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第3章 ワールドメイク
第51話 ワールドメイク③
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「これがすべてだ。俺はそうして東に時計を渡して、東がこの世界を改変して、今に至る。」
俺は長話を終え、深く息を吐いて心を落ち着かせた。
とすると、たしかに今の自分の話に何か間違いがあるのではと考えてしまう。
全てを整理し人に話すと、また違った視点で物事を捉えられると言うが、俺は違和感を覚えながらも、最後にはその慈悲のない世界への怒りからか、違和感を探ることを放棄した。
「そうか…………。あの橋の上から飛び降りた時の光は異能の。そのワールドメイクの光だったのか。そうか。…………やっと附に落ちた。」
南は今までのすべてのことが納得できたのか、えらく落ち着いた様子で俺の話を聞いていた。
こんな突拍子のない話を聞けばもっと狼狽したりするものだろうと思っていたが、二人は真面目に俺の話を聞き終え、そして皆が口を噤んでしまう。
東は何とも言えぬ悲しいような、困ったような、やり場のない気持ちをどこに持って行けば良いのか分からないと言った顔でこちらを見ていた。
自分の死について聞かされたら誰だって焦燥感に駆られそれを否定したり、適当な事を言うなと受け入れなかったり、消極的な方へと感情が向くと思う。
しかし、彼女は俺に同情にも似た悲哀に満ちた面持ちでこちらを見ていた。
それでいて酷く冷静にも見えた。
それが何故か分からず、俺は次の言葉が見つからず黙ってしまう。
南は一度、深く息を吸い、それをため息とともに漏らした。そして俺に問う。
「西京。それでこれからどうするつもりだ?」
「ああ。これからの話か。…………東。時計を持っているだろう?」
東は一瞬何を聞かれているのか分からないと言った表情を見せたが、すぐに思い出したように、ポケットから時計を取り出した。
そう。ワールドメイクの時計だ。
「ええ。持っているわ。」
「それを俺に渡せ。」
「え?」
「また一緒だ。これからその時計でこの世界を戻して、また一から改変を始める。もう残された道はそれしかない。」
「なんで?」
「は?話を聞いてただろ?」
「聞いてたわ。でももう一度やり直す必要性を感じない。」
なんだと?
こんなフウに町の人間が全員死んだ状態が良いはずがない。彼女はこの終わった世界を改変する必要が無いとでもいいたいのだろうか?
しかしながら、彼女は困ったような顔で時計を握り締めた。
それが拒絶を表していると分かる。
「だってこのまま戻しても一緒でしょ?私が死ぬことをなくしても、肇は私にすべてを話さず、また離れていくんでしょ?じゃあ。まだ今のままの方がいい。このまま三人で一緒の方が良い。それでいいじゃない?」
「なんだと?」
東はさも当然と言ったように、そんな言葉を並べていった。
北条さんも亜里沙ちゃんもペタも、沙代里も植木も。その他、すべての町の人間が死んだままのこの世界が良いはずがない。
しかし彼女はそれでいいと言う。
意味が全く分からない。
その彼女の言葉に俺は溜まっていた想いが弾けるように、怒りを放出してしまう。
「いいわけねぇだろ!?こんなバカみたいな世界で何がいいんだ!?それでここから三人で生きてどうする?このままこの誰もいない町で過ごしていくのか?それに今は大丈夫でも自分が死ぬかもしれないんだぞ!?バカなことを言ってないで早く渡せ!!」
その俺の怒鳴り声に、東は委縮し、肩を震わせた。
しかし、未だその瞳からは強い意志を感じる。
彼女は本気でこのままでいいと思っているようだ。
確かにまた繰り返すだけだ。
ここから何か出来るでもなし。
もう諦めて、すべてを受け入れるしかない。
この世界のことも。ワールドメイクという叶わない異能も。鬼嶋あかりという狂気じみた人間も。東の死も。すべて受け入れて生きていくしか他に方法はない。
だからといってこの無秩序な世界のままで生きていくという選択肢は俺にはない。
結局、あの譲渡を試みた高校一年生の時に戻って、そこから別の道を探るか、俺がまた東を助け続けるしかないんだ。
別と言ってもどうせそれも徒労に終わるから、残された道はおのずと一つに絞られるだろうが。
「西京。興奮しすぎだ。落ち着け。」
「あ!?」
「落ち着けって。…………東もことを急ぐなって。どう考えたってこの世界は駄目だろう?」
「う、うん。」
「よし、とりあえず整理して考えよう。」
「だから考えても無駄だって何度言ったら分かる?もう何度試しても無駄だった。これからも改変を続けていくしか方法はない。俺が何回、東の死に顔を見たと思う!?何百回ってこの頭に刻まれてるんだ!!もう無理だろ?」
「いいから。な?その時と状況は違うだろ?」
俺の言葉に南は耳を傾けつつも、未だ冷静にその場を収めようとしている。ここで話し合っても意味などない。
もう何も変わらない。
これがワールドメイクなんて馬鹿げた異能に頼った憐れな人間の末路なんだ。
「勝手にしろ。」
俺はそう吐き捨てる。
しかし南はその隣でうーんと唸りながら、悩みだす。
彼がどれだけ悩んでも答えなどでないだろう。俺は彼が納得できるまで待った。どうせ刹那的な付き合いだ。それが終われば、俺は力づくでも東から時計を奪い、改変を始めよう。
