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わたしがわたしになるまで
【第55話:ノアとカルヴィリス】
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ノアが着替えを全くもっていなかったので、近隣の村を訪ねた二人。
道中で二人は互いのことを話したが、ノアは能力の事は話さず、カルヴィリスも暗殺者としての自分を隠した。
森のはずれから遠くない場所に、小さな名も無き村落があった。
付近の森に生活の糧を求めて生まれた村であろう。
住人の大半は木こりと狩猟を生業とするハンターだ。
一部最低限の生活を支える商店や、鍛冶屋などがある。
これから発展を望むものか、全体に明るい雰囲気ではあった。
村に1件しかない商店はよろず屋で、古着も扱っていた。
綺麗な仕立てのものはないのだが、ノアが下着すら持っていないのでカルヴィリスが金を出しある程度揃えた。
「すこし先まで行けば今度は大きな街もあるから、そこまでこれで我慢しましょう」
とは心配そうにノアをみるカルヴィリス。
「べつに替えなくても平気だよ?」
「ダメ毎日替えること」
厳しく言うカルヴィリスに、どこかメイド達のような雰囲気を感じノアはまたニコリとするのであった。
カルヴィリスもその行動や実力に隠れがちだが、とても思いやりを持っているので、ノアの危うさが放っておけないのだった。
「値段は負けられないけど、よかったらもう遅いし今夜は村に泊まっていくといいよ。うちは宿も兼任している」
とは商売上手な商店の主だ。
年齢なりのまろやかな体躯と容姿が狡猾さをうまく紛らせるのだった。
「じゃあそれでお願いするわ、食事もあるのかしら?」
「もちろん準備できるよ、部屋で食べてもらうようになるがね」
こうして一夜の宿を取るカルヴィリスとノアであった。
夜半に目を覚ますカルヴィリス。
別の建物から物音が聞こえたのだ。
暗殺者として訓練を受けているカルヴィリスの五感は鋭い。
常人の何倍も遠くから、物音を聞き分け反応するのも訓練による成果だった。
すぐ横ではノアが寝ている。
寝る段になり、ノアがさみしいから眠れないと言い出したのだ。
いつもメイドが手を繋いだり、頭を撫でてくれたのだと。
なんて甘やかされて来たのかと驚いた。
しかし眠りについたノアのうなされ方で、過酷な過去を持つ反動なのか?とも思ったのだった。
今は静かに寝息を立てており、そっとして置いてあげたいなとカルヴィリスは思った。
物音はなにか争うような音だが、別の建物だしここには影響ないだろうとの判断もあった。
このような冷静な判断力も優れた刺客の条件であった。
そうしてそっと自分のベッドに行こうと動いた瞬間にノアがパチリと目を覚ます。
目があったので移動をやめたカルヴィリスにノアが話しかけた。
「なにかイヤな気配がする」
そう行ってぱっと上体を起こすノア。
(なかなか敏感な反応。聞こえたのか?物音が)
カルヴィリスは気づいてはいたが、普通には聞き取れないレベルの音だ。
「あっちの方からだ。見てくる」
そういってベッドから降りたノアは正確に音のした方向を把握している。
「危ないからよした方がいいわ」
とはカルヴィリスの言。
危ないではなく面倒が本音だ。
身のこなしを見れば、ノアがそれなりのレベルで戦えるだろうことは見て取れた。
この気配程度の敵なら遅れは取るまい。
カルヴィリスからみればそれなりのレベルだ。
レヴァントゥスにも劣るだろうと評価している。
レヴァントゥスの本領が魔法使いであることもカルヴィリスは知っているのだが。
何故か評価は低めであった。
「どうしてか解らないけど‥‥あの気配をほっとくのはイヤだ」
そう行って、止めるまもなく部屋をでるノア。
「もう‥靴くらい履いていくものよ」
そう呟きノアの靴を取り、後を追うカルヴィリスだった。
ノアが思った通りそこには影獣がいた。
3匹の獣が隣家を襲い、住人を貪っていた。
すでに二人が犠牲となり息はなかった。
影獣をみるノアの目は鋭い。
