ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第37話 異能者の蠢き③

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しかし、その男の拳は香の顔に達っする前に宙で止められていた。

彼の攻撃を阻む第三者が現れたのだ。

彼は男の右腕を香の顔の前できっちり受け止めて、こちらに笑いかける。

「南よぉ。大変そうだな?助けに来たぜ!」

そいつは知っている顔だった。

金色の短髪に仏頂面の男はジャージ姿で額から汗が流れているところを見るとジョギング中だったのだろう。

ああ。俺が知っている熟女愛好会の方だ。そう。名前はペタ。

俺は安心して、息を吐くとすぐに彼女のもとに駆け寄る。

「こんなに可愛い子に攻撃するとは、お前、男の風上にも置けないな。とりあえず、ぶっ飛ばす!!」

ペタは受け止めた男の手を自分の腹に引き込み、奴の腹に蹴りを入れる。

男はじたばたともがいてなんとかペタの手から逃れようとしていたが、ペタの手は全く離れず彼の腹にペタの足がめり込む。

「グハッ!!」と腹の奥から漏れ出た声を残して男は後方に吹き飛んでいく。

俺は香の顔を確認する。よし。大丈夫だ。なんのケガもない。

もう異能を使い終えたのだろう、静かに眠っている。

「助かった。ペタ。」

「おい。そのあだ名やめろ。」

「いや。本当に感謝してる。ペタがいなかったらヤバかった。」

「いや。なにやら女性の悲鳴が聞こえてな。見に来たら南がいたから異能がらみかと思って。あと、そのあだ名やめて。お願い。」

「すまん。ペタ。今度から気を付けるわ。」

「いや。お前わざとだろ。やるか?今からやるのか?」

「不良はすぐに喧嘩したがるな。なんだお前あの彼女に対してもそんな感じなのか?」

「馬鹿いうな。俺の彼女は俺のすべてを包み込んでくれるんだ。喧嘩なんかしねぇよ。」

「まぁ色んな意味で懐が広いもんな。」

「あ?なんか言ったか?」

「いえいえ。なんも言ってないっすよ。」

「……………………おいおい。あいつ起き上がってきたぞ。やっぱそこらの不良よりかは強いな。」

俺たちが下らない雑談をしていると、飛んでいった暗闇の中から男が現れる。

男は口の端が少し切れており血が滲んでいた。

そして俺たちを見ると、口角を上げて、ニタッと嫌らしい笑みを浮かべる。レベルAであるペタの蹴りを食らっても、普通に立ち上がってくるとは。
やはり並みの異能者ではない。

「まさか。同じ会員に蹴られるとはね。桝原くん。」

男は含みのある物言いでペタへと視線を向けた。

「何を言って…………まさか貴方は会員番号2の幹部である土橋さん。」

ペタは驚愕の眼でその男の顔をマジマジと見てのけ反っていた。

「おい。なんの会員だ?それは?」

俺はたまらず突っ込む。

「それは…………所謂、負の遺産を管理する会だ。」

「負の遺産?」

「瀬川会長の残した負の遺産だ。いつも海辺の倉庫で会合を行っている。」

「はぁ…………お前、ぶっ飛ばすぞ?」

「なんでだ!?お前も一回来たら分かる。あんなためになる会合はない。」

「それ彼女に言ってやろうか?」

「ごめんなさい。やめてください。」

「それでこの土橋ってやつもその会員なのか?」

「会員というより、取り仕切っている幹部だな。彼の博学さには俺も驚くばかりだ。」

「あ、そう。」

俺は土橋を凝視する。

どこにでもいそうな普通の男だ。多少の目つきの悪さはあれど、そこらで普通に働いていそうな一般市民に見える。

しかし、こういう人間の方が得てして裏は黒かったりするのだろう。
それに、俺と西京で焼き払った瀬川のコレクションがまだどこかに残っていたとはな。ファウストにでも隠し持っていたのだろう。

「さぁ。会合に参加したいならそこをどきなさい桝原。その女の子は危険だから私たちが預かるんだ。」

さぁさぁと土橋はペタに手を伸ばす。

「できません。土橋さん…………あんたはやってはならないことをした。忘れたのか?瀬川会長の名言を。「一つ。女は見るものだ。愛でるもまた良し。」それをあんたは殴ろうとした。これが許せるか!!!」

ペタは駆け出すと、そのまま土橋の顔面を殴り飛ばした。

一瞬、身構えた土橋だったが、ペタの拳の速さは土橋を優に凌駕していた。

え?…………ペタめっちゃ強いじゃんと見守るしか出来ない俺がそこいる。

土橋は地に伏せて、殴られた頬を抑えてじたばたともがいている。

「その二。女の声にひれ伏すのみ。それこそ至高への誘い。」

ペタは土橋の腹を蹴り飛ばす。

そうか瀬川はMだったのかと妙に納得してしまう。それは北条が好きな筈だ。

土橋は地に伏せたまま、なんとか足を動かし、ペタの足めがけて蹴りを繰り出すも、ペタには通用しない。
ペタは平気そうな顔で蹴られた足を一慶し、プラプラと揺らせばその足で再度、土橋の腹を蹴り上げる。

怖い怖い怖い。なにこの人。

悪鬼羅刹と化したペタは土橋を徹底的に痛めつける。

「その三。とりあえず可愛い子の写真持ってこい。以上だ。」

最後に土橋の顔面にペタの拳がめり込んでいた。

その瞬間、土橋の意識は刈り取られた。

 

 

 