そうしたら、また皆が記憶をなくし、譲渡前の世界から続きを生きていくだけだ。
果てしなく暗い世界を。
だから、これはほんの数分の戯れのようなものだ。
「西京。お前は本当はどうしたかったんだ?」
それは俺が東にした質問だ。それを南はそのまま俺に問う。
「なにを?俺は…………。ただ東の自殺を防いで。それで。ただ。」
そう。ただあの頃のままを取り戻したかったのだ。あの三人で遊んだ夏を取り戻したかった。それだけだった。
多分この三人も願うものは同じはずだ。
ただあの瞬間を取り戻して平穏に生きていたかった。
「俺は…………あの時の夏を取り戻したかった。それだけだ。」
「そうするにはやっぱり東の自殺を止める必要があったと。」
「そうだ。…………ただ。ただ生きてくれさえすればそれでよかったんだ。それ以外、望んでいなかった。」
そう。ただ生きてさえいてくれたら、あの頃を取り戻せる。
しかし、その言葉が今ではまるで夢物語のようで、口から出る言葉に虚しさが滲むのも仕方がない。
その言葉を聞いた東は顔を背けていた。
「なんで自殺したかは考えなかったのか?東がなんで自殺したかだよ。それが分からないと結局、根本的な解決に繋がらないだろ?」
「え?」
それは事件の起きた原点であれど、異能についての理論的な解決には繋がらない。それに、東の死因を深く考えると胸が酷く痛んで、俺は目を背けていた。
聞かなくても分かる。
彼女の心を蝕む、最悪の世界のことなんて。
しかし、南は東に問う。
「東。少し酷な質問をするが、答えてほしい。なんで過去の自分は自殺したと思う?」
急に声をかけられた東は反射的に顔を上げて、南に居直る。悩みながらも、彼女は言葉を紡ぐ。
「多分。…………多分だけど。もう西京と一緒にいれないって思ったからだと思う。それだけだったと思う。今の私がその鬼嶋さんだっけ?その人に何かされても何も思わない。そんな他人に興味がないの。親のことに関しても勝手に離婚でもなんでもしたらいい。でも…………。その事件の所為で西京に迷惑をかえたくない。もう会えないっていうことが一番の原因だと思う。」
は?
俺は耳を疑った。
いや、多分違うだろう。
こんな話を聞いたら、過去の知らない事でも虚勢を張りたくなるものである。
と考えながらも、何故か引っかかる。
鬼嶋のいじめは本当に汚ならしく、常人にとっては耐え難い屈辱的なものであった。
あんなものは人間の所業ではない。
しかし、思い返してみれば、確かにおかしな点に気が付く。
一度でも東が鬼嶋をどうにかしてほしいと言ったことや、そのいじめのことで小学校時代のように泣いている姿を見たことがなかった。
彼女は見えないところも何かされていたのは間違いないのに。
しかし、俺たちと遊んでいる時、いつも笑っていた。
俺はそれをやせ我慢しているのだろうと思っていたから、南といじめを撲滅すべく動いていた。
しかし、それも彼女に直接頼まれた覚えはない。
親の件に関しても、ただ家に帰りたくなかったとしか聞いてない。
だから自分を助けてほしいだとか、親が嫌いだと言った否定的なことを聞いたこともない。
彼女はいつも平然とした顔で遊びに来ていた。
俺は何か勘違いをしているのだろうか。
一連の記憶をたどってみれば、自分の認識との間で大きく齟齬が生まれ、途端に今までの記憶が別のものに見えてくる。
俺は何か大きな勘違いをしているのではないかと。
「は?それだけか?」
「それだけだよ。私にはそれで十分。それ以上はいらない。だから義務感とはいっても一緒にずっといられたその過去の世界の私はラッキーだよ。それだけ貴方を独占できたのだから。」
東はそんなことを俺の目から一切逸らすことなく、言い抜く。そこに一切の気の迷いも、羞恥心もないような毅然とした態度で彼女は俺の目を見据えていた。
これでは、告白を受けているようなものだ。
俺は南を見る。
その誤解の種を彼に問いたいのだ。
しかし、彼は俺の視線で何かを理解したのか、不意にうな垂れた。
南はため息を漏らしながらも、東を見てあきれていた。
なんだその反応は。まるで東はそれが平常運転とでもいいだげな顔は。
「それなら…………なんで置いて行った?一人で先に死んで。俺はどうしたらいいか分からなくなったんだ。」
「うん。それは本当にごめんなさい。私はその時の私を知らないから何も分からないけど、その時の私は馬鹿だ。そんな機会、絶対もう来ないのに。たかが裸を見られたくらいで、死ぬ意味も今の私には分からない。」
「え?それが理由なのか?」
「多分そうだと思う。別にいじめられてようが何をされようが学校には本を読みに行くのと、肇に会いに行っているだけだからどうでもいいし。親の離婚も心底どうでもいい。他の人達に対して私は一切の感情はないし。何度も言っているけれど、私は貴方だけいればいいの。でも多分、その時の私は頭が固かったのね。今ならそんなフウに思わない。そんな機会があるなら、貴方を独占できるでしょ?だって南くんのことも無視して私の家に来てくれるんでしょ?」
そう彼女は言い切った。
それが何故だか信じられなかった。俺の中の彼女は未だ、小学校の校舎裏で力なく鳴いている少女だった。
引っ込み思案で、意思も弱く、前に出ることを嫌うただ本が好きな少女だったのだ。
それが、違うのか?
