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第24話
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図書室に入ると、ドアを開く音に気が付いた漫研の受付が小さく会釈をし、また眠りに就いた。
図書室には彼を除いて、他には誰もいなかった。
閑散とした図書室の中を二人で入っていき、入り口近くに展開された漫研の出し物である同人誌に目を移す。彼女も僕も入ったからには見ておこうと、同人誌を手に取ってみたがすぐに興味も失せて、奥の方へと進んだ。
こんなに賑やかな文化祭の中で、静かな場所を探すのもむつかしいと考えていたが、こうして彼女と二人で椅子に腰かけていると、ただ静寂が漂っている。
時に誰かの楽し気な声が反響して聞こえてはくるが、それも耳を澄まさなければ聞こえないほどだ。
日が少し傾いて、図書室に光が射す。
日の光が舞っている埃に乱反射し、本棚に落ちた影がどこか幻想的に思えるのは、今この時、この瞬間に目にしているからだろう。
彼女は疲れたと目を伏せ、微かに息を漏らした。
俺もまた小休止と、同じく目を閉じていた。
写真のスライドショーのように文化祭での出来事がぐるぐると頭の中を回る。
文化祭開会式の時はどうせなにも起きず淡々と終わっていくだろうと思っていた文化祭がよもやこんなことになろうとはあの時の俺は思ってもみなかった。
彼女と文化祭を謳歌することになろうとは。
もしかすると前の俺はこんな生き方をしていなかったのかもしれない。
もう、考えることのなかった未来のことが何故かふと気になった。それは不安や恐怖ではなく、単なる興味である。
未来では俺や彼女の、また俺を取り巻く環境や人は当たり前だが変わっていて、俺はそんな中で何故、死を選んだのだろう。
それを周りは止めなかったのだろうか?友人や恋人は?両親は?俺は何故、一人で冬の海にその身を投げたのだろう。
今の幸福を噛み締めている自分からは想像もできない。
そう思うと、少し可笑しくて、漏れた笑みは静寂に消えていった。
1時間ほど休憩してから図書室を後にした。
俺も彼女も昨日、長いこと模擬店の店番をしていたからだろう、相当疲れが溜まっており、今日はもう帰ることにした。
「どうだった?文化祭は楽しめたか?」
「上原くんはどうですか?」
「質問に質問で返すのか?」
「いえ………私は楽しかったですよ」
彼女は照れているのか、すっと俺から顔を隠した。
「そうか。俺も楽しめたよ。こういう行事は嫌いだと思っていたが、案外楽しめた」
「そうですか………よかったです」
今日一日、彼女の表情が何度も変わるところをみた。
フランクフルトを食べて笑う顔や俺の話に相槌を打っている顔、展示品を見ているときの難しく物を考えている顔。それでも、やはり笑っている彼女を見ていると落ち着く。
文化祭を後にし、校門まで歩いて行く。
夕陽が背後から照らし、俺たちの前に影が出来る。
出来るならば日没まで彼女といたいが、その元気は彼女にはないだろう。
少し悔やまれるが、そんなフウに考えられることもまた幸せなことなのかもしれない。
そうして、二人で歩いていると、そこにある人物が通りがかった。
「あー上原じゃん………それと桔梗か」
それは漆原竜二であった。彼も帰るところであったのか、カバンを肩から下げて、こちらを見て、ニヤついた顔を見せる。
チャラついた長くウェーブがかった髪に、細い眉毛が目立つ。身長が俺とちょうど同じ位だ。
文化祭準備期間も一度も顔を出さなかった奴だが最近では頻繁に俺の視界に現れる。俺はトイレ裏での一件を思い出し、つい冷たく当たってしまう。
「おう。漆原。お前、文化祭準備も一度も顔出さなかったな?」
