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第2章 シャクンタラー対ファウスト
第27話 南くんの初恋③
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「あら。南くん。」
俺は帰り際、昇降口でちょうど帰ろうとしていた北条に偶然会った。
そこに北条が来たのは都合がよかった。
久々に彼女に会いに行くと思うと、何故か緊張していたのだ。
いつも女性との待ち合わせに赴く際、こんは緊張感に包まれたことはない。
小学校時代から全く話していない、俺の思い出とかした人間に会いに行くというだけなのに何故か心は落ち着かなかった。
「お、北条。帰りか?」
「見れば分かるでしょ?じゃあ。」
北条はそのまま、俺の横を通り過ぎ帰ろうとする。
「いやいや。まあ待ちなさいお嬢さん。同じ組織の一員だろ?一緒に帰るとかないの?」
「ないわよ。人と帰るの嫌いなの。自分のペースで帰りたいし。」
「あ、そう。………冷たいねぇ。」
俺は大げさに泣く演技をしながら両手で顔を覆う。そして彼女をチラッと見ると真顔でこちらを凝視する女に気が付き、すぐにやめる。
「南くんは?今から女の子とデート?」
「え?なに?妬いてる?」
俺がお道化て言うと、彼女の手からはバチバチと青白い光を発し、電場を生んでいるところを見て、即座に謝る。
「いやいや。ごめん。ごめん。今日はこれから不登校児にプリントを送り届けるところだ。なんか急に俺の番が回ってきたんだよ。いままでは委員長とかがやっていたんだが、今日は彼女休みだしな。たまたま通りがかった教師に捕まったわけだ。」
「えらい喋るわね。…………なんか緊張していない?」
「はい?全然。」
「そう。…………それでどうしたの?私を捕まえて聞きたいことでもあるんじゃないの?いいわよ。面白そうだし聞いてあげる。」
彼女は蠱惑的な笑みでこちらを見ていて、俺は聞きたかった情報を北条から聞き出した。
なんでも不登校児である彼女。西山 香(にしやま かおり)は同じクラスの田村と喧嘩をしてそこから何故か両者ともに不登校になったようだ。
それ以上は誰も知らない。
もともと、教室でも目立つような生徒ではなかった彼女らについて知っている人は少ない。北条も又聞きで、噂の一部を教えてくれたに過ぎないようだ。
「そういえば、委員長も別に彼女の部屋に入ったり、彼女と話したことはないそうよ。いつもプリントをポストに突っ込んで帰るだけだって言っていたわ。まぁ。あの子は外面は優等生だけど、本当は他校の生徒と夜遊びしているらしいしね。」
「いや。それは聞いてないから。そんな女の子の裏の顔とか興味ねぇよ。」
「あら。遊び人だから喜ぶ情報かと思ったのに。残念。役に立つと思ったのに。」
彼女は申し訳なさそうに俯く。なんだ俺よりも演技上手いなと無言で感心していると、不意に殴られた。
「なにか言えよ。」
「いえ。すいません。何も思いつきませんでした。」
北条は俺を殴った方の手を自分の服の裾で拭いていた。
俺。こいつ嫌い。
「まぁ。西山さんについてはそんな感じね。特に私も関わりがあるわけでもないし、そんなに知らないのよ。」
「あ、そう。まぁ。またなんか知ったら教えて。なんでもいいから。」
「えらく気にかけているのね?そんなに仲良かったっけ?」
「いや。話したことはないよ。」
「へぇ~嫉妬しちゃう。」
北条は猫撫で声で、こちらを上目使いで見てくる。こいつなんか今日テンション高いな。声かけなきゃよかった。
「わざとらしいんだよ。それに嫉妬するやつはそんな感じじゃないぞ。メールは大量に送ってくるわ、SNSでは愚痴だらけ。おまけに反応しないと周りに悪いことを言いふらす。反応したらしたで、罵詈雑言の嵐だ。たまったもんじゃない。」
