかなえた。
この馬車なら贅沢をしなければ、3人で半月は旅行ができるほど積んでいた。
満足そうな顔のカーニャが答える。
「それは良かった。…どうせ今日はもう進めなそうだし、昨日からの新しい情報を整理しましょう」
うなづく二人の口に同じ保存食のバーがくわえられている。
それをみて、本当に仲良しだなと思うカーニャであった。
「まずは昨日の人型スヴァイレクね。あれはやばかった。悔しいけど戦ったら負ける気もした」
しんみりうなずくユア。
「そうだね、あたしも力押しじゃ勝てない気がした。全力で飛んだのに、少し離された」
ユアの全力は尋常でない速力だ、カーニャでも先読み無しには見失うほどだ。
「それに最初にかんじたけはい、いままでで一番こわかった」
とは思い出したのか、顔色が悪くなるアミュア。
車内が狭いのもあって、並んでくっついているユアが頭をなでる。
一度にこっとしながらも、真剣な顔にもどしてカーニャ。
「そしてアイギスさんの情報。ダウスレムとは派閥の名前か、長の名前か…」
少し考えてつづけるカーニャ。
二人も真剣に聞いている。
「ダウスレムとは西部の方で聞かれる魔人、死者達の王と言われる伝説にある名だわ」
前調べのしっかりしているカーニャは知識も深い。
「こわ」
とはアミュアをひょいと胡坐の上にのせ抱っこに移ったユア。
スタックして少し広くなった車内に足を延ばすカーニャ。
「いずれ、山の向こうでその城を探すことになるね」
ちょっと伸びをしながらカーニャが締めくくる。
「これ、工夫しないと3人寝るのちょっと大変かも?」
車内の荷物をあちこち押したり、調整しながらユア。
ぐりぐりカーニャの足の間に入っていく。
「ちょ、ちょっとやめてよ」
カーニャの文句を無視してぴたりと収まる。
3人で同じ向きに座っている。
カーニャの足の間にユア、ユアの足の間にアミュアだ。
「これ結構広くない?」
とはユア。
「すやすや」
おさまりが良かったのかアミュアはすでにねむかけだ。
「しょ、しょうがないわね。あんまり動かないでねユア」
ぽよんとカーニャの胸に頭をあずけるユア。
「ちょっと!」
「いや、これは凄いわ。弾力抜群」
きゃいきゃいうるさい二人に、ちょっと迷惑そうなアミュアが振り向いて目をこすっていた。
結局前にはあまり進んでないが、3人の距離は間違いなく縮まっていくのだった。
旅を通じて。
カーニャの馬車には防御術式も複合材に組み込まれており、生半可な攻撃ではびくともしない。
オートジャイロも内蔵で自動姿勢制御もかなりのもの。
本来は夜番など要らないのだが、空からの攻撃には若干弱いところがあり、不寝番を立てていた。
夜半の強風は凄まじく、夜番をあきらめ3人共馬車に入った。
朝を迎えても収まらない風が馬車を揺らしていた。
「すごいかぜです」
横の窓に顔を押し付け周りを確認するアミュア。
よく見えないのか変顔になるのも構わず押し付けてみている。
その背中をほほえましく見ながらカーニャ。
「このまま中からも操縦できるけど、知らない道にそれで進むのはこわいわね」
「一旦偵察行ってくるよ。あたし一人ならこれくらい大丈夫」
ユアが自信を見せながら提案した。
「進行に邪魔になるものがあった、くらいならいいけど。谷側に道が崩れてるとかあったら致命的」
カーニャも偵察に賛成のようだ。
「じゃあそこの窓から見える位置で偵察して、後ろからついてくる?」
前側の窓を指さすユア。
「それしかないかな。天候回復を待つのも有りだけど、進んでいけば風が変わる可能性もある」
山道は山頂を控え、何度も折り返している。
見通しが悪いのと、風当りも曲がる度に変わる可能性もある。
ユアがドアに手を添えいう。
「一旦ある程度先まで見てくるから、戻ってからもう一度話し合おう」
「それが正解かもね、おねがいユア気を付けてね」
「いってらっしゃい、無理しないでね」
ちょっと心配そうなカーニャと、振り返ったアミュアに見送られユアは外に出た。
ドアが持っていかれそうな風に逆らい、なんとか外に出るユア。
「ふぉぉ、すごいです風」
アミュアが飛ばされそうになり、下がりつつぺたりと床に座った。
「この風じゃ銀嶺の古竜のうわさも現実味あるわね」
カーニャの言ううわさが気になるアミュア。
「ぎんれいのこりゅう?」