「は?………第一声がそれかよ?やっぱり変わった上原」
「何だそりゃ?」
「いや、前のお前なら準備なんてもんに出なかっただろ?それに………」
漆原はなんとも言えない表情をしていた。笑っているのか、それとも怒っているのか、歯を食いしばっているようにも、笑いをこらえているようにも見えるなんとも奇妙な表情で俺を見る。
「それに……なんだよ?」
「いや。桔梗ともなんか仲良いみたいだな?前のお前ならそんな地味な女、眼中に無かっただろ?」
これは直接的に彼女を詰る言葉であった。俺はそんな言葉を吐く奴の神経が分からず、拳に力が入る。
「は?………さっきから前のことばっかうるせぇな。なんだお前?」
「おっ………怒ったか?桔梗もこないだ聞いた時、ちゃんと答えろよ。付き合ってんだろ?」
漆原が宮藤さんをねめつけ、怒気の籠った言葉を浴びせる。
俺はそろそろ奴の顔面に拳をねじ込んでやろうと、近づいていくと、その時、宮藤さんが口を開いた。
「もしそうだとして、りゅう………漆原さんに関係ありますか?」
彼女はいつも小さい声で話す。それは気恥ずかしさからかもしれない。
しかし、今、彼女から発せられたものは空気を裂くような凛とした声音であった。
普段の彼女からは想像もできない冷めた表情で、漆原を見ていた。
その言葉を聞いた漆原はまた飄々とした態度で軽口をたたくかと思っていたが違った。
何故か彼は目に見えて動揺していた。
そうして、力なく鼻を鳴らすと俺たちを一瞥した。
「はっ………お前も変わったよな」
漆原は俺の肩を軽くたたいて去っていった。
いつの彼らしくない振舞いに違和感を覚えながらも、彼女が心配になり声をかける。
「大丈夫か?」
宮藤さんは小さく息を吐くと、いつものように少し笑った顔でこちらを見る。
「ええ。すいません。変なことに巻き込んで」
「いや、どっちかっていうとそれは俺の方だ。………なんかあいつ変だったな。いつものあいつらしくない。あんな嫌な絡みかたはしてこない奴なんだけどな」
「そうですか………私はもう長らく漆原さんと話していないので分かりません」
宮藤さんは落ち着いたものの、まだ少し不機嫌なのか話をすぐに切り上げた。
先ほどまでの和やかな雰囲気はなくなり、気落ちした俺たちは無言で帰路に就く。
二人とも先ほどの出来事が頭から離れず、なんの話を振れば良いのか分からなくなって、ただひたすら歩を進めた。
それは、自然に訪れた静寂ではなく、不自然に、嫌な雰囲気の静寂であり、どちらかが何かを話さないといけないと思わせる。
昼間の図書室での沈黙とは何もかもが違う。
そんな中、彼女が先に話の口火を切った。
「すいません。さきほど、私がいたから上原さん、気を遣ってくれましたよね?」
「ん?」
「いえ。上原さんも先ほど、相当苛立っていた表情をされていたので………でも、私がいたから」
「あ?………あー。まぁそのなんだ。逆に宮藤さんがいたから落ち着けた。ありがとう」
「そうですか」
彼女はよかったとその後、付け加えた。
そうして、二人で嫌な空気の中、話しを続け、駅に着いた。駅のホームで彼女と別れる。
電光掲示板には早くも次の電車の時間が掲示されていた。
「なんか、最後に嫌な雰囲気になったな……」
「そうですね………」
ずっと続く嫌な雰囲気はお互いの不安が作りだしたものだ。
俺はまだ彼女と漆原のことをどこか気にしているし、彼女は彼の事を気にしている。
それが二人の間に妙な空気を作り出す。
しかし、何か言わないといけない。
このまま離れてしまえば、また同じ結果になる
俺は恥ずかしさも、緊張も置き去りに先に口を動かした。
「もしさ………次にどこか二人で行きたいって言ったら来てくれるか?」
俺の言葉に彼女は一瞬、間を置いた。そして俺の目を真っ直ぐに見つめて言う。
