ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第22話 凍てつく教室①

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その日の放課後、俺と南は五人の男たちに囲まれていた。それはとある教室に南が呼び出されたことから始まる。

その教室は放課後、生徒が自由に勉強するために17時半まで解放さている自習室となっている。しかし、この学校の生徒が専ら勉強のために使っているところは見たためしがない。最近の学生はカラオケやらオシャレなカフェなどで勉強するらしい。

横文字の呪文みたいな飲み物を片手に雑談することが勉強かどうかは分からないが。また、カラオケでマイク片手に、別のマイクまで持つ女生徒がいるとかなんとか。

え?まだ五時だからダメ?

学則やらその他の規定にそぐわない?

はいはい。安直な下ネタはやめろと言うことですね。分かりました。

俺たちを怒りのこもった眼で見てくる彼らに辟易してしまい、つい思考回路が馬鹿な方向にシフトしてしまったのです。お許しください。

話を戻します。

では、その自習室はいつもはどうなっているのかというと、それは毎度同じ人間が集まり狭い趣味の話をするのです。

そう。

オタクたちが五人ほど集まって、カードゲーム大会をしたり、アニメ話に花を咲かせて青春の一ページに黄土色の文字を綴っていくわけです。

しかし、最近になって変わった光景が見受けられるようになる。

それは、そのオタクたちとは違って、可愛らしい女性が五人ほど集まって部活の相談会を開き始めたことだ。

確かに、今この学校で部活を立ち上げても部室を貰うのは難しい。そのため、この空き教室が最適だったのか彼女らは放課後ここに集まって部活の相談やら、雑談をしている。

それはありふれた生産性のない会話である。

どこそこのスイーツが美味しいとか、何々ちゃんは変な趣味があるとか。多分な百合要素を含んでいながらどこか常識を逸しない程度に抑えた会話である。

急に自分たちの聖域を犯されたと明後日の方向に激怒し、疎ましく思っていたのは先人であるオタクたち五人。

しかし、彼らの一人が言った。

「待て。これはもしかして…………日常系?」

そう。

オタク界隈で有名な日常系アニメ。それはゆるふわ女子たちが特に何もせず、軽い部活やら雑談をしている様を楽しむ深夜アニメ。

ああ。中にはちゃんと部活を頑張っているアニメもあるのであしからず。

彼女らが五人で活動している地域研究部なるものに、オタクたちは淡い夢をみた。

それはオタクたちがいつも見ていた世界だったのだ。

それからはもう、オタクたちは雑談も忘れて彼女らを見ては至福の一時を楽しんでいたのだ。

挙句の果てには、一人一人のあだ名なんてものを考えたり、特徴を掴んだアニメ絵を考えたりしだしたのだから始末に負えない。

そんな有様になっていた自習室に、何を思ったのか間違えて入ってしまったのが俺の親友である南だ。

さぁ。この男。一人で勉強するのか?オタクたちに交じってアニメ話でもするのか?

答えは否だ。

彼は一番選んではならない答えを導き出した。

それは地域研究部の五人の女子に交じってしまったことだ。

それがいけなかった。

このオタクの中での奇妙な不文律を破壊する者。彼らは観測者としてこの事態を楽しんでおり、だれしもその世界に入ってはいけないのだ。
特に男は駄目だ。女性の新キャラさえも時と場合を選ばなければならない。

むつかしい匙加減だ。

彼らにより、この教室の秩序と治安は守られてきたのだ。この教室には基本的に一般の青春を謳歌している部活第一主義者やら、脳みそハッピー放課後遊び隊は来ない。

陰気なオタクと、これまた変わり者の五人の内気少女が住まう需要と供給が奇跡的に重なったユートピアなのだ。

まあ、虹色みたいな髪の毛の奴らが堂々と学生生活を送っていたり、馬鹿に陽気な女子がナード軍団の筆頭に立っているのも疑うべきことだが、それは今追求すべき議題でもないので割愛するとしよう。

そのユートピアは最近になって形成されたそうだ。

彼らに言わせれば安息の地。
彼女らに言わせれば放課後お茶会か。

それらをもろともせず、破壊するイケメンコミュ力モンスターは来てはいけない。

さぁ。ではこの自習室もといユートピアはどうなったのか?

考えなくても分かるだろ?

そう。

彼が五人の女の子の輪に入ったことで、オタクたちは皆、嫉妬のあまり体調を崩し、五人の女子生徒もなぜか裏でバチバチに陰険な戦いを繰り広げる始末。
日常系なんてものはもうない。
教室にくるオタクは南に対して呪詛のような罵詈雑言を小声で言い合い、五人のゆるふわ系は皆、だれを出し抜くかギラギラした目つきで互いを牽制する。
もうそれは誰の手にも負えない地獄絵図へと発展していった。

 

 

 

「なるほど。それはこの人たちが怒るのも分かる。」

そう。俺たちを囲んでいる男たちとは前述の自習室にたむろするオタクの人たちである。

南に恨みを持つ理由も単純明快。彼らの言い分はもう彼女らに近づくなということだ。

しかしながら、もっと早い段階で手を打てたはずである。

だがそこは彼らの弱気な部分があり、急に現れたイケメン相手に脅し文句も言えずズルズルと事態は悪化していき、後手後手に回った挙句、気が付けばユートピアは崩壊寸前にまで追い詰められていた。