にこっとアミュアを見て話し出すカーニャ。
「こっちに来る前に色々調べたのよ、ミルディス公国までのルートをね」
すっと風で乱れた髪をなおしつつ続けるカーニャ。
「なんでも雪月山脈には伝説がいくつもあってね、中でも有名なのが古竜の話だった」
しばらく説明したカーニャの話が終わるころユアが戻る。
コンコン
聞こえないかもと思ったか、強めのノックと声が聞こえた。
「開けるよー大丈夫?」
ゴ―っとうなる風を押しのけドアが開き、わずかな隙間をするっと入ってくるユア。
「だめだめだったよ!うはあ危なかった」
もどるなり報告のユア。
「そんなひどい状況だった?道に問題あるの?」
床にあぐらをかくユアの乱れまくった髪を、ブラシで整えてあげながら背中から訊ねるカーニャ。
「ありがと、いや道はわからなかった。そこの角曲がると風が凄くてね、一段下まで飛ばされちゃったよ」
ふんふんと前で聞いてるアミュアを見ながら続けるユア。
「油断したらもうあっという間に空飛んでた!ちょっと楽しかった!アミュアも行ってみる?」
「むりです、きかんコンナンです」
ふるふる首を振るアミュアにユアもカーニャも自然に微笑んでしまった。
昼前に風が一度弱くなり、偵察しながらしばらく進んだ。
午後早くにまた風が強まり閉じ込められる3人。
そんな事を繰り返しながら、その日はあまり進めなかった。
夕方にはすっかりあきらめて、野営についたのだった。
「外にでれないと火が使えないから、ご飯は保存食そのままになるね」
ちょっと残念そうなカーニャに首をふるユア。
「カーニャの持ってきてくれた保存食そのままでもおいしいよ!」
「とてもおいしいです、一つでおなかいっぱいになるし」
馬車の収納には十分な保存食があり、飲料水は生活魔法でまかなえた。
この馬車なら贅沢をしなければ、3人で半月は旅行ができるほど積んでいた。
満足そうな顔のカーニャが答える。
「それは良かった。…どうせ今日はもう進めなそうだし、昨日からの新しい情報を整理しましょう」
うなづく二人の口に同じ保存食のバーがくわえられている。
それをみて、本当に仲良しだなと思うカーニャであった。
「まずは昨日の人型スヴァイレクね。あれはやばかった。悔しいけど戦ったら負ける気もした」
しんみりうなずくユア。
「そうだね、あたしも力押しじゃ勝てない気がした。全力で飛んだのに、少し離された」
ユアの全力は尋常でない速力だ、カーニャでも先読み無しには見失うほどだ。
「それに最初にかんじたけはい、いままでで一番こわかった」
とは思い出したのか、顔色が悪くなるアミュア。
車内が狭いのもあって、並んでくっついているユアが頭をなでる。
一度にこっとしながらも、真剣な顔にもどしてカーニャ。
「そしてアイギスさんの情報。ダウスレムとは派閥の名前か、長の名前か…」
少し考えてつづけるカーニャ。
二人も真剣に聞いている。
「ダウスレムとは西部の方で聞かれる魔人、死者達の王と言われる伝説にある名だわ」
前調べのしっかりしているカーニャは知識も深い。
「こわ」
とはアミュアをひょいと胡坐の上にのせ抱っこに移ったユア。
スタックして少し広くなった車内に足を延ばすカーニャ。
「いずれ、山の向こうでその城を探すことになるね」
ちょっと伸びをしながらカーニャが締めくくる。
「これ、工夫しないと3人寝るのちょっと大変かも?」
車内の荷物をあちこち押したり、調整しながらユア。
ぐりぐりカーニャの足の間に入っていく。
「ちょ、ちょっとやめてよ」
カーニャの文句を無視してぴたりと収まる。
3人で同じ向きに座っている。
カーニャの足の間にユア、ユアの足の間にアミュアだ。
「これ結構広くない?」
とはユア。
「すやすや」
おさまりが良かったのかアミュアはすでにねむかけだ。
「しょ、しょうがないわね。あんまり動かないでねユア」
ぽよんとカーニャの胸に頭をあずけるユア。
「ちょっと!」
「いや、これは凄いわ。弾力抜群」
きゃいきゃいうるさい二人に、ちょっと迷惑そうなアミュアが振り向いて目をこすっていた。
結局前にはあまり進んでないが、3人の距離は間違いなく縮まっていくのだった。
旅を通じて。
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