ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第28話 南くんの初恋④

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「こんにちは!香さん?お届けものですよ?」

俺はノックを三回して、声をかける。

…………。

返事はない。

物音一つない。本当にこの部屋の中に人がいるのだろうかと疑うほどである。

静まり返った他人の家ほど居心地の悪いものはない。

しかし俺は5分後、また同じセリフを吐く。

「あの~お届け物ですよ~。香さーん?」

…………。

俺はまた待つ。こうして間隔をあけて嫌がらせのように声をかけていたら返事くらい貰えるかと思っていたのだ。

しかし、あまりにも返事がないものだからこちらも意地になり、これは部屋から引きずり出してやろうともう一度声をかける。

「あの~?香さーん?お届けものですよ?」

「…………え。…………け。」

「け?」

「…………結構です。」

蚊の鳴くような声が聞こえた気がした。

俺は声が聞こえたことで楽しくなり、またもや声をかける。完全にやばい奴である。人様の家に上がり込み、部屋の前で急に馬鹿なことを言っているのだ。これが不審者でなくてなんなのだろうか。

「いえ。お届けものですよ~?」

「えっと…………だから結構です。なんなんですか?」

「え?ここ香さんの部屋であってますよね?お届け物ですよ?」

「え?…………えっと。なんですか?学校のプリントですよね?」

「左様でございます。」

「と…………届けてくれたのはありがとうございま…………す。…………置いておいてください。」

「サインかハンコをお願いします。」

「え?…………なんでですか?」

「いえ、近頃なりすましとかもいますしね。こちらも本人確認をしてまして。」

「でも。ここ…………私の部屋。」

「左様で?」

「はい…………なんなんですか?」

「いえ。だからサインかハンコをと。」

「すいま…………せん。私。今は人と会えないんです。」

「というと?」

「なので…………その紙をドアの隙間から入れて貰えたらと。」

「左様で?」

「はい。」

俺は言われた通り、彼女の部屋のドアから学級日誌などの学校のプリントと駅前で配っていた如何わしい店のチラシを入れる。その下にちょうどアンケート用チラシも入っていたので、それを入れたのだ。

部屋の中でドタバタと音が鳴って、また静まり返る。

「えっと…………ぺ、ペンを探すので時間を…………ください。」

「左様で?」

「はい。」

その「はい」は少し面倒さをはらんだ、投げやりな声だったのでもうこの返しはやめようと思った。

そうして、待っていると不意に「キュッ」とびっくりして息を飲んだ音なのか、動物の鳴き声のようなものが聞こえてきた。

「どうかされました?」

「…………………これ本当に学校のプリントですか?」

「え?」

「だ…………だから!これって本当に学校の」

「はい。」

急に彼女が早口で話すものだから、俺は聞き取れず目をぱちくりとさせてもう一度頷く。

しかし、その少し怒気をはらんだ声は昔の声に似ていて、懐かしく思えた。

俺が感傷に浸っていると、急にドアの隙間からプリントが出てくる。もちろん、チラシも。

「え……………えっと。書きました。」

「はい。」

見ると、チラシのアンケートの氏名欄に「西山 香子」と書いてあった。多分、面倒くさい俺を早く帰したいがために書いたのだろう。しかし、この如何わしいチラシのアンケートに自分の本名を書くのはためらわれたのかもしれない。

「えっと。氏名間違えてますよ?」

「え?…………あ。あってます。」

「違いますよ。だって貴方は香でしょ?」

「え?…………貴方は誰なんですか?」

「俺?俺は南 和樹という配達員ですが?」

「…………?なんで和樹く…………南くんが?」

「まぁ。それはいいじゃないか。それより出てきて話さないか?」

「えっと…………私。今は人と会えないです。すいません。」

「怖くないよ~?」

子供をあやすようにドア越しに声をかける。

「すいません。今は本当に人と会えないんです。」

「同じクラスの田村さんと喧嘩したから?」

「それは…………とにかく。私は今は人と会えません。」

今までの気弱な声ではなく、その声は擦れていながら力強い声であった。

「なんでか聞いてもいい?」

「……………言いたくないです。」

「そっか。じゃあ。また明日来るからその時教えて。」

「え?」

「じゃあ。また明日。」

俺はそれだけ言い残すと、すぐに彼女の家を出た。

いつもなら、こんな面倒そうな女性なんて放っておくだろう。しかし、この機会に声をかけなければもう一生彼女と話すことはないと思ってしまった。

そう思えば、俺は明日も彼女のもとに来るだろう。

今ならそれが出来ると思った。

西京と東に関してももう俺が心配することはない。俺はいつまでも彼らの傍にいてやれるわけではないのだ。

この杞憂もいつかは晴れてくれるかもしれない。

西京と一緒で俺だっていつまでも逃げ回ってはいられないのだ。

 

