記憶喪失をした俺は何故か優等生に恋をする

プーヤン

文字の大きさ
23 / 43

第23話

しおりを挟む
3時を過ぎると徐々に人が減っていき、文化祭も落ち着いてきたように思える。

今日は秋なのに、涼しさは身を潜めて真夏日のように暑く、制服が少し湿ったように感じられる。

俺たちは部活ブースが開かれている部室棟を抜けると、そのまま他愛ない話をしながら、校舎内を歩いて行く。

二人の足音は、文化祭の喧騒にかき消され、会話もすぐに霧散する。

別に目的があるわでもなく、慌ただしく走り回る文化祭委員や、首から自身のクラスの出し物の広告を下げて歩く仮装した生徒、楽しそうに談笑している他校の学生を見ていた。

皆が楽しむ中、俺たちはなんでもないことを話す。

不意に二人が黙ることもある。しかし、またどちらからか話を振って、他愛ない会話は生まれる。

それがどこか懐かしく、愛おしく思えるのは一度目の人生の味を知っているからだろうか?

俺がふと笑うと彼女は問う。

「どうかしました?」と。それを俺は笑って、「いや、文化祭って案外、楽しいものだったんだな」と言うと、彼女は「そうですね」と小さく笑った。

 

 

 

渡り廊下を渡って、右に曲がった突き当りに図書室がある。

俺たちは歩くのに少し疲れたことから、無意識に足は図書室へと向かう。聞くところによると、どうやら漫研の出し物は図書室の一部スペースを使った自作マンガの展示のみで、それ以外は一般開放となんら変わりない。
俺たちは静かな落ち着ける場所を探していたのかもしれない。

そうして歩を進めていると、急に呼び止められた。

「お兄ちゃん………なんかおごって?」

妹である上原 誠は遠くからバタバタと足音を鳴らして、こちらに駆け寄ってきた。

今まで妹と学内で会話をすることはほとんどなかったと橘に聞いていた。しかし、俺は今一度、自分を見つめなおし、妹に優しくすることを胸に誓って以降、彼女は徐々に俺に心を開いてくれるようになった。

その結果、単なる甘えたになってしまったのは言うまでもない。

俺を見つけ、遠くから咄嗟に声をかけたのだろう。宮藤さんの姿を見て、誠は固まっていた。

「えっと………どちらさん?」

「同じクラスの宮藤さん」

「あ………そういう」

誠はジト目でこちらを見ると、すぐに視線を宮藤さんに移した。

「えっと上原 美月の妹の誠です」

誠はぺこりとお辞儀した。それに続いて宮藤さんもお辞儀を返す。

「えっと………上原君と同じクラスの宮藤 桔梗です」

「お兄ちゃんに橘先輩以外にこんな真面な友達がいるとは…………」

誠はこちらにチラリと視線移す。

「なんだよ?」

俺と誠の会話を聞きながら、宮藤さんが少し笑った。
その光景はなんともむず痒いものであった。親族に自分が懇意にしている人間を会わせることは何か心が痒くなるのだ。

「お兄ちゃん………照れてる?」

「照れてるんですか?」

誠が俺を揶揄うのは分かるが、宮藤さんも少しハニカんで誠に便乗する。

俺の露骨に嫌そうな顔が面白いのか、彼女らは互いに見合わせて笑っていた。そうして二人で少し話すと、また今度と遊びの約束までしていた。

その間、俺は放置されていたので、今後の予定をそらんじていた。

そうして話し終えると誠はクラスの劇があるからと去っていく。

「可愛らしい妹さんですね」

「そうか?………まぁ良い子ではあるな」

「そうですか。私には兄弟姉妹がいないので、羨ましいです」

「そんなもんか?でも、人見知りなのにあんなに早く打ち解けるとは思わなかった」

「………自分でもびっくりしています。何故か初めて会った気がしなかったんです」

「そっか」

俺はそれが一瞬、記憶につながることかと思ったが、あえて口には出さなかった。宮藤さんが妹と仲良くなれたことが偶然だという形で残しておきたかったのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

処理中です...