「えっと………じゃあ、今度は私から行きたい場所を誘ってもいいですか?」
彼女が顔を赤らめて、こちらに笑いかける。
俺は二つ返事で肯定し、最後は笑って別れた。
図書室には彼を除いて、他には誰もいなかった。
閑散とした図書室の中を二人で入っていき、入り口近くに展開された漫研の出し物である同人誌に目を移す。彼女も僕も入ったからには見ておこうと、同人誌を手に取ってみたがすぐに興味も失せて、奥の方へと進んだ。
こんなに賑やかな文化祭の中で、静かな場所を探すのもむつかしいと考えていたが、こうして彼女と二人で椅子に腰かけていると、ただ静寂が漂っている。
時に誰かの楽し気な声が反響して聞こえてはくるが、それも耳を澄まさなければ聞こえないほどだ。
日が少し傾いて、図書室に光が射す。
日の光が舞っている埃に乱反射し、本棚に落ちた影がどこか幻想的に思えるのは、今この時、この瞬間に目にしているからだろう。
彼女は疲れたと目を伏せ、微かに息を漏らした。
俺もまた小休止と、同じく目を閉じていた。
写真のスライドショーのように文化祭での出来事がぐるぐると頭の中を回る。
文化祭開会式の時はどうせなにも起きず淡々と終わっていくだろうと思っていた文化祭がよもやこんなことになろうとはあの時の俺は思ってもみなかった。
彼女と文化祭を謳歌することになろうとは。
もしかすると前の俺はこんな生き方をしていなかったのかもしれない。
もう、考えることのなかった未来のことが何故かふと気になった。それは不安や恐怖ではなく、単なる興味である。
未来では俺や彼女の、また俺を取り巻く環境や人は当たり前だが変わっていて、俺はそんな中で何故、死を選んだのだろう。
それを周りは止めなかったのだろうか?友人や恋人は?両親は?俺は何故、一人で冬の海にその身を投げたのだろう。
今の幸福を噛み締めている自分からは想像もできない。
そう思うと、少し可笑しくて、漏れた笑みは静寂に消えていった。
1時間ほど休憩してから図書室を後にした。
俺も彼女も昨日、長いこと模擬店の店番をしていたからだろう、相当疲れが溜まっており、今日はもう帰ることにした。
「どうだった?文化祭は楽しめたか?」
「上原くんはどうですか?」
「質問に質問で返すのか?」
「いえ………私は楽しかったですよ」
彼女は照れているのか、すっと俺から顔を隠した。
「そうか。俺も楽しめたよ。こういう行事は嫌いだと思っていたが、案外楽しめた」
「そうですか………よかったです」
今日一日、彼女の表情が何度も変わるところをみた。
フランクフルトを食べて笑う顔や俺の話に相槌を打っている顔、展示品を見ているときの難しく物を考えている顔。それでも、やはり笑っている彼女を見ていると落ち着く。
文化祭を後にし、校門まで歩いて行く。
夕陽が背後から照らし、俺たちの前に影が出来る。
出来るならば日没まで彼女といたいが、その元気は彼女にはないだろう。
少し悔やまれるが、そんなフウに考えられることもまた幸せなことなのかもしれない。
そうして、二人で歩いていると、そこにある人物が通りがかった。
「あー上原じゃん………それと桔梗か」
それは漆原竜二であった。彼も帰るところであったのか、カバンを肩から下げて、こちらを見て、ニヤついた顔を見せる。
チャラついた長くウェーブがかった髪に、細い眉毛が目立つ。身長が俺とちょうど同じ位だ。
文化祭準備期間も一度も顔を出さなかった奴だが最近では頻繁に俺の視界に現れる。俺はトイレ裏での一件を思い出し、つい冷たく当たってしまう。
「おう。漆原。お前、文化祭準備も一度も顔出さなかったな?」
「は?………第一声がそれかよ?やっぱり変わった上原」
「何だそりゃ?」
「いや、前のお前なら準備なんてもんに出なかっただろ?それに………」
