きぃちゃんと明石さん

うりれお

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番外編Ⅱ

季衣のお願い①

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「……スーツ着たままシて欲しい……っ。」

あぁーーーーーーーーーーー!!
とうとう言っちゃった……。
無理恥ずかしい死ぬ。

何がどうなって、季衣が前々から内に秘めていた願望を口にすることとなったのか、
理由は時計を受け取って、夜ご飯も食べてしまった後の時間に遡る。
 






「そろそろ帰ろっか。」

そう言って、可愛い恋人の姿を少し上から眺めながら、駅までの道を歩く。
いつも通りに見えて、実は先程着けたばかりの時計をチラチラと気にしたりして、たまにふふっと笑っている。
可愛いな。

「他のアクセサリーとかじゃなくて良かった?」

「何言ってんの柊真。
  きぃらはミニットやろ?
  一分一秒大事にしないと!」

「あははっ、確かに。
  きぃちゃんの言う通りだわ。」

「……ホンマに嬉しい。
  柊真、ありがとう。」
  
「んぅん、こちらこそありがとう。」

喜んでくれているのがよく分かって、自分の選択が間違っていなかったとホッとした。

季衣がアクセサリーをつけるのがあまり得意ではないことを知って、でも会社の男達に牽制するなにかを着けてもらいたくて、悩みに悩んで腕時計に決めたのだ。

俺らの時間も一分一秒大事にしないと。






「ねぇ、柊真。」

「なに、どしたの?」

「あれなんの建物?ホテル……?入口無くない?
  あっなんか書いてある……宿泊、やっぱりホテルかぁ。
  ん?宿泊は分かるけど、休憩ってなに?」

季衣が脇道に入る手前にある建物を指差して言う。

あ''ー、そっか、ラブホを知らないかぁ。
分かる人には分かる特徴を持ったラブホテル。
無垢な目で真剣に訊いてくる季衣は利用した事が無いのだろう。

これ言っても良いやつかなぁ。
うーん、知っといた方がいいか。
知らないままでいいと無垢なままにするか悩んだ柊真だったが、どこの馬の骨とも知れぬやつに連れ込まれそうになることもあるかもしれない、そう考えると教えておいた方がいいと思って、季衣の耳に口を寄せて小声で囁いた。

「休憩っていうのはね、
  えっちして、泊まらずに帰る時に使うんだよ。」

「……へ?」

理解するのに時間がかかったのか、季衣の顔がじわじわと赤くなっていく。

「あっ、……そういう感じ……?
  ………うわぁーー、恥ずかしぃっ。
  教えてくれてありがとっ、
  ……………でも聞かんかったことにしてぇっ。」

ぼフッと音を立てて、顔を隠すように柊真に抱きついてきた。
これ、攫ってもいい?
このまま抱き上げてラブホ連れ込んでもいい?

季衣には何にもないように振舞っているが、柊真の理性は、自分が初めての彼氏だという彼女に無自覚に振り回されている。

「俺は季衣が、誰ともラブホに行った事ないの
  が分かって嬉しいけどね。」

「…ッ、そんなん当たり前やん
  ……………………とぉまがはじめてなんやからっ。」

「そうだね。ふふっ、ごめんごめん。」

はーーー、無理。
やっぱりどうにかして連れ込みたい。家まで待てない。

「あ、」

油断していたところに爆弾が落とされて、柊真の理性が欲に敗北したところで、季衣が何かを思い出したかのような声をあげる。

「逆に今しかなくない……?
  いやでもさすがに引かれるかなぁ……。」

ぶつぶつと呟いて、何やら覚悟が決まらない様子。
いやこれ、ワンチャンあるか?

「何悩んでんの?
  ……もしかして、行ってみたい?」

「えっ、い、いや、ちがっ、……くもない、けどっ。
  …………きぃからのお願いしてもいい?」

このタイミングで?
いや、俺もおんなじことさっきしたけどさ。
っていうか行ってみたいんだ?ラブホ。

「もちろん。」

「じゃあ…………、耳貸して。」

姿勢は変わらず抱きつかれたままで、季衣が背伸びして耳に口を寄せようとするから、柊真も少し屈んで高さを合わせる。

「あ、あの、家でもいいんやけどっ、……その、
  ……スーツ着たままシて欲しい……っ。」
 


まさかの季衣からのお誘いだった。

「はぁーっ、あのねぇきぃちゃん、
  なんの為に今日こんな格好してると思ってんの。」

「え、お店に行くのに、
  キレイめな格好……じゃないん?」

それなら別にジャケットの下に着るのはシャツじゃなくてもいいし、俺が季衣にそんな服装の指定をしたのは、単純に俺が見たかったからなだけで。

「会社からきぃちゃんの家に直接行くたびに、
  シャツとトラウザー見て物欲しそうな顔を
  してる人がいるからだよ。」

「なっ!?」

加えて、そんな日の季衣はよくぎゅーをねだる。
可愛いが溢れる恋人を抱き締めた柊真が、キスをしないわけがなくて、そのままの勢いで襲ってくれないかと思っているんじゃないかと、何度も考えたが、恥ずかしがりながらお願いしてくれる日を待つことにしていた。

特に今日は、晩ご飯で少しアルコールを入れて、いつもよりふわふわになったところを部屋の前で別れずに自分の部屋に連れ込んで、何か言う事はないかと問い詰めるつもりだった。
まさかこんな街中で、季衣の方から、素直に誘われると思ってもみなかったものだから。
 
「なんで?なんでなんっ?
  もういややぁ、なんでバレてんのっ?」

己の願望がダダ漏れだった事を知って、季衣は顔を真っ赤にしながら焦る。

「あははっ、あれでバレてないつもりだったの?
  ほら、行くよ。」

「え?ちょっとっ!」

抱きつく季衣をべりっと身体から剥がして素早く左手を捕まえて、思わず早足になりながら、先程まで話題の先であった建物に向かう。

「なぁっ、家でもいいんやで!?
  今日お金いっぱい使ったしっ!」

あまりの勢いで進む柊真を引き止めようと、季衣が必死に呼びかけるが、

「ごめん、俺が家まで待てない。」

「なっ、……あっ!
  まって柊真っ、歩くのはやいっ。」

余裕が無くなった柊真を止めるには弱すぎる抵抗だった。

















 
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