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序章

ローセンダールの魔術師①

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「タクミさ~んっっ」


 海岸寄りの山の山頂近くに大豪邸が立っていた。
 アセウスの呼び掛けに家の中から男が姿を現す。


「タクミさんっっ俺です! アセウスですっっ」

「おおーっっ」


 男はアセウスを認めるや、家からダッシュで俺たちの居る門をまで駆けてきた。
 なかなかにデカい男だ。
 目の前まで来て一瞬止まり、嬉しそうにアセウスをまじまじ眺めると、


「うおぉーっっまぢかっっ天使ちゃんっっっ!!!!」


 と叫びながらアセウスに抱きついた!!
 アセウスも嬉しそうに抱き合っている。
 ……いま、何て言ったか?
 俺がまた余計なことを考えてるうちに、二人は抱擁を終えていた。


「大きくなっちゃって~! あれ? 今いくつだっけ?」

「18です!」

「そりゃゴツい訳だなぁ! まぁ、入れよ! 中で話そう! お連れさんも」

「はい! ありがとうございます!」


 タクミと呼ばれた男はアセウスの肩を押しながら大豪邸へといざなった。
 久しぶりの再会を喜んで語る二人に続いて、俺とジトレフも邸宅へ入って行った。





「こいつが幼馴染みのエルドフィン・ヤール。でこっちはオッダ部隊のジトレフ・ランドヴィーク。エルドフィンとはセウダ部隊の研修期間を終えてから一緒に旅してるんだ。ジトレフは……いろいろあって、ここに来る前に寄ったオッダから参加してる・・・・・

「なんだぁ、来なくなったなと思ったら。そんな楽しそうなことをしてたのか。よろしく、エルドフィン、ジトレフ。俺はタクミ・オーモット、タクミって呼んでくれ」

「タクミさん、流石にそんなにフランクには呼べないよー。タクミさんは……38?! になるんでしょ?!」


 さんじゅうはちぃ~?! すげー長生きじゃねぇかっ。
 つか、わけぇ?!

 ジトレフと同じくらいの長身だがジトレフより骨格全体がデカい。
 男なら誰しも憧れそうな体駆に、良い具合に肉や丸みの落ちた顔が乗っていた。
 年齢からなる落ち着きと、ギリギリ結べるくらいの長さのアッシュブロンドが、
 トム・マイソンみたいなイケメンをゆる~い感じに見せていた。

 ぐぬぬっ……また凄いイケメンが出てきやがった……


「なっちゃったねぇ~、いったい何歳まで生きるんだか」


 タクミさんはゆる~く笑った。その笑みがすげーカッコ良かった。
 大人の男って感じで、今まで見た男たちとは別格だった。
 (そりゃそうだ、30超えた男なんてまず見ることがないからな、この世界。)
 
 俺たちに目線を配りながら、ふと思い出したように立ち上がると、
 タクミさんはカップに飲み物を出してくれた。
 口に運んでびっくりする。

「タクミさん、これ何? お湯なのに味がする」

「不老長寿の霊薬って言われる葉があってさ、調理して煮出したんだ。誰にも飲ませたことはないんだけど、天使ちゃんには特別にね、ナイショだよ」


 紅茶に似てる。すげーっっ
 二人の会話に耳を貸しながら、俺は懐かしさと嬉しさを味わって飲んだ。湯気で目が潤む。


「お、エルドフィン気に入った? なかなか良い舌してるよ。アセウスはどう?」

「う~ん……飲めなくはないけど、違和感の方が強いな。ただ、癖になりそうな味かも!」

「そうか。俺個人の感想だけど、不老長寿の効果もちゃんとありそうなんだよ。お陰で俺は元気だし、まだまだ子どもが作れそうだ」


 ん??


「え? タクミさん、結婚したの? あんなに興味ないって言ってたのに」

「誰のせいだと思って~。キミ達知ってる? このアセウス・エイケンの子どもの頃。まぁ~可愛くて可愛くて、本当に天使みたいだったんだぜ」


 エルドフィンの記憶をたどってみる。エルドフィンの「普通の幼馴染み」補正・・・・・・・・・が入った記憶でも、確かに愛らしい子どもだったみたいだ。まぁ、天使、といえなくはない。
 アセウスの話だと赤ちゃんの頃から来ていたらしいから、余計だろう。
 あービビった!
 ちょいちょい現れてた謎発言の理由はそーゆー訳か。
 ファンタジー小説に一人は登場しがちなヤバいやつかと思っちゃったじゃねぇか。


