ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第26話 南くんの初恋②

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文学同好会の教室は本棟にあるものの、東の突き当りに位置し、人通りは極端に少ない。

彼女が人間嫌いなのは昔からだが、だからこそここを選んだのだろうと容易に想像できる。

部室のドアには綺麗な字で文学同好会と書かれた張り紙がしてあり、窓から差し込む日の光が漂う埃を視覚化して、その一角が少し寂しく見えた。

俺は中にいるだろう人物のことを考え、いつも静かに部室のドアを開く。

「あ。今日は来たの?」

彼女はこちらを向かずに本を読みながら声をかけてくる。

「ああ。特に用事もなかったしな。…………久しぶり。」

「ええ。五年ほど会ってなかったような気分だわ。」

俺はいつも通り、彼女の前の席に腰かける。

彼女もまたいつも通り本を読む。

それがゲーテでないのは、まぁ考えれば分かることである。

彼女は五分ほどその本を読み、キリの良いところで海の景色が描かれたしおりを挟んで、パタリと閉じた。

彼女のしおりを持つ手が微かに揺れたとき、いつもなら気にしないその動きが何故か気にかかった。

そうして彼女は俺と話す気になったか、こちらに居直った。

俺は何故か喉がひり付き、痛みを覚えたため、カバンからペットボトルを取り出し、喉を潤した。
その時、ペットボトルに部室の小窓から差し込んだ光が反射して、彼女の額に小さな光を浮かび上がらせていて、少し笑ってしまった。

「ん?なに?」

彼女は話しかけるきっかけを待っていてのかもしれない。

それが彼女にとって話しやすい場を作れたのなら僥倖というものだ。

「いや、なんでもない。」

「そういえば最近は南くんと仲いいみたいね?」

「ああ。まぁ。色々あってな。」

「まあ、友達と仲がいいのは良いことよ。」

「東はいないのか?そういう友達みたいな?」

「んー。……………………南くん?」

「それは俺の友達だ。お前にはやらんぞ。」

「いや、私の友達でもあるでしょ?…………そういえば、この間の悩みは解決した?」

シャクンタラーに加入する前に彼女に不安な自分を吐露して、慰めてもらったことを思いだし、少しばかり気恥ずかしくなって彼女から顔を背けてしまう。

「ああ。…………もう大丈夫だよ。それより、この間の勧めていたアニメ全部見た?」

「ああ。あの日常系ね?見たわ。何故かストーリー性があるわけでもないのに、最終回まで見てしまったわ。きっと疲れていたのね。」

「いや。日常系はそういうもんだよ。社会での疲れを、頭を空っぽにして日常系を観ることで、癒されるんだ。」

「そう?まぁ言いたいことは分かるわ。確かにあれを見ると悩みとかどうでもよくなるわね。」

「そうだろ?また他にお勧めのアニメが見つかったら教えるよ。ああ。そういえば、前に俺が中学校の時に話していた物語覚えてる?」

俺は本題に切り込む。

これは所謂、答え合わせのようなものだ。

「ああ。あの意味の分からない話ね?それがどうしたの?」

「いや。東に話しっぱなしでちゃんと意味を教えてなかっただろ?…………いや。なんていうか。俺とか南はその単語を聞いただけで、おおよそ認識できても一般人はそれを聞いただけではあらぬ方向に誤解をしてしまう内容もあるわけだろ?」

そう。そういった齟齬が生まれるのは分かっていた。しかし東が「そっからどうなるの?」とか「そんな馬鹿な能力意味あるの?」とか聞いてくれるからあの頃の俺はそれが嬉しくていつも彼女に自分の考えた物語を話していた。

「まぁ。それでもいいと思うけれどね。あんなの理解できないし。」

「そうか?普通の男子なら考えそうなことだけどな。授業中とか暇になった時に、教室に殺人犯が攻めてきて、クラスのみんなはパニックに陥るんだ。でも、そんなとき、都合よく俺だけ秘めたる力が目覚めて、そいつを倒して勇者になるとかな。」