「経験者は語るってやつ?そんなこと聞いてないんだけど。」
「あっそう。」
北条と別れた俺はいつもの帰路を逸れて、彼女の家に向かう。
自分の家からは5分ほどで着くのに、ここに来たのは五年ぶりだ。
彼女の家は五年経っても特に何も変わってはいなかった。引きこもりの娘を持つ家ってのは想像ではもっと荒れた感じを想像していたのに、彼女の家はどこにでもある一軒家で、庭の手入れもちゃんとしてあり、俺の記憶の彼女の家と一致した。
ポストにプリントをいれようと手を伸ばすも、何故か俺はその手でインターホンを押していた。
プリント係を教師に押し付けられた時は特に何も考えていなかった。しかし、改めて彼女の家に来ると思うと緊張して、北条に彼女のことについて聞いたりしていた。
ただプリントを渡して帰るだけの簡単なお仕事のはずなのに。
俺はインターホンを押して、彼女が出てきてくれることを心のどこかで期待していたかもしれない。
少し待つと、40代がらみと見える女性が顔を出した。
俺はその人を覚えていた。その人は香の母である。
「あら。えっと…………もしかして和樹君?」
向こうも俺のことをどうやら覚えていたようだ。これ幸いと俺は香の母と世間話をし、彼女のお宅になんとかお邪魔する。
はじめは香の母も苦い顔をして家に上がっても娘が顔をだすことはないと言っていたが、クラスの皆も心配しており、声だけでも聞いてクラスのみんなに彼女は元気だよと伝えたいと苦しい言い訳をし、家に潜入した。
そして、今彼女の部屋の前にいる。
彼女の部屋のドアには「かおり」と平仮名で可愛く書かれたプレートがあり、その字面が俺の記憶の彼女と合わさって、何故か懐かしい気持ちになった。
さて。
来たはいいが、なにを話そう。気が付けば勢いだけでここまで来てしまっていた。
どうしようと不安と焦燥感から俺は特に考えもせず、彼女の部屋のドアをノックした。
俺は帰り際、昇降口でちょうど帰ろうとしていた北条に偶然会った。
そこに北条が来たのは都合がよかった。
久々に彼女に会いに行くと思うと、何故か緊張していたのだ。
いつも女性との待ち合わせに赴く際、こんは緊張感に包まれたことはない。
小学校時代から全く話していない、俺の思い出とかした人間に会いに行くというだけなのに何故か心は落ち着かなかった。
「お、北条。帰りか?」
「見れば分かるでしょ?じゃあ。」
北条はそのまま、俺の横を通り過ぎ帰ろうとする。
「いやいや。まあ待ちなさいお嬢さん。同じ組織の一員だろ?一緒に帰るとかないの?」
「ないわよ。人と帰るの嫌いなの。自分のペースで帰りたいし。」
「あ、そう。………冷たいねぇ。」
俺は大げさに泣く演技をしながら両手で顔を覆う。そして彼女をチラッと見ると真顔でこちらを凝視する女に気が付き、すぐにやめる。
「南くんは?今から女の子とデート?」
「え?なに?妬いてる?」
俺がお道化て言うと、彼女の手からはバチバチと青白い光を発し、電場を生んでいるところを見て、即座に謝る。
「いやいや。ごめん。ごめん。今日はこれから不登校児にプリントを送り届けるところだ。なんか急に俺の番が回ってきたんだよ。いままでは委員長とかがやっていたんだが、今日は彼女休みだしな。たまたま通りがかった教師に捕まったわけだ。」
「えらい喋るわね。…………なんか緊張していない?」
「はい?全然。」
「そう。…………それでどうしたの?私を捕まえて聞きたいことでもあるんじゃないの?いいわよ。面白そうだし聞いてあげる。」
彼女は蠱惑的な笑みでこちらを見ていて、俺は聞きたかった情報を北条から聞き出した。