先日のメイド達の葬儀がよぎったのだ。
ノアは黙って左手を向ける。
それだけで消せると確信があった。
ノアの左手に紫色の光が満ちていくと、反比例するように影獣の黒い炎がしぼんでいった。
あっと言う間に3匹を消したノアは、さらに家の中にある物音を見に行った。
不思議なことに影獣を吸収してもノアの体はもう変化しなかった。
神ラウマにより定義されたからだ。
このように作られたのだと。
この姿がノアだと。
記憶を取り戻したアミュアが元の大きさになったのに似た理だ。
家の中では隠れている子どもを2匹の影獣が引きずり出そうと暴れていた。
ノアは外でしたのと同じように左手を突きつけた。
獣の一体は消したが、もう一体は素早く動きノアを襲った。
ノアの身体能力は高く、右手に生んだ影の爪で獣を打ち払った。
ノーラ達メイドに仕込まれた体術も少し仕事をしたようだ。
そうして負傷し動きが鈍った影獣を左手で吸収して消すと、隠れて居た子どもに向かった。
「大丈夫?もう獣はたおしたから平気だよ?」
そういって小さな入口をもつタンスのような家具に隠れていた子どもに話しかける。
「ほんとう?もう怖いのはいない?」
「わたしがたおしたから、もういないよ」
そういってノアは右手を差し出す。
子どもはその手を取ってやっとその隠れ家から出てくるのであった。
ノアに抱きついて泣き出すのその小さな子どもに、戸惑いながらも背中を抱き撫でてあげるのであった。
その後戦闘終了とともに動いたカルヴィリスによって、商店の主人が叩き起こされ事態を収集するよう話し部屋に戻るのであった。
面倒を押し付けたのだった。
いまさらノアの靴は手遅れとの判断も有った。
カルヴィリスの中では今の不思議なノアの行動を整理する思考が始まっていた。
あの影獣を消す力は、ユア達の力に似ている——けれど少し、何かが違う。
今更気づいたけどノアは……アミュアに、とてもよく似ている。
色と雰囲気の違いで想起できていなかった。
おそらく、ふたりの間には深い関係があるのだろう。
アミュアを思い出した時カルヴィリスの胸に、ちくりと鋭い痛みが走る。
やさしい微笑みを向けてくれたダウスレムの顔が、ふいに脳裏をよぎったからだ。
道中で二人は互いのことを話したが、ノアは能力の事は話さず、カルヴィリスも暗殺者としての自分を隠した。
森のはずれから遠くない場所に、小さな名も無き村落があった。
付近の森に生活の糧を求めて生まれた村であろう。
住人の大半は木こりと狩猟を生業とするハンターだ。
一部最低限の生活を支える商店や、鍛冶屋などがある。
これから発展を望むものか、全体に明るい雰囲気ではあった。
村に1件しかない商店はよろず屋で、古着も扱っていた。
綺麗な仕立てのものはないのだが、ノアが下着すら持っていないのでカルヴィリスが金を出しある程度揃えた。
「すこし先まで行けば今度は大きな街もあるから、そこまでこれで我慢しましょう」
とは心配そうにノアをみるカルヴィリス。
「べつに替えなくても平気だよ?」
「ダメ毎日替えること」
厳しく言うカルヴィリスに、どこかメイド達のような雰囲気を感じノアはまたニコリとするのであった。
カルヴィリスもその行動や実力に隠れがちだが、とても思いやりを持っているので、ノアの危うさが放っておけないのだった。
「値段は負けられないけど、よかったらもう遅いし今夜は村に泊まっていくといいよ。うちは宿も兼任している」
とは商売上手な商店の主だ。
年齢なりのまろやかな体躯と容姿が狡猾さをうまく紛らせるのだった。
「じゃあそれでお願いするわ、食事もあるのかしら?」
「もちろん準備できるよ、部屋で食べてもらうようになるがね」
こうして一夜の宿を取るカルヴィリスとノアであった。
夜半に目を覚ますカルヴィリス。
別の建物から物音が聞こえたのだ。
暗殺者として訓練を受けているカルヴィリスの五感は鋭い。
常人の何倍も遠くから、物音を聞き分け反応するのも訓練による成果だった。
すぐ横ではノアが寝ている。
寝る段になり、ノアがさみしいから眠れないと言い出したのだ。
いつもメイドが手を繋いだり、頭を撫でてくれたのだと。