「うん。いつもそんな馬鹿みたいなこと言ってたね。」

「まぁ。南は海に行って美女と出会って、イチャイチャする妄想をしていたらしいがな。」

「南くんらしいね。まぁ肇はそんなことよりも中二病全開の妄想ばかりだったね。いつもそんな話ばかりして、この人はこの先、大丈夫なのかと心配になったわ。」

「いや、ロマンがあるだろ?」

「まぁ今も変わってないから本当にこの人はどうしようもない人なんだって諦めもついたけれど。」

彼女は飽きれた様子で本のしおりの端をいじりながら、困ったように眉を下げていた。

「まぁ。どうだろう。変わった部分もあるにはあるのかもしれないな。」

俺は照れ臭くなって、彼女から目線を外す。

昔からの知り合いに面と向かって自分のことを言われるのはやはり恥ずかしいものなのだ。

「そういえば、なんであの肇の考える話の主人公はいつも意味の分からない枷があったの?そんなに最強、最強と言うならそんな物ない方が良いでしょ?」

「ああ。それはその方がカッコいいからだな。枷があったほうが燃えるんだ。」

「そんなものかしら?」

「そんなものだよ。それでその枷を乗り越えると真の最強になるわけだな。」

俺が自慢げに垂れる空想の話を東はジト目で聞いていた。それからはしょうがないから質問してやるかと彼女の質問タイムが始まるのはいつものことだ。

「後、なんでいつも一人だけが主人公なんだろうって。普通、そんな世界の危機とかに陥ったら他にも名乗りを上げて、一緒に戦うみたいな展開があるんじゃないの?その主人公だけが強いってのも疑問ね。」

「誰しもが物語の主人公になりたいんだよ。自分だけが強いってのはやっぱり特別感があっていいだろ?…………現実世界では特に自分が特別でもなんでもないから、物語でくらい特別な人になりたいんだよ。」

「そんなものかしら?普通の人でも本人が知らないだけで特別な部分はあると思うけれど?」

「往々にしてそういう人は自分の魅力には気が付かないものなんだよ。」

「そういうものなのね」と東は未だ納得していない様子で、本の表紙を指でなぞっていた。

俺は小休止にペットボトルに手を伸ばす。

「でも、あの話の悪魔とか鬼の力とか。天使がどうとか。自分は救世主だとか。今考えても頭が悪そうよね。なんでそんなものと戦うのがカッコいいのか未だに理解できないわ。」

ふと彼女が漏らす。

「そうそう。その話だよ。いいか東。あの鬼の手の棘あるだろ?あれは…………」

俺は飲もうと思ったペットボトルを手元に置き、彼女の話に食いつき、そこからまた妄想の話を始める。

それはいつもどおりの俺たちの会話だ。

全部、昔から俺が彼女に話してきた中二病的な話だ。

内容は俺が救世主で、終わりかけた世界を救う話。こんなことが有ったら俺はこうするといった途方もなく馬鹿な話だ。

それを俺は彼女に吹き込んできたのかもしれない。

だからそんな話から齟齬が生まれたことは、しょうがないことなのかもしれない。

俺たちが下らない会話をしていたら、もう外は赤色に燃え上がっており、夕日が射していた。

「もう、帰ろっか。」

「そうだな。」

俺が先に部室をでて、彼女を待つ。

彼女は部室の点検をし、忘れ物がないか見て、部室を出る。いつもこのチェックを怠らないところが彼女らしい。

「なぁ。」

「ん?」

「なにか俺に隠していることないか?」

「はい?なにを?」

「いや。ないならいい。」

俺の突然の問いに彼女は一瞬困った顔をしていたが、すぐに俺が真剣に問うていることを悟ると、その表情を変えた。

そして、何か決心がついたのか、その大きな双眸が俺を捕えた。

「…………今はまだ言えないけど。でも時期がきたら言うね。…………肇は?何か困っていることない?」

「俺もそれは時期がきたら言うよ。」

「そっか。」

「うん」

また俺たちは下らない話を始めて帰路に就く。

お互いに大事な言葉は胸にしまって、またどうでもいい話でお互いの時間を埋めていくのだ。

 

 
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