なんでも不登校児である彼女。西山 香(にしやま かおり)は同じクラスの田村と喧嘩をしてそこから何故か両者ともに不登校になったようだ。
それ以上は誰も知らない。
もともと、教室でも目立つような生徒ではなかった彼女らについて知っている人は少ない。北条も又聞きで、噂の一部を教えてくれたに過ぎないようだ。
「そういえば、委員長も別に彼女の部屋に入ったり、彼女と話したことはないそうよ。いつもプリントをポストに突っ込んで帰るだけだって言っていたわ。まぁ。あの子は外面は優等生だけど、本当は他校の生徒と夜遊びしているらしいしね。」
「いや。それは聞いてないから。そんな女の子の裏の顔とか興味ねぇよ。」
「あら。遊び人だから喜ぶ情報かと思ったのに。残念。役に立つと思ったのに。」
彼女は申し訳なさそうに俯く。なんだ俺よりも演技上手いなと無言で感心していると、不意に殴られた。
「なにか言えよ。」
「いえ。すいません。何も思いつきませんでした。」
北条は俺を殴った方の手を自分の服の裾で拭いていた。
俺。こいつ嫌い。
「まぁ。西山さんについてはそんな感じね。特に私も関わりがあるわけでもないし、そんなに知らないのよ。」
「あ、そう。まぁ。またなんか知ったら教えて。なんでもいいから。」
「えらく気にかけているのね?そんなに仲良かったっけ?」
「いや。話したことはないよ。」
「へぇ~嫉妬しちゃう。」
北条は猫撫で声で、こちらを上目使いで見てくる。こいつなんか今日テンション高いな。声かけなきゃよかった。
「わざとらしいんだよ。それに嫉妬するやつはそんな感じじゃないぞ。メールは大量に送ってくるわ、SNSでは愚痴だらけ。おまけに反応しないと周りに悪いことを言いふらす。反応したらしたで、罵詈雑言の嵐だ。たまったもんじゃない。」
「経験者は語るってやつ?そんなこと聞いてないんだけど。」
「あっそう。」
北条と別れた俺はいつもの帰路を逸れて、彼女の家に向かう。
自分の家からは5分ほどで着くのに、ここに来たのは五年ぶりだ。
彼女の家は五年経っても特に何も変わってはいなかった。引きこもりの娘を持つ家ってのは想像ではもっと荒れた感じを想像していたのに、彼女の家はどこにでもある一軒家で、庭の手入れもちゃんとしてあり、俺の記憶の彼女の家と一致した。
ポストにプリントをいれようと手を伸ばすも、何故か俺はその手でインターホンを押していた。
プリント係を教師に押し付けられた時は特に何も考えていなかった。しかし、改めて彼女の家に来ると思うと緊張して、北条に彼女のことについて聞いたりしていた。
ただプリントを渡して帰るだけの簡単なお仕事のはずなのに。
俺はインターホンを押して、彼女が出てきてくれることを心のどこかで期待していたかもしれない。
少し待つと、40代がらみと見える女性が顔を出した。
俺はその人を覚えていた。その人は香の母である。
「あら。えっと…………もしかして和樹君?」
向こうも俺のことをどうやら覚えていたようだ。これ幸いと俺は香の母と世間話をし、彼女のお宅になんとかお邪魔する。
はじめは香の母も苦い顔をして家に上がっても娘が顔をだすことはないと言っていたが、クラスの皆も心配しており、声だけでも聞いてクラスのみんなに彼女は元気だよと伝えたいと苦しい言い訳をし、家に潜入した。
そして、今彼女の部屋の前にいる。
彼女の部屋のドアには「かおり」と平仮名で可愛く書かれたプレートがあり、その字面が俺の記憶の彼女と合わさって、何故か懐かしい気持ちになった。
さて。
来たはいいが、なにを話そう。気が付けば勢いだけでここまで来てしまっていた。
どうしようと不安と焦燥感から俺は特に考えもせず、彼女の部屋のドアをノックした。
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