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第2章 シャクンタラー対ファウスト
第24話 凍てつく教室③
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背後に立つ悪魔の男は俺たちに向かってその肥大した黒い手を振り下ろす。
南は俺を自分の体と共にテレキネシスで横に飛ばし、それを避ける。
俺たちがいた床はベキッと鈍い音を立てて奴の手がめり込んでいた。
あんなものを食らえば、俺たちの体もあの床と同じようにひしゃげて、当てられた部位は粉砕されていただろう。
避けれたことに安堵する暇もなく、そこに炎の玉が飛来するも、南が弾き返す。
唖然とした顔でこちらを見ている悪魔と細身の眼鏡男。
やつらは一連の流れで南が異能者だと分かったのか、困惑し固まっている。
いやいや、普通のやつにこんな攻撃したらもう死んでるだろ?
それほど、こいつらは頭のネジが飛んじまっているらしい。
どれだけピン毛が好きなんだ?こいつらは。
さて、このオタク異能者たちを前にして、一度異能を整理しようと思う。
なぜか違和感があるからだ。
この異能者たちは今までの異能者たちとは違う気がしたのだ。
それはいつも感じていたあの事件に関する違和感に酷似していた。
しかし件の頭痛というよりももう手の届きそうなところに答えがある気がしてむず痒い感じだった。
別に焦ることはない。
冷静に考えろ。
この凍てつく部屋には俺らのほかに誰もいないのだから。
彼らもそれを理解しているからこそ異能を行使しているのだろう。
小柄な眼鏡のやつがピーピング能力。超聴覚で多分この学校の範囲でなら音をほぼ聞き取れるのだろう。
そして太った大柄な男は氷を操る能力。今、この教室が氷点下まで冷え切っているのもこの男の異能だろう。
自習室は凍てつき、窓も白く靄がかかったようにボヤけている。足元から冷え込み、腹の弱い俺にとって奴は天敵だ。俺は冷え込むとすぐお腹が痛くなるのだ。俺がヒロインなら死ね死ね早よ死ねと宣っているだろう。
新たにもやしっ子眼鏡が炎を操る異能。誰かは分からないが悪魔に変化する異能者。なるほど、この悪魔を見て、先ほどあの氷使いに対してあんな酷い言葉を思い出したのかもしれない。
そして最後に痺れるほど格好いい声のロン毛のシャイなアンちゃんが手から棘を飛ばす異能。いや、あの手は何かに似ている。あの色。あの形。もしかして鬼の能力かもしれない。
ここまでくると異能ってよりもファンタジーの世界だ。
その時、嫌な既視感が俺を襲う。
肌で感じるそれはおそらく俺に近く関わってきた何かなのだろう。
しかし正確には分からない。
いや。分かっていたことだが、この異能者であふれる世界は何かが決定的に欠落している。
それを言語化できないのは俺の偏差値が低いからなのだろうか?
にしても、これはどこかで見たことがある。というよりも……………………。
「…………おい。おい!西京!どうするんだ!?早くいつもみたいに宣言をして終わらせろ!」
流石に五人の異能者を前に焦っている南の怒号が飛んでくる。
しかし、この既視感の正体がどうしても知りたくなった。
これはもう放置していて良いことではない気がするのだ。
「いや。待ってくれ。もう少しあいつらの異能を見たい。というよりもあのロン毛の異能が気にかかる。南。ちょっとあいつに攻撃してみてくれ。」
「は?お前。無理いうな。流石に五人一辺に相手すんのは厳しいぜ。…………まったく。」
そう言いつつも南は手前にあった机と椅子を異能により宙に浮かすとロン毛に向かって投げ飛ばした。
ロン毛は急な攻撃に戸惑い、自分の手で顔を覆う。
そこに悪魔が咄嗟に飛び込みロン毛を庇う。勉強机と椅子は悪魔に当たると鈍い音を立てて、床に落ちた。悪魔は特に外傷もなく、笑みを浮かべている。
そして、報復とばかりにロン毛はこちらに態勢を立て直し、棘を飛ばしてくる。
南はそれらをすべて弾き返し、もう一つ、飛来してきた炎の玉も難無く弾き飛ばす。さっきから炎使いは単体では攻撃せず、人の攻撃に便乗してばかりである。地味にムカつくなぁ。
南もそう思ったのか、またこちらに放たれた火の玉を上手く操り、逆に細身の眼鏡に投げ返す。
しかし、それも悪魔により塞がれた。
細身眼鏡に対し嫌な気持ちになりながらも、そのロン毛の行動にやはり違和感を持つ。
奴の行動はおかしいのだ。
なぜロン毛は自分の異能で今の南の攻撃を防御しないのだろう?