 

 

「お届け物ですよ?」

体調も良くなった委員長に頼み、今度から俺が彼女のプリント係となった。そうして、俺は自分の携帯が鳴っているのも無視して、彼女の家に赴く。

「…………えっと。南くんですか?」

今日は一度で返事をしてくれた。それだけで何故だか嬉しくなり、声が上擦ってしまう。

「あ。ああ。プリント持ってきたよ。」

「…………置いておいてください。」

「分かった。印鑑かサインを。」

「…………わかりました。」

彼女はまたドアの隙間からプリントを受け取り、新たに作ったサイン用の紙にサインをして俺に返す。

その紙には今度はちゃんと「西山 香」と綺麗な字で書かれていた。

「あ、あの。南くん。」

「ん?」

「…………今度からプリントはポストに入れておいてください。ちゃ、ちゃんと後で確認するので。」

「うーんと。それは出来ないな。クラスのみんなが君のことを心配しているからね。声を聞いて来いと俺を遣わしたわけだ。」

「え?…………そうなんですか?」

「そうなんですよ。」

勿論。大嘘だ。

クラスの人間は誰も彼女の話などしない。しかし、こうまで言わなければ俺がここまで入りこんで、何故声をかけているのか疑われるだろう。

「じゃ。じゃあ。私は元気だとお伝えください。そ、それで終わりです。」

「そうなの?まぁそれはどっちでもいいんだけど。…………ああ。そういえば、昨日の答えを聞きにきたよ。」

「…………なんでそんなに知りたいんですか?」

「それは…………なんでだろう?興味本位?」

「な、なら帰ってください!!」

彼女の怒った声を初めて聞いた。今まで怒る女性を何人も見てきたが、久しぶりに俺は肌が粟立つ感覚を覚えた。

それは掠れていて、無理に喉の奥から声をひねり出したような声だった。普段、引きこもりの彼女は人と話す機会がないのかもしれない。
その声に少し日和ってしまう自分を律して、冷静に彼女に問う。

「で、なんで?」

「も、もう帰ってください。」

「教えてくれたら帰るよ。」

「……………………それは。えっと。とにかく私はもう人と会えないんです。」

彼女は苦しそうに言葉を紡いだ。それが悲痛な叫びであると分かっていた。しかし、俺はこれを聞かなければならないと思った。

そうしないと、何も分からないままここで終わってしまう。

「だから。なんで人と会えないの?」

「……………………わ。私。おかしいんです。ちょっとしたことで……………………本当にちょっとしたことで。その人のことを壊しちゃう………」

「壊す?なにを?」

「田村さんもそうでした。それまで仲が良かったのに。…………ある時、変な時計を拾って。それから…………」

なるほど…………。

そういうことか。

彼女は何らかの異能を取得してしまい、運悪くその異能で友人を傷つけてしまったのだ。
もし西京の憶測が当たっているなら、その異能は精神系異能だ。

彼女は時計を拾ったことで、その異能を身につけてしまったのか。それは確かに人と距離を置こうと思うだろう。

彼女が友人を故意に精神破壊するとは到底思えない。

彼女はおそらく自分の意思に反して異能が発動してしまうのだ。

それでその田村何某は精神を当てられてしまったのだろう。それを見てショックを受けて引きこもる。想像に難くない話だ。

でも、このままで良いのだろうか。

いや、確かに引きこもっていたら駄目だというわけではない。そういう時間が必要な者も、それで成立する生き方もあるのかもしれない。

しかし、俺はここで帰るつもりはなかった。

そう。これは単なる俺の我儘なのかもしれない。

単に俺が彼女に会いたいだけのことだ。

そのために人に会いたくないと言っている彼女の意思に反して、行動しようとしている。

これは多分、人として駄目なことだし、いつもの俺ならしない。

それでも。異能なんてもんに人生を左右される生活を送る彼女を見て、どうにかしてあげたいって思ってしまったのだ。

ここで天岩戸作戦を決行し、彼女の部屋の前に西京と北条を呼んでどんちゃん騒ぎをおこしてやるという策もあったが、警察を呼ばれかねないので今回はなしだ。

俺は手を彼女の部屋のドアに当てて、異能により蝶使いを破壊した。

そして、ドアをゆっくり手前へと移動させ、床に下ろした。

部屋の中を覗くと、そこには目を丸くし、口をパクパクと動かして狼狽する西山 香がいた。

 

 

 
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