彼女は強い意志の宿る瞳でこちらを見て、こともなげに「いじめとか親の問題はどうでもいい」と言い切った。
彼女はいじめに対し悲観的に見て、そこに親の離婚が重なったことで心を病んで自殺したのではないのか?
何かがずれている。
決定的にずれている部分がある。
東は何か脱力したようにため息を漏らすと、諦観の籠った瞳で俺を見た。
「本当は、こんなこと言いたくなかったけれど、この世界はもう百回ちかい改変を重ねた世界なの。なんでそこまで重ねたか肇に分かる?」
「なんで…………。よく分からないが俺の進路だったり、受け入れてほしいって。…………俺たちと一緒の大学に行きたかったからか?」
「まぁそうなんだけど。でも少し違う。私は貴方を自分のモノにするために改変を重ねたの。追っても逃げられて、どれだけ迫っても断られた。一度、本当に束縛したこともあったけどやっぱり駄目だったね。肇は耐え切れなかったみたい。だから重ねた。理由はそれだけ。私はそのためなら何度だって改変する。そこに迷いはない。」
今、何か不穏な話が入ってなかったか?
俺は東を改めて見る。
そこにはやはり、いつも見ていた幼馴染がいる。黒髪のショートカットに、我が校の制服に身を包む、いつもの幼馴染だ。でも何かが違う。
それは俺を見る目が違う。
彼女のその目は何故か鋭く光っており、こちらが身震いしてしまうほどの意思の強い瞳をしていた。
弱い人間だなんて口が裂けても言えぬほどの威圧感を持っていた。
「じゃあ。本当にそれだけのために改変を何度も行ったのか。なんでだ?俺はお前を小学校の時にたまたま助けただけだ。それだけだぞ!?たったそれだけだ!なのになんでこんなことを繰り返したんだ?」
その時、彼女の顔の口が三日月のように弧を描いて曲がり笑っていた。そして、愛おしそうに瞳を細めて俺に言う。
「そんなの好きだからよ。なんで分からないの?そんな単純なことが。貴方のことが好き。他は何もいらない。死んででも私という存在を貴方に焼き付けたい。それよりもそこまで私に尽くしてくれたことでまた好きなった。これまでよりもより好きになったの。それがすべて。それ以外はどうでもいいの。何度も言っているけど、いじめとか親とかどうでもいいの。肇が邪魔だって望むならその鬼嶋って子も、父親も殺してもいいよ。邪魔だから。それほど他はどうでもいいの。」
俺は幼馴染の本性に初めて触れた。
こいつは狂っている。
自分の命よりも、親よりもこんな俺が好きだと宣う。意味が分からない。
何がこいつをこんなフウにしてしまったのか。ただ助けた人間のことをこうも盲目的に好きになるものだろうか。
俺は何者でもなくて、ただの普通の高校生で特に目立っていいところもなにもないというのに。
そんなことは俺が一番分かっているのに。
俺は訳も分からず、南に話を振る。自分の中では消化しきれぬ話だった。俺が思っていた彼女は、本当の彼女ではなかったのだ。
「南。どういうことだ?」
「そこで俺に振るのかよ…………。どういうも何も、東はこういう奴だよ?なんだやっぱり気づいてなかったのか。
…………確かに他のことに関しては普通の子だよ。でもお前の事に関しては違う。お前の進路を探れと俺を脅したり、お前に近づく女には容赦ないな。今思えば、北条が橋爪に襲われたのもそういうことかもな。どうだ?」
「ああ別にあれくらい良いでしょ?死ぬわけでもないんだし。」
彼女はあっさりと自白する。
「ほらな。こういう奴なんだよ。正直言うと狂ってるんだ。あの夏の時もお前がいたからこいつは来てただけだろ。家にいたくないってのもなんか信憑性が薄いな。本当のことか?」
「知らない。過去の自分なんて。でも多分、嘘ね。そう言うと肇が心配してくれると思ったんだじゃない?」
「そう考えると、裸云々も嘘くさいな。多分違うだろ?」
「だから知らないって。過去の自分なんだし。…………でも。多分、その中学の頃から肇をどうしたら独占できるか考えていたから、そうね。多分、違うわね。その話を聞いていて思ったけれど、その肇を骨折に追い込んだ男が生きているかもわからないわ。私がそんなことをした奴を許すはずがないし。多分、最悪殺してるかもしれない。それで足でもついたから引きこもっていたのかしら?勘だけど。まぁ。死んで肇の中に生き続けるって考えがあった可能性が一番高いわね…………って南くん。
肇が完全に引いちゃってるじゃない。どう責任取ってくれるの?」
東は鋭い目つきで南を睨みつける。それはいつもの無気力な彼女からは考えられぬほど、力強い語気であった。
それに、こんなに饒舌に話す彼女を見たのは初めてだ。
