わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【第53話:ヴァルディア家にて】

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 夜霧はちょっと張り切っていた。
小柄とはいえ女の子を3人も乗せているからだ。
かつてアミュアが小さかった頃は気を使い早く走れなかったし、とても軽かったので頑張らずとも進めたのだ。
それなりにずっしり重く、また少々本気をだしてもユアが落ちないよう見ててくれると学んでいた。
まさに風のように駆け抜けた夜霧であった。
「ふわわわわわ」「はわわわわわ」
前席に乗せて、落ちないように縛ったラウマと、腕の間にいるアミュアが口をあけ風圧でわわわとなっていた。
いまだかつてない速度であった。
「あははっ!」
ユアもとても楽しそうで、夜霧も走りがいがあった。
 祠で再会したユアとラウマは手をつないで、ぴょんぴょんするくらい息ぴったりで喜んだ。
ラウマが下着をつけていないことに気づいたユアが、夜霧を呼び出してサイドバックから予備の服を一式出してくれたのだった。
そうして今はアミュアは元の夏服で、ラウマはユアっぽいひまわりセットの上下とちゃんとユアから借りて下着もつけた。
アミュアとユア、それにラウマも図ったように各部のサイズが同じで、着回しがスムーズにできる。
夜霧走行風圧対策として、髪の長い二人は三つ編みにして先っぽは暴れないよう服にしまってある。
夜霧最速(ユア体感比)で移動する3人であった。
 ラウマ像の祠をでた後は、まずルメリナでアミュアが見つかったと報告。
アミュア捜索の依頼を取り下げてもらい、手数料などの経費はユアが払うと申し出た。
そこに現れたマルタスが、「見つかった祝いだ」といって経費を払ってくれるのだった。
 ここで王都のカーニャ宛に、移動の休憩時にアミュアが書き上げてあった短い詫びの手紙を出す。
ルメリアに寄り道しながらも夕方にはスリックデンについたのであった。
夜霧はスリックデンで騎獣登録してあり、その首輪には登録番号の入ったタグが揺れている。
スリックデンには馬や牛以外のモンスターも多く働いていて、同様のタグをつける個体も少なくない。
なので、荷物が多いときはそのまま街中を連れて歩くこともある。
今回は足腰立たなくなったラウマ様が一番の大荷物であった。
到着したのが午後遅かったので、ひとまずカーニャの実家ヴァルディア家へ直行するのだった。

 ばぁーんと正面の両開きの扉が両方開き、ミーナが飛び出してアミュアに突撃してくる。
こうなるなと覚悟していたアミュアは正面で受け止める準備をしながら待っていたのだ。
毎度門番の人が知らせに行く度にこれやってる気がする、とアミュアは思ってしまうのだった。
「アミュア!」
「ごめんねミーナいっぱい心配かけました。大事な時期だったのに」
「平気!ユアさんが一度来て教えてくれたから。きっと帰ると信じてた!」
ミーナはアミュアが小さかった頃からの親友だ。
アミュアだってこうして会うのは楽しみなのだが、ミーナに申し訳ない気持ちのほうが大きいのだ。

 やっと回復したラウマ様は、ヴァルディア家入口でちゃんと降りて自分で歩いていた。
なので残りのユアの荷物だけおろし、門の所で夜霧は帰していた。
夜霧用サイドバックはユアが改良を重ね、二つ折りにして背負える用になっていた。
もちろんひまわりマーク付きになっている。
そうして玄関まで迎えに出てくれたカーニャの両親ともご挨拶するのであった。
「ご心配おかけしました」
「お世話になりました。お陰で連れ帰れました!」
ペコリとお辞儀するアミュアと、エリセラの手を両手でにぎるユアであった。
両親ともににこやかに二人を迎えてくれた。
 そしてちゃんと礼儀に基づけるアミュアがラウマを紹介するのだった。
移動中に相談して、ラウマはアミュアの親戚ということになった。
ハンターになる修行中という事にして、連れて歩く不自然にも説明をつけたのだった。
「アミュアちゃんに本当に似ているわね」
「ほんとう!とても綺麗です」
にこにこのエリセラとミーナに両側から腕組で連行されるラウマ。
ラウマと言う名前も女神様にあやかってと、女子にはそんなに珍しい名前ではないので受け入れられた。
本人だとは気づくまい。
カーニャの父レオニスにもしっかりお礼を言えたユアも成長が見えた。

 快く迎えてくれたヴァルディア家に今夜は泊めてもらうことになった。
実は明日の朝ミーナが王都へ旅立つのだ、今夜は送別の宴を予定していたので、むしろ歓迎されたのであった。
食事もとても豪華で、最近野宿ばかりだったユアはたくさん食べてしまうのであった。
ミーナは昔に戻ったようにアミュアにベッタリで、アミュア成分をたっぷり補給する作戦のようだ。
お風呂だろうと食事だろうとそばを離れないのだった。
両親もほほえましくそのミーナを見て、アミュアへの信頼を厚くしたのだった。
一方ラウマはこういったやり取りが初めてで、とまどうことばかりであった。
お風呂はユアが一緒に入り、いろいろ指導したのであった。
女の子魔法の説明は、アミュアに教えを受けたと答えられた。
「ユアって呼んでくださいね!あたしも周りの人が不審に思わないようにラウマってよんでもいいですか?」
にっこり笑顔になってラウマは答える。
「もちろんです!ぜひ丁寧語もいらないのでアミュアと同じく扱ってください」
とてもうれしそうなラウマ様であった。
ユアはカーニャの両親やマルタスにすら敬意をあまり示さない。
「うん。仲良くしようね!ラウマ」
ラウマにだけそれをするのは不自然だったのだ。
「とてもうれしく思います、わたくしもユアって呼びますね」
にこにこでユアの背中を洗うラウマ様。
女神に背中を洗わせるユアに真なる信心はあるのであろうか。
もちろんラウマ様の背中も交代ですでに洗ったのだが、ユアをして誤爆技を発動せしめられない神威は残っていたのだった。
ちょっとだけしたい気持ちはあった。
そうして仲良くなったラウマ様はミーナを手本にしたのか、ユアにべったりであった。
それを見てちょっと複雑な気分を味わうアミュアであった。





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