あいつの異能は棘を飛ばすだけの欠陥異能か?
彼の腕は棘が出た後、皮膚を破った棘の影響からか血が滲み、何故か太い血管のような管が巻き付いている。そして彼の顔は長い髪の毛からチラチラと見え隠れしているが、なぜか額から赤い角が生えているのだ。
なんだあれは?あれでは正真正銘、鬼ではないか。
いや。前から一つおかしな点があった。
初めて会った異能者は炎の龍を操っていた。
次の奴はテレキネシス。次に影を操る奴。そいつは身体向上もあったか。そして、紫電にテレキネシス、テレポートにアポート。ペタはなんの異能かもう忘れてしまった。
異能者。所謂、超感覚など。そう言ったものはサイコキネシスやらテレキネシス、テレポートが一般的な異能ではないだろうか?
それに対して前述に挙げていたやつらは少し毛色が違う気がする。
人体発火はまだパイロキネシスと定義付けされており分かる部分もあるが、紫電とか今回の氷やら悪魔。
それに決定的なものは鬼の力。これはおかしい。
これは俺の主観だが、ああいった鬼の力ってのは部分的にその力が見えるから恰好良いものだと思っていた。しかし、これは受け取る人によるのかもしれないが。
「おい。南。」
「あ?今。忙しいんだ。早く宣言しろよ!!」
彼は炎やら氷柱を弾き飛ばしながら、俺の問いに答える。
氷柱を飛ばすだけの安直な異能使い。これはどうだろう。
何か物足りない。それだけの氷柱を飛ばせるなら、地面から急に巨大な氷を発現させることも容易ではないだろうか?
あと、この地味に部屋が寒くなる異能。特に攻撃性のある異能ではない。
なんだこれは?俺の腹単体に対しての攻撃異能か?
オプションの技にしては効果がなく、単なる飾りみたいだ。いや、攻撃出来ないのか?それは想像の範囲外ってか?
紫電を利用した早業に紫電を前に打ち抜く異能。これはどうだ?うん。これはそう考えるのも頷ける。あれは最近アニメを見始めた人でも目にしていたものかもしれない。
ここまでくると、もう分かった気がする。
俺は最終確認で南に問う。
「お前。鬼の異能って自分が使うならどうする?あんな感じの奴を想像するか?」
俺が指さす方向にはロン毛の額から角を生やした苦悶の表情でこちらを窺う男がいる。
「いや、俺ならもっとスマートな感じを想像するな。もっと限定的な部分で鬼を表現する異能のが格好いい。」
「そうか。俺寄りの意見ありがとう。俺等ならそう考えるよな。中二病だしな。でも、それって普通の人ならもっと違う。見るからに鬼ってやつを想像すると思うんだ。例えば、酒呑童子みたいな。餓鬼とかでもいい。そういった古典的な鬼を。ほら。あいつみたいな。」
前に視点を移すと、ロン毛の彼はもう見るからに鬼の顔になっていた。目は切れ長になり、牙が頬を突き破って露出しており、ロン毛の中から角が見え隠れする。それは鬼そのものであった。
「でも、そんな鬼の攻撃方法とか考えつかないよな?あの悪魔もそうだ。俺等なら悪魔は闇魔法を操るみたいなオプションまで考えるんだ。鬼なら鬼しか使えない妖術的なやつな。奴らはあんな恰好をしていながら、ほぼ物理で訴えてくる。おかしいじゃないか?」
「おい!!お前はさっきから何を言ってる!?いいから宣言しろよ。こいつら波状攻撃をしかけてくるぞ!!!」
