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番外編Ⅱ
二つ目のお願い①
しおりを挟む「えっ?ブーツどこ?……まってまって、
……うそやん、あるはずやって……
あ''ッ!あった!もー、びっくりしたやんかぁ。
って時間ヤバい、遅れる。」
結局悩みに悩んで、季衣が着たのは、Aラインの黒ワンピースだった。
一枚では心許ないので白いカーディガンを上から羽織る。
今日はお昼前に名古屋駅で待ち合わせだ。
隣に住んでるのに、なんで待ち合わせなんかするんかって?
デートは雰囲気が大事やろっ!
というのは嘘で、待ち合わせをしないと、お互いが相手に甘えて、準備が遅くなってしまうからだ。
「ヤバいヤバいヤバいっ!
チャックあがらへんっ、はらたつぅ~ッ!」
結果、待ち合わせをしても、季衣は電車に間に合うギリギリの時間に家を出た。
「いってきまぁーすっ」
最寄り駅まで歩いて二十分の道のりを、ショートブーツでガンダする。
「すぅー、はっ、はっ、
すぅー、はっ、はっ、……」
出来るだけ吸う空気を少なくして、それを二回に分けて吐き出すイメージで呼吸しながら、一定のペースで走る。
あと五分ッ、いけるっ、頑張れっ!
自分を鼓舞して走ること十分とちょっと。
ホームの階段に一番近い車両に乗り込んだ。
階段はダッシュしたけど、電車に駆け込んでは無いからセーフやんな?
駆け込み乗車ではないと、頭の中で勝手に言い訳しながら、電車に揺られる。
なんだか学生の頃の遠足のように、ソワソワドキドキしていると、柊真からメッセージが届いた。
『おはようきぃちゃん。
もう家出た頃かな。
全然遅れてもいいから、怪我とかしないように。
ヒールがある靴でダッシュとか駄目だからね。
いつものとこで待ってる。』
……柊真さん、きぃの行動読みすぎです。
てか気遣い完璧すぎて惚れ直しちゃう……っ。
一人電車の中でニヤニヤしていると、あっという間に名古屋駅に到着し、待ち合わせ場所に向かった。
「きぃちゃーんっ。ここだよ、ここ。」
待ち合わせ場所でキョロキョロと柊真を探していると、彼が声を掛けてくれたのだが。
うえぇぇ……、スーツにセーター
……………………………………………………すきっ。
目に入った柊真の服装が季衣の性癖どストライク過ぎて、駆け寄ろうとした足が止まり、口元を手で覆い隠した。
「何、どしたのきぃちゃん。おはよう。」
「おあよぅござぃまずっ。」
無意識に距離を取ったのに、向こうから近付いてきて、耐えられなくなる。
口を開いたら奇声を発してしまいそうで、こんな往来でそんな事をしてはいけないという意識のもと、挨拶を絞り出す。
「こら、きぃちゃん、敬語。
…………………………そんなに好きだった?
この服装。」
「ん''ッ……」
さらに近付いて来たと思ったら、軽く抱きしめられて、耳元で囁かれる。
確信犯か、こいつぅぅぅ。
そんなに可愛く怒るな、囁くなっ。
死んでまう……。
「………………ッめっちゃ好き。
このスーツ、新しいの買ったん?」
柊真が、白いシャツと淡いピンク色のセーターの上に羽織っているジャケットに見覚えがなくて、抱きしめられても、季衣の大好きな柊真の匂いがほとんどしない。
「よく気づいたねー。
洗えるスーツ欲しくて、丁度いいかなーって
今回買ったんだけど。
かっちりしすぎなくていいでしょ、
このジャケット。」
柊真は季衣の背中に回していた腕を解いて、ふふんっと効果音の付きそうな顔をした。
「うん、似合ってる。
…………………………かっこいい。」
正直何着てもかっこいい。
あと、自慢げに話してくるの何、可愛い、無理。
「ふふっ、ありがと。
きぃちゃんのそのワンピースも初めて見た。
綺麗だよ。似合ってる。
……あっ、そうだ。
これ、こないだ話してたピーチティー、
俺も飲みたかったから買ってきた……
ってどした?体調悪い?」
首を傾げた柊真が、再び手で覆い隠した季衣の顔を覗き込んでくる。
「柊真に甘やかされ過ぎて溶けるっ。」
サラッと綺麗とか言ってッ、飲みたいなって世間話ついでに言ったこと覚えててッ。
どんだけ甘やかしたら気ぃ済むんやッ。
「あははっ、溶けちゃえ…………なーんてねっ。」
オーーバーーキルぅッ!!
はぁっ、はぁっ、誰か奇声をあげなかった私を褒めて欲しい。
「今日はいっぱい甘やかすから覚悟しといて。」
自身の顔の良さを遺憾無く発揮して、にっこり微笑みながら死刑宣告されました……。
「……はい。」
「こらっ。はい、じゃなくて?」
つい、癖で出てしまった敬語を咎めながら、目を合わせるように屈んで顔を近づけられるのだが、当然今の季衣には耐えられなくて。
「分かったっ、分かったから、
それ以上顔近づけんといてっ。
心臓持たへんっ!……あっ、ちょっとっ!」
腕を前に伸ばして、これ以上近寄られないようにすると、右手にピーチティーを持たされて、左手はガッチリと恋人繋ぎにされる。
「行こうか。」
慈愛に満ちた瞳を向けながら、くんっ、と軽く腕を引く柊真は、未だダメージから立ち直れない季衣を待ってはくれないらしい。
ぐぅぅーー、ずるぃやろぉ。
赤くなった顔を冷ますためにストローを吸うと、程よく甘くて冷たいピーチティーが喉を通り抜けていった。
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