「いや。そろそろ西京は知らないと駄目だろ?ここまで重症な女がお前のすぐそばにいますよってな。」
「重症?崇高な愛の形でしょ?」
「うわぁ。引くわ。」
南は体をのけ反らせて、東から一歩引きさがった。
東は俺の前に来る。
そして、心配そうな顔で俺の顔を上目遣いに覗き込み、いつもような小さい声で俺に問いかける。
「肇。どうする?これからの世界について。
私はこんな女なんだよ?それを悪いとも良いとも思ってないし、貴方に強要もしないよ。だから肇が決めて。私を受け入れてくれるかどうかを。」
「いや。それは何度も改変して迫った人間のいうことじゃないだろ?」
「うるさい。黙ってろ。」
「あ、はい。」
俺は頭が混乱しており、もうどうしたらいいのか分からなくなっていた。南の反応からして、東は本当にそんな人間なのかもしれない。
いや。小学校時代は確かに他者の悪意にさらされれば、泣いてしまうような子だった。しかし、今では見違えるほど変わってしまった。
彼女はいつのまにか強く逞しい人間に変わっていたのだ。俺が思いもしない形でだが。
いつからだろう。
いつから俺は彼女を見失ってしまったのだろう。
俺は彼女を守るべき対象だと思い込んでいたのかもしれない。そしてそれが今、酷く恥ずかしい。
彼女は初めから誰の保護も必要としていなかったのだ。
その瞳の奥に眠る、熱く強い意志に何故気が付かなったのだろう。
これほど熱情的な目線を俺に向けているというのに。
俺は引いていたのではない。ただ嬉しかったのだ。
彼女が本当に強く美しい女性に見えたのだ。
そう思えば、何故か嬉しさと俺は何をしていたのだろうという後悔が心に同居し、その想いで泣けてくる。
俺は彼女の何を今まで見ていたのだろうと。
「どうする?肇。私を受け入れてくれる?」
「いや、受け入れなかったら速攻改変するだろうが。それで受け入れるまでまた改変を重ねる気だろ?」
「南くん。うるさい。ぶち殺すわよ。」
「あ、はい。」
東のその覇気を伴う表情と、俺の想像する彼女の気弱な表情がまったくかみ合わず、俺はついに笑ってしまう。
やっぱり喜劇だなぁとため息も零れる始末だ。
俺が今までやってきたことってほとんど意味がない事なのかもしれない。
俺がそう言うと東は、にこやかに「そんなのいいの。意味の有無なんて考えるだけ無駄だしね。でも、私はそこまでしてもらって素直に嬉しいし、最悪の事態に陥っても、肇とならどんな世界でも生きてあげる」と言う。
何処までも健気に、病的なまでの愛を突き付けられている。
俺は何を一人で抱えこんでいたのだろう。
彼女や南に全て相談すれば良かったのだ。
そうすれば、世界はもっと上手く回っていたかもしれない。
彼女は聖母のような慈悲の笑みを浮かべて、こちらに手を差し伸べて、どんな世界でも貴方となら良いと言う。
ここまで言われれば、男としてやることはもう一つだ。
俺は彼女の腕をとって、こちらに手繰り寄せて、困惑する彼女にキスをした。
もう逃げるのは終わりだ。
全てを受け入れるのは全てを諦める事ではない。
全てを包括的に考え、突き進むことだ。
結局、変わることから逃げていただけなのかもしれない。
置いていかれる事に怯えていただけなのかもしれない。
ワールドメイクの闇を解決出来た訳でもないが、俺は前に進めた気がした。
その行動で彼女に自分の意思を提示したことに満足し、唇を離そうとした瞬間、彼女に体の自由を奪われ逆襲されたのは言うまでもないことだが。
俺は長話を終え、深く息を吐いて心を落ち着かせた。
とすると、たしかに今の自分の話に何か間違いがあるのではと考えてしまう。
全てを整理し人に話すと、また違った視点で物事を捉えられると言うが、俺は違和感を覚えながらも、最後にはその慈悲のない世界への怒りからか、違和感を探ることを放棄した。
「そうか…………。あの橋の上から飛び降りた時の光は異能の。そのワールドメイクの光だったのか。そうか。…………やっと附に落ちた。」
南は今までのすべてのことが納得できたのか、えらく落ち着いた様子で俺の話を聞いていた。
こんな突拍子のない話を聞けばもっと狼狽したりするものだろうと思っていたが、二人は真面目に俺の話を聞き終え、そして皆が口を噤んでしまう。
東は何とも言えぬ悲しいような、困ったような、やり場のない気持ちをどこに持って行けば良いのか分からないと言った顔でこちらを見ていた。
自分の死について聞かされたら誰だって焦燥感に駆られそれを否定したり、適当な事を言うなと受け入れなかったり、消極的な方へと感情が向くと思う。