南は前からくる炎の指弾を退けると、すぐに横からくる棘の攻撃を弾く。それは踊っているように前から手を回し、横に振り切り、次にもう片方の手を後ろから前に振りきる。その軌跡に異能の壁を作って、奴らの攻撃を全て遮断するのだ。
「このや、野郎。食らいやがれ!!」
太った男は野太い声ともに、再度氷のつぶてを南に飛ばす。それに呼応するように細い眼鏡の彼も炎の玉を投げつける。そこに棘も混じって飛んでくるものを南は一気に弾き、後ろに現れた悪魔の腹に異能を乗せたジャブを放つ。
「ぐふっ!!」
機械音のような奇妙な声が悪魔から漏れる。
オタク組は意外な強さを誇る南に怯えた様子である。
…………もうすべて見れた。
これは俺の考えが正しければ、すべて作為的なものによる何かだ。
その時、なにかが頭の中で切れたような気がした。
ああ。なるほど。
ようやく理解できた。
しかし、これだけでそう断言してしまうのは些か無理があるだろう。
だが、これは今起きた事象だけを切り取って断定したわけではない。
俺の記憶に裏打ちされた真実なのだ。
俺は単に記憶が戻ったのだ。
そう全ては始まりに戻ったに過ぎないのだ。
だから俺は今ここにいるのか。
そう漠然と思ってしまった。
だから高校二年生の俺はここにいると。
いまここにすべての記憶が戻ったのだ。
管を巻いていた蛇が再び俺の頭で蜷局を解いて、這いまわる。
そして、最終的にすべてはあそこに帰属する。
…………すべての始まりはやはりあの事件だったのだと。
「すまない。…………もう大丈夫だ。こいつらは異能を失う。」
「はい!!承認!!!」
その瞬間、すべては無に帰した。
炎も氷も、悪魔も鬼もすべて消え去る。
彼らは動きを止め、失神したように床に倒れこむ。
異能を失い記憶の削除を起こったことにより一時的に気を失ったのだろう。副作用みたいなものである。
自習室は机も椅子もそこら中に転がっており、窓ガラスも何枚か割れていた。そこに彼らを寝かせて帰る俺たちは非情なのかもしれないが、彼らにはそれ相応の罰が必要だろう。
置いて帰るに限る。
彼らが倒れこんでいる様を見ながら俺は全く別のことを考えていた。
それは、中学二年生の時の事件から、今に至る記憶。
そしてなぜ今、こんなことになっているのか。
ああ。簡単に分かることだったのかもしれない。
導き出した答えは、これはすべて作為的な何かだということ。
誰かは分からない。その誰かさんは確かにそれらに詳しくないのかもしれない。それでいて何かを変えたかったのだろう。
その人物が誰かはおおよその目処はついている。
まるで俺のようだ。
しかし、そこには白く靄がかかったように、顔が見えない。記憶の断片はつながっているのに、そこだけ穴が開いたように見えない。
しかし頭痛もなくなった。
こないだまで俺の頭を悩ませていた問題は全て解決した。
まるで絡まった糸がほどけるように明快にその答えにたどり着いた。これは異能の規制を誰かが解いたせいだ。
それは譲渡の規制に対して、誰かが故意かは知らないが解いたことに起因するのだろう。
しかしながら、それを知ると同時に吐き気がする。
だから、俺はあの事件をこれほど嫌悪していたのか。それは知らないほうが幸せな内容だったのかもしれない。そう納得してしまう。それは奴らを死ぬほど憎む気持ちも頷ける。
にしても、なんだこれは?
こんな異能は欠陥だらけだ。
宣言?承認?
