ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

文字の大きさ
53 / 54
第3章 ワールドメイク

最終話 ワールドメイク④

しおりを挟む
「あの~お二人さん。俺ここにいますよ。」

南が俺たちを見ながら、居心地悪そうに物申す。

「ああ。すまん。」

「本当に自重しろよ。お前ら。確かに洋画やなんかはラストに意味の分からんイチャイチャシーンが入るが、親友のそういうところを目にする俺の立場にもなって考えてみろ。」

彼は今日、何度目かのため息を漏らすと、俺たちを叱責する。

それは教師が生徒を窘める様に。

「南くん。悪かったわ。…………。」

東は悪いと思ったのか、一瞬南から顔を背けるも、ものの数秒でコロッと忘れたように、こちらにその悪童じみた、いたずらっ子の顔を近づける。

…………。

「おい。だから自重しろよ。話が終わった途端、またしゃぶりつくのやめろ。気持ち悪い。」

「おお。すまん。」

「あれ。お前らなんか繰り返してないか?異能使った?」

南が心底、嫌悪感をもった表情でこちらを見るので俺も自重することにする。
彼女との間に手を置いて、一度、距離を取る。

東はまだ足りないと言った顔で舌打ちしているが、今は放っておこう。

「それで今からどうするんだ?お前らが引っ付いても何も解決しないぞ?」

「そうだな。……………………うーむ。まぁまた俺がワールドメイクを行使しようかと思っているけど。今となっては、その改変の闇についてもなんか違和感があるんだよなぁ。」

俺は冷静になった頭で考えるが、何か見落としている気がするのだ。

何か大切なことを。

その時、南が素っ頓狂な声を上げる。

「あ。……………………お前らの馬鹿な痴態を見て冷静になったことで一つ疑問が浮かんだわ。」

「ん?なんだ?」

「いや、東。」

「ん?なに?」

東は興味なさそうに南の方に顔を向ける。

「お前、本性を露わにした瞬間、俺に対して反応が冷たいな。まぁいいや。えっとこの世界は何回も改変してるんだろ?それって西京のことだけか?それ以外の理由で改変は行ってないんだな?」

「そうだけど。それが何?」

「いや、自分の命が危険に陥って改変とかないの?」

「ないわ。」

東はそう冷たく南に言い切る。

「西京。な?おかしいだろ?」

「ああ。ありがとう南。…………そういうことか。なんだ考えたら簡単なことだったな。」

「そうだな。西京が考えていることと俺が考えていることは一緒だ。酷な話だがな。」

「そうだな。つまりは…………俺が改変して東を殺し続けてたんだな。」

ワールドメイクは保持者の想像に基づいて、世界を過去から改変する異能だ。未来はない。

つまりは創造主の想像力にその世界は左右される。

初めの世界で俺は東の自殺現場を目撃し、それが強く頭に残っていた。それこそ夢に出るくらいに。

その影響をワールドメイクが受けないわけがない。

俺はワールドメイクを行使する際に、彼女の死に姿を嫌でも思い出してしまう。それが影響して彼女は死んでいたんだ。それは未来に進む途上で絶対に訪れる不可避の呪いの様に。

未来はないと思っていても、それは確約された未来だった。

彼女が絶対に死ぬという未来。

それを創造しうる異能だったのだ。

そして今回の世界で東が死んでいないのも同義だ。

彼女が未来に自分が死ぬなんて想像すらしていないだろう。

自分の死を想像する人間なんていない。死ぬ夢を見たり、死の先を考える人間はいても、自分の死に姿を想像する人間はほとんどいないだろう。

彼女は自分の死を想像すらしていないので、ワールドメイクでの過去の改変により死ぬことはないのだ。

これがもし、彼女に死の内容を話ていたら、こんなフウに彼女と話すことはもうなかったかもしれない。

彼女が自分の死を意識することがなくてよかった。

しかしながら俺は知らず知らずのうちに彼女を殺していたのか。ああ。これじゃ本当に喜劇だ。自分で蒔いた種を自分で育てて、自分で摘んでいただけなのだ。

こんな簡単な事を俺は彼女の死に対する恐怖から見落としていたのだ。

俺は本当に馬鹿なことをしていたんだ。

「東。ごめん。俺は…………。」

俺は東に首を垂れる。

しかし、東は俺の頭をその小さな手で撫でつけ、俺の口に指を当てる。

「皆まで言わなくてもいい。…………肇に殺されるなら私も本望よ。それに今はこうして良い感じにいったことだし上手く転がったと私は思っているわ。」

「東。」

「肇。」

俺と東が見つめ合うも、すぐに前を南が遮る。

「はいはい。自重してね。…………でどうする?謎も解けたし。」

「そうだな。なら東がこのまま正常に戻してしまえば、元通りじゃないか?」

「そうね。でも私、このまま、この世界でも本当にいいんだけど。こうして肇も私を受け入れてくれたわけだし。」

「うん。こいつにもう一度ワールドメイクを使わすの怖いな。…………間をとって俺が使おうか?」

「は?」

「あの。ごめん。東さん。俺の足踏んでる。」

「あ。ごめん。わざと。」

彼女は南の足をもう一度踏み直すとその足を地につけた。
南は恨めしそうに東を見ながらも話を続ける。

「冗談は置いておいても、俺が使った方が理にかなっていると思うがな?俺はお前らことに関しては俯瞰的に見れていたし、特に願いもない。自然体な世界を創造できると思うぞ?」