しかし、彼女は俺に同情にも似た悲哀に満ちた面持ちでこちらを見ていた。
それでいて酷く冷静にも見えた。
それが何故か分からず、俺は次の言葉が見つからず黙ってしまう。
南は一度、深く息を吸い、それをため息とともに漏らした。そして俺に問う。
「西京。それでこれからどうするつもりだ?」
「ああ。これからの話か。…………東。時計を持っているだろう?」
東は一瞬何を聞かれているのか分からないと言った表情を見せたが、すぐに思い出したように、ポケットから時計を取り出した。
そう。ワールドメイクの時計だ。
「ええ。持っているわ。」
「それを俺に渡せ。」
「え?」
「また一緒だ。これからその時計でこの世界を戻して、また一から改変を始める。もう残された道はそれしかない。」
「なんで?」
「は?話を聞いてただろ?」
「聞いてたわ。でももう一度やり直す必要性を感じない。」
なんだと?
こんなフウに町の人間が全員死んだ状態が良いはずがない。彼女はこの終わった世界を改変する必要が無いとでもいいたいのだろうか?
しかしながら、彼女は困ったような顔で時計を握り締めた。
それが拒絶を表していると分かる。
「だってこのまま戻しても一緒でしょ?私が死ぬことをなくしても、肇は私にすべてを話さず、また離れていくんでしょ?じゃあ。まだ今のままの方がいい。このまま三人で一緒の方が良い。それでいいじゃない?」
「なんだと?」
東はさも当然と言ったように、そんな言葉を並べていった。
北条さんも亜里沙ちゃんもペタも、沙代里も植木も。その他、すべての町の人間が死んだままのこの世界が良いはずがない。
しかし彼女はそれでいいと言う。
意味が全く分からない。
その彼女の言葉に俺は溜まっていた想いが弾けるように、怒りを放出してしまう。
「いいわけねぇだろ!?こんなバカみたいな世界で何がいいんだ!?それでここから三人で生きてどうする?このままこの誰もいない町で過ごしていくのか?それに今は大丈夫でも自分が死ぬかもしれないんだぞ!?バカなことを言ってないで早く渡せ!!」
その俺の怒鳴り声に、東は委縮し、肩を震わせた。
しかし、未だその瞳からは強い意志を感じる。
彼女は本気でこのままでいいと思っているようだ。
確かにまた繰り返すだけだ。
ここから何か出来るでもなし。
もう諦めて、すべてを受け入れるしかない。
この世界のことも。ワールドメイクという叶わない異能も。鬼嶋あかりという狂気じみた人間も。東の死も。すべて受け入れて生きていくしか他に方法はない。
だからといってこの無秩序な世界のままで生きていくという選択肢は俺にはない。
結局、あの譲渡を試みた高校一年生の時に戻って、そこから別の道を探るか、俺がまた東を助け続けるしかないんだ。
別と言ってもどうせそれも徒労に終わるから、残された道はおのずと一つに絞られるだろうが。
「西京。興奮しすぎだ。落ち着け。」
「あ!?」
「落ち着けって。…………東もことを急ぐなって。どう考えたってこの世界は駄目だろう?」
「う、うん。」
「よし、とりあえず整理して考えよう。」
「だから考えても無駄だって何度言ったら分かる?もう何度試しても無駄だった。これからも改変を続けていくしか方法はない。俺が何回、東の死に顔を見たと思う!?何百回ってこの頭に刻まれてるんだ!!もう無理だろ?」
「いいから。な?その時と状況は違うだろ?」
俺の言葉に南は耳を傾けつつも、未だ冷静にその場を収めようとしている。ここで話し合っても意味などない。
もう何も変わらない。
これがワールドメイクなんて馬鹿げた異能に頼った憐れな人間の末路なんだ。
「勝手にしろ。」
俺はそう吐き捨てる。
しかし南はその隣でうーんと唸りながら、悩みだす。
彼がどれだけ悩んでも答えなどでないだろう。俺は彼が納得できるまで待った。どうせ刹那的な付き合いだ。それが終われば、俺は力づくでも東から時計を奪い、改変を始めよう。
そうしたら、また皆が記憶をなくし、譲渡前の世界から続きを生きていくだけだ。
果てしなく暗い世界を。
だから、これはほんの数分の戯れのようなものだ。
「西京。お前は本当はどうしたかったんだ?」
それは俺が東にした質問だ。それを南はそのまま俺に問う。
「なにを?俺は…………。ただ東の自殺を防いで。それで。ただ。」
そう。ただあの頃のままを取り戻したかったのだ。あの三人で遊んだ夏を取り戻したかった。それだけだった。
多分この三人も願うものは同じはずだ。
ただあの瞬間を取り戻して平穏に生きていたかった。
「俺は…………あの時の夏を取り戻したかった。それだけだ。」