誰かに許しを貰う異能なんて馬鹿げている。
ならば誰に許しを貰うべきなんだ?答えが分からない。
この異能の完成品ってのはもっと複雑なものだった。
もっと思考に思考を重ねて、推考し、そして掴むべき未来のために血反吐を吐きながら行使する異能だ。
そんな欠陥だらけの宣言だけで成し遂げられるようなものではない。
今、それを持っている奴はえらくファンシーな頭の持ち主なのだろう。
すべてを無に帰す悪魔の魔法。ラプラスの悪魔?いやいや。そんなものではない。
未来は無理だろう。未来ってのは置き換えれば今現在だ。日々、その一分一秒で変化していくものだ。
ならば過去を?
そうご名答。それは過去を塗り替える異能。過去を都合よく変える万能異能だ。
いや。変えるってのは違うだろう。
それは作り変える異能なんだ。
そうだな。
もし呼び名を付けるなら
「ワールドメイク」
ってのはどうだろう?
いや。いいな。
実に中二病って感じのアホなネーミングセンスだ。
それで、そんな大層な異能で何をするんだ?
世界を救うか?過去の戦争をなくす?手当たり次第に事件、事故を探してすべてをなかったことにするのか?
いや。違う。
たった一つの事件をなかったことにするために使ったのだ。
それだけのために何度も、何度も行使した。
最後にそれに縋るしかなかったのだ。
俺はそれだけのためにそのバカげた異能に頼って、今ここにいるのかもしれない。
そこから、あの自習室が地域研究部の部室になるまで時間はかからなかった。彼女らは知らない間にあそこを自分たちのものにするべく画策していたようだ。オタクたちは行く当てを失い、今はまた普通に集まる場所を探して、そこで遊んでいるのだろう。もちろん、自分たちが異能者だったこともすっかり忘れて。
「で。その後、あの地域研究部とは連絡とったのか?」
「いや。なんかあの背の高い金髪に怒られてそれっきり、会ってない。もう会うこともないだろう。生田さんも俺に会いに来て、もう連絡を取るのをやめましょうってよ。」
「なるほど。すっきり解決だな。」
「は?俺の気持ちは?」
「ああ。はいはい。次は本物の恋でも探してみたらどうだ?」
「はっ。いらなねぇよ。そんなもの。」
そうして不貞腐れた南を俺は慰めるために、亜里沙ちゃんとのデートの機会をちゃんと作ってやった。
特に何の進展もなかったが。
南は俺を自分の体と共にテレキネシスで横に飛ばし、それを避ける。
俺たちがいた床はベキッと鈍い音を立てて奴の手がめり込んでいた。
あんなものを食らえば、俺たちの体もあの床と同じようにひしゃげて、当てられた部位は粉砕されていただろう。
避けれたことに安堵する暇もなく、そこに炎の玉が飛来するも、南が弾き返す。
唖然とした顔でこちらを見ている悪魔と細身の眼鏡男。
やつらは一連の流れで南が異能者だと分かったのか、困惑し固まっている。
いやいや、普通のやつにこんな攻撃したらもう死んでるだろ?
それほど、こいつらは頭のネジが飛んじまっているらしい。
どれだけピン毛が好きなんだ?こいつらは。
さて、このオタク異能者たちを前にして、一度異能を整理しようと思う。
なぜか違和感があるからだ。
この異能者たちは今までの異能者たちとは違う気がしたのだ。
それはいつも感じていたあの事件に関する違和感に酷似していた。
しかし件の頭痛というよりももう手の届きそうなところに答えがある気がしてむず痒い感じだった。
別に焦ることはない。
冷静に考えろ。
この凍てつく部屋には俺らのほかに誰もいないのだから。
彼らもそれを理解しているからこそ異能を行使しているのだろう。
小柄な眼鏡のやつがピーピング能力。超聴覚で多分この学校の範囲でなら音をほぼ聞き取れるのだろう。
そして太った大柄な男は氷を操る能力。今、この教室が氷点下まで冷え切っているのもこの男の異能だろう。
自習室は凍てつき、窓も白く靄がかかったようにボヤけている。足元から冷え込み、腹の弱い俺にとって奴は天敵だ。俺は冷え込むとすぐお腹が痛くなるのだ。俺がヒロインなら死ね死ね早よ死ねと宣っているだろう。
新たにもやしっ子眼鏡が炎を操る異能。誰かは分からないが悪魔に変化する異能者。なるほど、この悪魔を見て、先ほどあの氷使いに対してあんな酷い言葉を思い出したのかもしれない。
そして最後に痺れるほど格好いい声のロン毛のシャイなアンちゃんが手から棘を飛ばす異能。いや、あの手は何かに似ている。あの色。あの形。もしかして鬼の能力かもしれない。
ここまでくると異能ってよりもファンタジーの世界だ。
その時、嫌な既視感が俺を襲う。
肌で感じるそれはおそらく俺に近く関わってきた何かなのだろう。
しかし正確には分からない。
いや。分かっていたことだが、この異能者であふれる世界は何かが決定的に欠落している。
それを言語化できないのは俺の偏差値が低いからなのだろうか?
