鐘が鳴るときに

プーヤン

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第7話 夢

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「ほら、こないだ行けなかっただろ?お前のせいで取った作物を売りに出しに行くのが遅くなって、商会に怒られたんだぞ。」

「それは、まあすいません。」

「…………まあ、いいけどよ。」

今日は何故かロイドがいつもより遅く、昼過ぎに来ており俺も腹が減っていたので飲みに行くことになった。

フィーネもたまに飲みに行くことはあれど友人と食事をすることなどない。

商会の人間との世間話などはたまにするが、それ以外で人と話すこともない俺にとっては珍しいことであった。

しかし、なぜこうも乗り気にロイドと食事をしたり、話したいと思ったのかは俺自身も未だに納得のいく答えは出せないでいた。

彼は税務官であり貴族だ。対する俺は平民である。そして、彼の父は間接的にも自分の父を死へと追いやったと見えなくもない。

その男に対する自分のこの信頼ともいえない感情の名前が分からない。

しかし、ロイドといると落ち着くというのは事実であり、彼の子供時代の謝罪を受け入れたわけではないが、どうにもこの関係おいて、そのことに関していつでも彼を責め立てることができるという立場を心に留めている自分にもある種、罪悪感がある。

優位性を保つことを是として、彼を脅かすことを望む客観性を見て、彼との関係に甘んじている主観が同居する心の持っていき方が今の自分には分からないのだ。

 

 

 

「こういった店に入ったのは、初めてです。こんな感じなんですね。」

そこは第三区の酒場である「蛇のしっぽ」という店だ。

実際に蛇の肉が出されているのは見たことがないが、昔、ある冒険者業を営む男が大蛇を屠りその肉が大層美味であったことから好意にしていた店に出し評判となり、そこの店主が新たに作った酒場がここ「蛇のしっぽ」である。

冒険者業というのは、いわば、怪物処理職を専門とする人のことだと思っていたが、どうやら小さい仕事も多々あるようで、それのみで生計を立てている人間も少ないようだ。

この「蛇のしっぽ」には従業員にその冒険職業を副業にしている人間もいる。また客も冒険者が多い。

それいえ、俺のような農業職を営む人間が来ることは滅多にないこともあり、俺がフィーネと飲みに来るのもこの店が多い。

「蛇の肉を食べるんですか?」

ロイドはどこか訝し気にこちらを見ているが、すぐに誤解を解く。

「いやいや、それはない。実際に蛇の肉を出していたのは開店当時ぐらいじゃないか?豚料理と酒がメインだな。」

「ああ、それは安心しました。では、乾杯。」

そういうと、俺らは運ばれてきた麦酒を仰ぐ。

ロイドは良い飲みっぷりで、貴族の嗜みといったものはそこにはなかった。

「ああ。大体、貴族は好んで葡萄酒を口にしますね。合っているのかどうか分からぬうんちくを垂れてね。」

「それは面白いのか?」

「いえ。それが社交ですから。まあ、僕はあまり好きではないのです。腹の探り合いのようなものですから。」

「うわ。嫌な飲み会だな。」

「というよりも、そのための酒ですから。良いも悪いもないのです。あ。この肉旨いですね。」

そこには、焼き目がついた豚のバラにソーセージが皿に並べられ、焼きたての芳醇な香りが鼻を衝く。見るだによだれが出て、コクリと喉を鳴らす。

ロイドは骨付き肉を素手で取ると、食らいつく。

貴族の行儀の良い食べ方とは言えないため、その姿を見てこちらがいらぬ心配をしてしまう。

しかし、貴族の男が肉にかぶりついている姿を見て、そのかぶりつきの良さに俺も楽しくなって豚の肉を一気にたいらげる。

彼は口から肉の油が垂れているがその油が滴り落ちる前に麦酒を飲み干す。

塩の味の効いた豚のしょっぱさを抜群に引き立てる麦酒の喉にくるシュワっとしたのど越しと食欲を助長する酔いのおかげか、手は止まらず次から次へと小樽に皿を空にしていく。

その時、店員がテーブルに葡萄とその他、彩り豊かな果実が入ったボウルを置いた。

「お、ここにきて甘いもんか。やるな。いい采配だ。」

「お褒めにいただき光栄です。」

「お。旨いな。この黄色い果実。いつもは頼まないが、たまには良いな。」

「そうでしょ?僕は正直、葡萄酒は嫌いなんですよ。なんだか体に合わないのです。まあ、彼らは好き嫌い関係なく飲むでしょうが。しかし、酔った体に甘いものは結構いいものですよ。」

「お、舌が回ってきたな。ほら!もっと飲め。」

「おや、ロイドも手が止まってますよ。はい、どうぞ。」

そこからさらに小樽を空けていく。その手は止まることなく飲み進めていく。

この謎の飲み会が開始されて三時間ほど経った頃には二人の酔っ払いが出来上がっていた。

「にしても、冒険者というのは良いな。いろんな未開の地を調査したり、未知の生物を探したり。」

「そうですね。海の向こうの大陸には冒険者として生計を立て、冒険者協会など結構その土地の主流の働き口になっているらしいですから。」

「ああ。いいな海を出て、その先の夢を追うのか。いいな。」

「カロンは畑で一生を終えるのが夢だと思っていました。」

「まあ、昔はそんなことも考えていたが今はどうだろ。たまにどっか遠くに行きたいなって思うな。なんか夢を追うみたいな。」

「おお。恥ずかしい。そんな子供みたいな。」

「あ?お前も無理やり船に乗せて連れていくぞ?他国では貴族でもなんでもないから今の高慢ちきな態度も取れなくなるな。」

「おお。…………それはいいですね。一緒に他国で冒険者でもしますか?」

「は?お前に背中を預けるとそのまま化け物に殺されそうだ。」

「いやいや、僕は逃げますよ。カロンを囮にして。ほら、カロンのその無駄に鍛えた体は使い道少ないでしょ?」

「お?喧嘩か?買うぞ。」

「それはまた今度で。ほら、飲みましょ。」

「ふん。まあいい。今日はこの麦酒の旨さで許してやろう。」

俺は酔いで震える手で小樽を持つと、空いた手で果実を一房とって豪快に齧り、麦酒を飲み干す。

ロイドはもう飲めないのか、小口に果実を食べ、水を飲んでいた。

お互いの頬が赤く染まり、視点は揺れ動き、体も波のように揺れ動く。

そうして時のまにまに流されて、浮いた気分の舟を漕ぐ。

店内の喧騒は過ぎ、店内で飲んでいる人間も少なくなってきた。

「……………………いいな。それはいい。もうこんなバカな生き方は苦しい。」

「は?なんか言ったか?」

「いえ。なにも。」

俺らは次の太陽が昇るまで飲み続けた。

夜明けにカロンが仕事があるのでと帰っていく姿はやけに寂しく、また足取りも重かった。

町を囲う山から朝日がさして、彼と俺を照らしていた。

俺らは別々の道へと帰っていく。

その道の先がつながっていると思っていた。大きな道へとつながっていると。

 

 

 

 
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