漆原はなんとも言えない表情をしていた。笑っているのか、それとも怒っているのか、歯を食いしばっているようにも、笑いをこらえているようにも見えるなんとも奇妙な表情で俺を見る。
「それに……なんだよ?」
「いや。桔梗ともなんか仲良いみたいだな?前のお前ならそんな地味な女、眼中に無かっただろ?」
これは直接的に彼女を詰る言葉であった。俺はそんな言葉を吐く奴の神経が分からず、拳に力が入る。
「は?………さっきから前のことばっかうるせぇな。なんだお前?」
「おっ………怒ったか?桔梗もこないだ聞いた時、ちゃんと答えろよ。付き合ってんだろ?」
漆原が宮藤さんをねめつけ、怒気の籠った言葉を浴びせる。
俺はそろそろ奴の顔面に拳をねじ込んでやろうと、近づいていくと、その時、宮藤さんが口を開いた。
「もしそうだとして、りゅう………漆原さんに関係ありますか?」
彼女はいつも小さい声で話す。それは気恥ずかしさからかもしれない。
しかし、今、彼女から発せられたものは空気を裂くような凛とした声音であった。
普段の彼女からは想像もできない冷めた表情で、漆原を見ていた。
その言葉を聞いた漆原はまた飄々とした態度で軽口をたたくかと思っていたが違った。
何故か彼は目に見えて動揺していた。
そうして、力なく鼻を鳴らすと俺たちを一瞥した。
「はっ………お前も変わったよな」
漆原は俺の肩を軽くたたいて去っていった。
いつの彼らしくない振舞いに違和感を覚えながらも、彼女が心配になり声をかける。
「大丈夫か?」
宮藤さんは小さく息を吐くと、いつものように少し笑った顔でこちらを見る。
「ええ。すいません。変なことに巻き込んで」
「いや、どっちかっていうとそれは俺の方だ。………なんかあいつ変だったな。いつものあいつらしくない。あんな嫌な絡みかたはしてこない奴なんだけどな」
「そうですか………私はもう長らく漆原さんと話していないので分かりません」
宮藤さんは落ち着いたものの、まだ少し不機嫌なのか話をすぐに切り上げた。
先ほどまでの和やかな雰囲気はなくなり、気落ちした俺たちは無言で帰路に就く。
二人とも先ほどの出来事が頭から離れず、なんの話を振れば良いのか分からなくなって、ただひたすら歩を進めた。
それは、自然に訪れた静寂ではなく、不自然に、嫌な雰囲気の静寂であり、どちらかが何かを話さないといけないと思わせる。
昼間の図書室での沈黙とは何もかもが違う。
そんな中、彼女が先に話の口火を切った。
「すいません。さきほど、私がいたから上原さん、気を遣ってくれましたよね?」
「ん?」
「いえ。上原さんも先ほど、相当苛立っていた表情をされていたので………でも、私がいたから」
「あ?………あー。まぁそのなんだ。逆に宮藤さんがいたから落ち着けた。ありがとう」
「そうですか」
彼女はよかったとその後、付け加えた。
そうして、二人で嫌な空気の中、話しを続け、駅に着いた。駅のホームで彼女と別れる。
電光掲示板には早くも次の電車の時間が掲示されていた。
「なんか、最後に嫌な雰囲気になったな……」
「そうですね………」
ずっと続く嫌な雰囲気はお互いの不安が作りだしたものだ。
俺はまだ彼女と漆原のことをどこか気にしているし、彼女は彼の事を気にしている。
それが二人の間に妙な空気を作り出す。
しかし、何か言わないといけない。
このまま離れてしまえば、また同じ結果になる
俺は恥ずかしさも、緊張も置き去りに先に口を動かした。
「もしさ………次にどこか二人で行きたいって言ったら来てくれるか?」
俺の言葉に彼女は一瞬、間を置いた。そして俺の目を真っ直ぐに見つめて言う。
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