「よし。これで大丈夫だろう。おい。南。土橋さんをどうしようか?このまま婦女暴行で警察に突き出すか?」

ペタは退屈そうな顔で土橋をつつきながら問うてくる。

「え?…………。」

俺はペタのあまりの剣幕に少し威圧されていた。なんだこの不良めちゃくちゃ強いじゃん。そりゃ少しの期間で明桜のトップになれるはずだ。

普通の奴じゃ相手にならないだろう。

「いや。とりあえず、こいつの異能を消さねぇとな。西京に連絡する。」

「そうか。…………それで南よぉ。その子は誰だ?」

ペタはそう言うと興味深そうにベンチで寝ている香を指さす。

「ああ。俺の彼女だ。」

おい。何故お前が恥ずかしそうに顔を背ける。

「そうか。…………最近、南があまり女遊びをしなくなって、沙代里さんはお前が何かに目覚めたと爆笑していたが、違ったんだな。よかったよ。」

「ああ。とりあえず、明日のシャクンタラーの会合には顔出すわ。あの女許さん。」

「そうか。じゃあ。俺はまたジョギングに戻るわ。あと。またなんかあったら遠慮せず連絡しろよ。俺だってお前には恩があるんだから。」

「不良みたいなこと言ってんなよ。…………でもまぁ。ありがとう。」

「なんだやけに素直だな。やっぱり。そっちの気があるのか?西京を呼んだってことは………お前らそういう仲で。」

「うるせぇよ。早くどっか行け。」

ペタは颯爽と現れ、早々に立ち去って行った。
俺の「ありがとう」と言った小声は彼の耳に届いたかはわからない。

 

 

 

西京は連絡を受けて5分ほどで公園に現れ、俺の承認を受け、土橋の異能を消しさった。

西京は相当焦っていたのか、心配そうにこちらを見る。

「南。大丈夫か?」

「あ?ああ。大丈夫だ。ちょっと腹が痛むがな。」

「トイレならこの先にあるぞ?」

「違ぇよ!そこで倒れてる男にやられたんだ。お前もそれで聞いてきたんだろうが?」

「ああ。それにしても…………こんなフウに襲ってくるとはな。」

「その男は瀬川の情報をもとに香を襲ったらしい。今後、さらにファウストが香を襲ってくる可能性があるな。」

「そうだな。俺等ももうファウストの連中にはマークされるだろうし下手な行動はとれないな。それにこれから異能者同士の戦いは苛烈を極めるだろう。」

「ん?なんでだ?俺たちが狙われやすいって話か?それならもうだいぶ前からだろう?」

「いや…………もう終わりに向かっているんだ。この馬鹿げた世界ってのは。」

「なんだそりゃ?終わりって。アニメの見過ぎか?」

「そうかもな。」

西京は苦笑しながらも、いつものような冗談を言っている顔ではないように見受けられた。

俺は彼の言葉に茶々を入れつつも、彼の言葉を否定できなかった。それは肌で感じているのかもしれない。

町にいる異能者の蠢きを。

ファウストの異能者が何人いるのかは知らないが、もうここまで組織に手を出している俺たちを奴らが放っておくとは思えない。

彼らはいつでも俺たちを襲ってくるだろう。それを再認識させられたのだ。

「ずきくん…………和樹くん。和樹くん!?」

その時、香が目を覚ました。

「香。香。大丈夫か?どこか痛むか?」

「ううん。大丈夫です。えっと…………さっきの人は?」

香は怯えた様子でこちらに問う。それはやはりあんな男に急に襲われたら、怖いはずだ。

「ああ。さっきの男は俺が倒した。後、ペタも加勢してくれてな。」

「ああ。あの和樹くんが言ってた熟女愛好会の人。」

「おいおい。南。お前。彼女にまでそんな紹介の仕方してるのか?可哀想に桝原くん。」

西京のツッコミはさておき、香は安心したのか、脱力しベンチに身を預ける。

「あとこうして西京も加勢に来てくれた。もう大丈夫だ。」

「そうですか…………。良かったです。えっと…………初めまして西京さん。」

「えっと…………はい。初めまして。えっと西山さん。」

「……………………。」

彼らは挨拶したきり、黙りこくって公園にまた静寂が訪れる。
これだからコミュ症フレンズは困る。

「お前らそれにしても何か話すことないのか?」

俺が二人に声をかけると、、何故か香は遠慮がちに西京に話しかける。

「いや、だって初めての人とは緊張しますし。それに…………西京さん?」

「ん?なに?」

「その…………。大丈夫ですか?」

「何が?」

「いえ。お疲れのご様子でしたので。…………。えっと。その。」

そこで、何かに納得したように西京は頷いた。

「ああ。見えたのか。別に大丈夫だ。変だろう?俺の記憶は?何層にも重なって見えたんじゃないか?」

「は、はい。えっと…………。」

「いや、いまは黙っておいて。それはまだ南に話すタイミングではない。よし。そろそろ俺は帰るわ。奴の異能も消したしな。二人の邪魔しても悪いしな。」

二人が何を話しているのか分からなかった。

しかし聞こうとも思わない。彼が言うように本当に俺が知らなければならなくなれば、西京が俺に直接言うだろう。彼の口ぶりから、それまで待つ必要もあるのだろう。
そう長年で培った仲から推察する。

「そうか。」

西京はそのまま帰っていった。

そして、俺は香を家に送り届けた。もう夜7時とだいぶ時間が経っていたため、香の母に苦言を呈されて、二人して謝った。

その光景が何か昔、香と遊んでいた頃を思い出して、懐かしさで彼女がより一層愛おしく思えた。
そして、玄関越しでの香の「また明日」と言って笑って家に入っていく彼女を見て、俺は安心して家路に就いた。
彼女の笑った顔を見るのがこれで最後になるとも知らずに。
 
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