ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第25話 南くんの初恋①

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その子に会ったのは幼稚園児の頃だ。

確か桜が咲いていた時季だったと朧げながら記憶にある。
特に桜を見て感傷に浸るような年頃でもなかったが、彼女を背景に満開の桜が子供心に美しいと見えた。

彼女はいつも笑っていて、その笑った顔がお日様みたいで、見るとこちらも晴れやかな気持ちになれたのを覚えている。

本当に綺麗に笑う子だった。

絵画みたいな整った顔が笑えば、その日の嫌な事もすべて綺麗さっぱり忘れてしまうほど。

だから、彼女の顔を見るのが本当に好きだった。

その愛くるしい仕草と相まって、彼女の容姿も声も好きになっていった。

思えば、それが初めて人を好きになった瞬間だったのかもしれない。

その後、彼女とは中学校で一度、離れ離れになった。

次に彼女に会ったのは高校一年生の頃だ。

見た瞬間、彼女だと気が付いた。

頭で考えるよりも早く、心が跳ねた気がしたのだ。

小学校時代の同級生の顔なんてもうほとんど覚えていないが、何故か彼女のことはすぐにわかった。

その人を一目見ただけで心臓が高鳴り、顔が赤くなっていないか心配になったぐらいだ。

彼女はやはりあの時と同じように顔全体で笑っているような普段大きく見開いた二重の目の端にクシャッと皺を寄せ、小さな口が三日月のように綺麗な曲線を描く、見ているこちらも自然と笑みが零れてしまう笑顔だった。

昔と違う点は、短髪だった髪が腰まで伸びており、その艶やかな髪に大人びた女性の佇まいを身に着けたことだろうか。

それは幼少期とは違った魅力を放っており、少しこちらが気後れしてしまうほどだった。

そのうち、彼女は何故か高校に来なくなった。彼女が不登校になる前、ちょうど一カ月ほど前に彼女と同じクラスの子が一人不登校になっていたことが原因かもしれない。

しかし、その頃には全く接点のなかった俺は彼女が不登校になった本当の理由は分からなかった。
それを他人事ながら心配ではあった。

しかし、何故か俺は自ら彼女に近づこうとは一切しなかった。会って話がしたかったのに。

それは他に大切なことがあったのだ。

初恋の彼女に声をかけるよりも大切なことが。

それが何かはもう思い出せないが、だから俺は西京と東の隣にいようと思った。

何故か離れると心配になるのだ。

もう彼らもそんな心配になるような歳でもないのは百も承知だが、どうにも心が休まらない。

また、あんなことになればと考えると、手が震えて、何も手に付かなくなる。

そんなことがあって、俺は今もこうやって先輩やら、後輩の女子と遊んでいるのかもしれない。

 

 

 

「南くん。楽しい?」

映画を見終わって、カフェに行くという最大公約数的なデートプランを採用した二個上の先輩は帰り際、俺に聞いてきた。

「え?楽しいですよ。先輩みたいな美人といて楽しくない男はいないでしょ?」

「ありがとう。私も貴方みたいな綺麗な顔の子は好きよ。でも。本当に楽しい?」

「はい?それはまたどういう?」

「いえ。南くんはいつも呼べば来てくれるよね。それでいて、いつも楽しそうに一緒にいてくれる。でも、いつも何を言っても笑ってくれるけど、本当は楽しくないんじゃないかって。」

「いえいえいえ。楽しいですよ。僕、映画も好きですし。なにより美人と出かけるのは楽しいでしょ?杏奈先輩みたいな内面も可愛い人ならなおさら。」

いつものように彼女の目を見る。

これで大概は、その気になってこういったまどろっこしい話は終わりになる。

しかし、彼女は俺から目を逸らした。

「うん。ありがとう。でも、本当は楽しくないでしょ?何故だか私には貴方がそう見えるの。」

「なんなんですか?その話は長くなりそうなので今日はやめましょうよ。」

彼女は目を一瞬外に逃がすと、改めてこちらを見た。

その瞳は知っている。

もう会えないっていう目だ。

「えっと。私。好きな人が出来たの。だからもう会うのはこれきりにしましょう。」

「ああ。そうなんですか。…………それは残念です。」

俺は不貞腐れたように下を見る。

しかしまたすぐに別の子の処に行こうと考えている自分が酷くちっぽけな存在に思えた。

彼女はそんな俺の見え透いた考えに気がついているのか、再度俺に問う。

「うん。私はすごく残念に思っているわ。でも、南くんはどう?」

「え?」

「いえ。これは私が言っても意味がないわね。その他大勢と一緒でしょうし。でも、少しでも時間をともにしたから、言わせてほしい。」

「はぁ。なんですか?」

「君はちゃんと好きな人を探した方が良い。貴方は本来、こういうことをする人でもないでしょ?でも…………だから他の子も貴方を求めるのかもしれないわね。」

「はぁ。まぁ考えおきます。」

そんなことは貴方に言われなくても、俺が一番分かっていることですよ。

でも俺はモテるんです。

一人なんて勿体ない。

それに…………?