「まぁそうだな。…………それでいいか?」

「だめ。」

「え?」

東は手を伸ばして受け取ろうとする南の手を払いのけた。
そして、神妙な顔つきで、こちらを牽制するように腕時計を握り締めた。

「だって…………やっと肇と分かり合えたんだよ!?この世界は私にとって都合がいいの。いいえ。この世界が良いの!だって次に改変した世界で私と肇がまた分かり合えるか分からないでしょ!?」

それは悲痛な彼女の叫びだった。

心をむき出しにして、己の欲のためにすべてはいらないという彼女の自己中心的な、ある意味で最大限に利己的なまでの愛の形なのかもしれない。

他人が見れば拒否反応を示すだろう彼女の独占欲。
しかし、俺はその姿をみて、何故か酷く落ち付いていた。
考えていたのだ。
彼女のことを。

それは俺がここまで改変を重ねて、たどり着いた世界で本当の彼女と出会って、それゆえ彼女の心に初めて触れた気がしたからだ。

俺が改変を重ねたのは、彼女を生かすため。それは何故だろう?いや。因数分解するまでもなく分かる。

これは俺が彼女を好きだったからだ。

すべてから逃げようとしても、何故か最後に彼女に時計を渡してでも、繋ぎ止めようとしていた。

どうにかして、彼女と南とのつながりを守りたかったからだろう。

そうして、最後に彼女がすべてを壊してでも俺といたいという心を俺が理解しなくては、誰が理解できるのか。

俺は彼女に優しく語りかける。

「なぁ。東。俺みたいななんの取り柄もない、単なる中二病みたいな奴で、なんの責任もとれなくて、それでいて平凡な人間。学業に秀でているわけでも、スポーツが出来るわけもない。こんな人間でもいいのか?こんな俺でいいのか?」

「うん。私は肇が良い。何が出来なくても、貴方が私を救ってくれた。何にもない毎日で、出口もない暗闇だと思っていた世界から私を救ってくれた。何度も何度も。救ってくれたじゃない。…………それで十分だよ。私にとっては十分。私が貴方を求める理由はそれで十分なの。」

「そうか。…………俺、君が好きだよ。彼方が好きだ。」

「うん。私も。何度も言ってるから。もう言わない。続きはまた今度。」

「そっか。それは寂しいけれど。じゃあ、次はこれ以上ないくらい好きになって、幸せにするよ。」

「ううん。私がしてあげる。私が貴方を幸せにするの。」

「そっか。」

何故か自然と涙が溢れた。

それは今までの悲しみに暮れる絶望の涙とは違う。心が熱くなって、あふれ出す感情のなすが儘に自然と流れる涙だった。

その涙を彼方が拭った。しかし、彼方の瞳にも同じように涙が溢れて、俺は嬉しくなってまた泣いた。

その様子を親のような顔で朗らかに笑い、南は近寄ると東から時計を受け取る。

「どうする?最後に何かいい残したことないか?」

「ないな。」

「ないわ。」

「そうか。じゃあ。お二人さん。次の世界でもよろしくな。」

南は俺に握手を求める。

俺は何も言うことはないので、黙って彼の手を握り締めた。

「ああ。」

そう言うと、南は時計を持って、目を閉じる。

二人ともに目を閉じていた。俺は次の世界を創造する。

それは確かに思い描いた幸せな夏の時。

それは後悔したあの時の自分。

それは確かにあった三人の思い出と混ざり合う。

さぁ。新たな世界を創造しよう。

次の世界で彼女とのデートを思い浮かべたり、南と彼方と三人で遊ぶ姿を創造する。

最後に想像したのは彼女が安らかに眠る未来。あんな苦悶の表情ではなく、年を重ねて、最後は幸せそうに天寿を全うして死するときに、俺は傍らで彼女を見守る。

すぐに行くと、今までありがとうとそう言って、お互いに微笑みを浮かべる。

そうして創造しうる世界を考える。

しかし、この世界も無駄ではなかった。
色んな人間と出会って、様々な物の価値感に触れた気がする。
勿論、面倒なことも、悲しいこともあったが、思い出せば異能者達がこちらに笑いかけている。
それが全て無に帰すのは何か惜しい気もするが、次の世界でも会えたら嬉しいなと願いをかける。
それこそ西山さんと同じように。

俺の指が微かに動いて、南の手の中にある固い何かにコツンと当たった気がした。

俺は最後に目を閉じる。

光が眩しくて、目を閉じていても光の膜が見えた。

ワールドメイクは発動し、世界は改変された。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...