「そうするにはやっぱり東の自殺を止める必要があったと。」
「そうだ。…………ただ。ただ生きてくれさえすればそれでよかったんだ。それ以外、望んでいなかった。」
そう。ただ生きてさえいてくれたら、あの頃を取り戻せる。
しかし、その言葉が今ではまるで夢物語のようで、口から出る言葉に虚しさが滲むのも仕方がない。
その言葉を聞いた東は顔を背けていた。
「なんで自殺したかは考えなかったのか?東がなんで自殺したかだよ。それが分からないと結局、根本的な解決に繋がらないだろ?」
「え?」
それは事件の起きた原点であれど、異能についての理論的な解決には繋がらない。それに、東の死因を深く考えると胸が酷く痛んで、俺は目を背けていた。
聞かなくても分かる。
彼女の心を蝕む、最悪の世界のことなんて。
しかし、南は東に問う。
「東。少し酷な質問をするが、答えてほしい。なんで過去の自分は自殺したと思う?」
急に声をかけられた東は反射的に顔を上げて、南に居直る。悩みながらも、彼女は言葉を紡ぐ。
「多分。…………多分だけど。もう西京と一緒にいれないって思ったからだと思う。それだけだったと思う。今の私がその鬼嶋さんだっけ?その人に何かされても何も思わない。そんな他人に興味がないの。親のことに関しても勝手に離婚でもなんでもしたらいい。でも…………。その事件の所為で西京に迷惑をかえたくない。もう会えないっていうことが一番の原因だと思う。」
は?
俺は耳を疑った。
いや、多分違うだろう。
こんな話を聞いたら、過去の知らない事でも虚勢を張りたくなるものである。
と考えながらも、何故か引っかかる。
鬼嶋のいじめは本当に汚ならしく、常人にとっては耐え難い屈辱的なものであった。
あんなものは人間の所業ではない。
しかし、思い返してみれば、確かにおかしな点に気が付く。
一度でも東が鬼嶋をどうにかしてほしいと言ったことや、そのいじめのことで小学校時代のように泣いている姿を見たことがなかった。
彼女は見えないところも何かされていたのは間違いないのに。
しかし、俺たちと遊んでいる時、いつも笑っていた。
俺はそれをやせ我慢しているのだろうと思っていたから、南といじめを撲滅すべく動いていた。
しかし、それも彼女に直接頼まれた覚えはない。
親の件に関しても、ただ家に帰りたくなかったとしか聞いてない。
だから自分を助けてほしいだとか、親が嫌いだと言った否定的なことを聞いたこともない。
彼女はいつも平然とした顔で遊びに来ていた。
俺は何か勘違いをしているのだろうか。
一連の記憶をたどってみれば、自分の認識との間で大きく齟齬が生まれ、途端に今までの記憶が別のものに見えてくる。
俺は何か大きな勘違いをしているのではないかと。
「は?それだけか?」
「それだけだよ。私にはそれで十分。それ以上はいらない。だから義務感とはいっても一緒にずっといられたその過去の世界の私はラッキーだよ。それだけ貴方を独占できたのだから。」
東はそんなことを俺の目から一切逸らすことなく、言い抜く。そこに一切の気の迷いも、羞恥心もないような毅然とした態度で彼女は俺の目を見据えていた。
これでは、告白を受けているようなものだ。
俺は南を見る。
その誤解の種を彼に問いたいのだ。
しかし、彼は俺の視線で何かを理解したのか、不意にうな垂れた。
南はため息を漏らしながらも、東を見てあきれていた。
なんだその反応は。まるで東はそれが平常運転とでもいいだげな顔は。
「それなら…………なんで置いて行った?一人で先に死んで。俺はどうしたらいいか分からなくなったんだ。」
「うん。それは本当にごめんなさい。私はその時の私を知らないから何も分からないけど、その時の私は馬鹿だ。そんな機会、絶対もう来ないのに。たかが裸を見られたくらいで、死ぬ意味も今の私には分からない。」
「え?それが理由なのか?」
「多分そうだと思う。別にいじめられてようが何をされようが学校には本を読みに行くのと、肇に会いに行っているだけだからどうでもいいし。親の離婚も心底どうでもいい。他の人達に対して私は一切の感情はないし。何度も言っているけれど、私は貴方だけいればいいの。でも多分、その時の私は頭が固かったのね。今ならそんなフウに思わない。そんな機会があるなら、貴方を独占できるでしょ?だって南くんのことも無視して私の家に来てくれるんでしょ?」
そう彼女は言い切った。
それが何故だか信じられなかった。俺の中の彼女は未だ、小学校の校舎裏で力なく鳴いている少女だった。
引っ込み思案で、意思も弱く、前に出ることを嫌うただ本が好きな少女だったのだ。
それが、違うのか?