にしても、これはどこかで見たことがある。というよりも……………………。
「…………おい。おい!西京!どうするんだ!?早くいつもみたいに宣言をして終わらせろ!」
流石に五人の異能者を前に焦っている南の怒号が飛んでくる。
しかし、この既視感の正体がどうしても知りたくなった。
これはもう放置していて良いことではない気がするのだ。
「いや。待ってくれ。もう少しあいつらの異能を見たい。というよりもあのロン毛の異能が気にかかる。南。ちょっとあいつに攻撃してみてくれ。」
「は?お前。無理いうな。流石に五人一辺に相手すんのは厳しいぜ。…………まったく。」
そう言いつつも南は手前にあった机と椅子を異能により宙に浮かすとロン毛に向かって投げ飛ばした。
ロン毛は急な攻撃に戸惑い、自分の手で顔を覆う。
そこに悪魔が咄嗟に飛び込みロン毛を庇う。勉強机と椅子は悪魔に当たると鈍い音を立てて、床に落ちた。悪魔は特に外傷もなく、笑みを浮かべている。
そして、報復とばかりにロン毛はこちらに態勢を立て直し、棘を飛ばしてくる。
南はそれらをすべて弾き返し、もう一つ、飛来してきた炎の玉も難無く弾き飛ばす。さっきから炎使いは単体では攻撃せず、人の攻撃に便乗してばかりである。地味にムカつくなぁ。
南もそう思ったのか、またこちらに放たれた火の玉を上手く操り、逆に細身の眼鏡に投げ返す。
しかし、それも悪魔により塞がれた。
細身眼鏡に対し嫌な気持ちになりながらも、そのロン毛の行動にやはり違和感を持つ。
奴の行動はおかしいのだ。
なぜロン毛は自分の異能で今の南の攻撃を防御しないのだろう?
あいつの異能は棘を飛ばすだけの欠陥異能か?
彼の腕は棘が出た後、皮膚を破った棘の影響からか血が滲み、何故か太い血管のような管が巻き付いている。そして彼の顔は長い髪の毛からチラチラと見え隠れしているが、なぜか額から赤い角が生えているのだ。
なんだあれは?あれでは正真正銘、鬼ではないか。
いや。前から一つおかしな点があった。
初めて会った異能者は炎の龍を操っていた。
次の奴はテレキネシス。次に影を操る奴。そいつは身体向上もあったか。そして、紫電にテレキネシス、テレポートにアポート。ペタはなんの異能かもう忘れてしまった。
異能者。所謂、超感覚など。そう言ったものはサイコキネシスやらテレキネシス、テレポートが一般的な異能ではないだろうか?
それに対して前述に挙げていたやつらは少し毛色が違う気がする。
人体発火はまだパイロキネシスと定義付けされており分かる部分もあるが、紫電とか今回の氷やら悪魔。
それに決定的なものは鬼の力。これはおかしい。
これは俺の主観だが、ああいった鬼の力ってのは部分的にその力が見えるから恰好良いものだと思っていた。しかし、これは受け取る人によるのかもしれないが。
「おい。南。」
「あ?今。忙しいんだ。早く宣言しろよ!!」
彼は炎やら氷柱を弾き飛ばしながら、俺の問いに答える。
氷柱を飛ばすだけの安直な異能使い。これはどうだろう。
何か物足りない。それだけの氷柱を飛ばせるなら、地面から急に巨大な氷を発現させることも容易ではないだろうか?