そこで、どうにも抑えられず、このようにご丁寧に手紙で場所と時間を指定して、南を呼びだし直談判へと来たわけだ。

俺は南に付いて来て。怖い。と言われたことから今ここにいる。

南は今日、そのオタクたちが怒っている経緯を手紙を読むまで知らなかったそうだ。

自分が呼ばれた理由を理解した南は安堵のため息を漏らした。

幸い今日、この自習室に彼女らはいない。オタクたちは思いのたけをこれでもかと南に対してぶつけられるわけだ。

「はい?お前はどっちの味方だ?西京。」

「いやいや。お前も日常系アニメ観るだろ?やめてやれよ。夢見るオタクを邪魔するのは。」

「いや。観ないな。俺は男の出ないアニメは見ないんだ。」

「なんと。オタクの風上にも置けないやつめ。」

その時、オタクたちの目が輝く。味方が現れたと思ったのか口々に文句を言う。

「そ、そうだ。なんてやつだ。オタクのくせにイケメンなんてゆ、許さない。お前のせいで俺たちの夢は壊れたんだ!!もう日常系も普通に見れない。この後、どうせ大学に言ったらイケメン野郎と付き合ってしま。ゴフン。付き合ってしまうんじゃないかって。純粋な頃のあの子たちはもういない。返せ!!俺たちの夢を返せ!!!!」

太った男は唾を口の両端に溜め、吃音交じりに訴える。

「そうだ!!西京さんの言う通りだ!俺たちオタクが相手を尊重しないでどうする?あんんたは害悪なんだ。俺たちの花園に二度と来ないでくれ!!」

冴えない眼鏡のもやしっ子も細いしゃがれた声で吠える。

そんな中、南は無視して、こちらに問いかける。

「おい。西京。お前。いつからあっち側に付いたんだ?」

「知らねぇよ。とりあえず、もうやめてやれば?ほら。どうせ淡い夢なんだし。そこの大きい人が言ったように大学入ればその地域研究部だったか?その子たちも化粧とか覚えて夜遊びに興じるだろう。そしたら真の日常系になるよ。」

「ぐあぁぁぁぁ!!」

俺は地雷を踏んだのか、一人のオタクは雄叫びを上げて、床に大げさに倒れこんだ。

「どうした!?キャンさん!!」

「いや。すこし西京隊長の言葉が心に来た。俺の心は叫びたが…………ぐえ。」

「キャンさーん!!!」

あまりに芝居じみた一連の流れにため息を漏らしてしまう。いい加減帰りたくなってきた。

「西京。お前いつからあいつらの隊長に就任したんだ?大丈夫か?」

南は南でなんか気分が乗ってきたのかウキウキでこちらを馬鹿にしてくる。もう御免だ。早いとこ、このオタク部屋も出たいしな。

なんで自習室の壁にキャラ絵のタペストリーやら、フィギュアが並んでいるのか。学校側も取り締まれよな。
………あ。あれ俺が欲しかった限定物のやつだ。南を帰らしたらくれたりしないかなぁ。

まぁ。どちらにしても南がもうこの自習室に来ないと約束したら、こいつらも俺らに突っかかってくることはしないだろう。

「いや。奴らのホラを信じるなよ。めんどくさい。…………とりあえず、南が来なくなったらいいのか?」

俺の問いに小柄な眼鏡の男が頷く。

「そうでげす。」

「それ。やめろ。」

「はい。そうです。」

「よし。南。もうやめとこう。ほら、どうせ他校の先輩とか、後輩とかかわいい子は他にもいるんだろ?なんでよりにもよってその地域研究部なんてのをターゲットにするんだよ?」

「いや。なんか新鮮だったんだよ。なに聞いても顔を赤らめて答えてくれるしなぁ。それにアニメの話も出来るし。」

その発言にオタクたちは愕然とし、彼らは南を親の仇のような目で見る。

「くそっ!!俺たちさえも見たことのない彼女らの未知なる表情を見たことあるとか許せない!!!…………えっと写真とかありますでしょうか?日付も覚えていましたら教えください。」

「いや。ないけど。」

南は怯えた様子で返答する。

「さいですか。…………くそっ。もう瀬川写真館も閉まってしまったしどうしたらいいんだ。」

「は?いまなんて言った?」

「いえ……………………なにも。」

「もう嫌だ。あの出歯亀。営業までしてたのかよ。」

なんでも、こいつら瀬川から写真を買っていたそうだ。それほどあの男はその界隈では有名であり、三大神の一人と呼ばれていたとか。あんなのが三人もいるとかこの町は腐敗しているも同然だ。もう異能とか関係なく危ない奴らである。

「とりあえず。南。やめとこう。ほら、今度、亜里沙ちゃんとのデート一緒に行ってやるから。」

南はこの間から亜里沙ちゃんを執拗にデートに誘っていた。

しかし亜里沙ちゃんは南とは二人でどこかに行くことを全力で拒んでおり、北条さんと俺がいると来てくれるのだそうだ。

「え?まじで?」

「うん。行ってやるから。北条さんも誘えば行ってくれるだろ。…………あ。でも東への言い訳は一緒にしてくれよ?」

「ん?どうしてだ?」

「いや。なんか東。北条さんと一緒にいることを聞いたら不機嫌になるからなぁ。」

「そうなのか。わかった。でも、なんで不機嫌になるのかはお前はちゃんと把握してるよな?」

今までお道化た態度であった南が何故か真剣な顔でこちらを見てくる。

「ああ。それは分かっている。」

「そうか。ならいい。…………よし。分かった。亜里沙ちゃんとのデートがあるならもうここに来るのもやめてやる。」

南はその後、あの自習室に行くことを辞めた。

そうして、事態は収束したかに見えた。

しかし、ここから更なる地獄へとオタクたちは落ちていくのであった。

 
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