彼女は強い意志の宿る瞳でこちらを見て、こともなげに「いじめとか親の問題はどうでもいい」と言い切った。
彼女はいじめに対し悲観的に見て、そこに親の離婚が重なったことで心を病んで自殺したのではないのか?
何かがずれている。
決定的にずれている部分がある。
東は何か脱力したようにため息を漏らすと、諦観の籠った瞳で俺を見た。
「本当は、こんなこと言いたくなかったけれど、この世界はもう百回ちかい改変を重ねた世界なの。なんでそこまで重ねたか肇に分かる?」
「なんで…………。よく分からないが俺の進路だったり、受け入れてほしいって。…………俺たちと一緒の大学に行きたかったからか?」
「まぁそうなんだけど。でも少し違う。私は貴方を自分のモノにするために改変を重ねたの。追っても逃げられて、どれだけ迫っても断られた。一度、本当に束縛したこともあったけどやっぱり駄目だったね。肇は耐え切れなかったみたい。だから重ねた。理由はそれだけ。私はそのためなら何度だって改変する。そこに迷いはない。」
今、何か不穏な話が入ってなかったか?
俺は東を改めて見る。
そこにはやはり、いつも見ていた幼馴染がいる。黒髪のショートカットに、我が校の制服に身を包む、いつもの幼馴染だ。でも何かが違う。
それは俺を見る目が違う。
彼女のその目は何故か鋭く光っており、こちらが身震いしてしまうほどの意思の強い瞳をしていた。
弱い人間だなんて口が裂けても言えぬほどの威圧感を持っていた。
「じゃあ。本当にそれだけのために改変を何度も行ったのか。なんでだ?俺はお前を小学校の時にたまたま助けただけだ。それだけだぞ!?たったそれだけだ!なのになんでこんなことを繰り返したんだ?」
その時、彼女の顔の口が三日月のように弧を描いて曲がり笑っていた。そして、愛おしそうに瞳を細めて俺に言う。
「そんなの好きだからよ。なんで分からないの?そんな単純なことが。貴方のことが好き。他は何もいらない。死んででも私という存在を貴方に焼き付けたい。それよりもそこまで私に尽くしてくれたことでまた好きなった。これまでよりもより好きになったの。それがすべて。それ以外はどうでもいいの。何度も言っているけど、いじめとか親とかどうでもいいの。肇が邪魔だって望むならその鬼嶋って子も、父親も殺してもいいよ。邪魔だから。それほど他はどうでもいいの。」
俺は幼馴染の本性に初めて触れた。
こいつは狂っている。
自分の命よりも、親よりもこんな俺が好きだと宣う。意味が分からない。
何がこいつをこんなフウにしてしまったのか。ただ助けた人間のことをこうも盲目的に好きになるものだろうか。
俺は何者でもなくて、ただの普通の高校生で特に目立っていいところもなにもないというのに。
そんなことは俺が一番分かっているのに。
俺は訳も分からず、南に話を振る。自分の中では消化しきれぬ話だった。俺が思っていた彼女は、本当の彼女ではなかったのだ。
「南。どういうことだ?」
「そこで俺に振るのかよ…………。どういうも何も、東はこういう奴だよ?なんだやっぱり気づいてなかったのか。
…………確かに他のことに関しては普通の子だよ。でもお前の事に関しては違う。お前の進路を探れと俺を脅したり、お前に近づく女には容赦ないな。今思えば、北条が橋爪に襲われたのもそういうことかもな。どうだ?」
「ああ別にあれくらい良いでしょ?死ぬわけでもないんだし。」
彼女はあっさりと自白する。
「ほらな。こういう奴なんだよ。正直言うと狂ってるんだ。あの夏の時もお前がいたからこいつは来てただけだろ。家にいたくないってのもなんか信憑性が薄いな。本当のことか?」
「知らない。過去の自分なんて。でも多分、嘘ね。そう言うと肇が心配してくれると思ったんだじゃない?」
「そう考えると、裸云々も嘘くさいな。多分違うだろ?」
「だから知らないって。過去の自分なんだし。…………でも。多分、その中学の頃から肇をどうしたら独占できるか考えていたから、そうね。多分、違うわね。その話を聞いていて思ったけれど、その肇を骨折に追い込んだ男が生きているかもわからないわ。私がそんなことをした奴を許すはずがないし。多分、最悪殺してるかもしれない。それで足でもついたから引きこもっていたのかしら?勘だけど。まぁ。死んで肇の中に生き続けるって考えがあった可能性が一番高いわね…………って南くん。