あと、この地味に部屋が寒くなる異能。特に攻撃性のある異能ではない。
なんだこれは?俺の腹単体に対しての攻撃異能か?
オプションの技にしては効果がなく、単なる飾りみたいだ。いや、攻撃出来ないのか?それは想像の範囲外ってか?
紫電を利用した早業に紫電を前に打ち抜く異能。これはどうだ?うん。これはそう考えるのも頷ける。あれは最近アニメを見始めた人でも目にしていたものかもしれない。
ここまでくると、もう分かった気がする。
俺は最終確認で南に問う。
「お前。鬼の異能って自分が使うならどうする?あんな感じの奴を想像するか?」
俺が指さす方向にはロン毛の額から角を生やした苦悶の表情でこちらを窺う男がいる。
「いや、俺ならもっとスマートな感じを想像するな。もっと限定的な部分で鬼を表現する異能のが格好いい。」
「そうか。俺寄りの意見ありがとう。俺等ならそう考えるよな。中二病だしな。でも、それって普通の人ならもっと違う。見るからに鬼ってやつを想像すると思うんだ。例えば、酒呑童子みたいな。餓鬼とかでもいい。そういった古典的な鬼を。ほら。あいつみたいな。」
前に視点を移すと、ロン毛の彼はもう見るからに鬼の顔になっていた。目は切れ長になり、牙が頬を突き破って露出しており、ロン毛の中から角が見え隠れする。それは鬼そのものであった。
「でも、そんな鬼の攻撃方法とか考えつかないよな?あの悪魔もそうだ。俺等なら悪魔は闇魔法を操るみたいなオプションまで考えるんだ。鬼なら鬼しか使えない妖術的なやつな。奴らはあんな恰好をしていながら、ほぼ物理で訴えてくる。おかしいじゃないか?」
「おい!!お前はさっきから何を言ってる!?いいから宣言しろよ。こいつら波状攻撃をしかけてくるぞ!!!」
南は前からくる炎の指弾を退けると、すぐに横からくる棘の攻撃を弾く。それは踊っているように前から手を回し、横に振り切り、次にもう片方の手を後ろから前に振りきる。その軌跡に異能の壁を作って、奴らの攻撃を全て遮断するのだ。
「このや、野郎。食らいやがれ!!」
太った男は野太い声ともに、再度氷のつぶてを南に飛ばす。それに呼応するように細い眼鏡の彼も炎の玉を投げつける。そこに棘も混じって飛んでくるものを南は一気に弾き、後ろに現れた悪魔の腹に異能を乗せたジャブを放つ。
「ぐふっ!!」
機械音のような奇妙な声が悪魔から漏れる。
オタク組は意外な強さを誇る南に怯えた様子である。
…………もうすべて見れた。
これは俺の考えが正しければ、すべて作為的なものによる何かだ。
その時、なにかが頭の中で切れたような気がした。
ああ。なるほど。
ようやく理解できた。
しかし、これだけでそう断言してしまうのは些か無理があるだろう。
だが、これは今起きた事象だけを切り取って断定したわけではない。
俺の記憶に裏打ちされた真実なのだ。
俺は単に記憶が戻ったのだ。
そう全ては始まりに戻ったに過ぎないのだ。
だから俺は今ここにいるのか。
そう漠然と思ってしまった。
だから高校二年生の俺はここにいると。
いまここにすべての記憶が戻ったのだ。
管を巻いていた蛇が再び俺の頭で蜷局を解いて、這いまわる。
そして、最終的にすべてはあそこに帰属する。
…………すべての始まりはやはりあの事件だったのだと。
「すまない。…………もう大丈夫だ。こいつらは異能を失う。」
「はい!!承認!!!」
その瞬間、すべては無に帰した。
炎も氷も、悪魔も鬼もすべて消え去る。
彼らは動きを止め、失神したように床に倒れこむ。
異能を失い記憶の削除を起こったことにより一時的に気を失ったのだろう。副作用みたいなものである。
自習室は机も椅子もそこら中に転がっており、窓ガラスも何枚か割れていた。そこに彼らを寝かせて帰る俺たちは非情なのかもしれないが、彼らにはそれ相応の罰が必要だろう。