なんて甘やかされて来たのかと驚いた。
しかし眠りについたノアのうなされ方で、過酷な過去を持つ反動なのか?とも思ったのだった。
今は静かに寝息を立てており、そっとして置いてあげたいなとカルヴィリスは思った。
物音はなにか争うような音だが、別の建物だしここには影響ないだろうとの判断もあった。
このような冷静な判断力も優れた刺客の条件であった。
そうしてそっと自分のベッドに行こうと動いた瞬間にノアがパチリと目を覚ます。
目があったので移動をやめたカルヴィリスにノアが話しかけた。
「なにかイヤな気配がする」
そう行ってぱっと上体を起こすノア。
(なかなか敏感な反応。聞こえたのか?物音が)
カルヴィリスは気づいてはいたが、普通には聞き取れないレベルの音だ。
「あっちの方からだ。見てくる」
そういってベッドから降りたノアは正確に音のした方向を把握している。
「危ないからよした方がいいわ」
とはカルヴィリスの言。
危ないではなく面倒が本音だ。
身のこなしを見れば、ノアがそれなりのレベルで戦えるだろうことは見て取れた。
この気配程度の敵なら遅れは取るまい。
カルヴィリスからみればそれなりのレベルだ。
レヴァントゥスにも劣るだろうと評価している。
レヴァントゥスの本領が魔法使いであることもカルヴィリスは知っているのだが。
何故か評価は低めであった。
「どうしてか解らないけど‥‥あの気配をほっとくのはイヤだ」
そう行って、止めるまもなく部屋をでるノア。
「もう‥靴くらい履いていくものよ」
そう呟きノアの靴を取り、後を追うカルヴィリスだった。
ノアが思った通りそこには影獣がいた。
3匹の獣が隣家を襲い、住人を貪っていた。
すでに二人が犠牲となり息はなかった。
影獣をみるノアの目は鋭い。
先日のメイド達の葬儀がよぎったのだ。
ノアは黙って左手を向ける。
それだけで消せると確信があった。
ノアの左手に紫色の光が満ちていくと、反比例するように影獣の黒い炎がしぼんでいった。
あっと言う間に3匹を消したノアは、さらに家の中にある物音を見に行った。
不思議なことに影獣を吸収してもノアの体はもう変化しなかった。
神ラウマにより定義されたからだ。
このように作られたのだと。
この姿がノアだと。
記憶を取り戻したアミュアが元の大きさになったのに似た理だ。
家の中では隠れている子どもを2匹の影獣が引きずり出そうと暴れていた。
ノアは外でしたのと同じように左手を突きつけた。
獣の一体は消したが、もう一体は素早く動きノアを襲った。
ノアの身体能力は高く、右手に生んだ影の爪で獣を打ち払った。
ノーラ達メイドに仕込まれた体術も少し仕事をしたようだ。
そうして負傷し動きが鈍った影獣を左手で吸収して消すと、隠れて居た子どもに向かった。
「大丈夫?もう獣はたおしたから平気だよ?」
そういって小さな入口をもつタンスのような家具に隠れていた子どもに話しかける。
「ほんとう?もう怖いのはいない?」
「わたしがたおしたから、もういないよ」
そういってノアは右手を差し出す。
子どもはその手を取ってやっとその隠れ家から出てくるのであった。
ノアに抱きついて泣き出すのその小さな子どもに、戸惑いながらも背中を抱き撫でてあげるのであった。
その後戦闘終了とともに動いたカルヴィリスによって、商店の主人が叩き起こされ事態を収集するよう話し部屋に戻るのであった。
面倒を押し付けたのだった。
いまさらノアの靴は手遅れとの判断も有った。
カルヴィリスの中では今の不思議なノアの行動を整理する思考が始まっていた。
あの影獣を消す力は、ユア達の力に似ている——けれど少し、何かが違う。
今更気づいたけどノアは……アミュアに、とてもよく似ている。
色と雰囲気の違いで想起できていなかった。
おそらく、ふたりの間には深い関係があるのだろう。
アミュアを思い出した時カルヴィリスの胸に、ちくりと鋭い痛みが走る。
やさしい微笑みを向けてくれたダウスレムの顔が、ふいに脳裏をよぎったからだ。
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