肇が完全に引いちゃってるじゃない。どう責任取ってくれるの?」
東は鋭い目つきで南を睨みつける。それはいつもの無気力な彼女からは考えられぬほど、力強い語気であった。
それに、こんなに饒舌に話す彼女を見たのは初めてだ。
「いや。そろそろ西京は知らないと駄目だろ?ここまで重症な女がお前のすぐそばにいますよってな。」
「重症?崇高な愛の形でしょ?」
「うわぁ。引くわ。」
南は体をのけ反らせて、東から一歩引きさがった。
東は俺の前に来る。
そして、心配そうな顔で俺の顔を上目遣いに覗き込み、いつもような小さい声で俺に問いかける。
「肇。どうする?これからの世界について。
私はこんな女なんだよ?それを悪いとも良いとも思ってないし、貴方に強要もしないよ。だから肇が決めて。私を受け入れてくれるかどうかを。」
「いや。それは何度も改変して迫った人間のいうことじゃないだろ?」
「うるさい。黙ってろ。」
「あ、はい。」
俺は頭が混乱しており、もうどうしたらいいのか分からなくなっていた。南の反応からして、東は本当にそんな人間なのかもしれない。
いや。小学校時代は確かに他者の悪意にさらされれば、泣いてしまうような子だった。しかし、今では見違えるほど変わってしまった。
彼女はいつのまにか強く逞しい人間に変わっていたのだ。俺が思いもしない形でだが。
いつからだろう。
いつから俺は彼女を見失ってしまったのだろう。
俺は彼女を守るべき対象だと思い込んでいたのかもしれない。そしてそれが今、酷く恥ずかしい。
彼女は初めから誰の保護も必要としていなかったのだ。
その瞳の奥に眠る、熱く強い意志に何故気が付かなったのだろう。
これほど熱情的な目線を俺に向けているというのに。
俺は引いていたのではない。ただ嬉しかったのだ。
彼女が本当に強く美しい女性に見えたのだ。
そう思えば、何故か嬉しさと俺は何をしていたのだろうという後悔が心に同居し、その想いで泣けてくる。
俺は彼女の何を今まで見ていたのだろうと。
「どうする?肇。私を受け入れてくれる?」
「いや、受け入れなかったら速攻改変するだろうが。それで受け入れるまでまた改変を重ねる気だろ?」
「南くん。うるさい。ぶち殺すわよ。」
「あ、はい。」
東のその覇気を伴う表情と、俺の想像する彼女の気弱な表情がまったくかみ合わず、俺はついに笑ってしまう。
やっぱり喜劇だなぁとため息も零れる始末だ。
俺が今までやってきたことってほとんど意味がない事なのかもしれない。
俺がそう言うと東は、にこやかに「そんなのいいの。意味の有無なんて考えるだけ無駄だしね。でも、私はそこまでしてもらって素直に嬉しいし、最悪の事態に陥っても、肇とならどんな世界でも生きてあげる」と言う。
何処までも健気に、病的なまでの愛を突き付けられている。
俺は何を一人で抱えこんでいたのだろう。
彼女や南に全て相談すれば良かったのだ。
そうすれば、世界はもっと上手く回っていたかもしれない。
彼女は聖母のような慈悲の笑みを浮かべて、こちらに手を差し伸べて、どんな世界でも貴方となら良いと言う。
ここまで言われれば、男としてやることはもう一つだ。
俺は彼女の腕をとって、こちらに手繰り寄せて、困惑する彼女にキスをした。
もう逃げるのは終わりだ。
全てを受け入れるのは全てを諦める事ではない。
全てを包括的に考え、突き進むことだ。
結局、変わることから逃げていただけなのかもしれない。
置いていかれる事に怯えていただけなのかもしれない。
ワールドメイクの闇を解決出来た訳でもないが、俺は前に進めた気がした。
その行動で彼女に自分の意思を提示したことに満足し、唇を離そうとした瞬間、彼女に体の自由を奪われ逆襲されたのは言うまでもないことだが。
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