きぃちゃんと明石さん

うりれお

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本編

こんなに早くバレるなんて聞いてません!

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「美沙、これ誤字とか変なとこない?」

「ん?んーーーーーー大丈夫だと思う。」

カラカラカラとキャスターの付いた椅子を滑らせて、季衣の画面を覗く美沙に内容のチェックを貰い、

ピコンッ

届いた短い社内メールの中身を確認。

「よしっ、長谷川と課長のチェックも貰ったっ!」

自分でももう一度確認して、先方に資料を添付したメールを送信する。
商談相手になにか送る時は、三回それぞれ違う人にチェックを貰うのがルールとなっているのだ。
バックアップを取るのを忘れずに、USBをパソコンから引き抜いた。

「田所、……帰宅っと。
  ……そんで、タイムカード切って。」

ホワイトボードにキュッキュと書き込んで、自分のデスクに戻り荷物をまとめる。
今日は絶対に残業しないと決めていた。

笹原かさはらちゃん、美沙、おつかれ~。また来週。」

まだまだ仕事が残っているらしい後輩と美沙に声をかける。

「お疲れ様で~す。」

「…おつかれ。
  あぁ~私も見に行きたかったなぁ、修羅場。」

「頼むから勝手に修羅場にせんとって。
  フラグみたいやろ。
  そもそも誰と誰が喧嘩すんねん。」

早いことに、もう金曜日が来てしまった。
やっぱり付いてくるなと何度長谷川に言おうとしても、話題を変えられて、話を聞いて貰えない。
ならば早く退勤して、奴を置いていってやろうと月曜日から調整に調整を重ねて、仕事を終わらせたのである。

「田所先輩、今から誰かと飲むんですか?」

おいっ、美沙が変な事言うから、自分らが手塩にかけて育ててる後輩ちゃんが興味持っちゃったやんかっ!

「長谷川とデート♡とか言っちゃって♡」

「え?」

恐らく長谷川に気がある後輩が、いや後輩だけでなく同じ部署の肉食系女子達の目が一気に冷たいものに変わった。

「美沙のあほっ!笹原ちゃんっ違うからな?
  こいつが勝手に言ってるだけで
  全然サシとかじゃなくて
  むしろ長谷川なんか邪魔なだけっていうか。
  私の明石さんとの癒し時間に割り込んで来たのは
  あっちやからっ。
  あぁ、もういっその事笹原ちゃん、
  長谷川、飲みに誘ってくれへん?お願いっ!」

命大事な私は焦りから猛烈な早口で誤解を解くのに必死になる。
そんなに欲しいなら長谷川なんていくらでもくれてやる。
頼むから私を睨むなっ女子どもっ!

「先輩、ちょっと落ち着いてください。
  今日私まだ仕事終わりそうにないんで無理です。
  それに私だって目の敵にされるのはごッ
  ……せんぱい…う、うしろっ」

「え?うしろ……ッ!?」

入社一年目のごもっともな意見を聞いて、やっぱそうだよなぁと落胆していたら、笹原が顔を赤く染めたかと思うと、すぐに青ざめて、器用だなと思いながら振り返ると、

「よう季衣。
  俺から逃げようと思うだけ無駄だと思え?」

何故か準備万端の長谷川が立っていた。


 
借金取りかとか言いたくなるようなセリフに、目の笑っていない暗黒微笑を浮かべて背後に立たれた私の気持ちよ。

「いややぁっ!なんでぇぇぇッ!!
  お願いやからついてこんとってぇっ!」

「はぁ!?……お前ッ!」

もちろん私が取った行動は逃亡である。

「課長お疲れ様でしたぁっ!
  お先に失礼しますっ!」

通りすがりの渡辺にマッハで挨拶をし、廊下をダッシュする。

「おうおう、おつかれさん。
  転けないように気をつけろよぉって、
  佐藤、あれどういう状況?」

「さぁ~、
  夫婦喧嘩からの鬼ごっこじゃないですかぁ?」

あたりまえやけど、危ないので良い子は真似しないでね。

エレベーターの前を曲がり、反対側のエレベーターに向かうと見せかけて、途中の女子トイレに駆け込む。
息を殺して、長谷川がとおりすぎたのを確認したら、靴を脱いで、足音を立てないように廊下を走った。
最初に無視したエレベーターに戻り、乗り込むと、あえて一階では無く三階のボタンを押す。

流石にないと思っていたが、エレベーターの扉が開いて長谷川の姿がない事にホッとして、そこからは階段を駆け下りていく。
なぜわざわざこんなに面倒くさい事をするかって?
エレベーターとは違い、階段は降りてすぐに裏口に繋がっているからだ。
正面口から裏口が離れている訳ではないのだが、長谷川に見つかる可能性が低くなるのは間違いない。

「はぁ、はぁ、はぁ、あとちょっとッ、はぁっ」

運動靴で来て正解だった。
まさか長谷川も仕事を終わらせているとは思わなかったし、そもそもあそこまでして見に来たい意味が分からない。
プライベートぐらいほっといてくれ。

やっと一階に到達して、再び気を引き締める。
裏口が見えて、よっしゃ勝ったと思ったその時。

プルルルルル、プルルルルル、
プルルルルル、プルルル……

バッと画面を見ると案の定、長谷川からの着信で、ロビーの方から

「裏口かっ!」

と声が聞こえる。

まずいっ、バレたっ。
あぁ~なんでマナーモードにしてへんねん私っ。
理由なんて分かっている。
いつ明石さんから電話が来てもいいように、メッセージが来てもすぐに反応出来るように。

長谷川に居場所がバレた時点で結果は決まってしまった。
ただの鬼ごっこで勝てるわけがない。
詰めが甘かった私の負けだ。
どれだけ逃げようが結局は時間の問題で、長い脚を活かし駆けてきた長谷川に腕を掴まれる。

「くそッ、うわっ、……え?」

あろうことか、そのまま引き寄せられ、抱き締められた。
勢い余ってついって感じでもなくガッツリ。

………………あのーー、なんで私は会社の裏口で同期にバックハグされてるんですかね。
明石さんにも思ったけど、お前も大概距離感バグってやがる。
たかが同僚捕まえるためだけにそんなに力を入れるな苦しい。

「……逃げんなよ、………………頼むから。」

逃げてたんはこっちやのに、なんで長谷川の方が切羽詰まった、泣きそうな声出してんねん。
ついて来るの諦めて帰ればいいだけの話やのに、きぃが悪いみたいやんか。
……たかが同僚で、たかがバディやろ。

ウエストに腕を回されて、あの朝を思い出してか腹の奥がキュンと疼くのに、後ろから香る匂いがあの人とは違う事に気付いて、嫌悪感に鳥肌が立つ。

「分かった分かったっ!逃げへんから離してっ!」

ペチペチと腕を叩いて白旗をあげるも、なかなか離してもらえなくて、ベシッと強めに叩いた。

「いッたいな、お前。もうちょっと加減しろよ。」

やっと離したと思ったら、長谷川が腕をさすりながら文句をたれてくる。
ただ同時にホッとしたような顔をしていて。
だからなんやねんその顔はっ。

「どう考えても離さんかったあんたが悪い。
  同僚捕まえるのに
  バックハグするやつがあるかぁ、あほッ。
  はよしな置いてくで。」

ざわめく都会の真ん中で、気付きかけたバディの気持ちに、そんな訳がないと無意識に否定して、何も無かった事にした。














 
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