置いて帰るに限る。
彼らが倒れこんでいる様を見ながら俺は全く別のことを考えていた。
それは、中学二年生の時の事件から、今に至る記憶。
そしてなぜ今、こんなことになっているのか。
ああ。簡単に分かることだったのかもしれない。
導き出した答えは、これはすべて作為的な何かだということ。
誰かは分からない。その誰かさんは確かにそれらに詳しくないのかもしれない。それでいて何かを変えたかったのだろう。
その人物が誰かはおおよその目処はついている。
まるで俺のようだ。
しかし、そこには白く靄がかかったように、顔が見えない。記憶の断片はつながっているのに、そこだけ穴が開いたように見えない。
しかし頭痛もなくなった。
こないだまで俺の頭を悩ませていた問題は全て解決した。
まるで絡まった糸がほどけるように明快にその答えにたどり着いた。これは異能の規制を誰かが解いたせいだ。
それは譲渡の規制に対して、誰かが故意かは知らないが解いたことに起因するのだろう。
しかしながら、それを知ると同時に吐き気がする。
だから、俺はあの事件をこれほど嫌悪していたのか。それは知らないほうが幸せな内容だったのかもしれない。そう納得してしまう。それは奴らを死ぬほど憎む気持ちも頷ける。
にしても、なんだこれは?
こんな異能は欠陥だらけだ。
宣言?承認?
誰かに許しを貰う異能なんて馬鹿げている。
ならば誰に許しを貰うべきなんだ?答えが分からない。
この異能の完成品ってのはもっと複雑なものだった。
もっと思考に思考を重ねて、推考し、そして掴むべき未来のために血反吐を吐きながら行使する異能だ。
そんな欠陥だらけの宣言だけで成し遂げられるようなものではない。
今、それを持っている奴はえらくファンシーな頭の持ち主なのだろう。
すべてを無に帰す悪魔の魔法。ラプラスの悪魔?いやいや。そんなものではない。
未来は無理だろう。未来ってのは置き換えれば今現在だ。日々、その一分一秒で変化していくものだ。
ならば過去を?
そうご名答。それは過去を塗り替える異能。過去を都合よく変える万能異能だ。
いや。変えるってのは違うだろう。
それは作り変える異能なんだ。
そうだな。
もし呼び名を付けるなら
「ワールドメイク」
ってのはどうだろう?
いや。いいな。
実に中二病って感じのアホなネーミングセンスだ。
それで、そんな大層な異能で何をするんだ?
世界を救うか?過去の戦争をなくす?手当たり次第に事件、事故を探してすべてをなかったことにするのか?
いや。違う。
たった一つの事件をなかったことにするために使ったのだ。
それだけのために何度も、何度も行使した。
最後にそれに縋るしかなかったのだ。
俺はそれだけのためにそのバカげた異能に頼って、今ここにいるのかもしれない。
そこから、あの自習室が地域研究部の部室になるまで時間はかからなかった。彼女らは知らない間にあそこを自分たちのものにするべく画策していたようだ。オタクたちは行く当てを失い、今はまた普通に集まる場所を探して、そこで遊んでいるのだろう。もちろん、自分たちが異能者だったこともすっかり忘れて。
「で。その後、あの地域研究部とは連絡とったのか?」
「いや。なんかあの背の高い金髪に怒られてそれっきり、会ってない。もう会うこともないだろう。生田さんも俺に会いに来て、もう連絡を取るのをやめましょうってよ。」
「なるほど。すっきり解決だな。」
「は?俺の気持ちは?」
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夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
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