ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第29話 南くんの初恋⑤

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「どうも。西山さん。久しぶり。こうして会うのは小学生の時以来だな。」

彼女は急にドアが開いたものだから、それは驚いたのだろう。
部屋の床に尻餅をついて、こちらを見上げていた。
一年ぶりに見る彼女はあまり寝ていないのか、目元に大きな隈があり、整っていた長い髪も乱れて伸びきった前髪が顔を隠していた。高校で再会した時の彼女とは似ても似つかない女性になっていたのだ。

それでいて、少し頬がこけているように見受けられた。

それほど、その田村何某との事件は想像を絶するほどのトラウマを彼女に植え付けたのだろう。

「な…………どうやって?」

彼女は当たり前の疑問を口にして、こちらを見て怯えていた。

もっとゴミだらけの部屋を想像していたが部屋は思ったよりも綺麗であった。

青いパッケージが目立つ紅茶の紙パックが大量にあったり、ペットボトルが散乱していたり、そのごみの中でGが独自の生態系を築き上げていたりと想像していたのだが。

彼女の部屋はテレビもなく、ベッドとその隣に勉強机と一台のパソコンという簡素な部屋であった。本棚には主に少女漫画が沢山並んでいた。

その中には俺が好きな漫画もありついまじまじと見てしまう。

ふと西山さんの困った顔が視界に入り、また彼女との話に戻る。

「西山さんだけがその異能使いというわけではないということだ。ほら。」

俺はそう言い、びっくりして腰を抜かしている彼女を異能によりヒョイッと持ち上げて、立たせてあげる。彼女は謎の力に驚いて、まじまじと自分の足元を見ていた。彼女からしたら自分の体が勝手に浮いたような感覚に陥っているのだろう。

「い、異能ってなんですか?私の他にもこういう変な能力を持った人がいるってことですか?」

「そうだよ。時計を拾ったんでしょ?その時計を身につければ異能を有してしまうんだ。」

「やっぱりそうなんだ…………。でもわ、私の異能は南くんの異能とは違う。制御できないの。だってまた…………まただ。また…………。頭が痛くなって。…………それで。南くん。帰ってくださ…………」

急に彼女は頭を抱えて、床に顔を付けまた倒れこんでしまう。そして、うーっうーっと声を上げて何かの痛みに耐えているようだ。その悲痛な表情はこちらまで苦しくなってくるようで、顔を背けたくなるような呻き声であった。

俺は急に倒れこんだ彼女が心配になり、顔を覗きこむと、その瞬間、俺の頭に急にそれは舞い込んできた。

「え…………?」

それは本当に頭が割れてしまいそうな声だった。

おいおいマジかよ。

俺も彼女と同じように頭を押さえて、その場にうずくまる。

無数の人間の声が一気に頭の内側で鳴っている。それは外からの声ではない。感覚的に分かるのだ。声が反響しているような、聞いた感じで分かるのだ。
これは現実ではない。俺の頭の中で鳴っているものだと。

それらの声は小さい声から、大きい声まで、女も男も関係なしに俺の頭の中で鳴り響く。それも音量も馬鹿にならない。普通のウォークマンの最大音量で聞いているような感じだ。

怒鳴り声やら、誰かの泣く声。挙句の果てには、女性の叫び声だったりと嫌にバリエーション豊かである。

その声が止んだと思えば、次に何か映像が頭に流れてくる。チカチカと黄色い光とオレンジの光。次に緑色の光が瞬間的に切り替わり交互に俺の頭に映し出される。無論、もうこの段階で俺は視力を失っていた。先ほどまでの彼女の部屋が見えない。見えるのは光の軌跡のみで、パチパチと入れ替わる光の動きに先ほどの声がまた加わると、もう俺は気が狂いそうになっていた。

どうにかそれを無視しようと、倒れこんだまま頭を左右に振り回す。自分が発している声も聞こえぬほど、頭の中でその声は鳴っている。

そうして、光の次に俺の想像を絶する規模のバカでかい建物の真ん中に自分が立っているイメージへとつながる。

なぜそのバカでかいスケールのものが建物だと認識できたかというと、俺は俺を空中から俯瞰で見下ろしていたからだ。富士山も優に超えるであろう大きさの円形の建物の天井が真ん中からぱっくりと割れて、その中にいた蟻程度の小さい自分を見下ろしていたのだ。

その小さい自分の目線になると一気に先ほどの大音量の声が耳に流れ込み、俯瞰で見る自分に戻ると対照的に静まり返り、俺はただ俺を見ている。

その切り替わりはコンマ何秒と早く、俺の頭はその情報量に付いて行けず、脳の中から漏れ出た情報がオーバーヒートを誘発し、それに耐え切れず体液をまき散らしてそこに絶命した方が幸せなのではと思ってしまう。

これでは正常な精神に害に及ぼすばかりではなく、人格を無理やり捻じ曲げられてしまう。

俺は今、時計じかけのオレンジのいわくつき療法でも受けているのか?

俺はその内、もう声を発することもできず、声にならぬ声を呻きながらその場でのたうち回る。

頭のどこかからこの情報を吐き出したい。

どこでもいい。

耳でも目でも、口でも。それこそ、この頭のどこかを内部から抉り出して、穴を見出し、そこからこの情報を吐き出したい。

ああ。

ああ。

ああ。苦しい。辛い。痛い。ああ。

俺は気狂いのごとく、バチバチと乱反射する光やら謎の光景から逃れようと目をひん剥き、目玉を端に括り付け、耳を拳で殴りつける。無論。声は俺の頭の中で鳴っているので意味はないが。この音を消すことが叶わないならば、このまま耳を殴り続け、痛みとその反動で何かを逃そうと暴れている方が楽だ。口からは何か声を発し続けるも、何も聞こえない。

……………………しかし。なんとか自我を保つことが出来た。
薄皮一枚繋がった感じだ。

どこかでこれは彼女の異能が見せている幻だと絶対的な現実にしがみついていた。そうしなければ、すぐに自分の精神を底に手放して、俺はこの情報の波に漂ってすべての思考を放棄していただろう。

俺は呼吸を止めて、頭の中で血を止めるような想像をしながら、歯を食いしばる。

そして、手やら足を無理やりに動かし、脳に自分の見たいものを見せる隙が出来れば、そこに自分が助かるイメージを投げ入れる。

そうして俺はやっと目を覚ました。この異能から解放されたのだ。彼女の部屋の窓から夕陽が見える。俺は何時間も狂っていたと錯覚していたが、現実ではまだ五分も経っていなかったのだ。
自分の体を知らず知らずのうちに部屋の外に移していたのが功を奏したのかもしれない。

俺は目を覚まし自分の鼻、目、口からありえない量の唾液やら汗、それに混じった血が出ていることを自覚する。脇から、額から汗が大量に出ており、シャツが張り付いて気持ちの悪さを感じ、ハンカチで拭きとる。

その際、指だったり、腕に引っかき傷があることから俺は本当にあともう少しで精神に異常をきたしていたのだろうなと肌が粟立った。

俺は自分の顔を綺麗にふき取ると、彼女の部屋を見る。

彼女は部屋の真ん中に倒れていた。

俺は彼女を抱きかかえ、ベッドに移す。

そうして待つ。

彼女が起きるのを。その間にこの汗と引きつって泣きそうな顔を元に戻さなくてはいけない。

彼女の額には汗がたまっており、俺はそれを手の甲で拭った。

そうして、彼女の顔が徐々に穏やかな表情に戻ってくると、安心してしまい、朦朧とする意識の中、彼女が目覚めるのを待っていた。
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