それになんなのだろうか。これは情報操作の一環か?

そんな物、もう必要ないだろう。いつまで言い訳しているんだ?それを免罪符に何人の子を泣かしてきたのか?

罪悪感なんてこれっぽっちもないといった顔で生きて、またそれを重ねるのだろうか。

いや、これはそれほど深刻な問題か?

こんなクズはそこら中に沢山いるだろう。何も俺に限った話ではない。誰にも文句を言われる筋合いはない。

勿論、この女にも俺の行動に文句をつける権利はない。

なんだろう。言い訳を列挙しているようだ。

何故か頭の中で錯綜する思いに、苛立ちを覚え、彼女とはその後すぐに別れた。

何故だろう。

俺は何故こんなことになっているのだろう。

昔は桜並木を彼女と歩くだけで幸せを感じていたのに。

今はより多くの女性と夜の街を歩いて、ふと寂しくなる。

 

 

 

「何を読んでるんだ?南?」

なにやら南が仰々しい顔つきで小冊子を読んでいた。

彼が勉強をしているところなど今まで一度も見たことがないのでつい聞いてしまう。

「ああ。これか?植木さんにもらった。ファウストの社報だな。どうやって手に入れたのやら。まぁつまらんから西京にやるよ。」

「は?いらねぇよ。こんなもん。」

俺は嫌々ながらもそれを受け取り、暇つぶしに目を通してみる。

 

「ファウストのトップである団長ファウストはファウスト脱退の意向を示した。ファウストが立ち上げた秘密結社ファウストはファウストの独裁政治によりその形態をこの数年で大きく変容させ、社の人間も増える一方である。しかし近年、ファウストも団体ファウストの実権を握っているとは一概に言えなくなってきた。ファウストはファウストの動きを疑問視する面が多々見られると先月の社報で訴えたのだ。

関係者筋の見解では「ファウストさんがファウストを辞めるかどうかは現段階では断言できない。ファウストはファウストさんなしではその組織を継続していくことは困難だろう。しかしながら、ファウスト自身が辞めたいというなら私たちファウストもそれを受け入れなければならない。」」以後省略。

 

「ほぉ。ファウストのトップってファウストって名前なのか。…………ってかなんだこれ。ロックバンドのニュースみたいだな。一ミリも内容が入ってこないんだが。」

「知らねぇけどファウストも内部は荒れているようだな。まぁ、こんなアホみたいなニュースを社報で流しているなら多分嘘だろうが。なんのためにこんな社報流したんだか。」

俺はその小冊子に興味をなくし、南に突き返す。

南はその小冊子に一瞬、目を通したがすぐにカバンにしまった。俺は彼の動向を見ながら、この間思い出したことを彼に言おうか迷いながらも、どうでもいいことを問う。

「この後、予定があるのか?」

「ああ。なんか不登校児にプリントやらなんやらを持って行かなければならなくなった。面倒なことだがな。」

「そうか。」

俺は興味もなさそうに空返事をする。しかし、南は何故か俺の目を興味深そうに眺めていた。

「なぁ。西京。」

「ん?」

「なんかお前。目がいつもより座ってないか?どうした?何かあったか?」

「なんだ?お前は藪から棒に。俺の彼女かなんかか?」

「いや、目に付いてな。」

「まぁ。なんだ。もう少ししたら時期をみて話さなくちゃいけない事ができた。あと…………。」

俺の言葉を南は手で制する。

「そうか。いや。それなら聞かねぇよ。また教えてくれ。」

「お、おう。いや、後。もし次に異能者に出会うようなことがあれば即座に逃げろ。」

「は?」

「いや。だから異能者に会うなよ。」

南は不可解な目で俺を見ながら、眉間に皺を寄せる。

「だから、なんでだ?」

「いや。これは俺の勝手な想像だが、もし次に異能者が出てくるなら、そいつは多分、南の異能では太刀打ちできないやつだ。」

「ん?…………なんでそんなことお前に分かるんだ?宣言で調べたのか?」

「いや。宣言は使ってない。でも分かるんだ。火やら鬼やら、悪魔が出たってことは次に来るのは高確率であの異能だ。」

「ん?なんだそのストックの残りを確認するみたいな予想は?お前は何を知ってる?」

「いや。今は言えない。だが、次に来る異能は高確率で精神系の異能だよ。」

「精神系?」

「運が悪ければ精神崩壊の異能者かもな。相手の精神やら記憶を操る能力者だ。…………うん。俺なら次にこれを思いつくだろうな。」

「ん?まぁ。よくわからないが、気を付けるよ。」

そうして、俺は南を見送り、文学同好会の部室に向かった。

 

 

 

 

 
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