「ベルゲンへの転移で来る度にさ、天使みたいな可愛い顔で懐いてくるんだ、俺完全に骨抜きにされちゃってさぁ。大好きだったんだぞ~。それが突然来なくなるんだもんなぁ」

「突然って言っても、《冷たいグズル青布ブラール》になるって分かってるじゃん」

「そーゆー問題じゃなかったんだな。俺自身そこまで入れ込んでるとは思ってなかったんだけど、アセウスロスが凄くてさ、一時期プチ鬱みたいになってたくらい。信じられないよな? この俺が」

「えーーーっ!?」

 ハハハッと軽快な笑い声が重なる。
 俺とジトレフは完全置いてきぼりで、二人の会話を聞いていた。
 懐かしの学校あるあるかよ。まぢ要らねぇ。
 ワイワイ騒いでいる陽キャを別世界みたいに視聴させられる刑。 

 タクミさんは転移魔法が使える魔法戦士エリートで、この通りのイケメン。
 人柄も良い、社交的な人だから縁談話が殺到してたって、来る途中に聞かされた。
 それを興味ないって、全部断って、気ままな独身貴族してるんだって話だったが、
 「天使ちゃん」ロスしてプチ鬱だと?!
 アセウスの人たらし能力スキルヤバいんじゃねぇの……?!
 (正直俺もヤられてマスし……)
 魔物モンスターに狙われるのもそれでなんじゃね?
 とか、もうどうでも良くなってくるような。


「で、代わりの天使ちゃん作れないかなぁって、縁談受けることにしたんだ。基本俺の生活は今まで通り、誰にも侵害はされない、俺は奥さんの家に行ける時に通って、子ども作って、子どもの養育には協力するけど、俺が何もしなくても大丈夫って人だけって条件で。平均寿命超えたし、いつ死ぬか分からない身だからねぇ」

「そうだったのかー。タクミさんの子どもこそ天使みたいなんじゃないかなぁ! 今何人いるんですか?」

「15人♪ 2人はまだお腹の中だけどね」

「「「え゛???!!!」」」

「ははっ贅沢だろ? 奥さん持てる男が限られてるこの社会で17人も結婚してくれたんだよ。結婚したって言っても種馬みたいなもんで、子どもは1人ずつって決めてるんだけど。あと3人は行けるかなぁ、と思ってる」


 この世界は生存率の影響で女性が希少だ。
 仔細を説明せずとも想像がつくかと思うが、婚姻は家族が決めることが多い。
 大半が社会的強者と婚姻し、兄弟などで共有・・されることも珍しくはない。
 前世だったら、ジェンダー問題として騒がれそうなことも多いが……
 生存することが第一義のこの世界では、子どもを産めるっていうのは重要な能力スキルなんだ。
 小学校の頃から男女平等を教えられ続けた俺からすると、
 価値観が揺るがされて混乱する。
 から考えないようにしてるww、がーっ!!

 どっちの価値観でも奥さん17人いて子ども15人いて修羅場にならねぇとか、贅沢とかいうレベルじゃねぇだろっっ
 ゆる~く笑いながら言うなーっ!!

 なんともいえねぇ感情で睨み付けるも(嫉妬だ嫉妬、それは嫉妬という感情です。認めよう)
 17人の妻に裏打ちされた、大人の色気満載の笑みに零敗する。
 えへへ…って笑い返してる俺、はい、敵いません。


「15人って大変じゃありませんか? 条件は確かに種馬みたいなもんってことですけど、タクミさんしょいこむタイプじゃないですか」


 しょいこむタイプ?? 
 代わりの「天使ちゃん」欲しさに、無責任に種まきまくることにしたハイスペック独身貴族のどこをどーとったらしょいこむタイプになるんだ?
 
 俺がそう思った時、タクミさんの顔はその日で一番魅力的な笑顔になった。
 なんてゆーか、年齢とか、イケメンだとか、ハイスペックだとか、
 そーゆーことはもう関係ない、ただ・・タクミさんって男の笑顔だ。て感じた。
 そしてそれが、今まで見たタクミさんのどんな表情よりも魅力的に見えたんだ。


「参ったな……。大変だよ、予想以上に俺の子どもたち可愛くてさ。全部天使ちゃんなんだよね! 俺が・・行くって決めちゃったから、家族を訪ねるのも忙しいし、金銭面で苦労させたくないから稼がないといけないし。時間も身体もいくらあっても足りない。仕事も前より精力的に引き受けてるんだぜ。今日はたまたま依頼のない日だったけど、昨日なんて10件こなしたからね」

「10件っ?! うわーっ昔のタクミさんからしたら考えられませんね」

「ね。俺もそう思うよ。家族なんて面倒な重荷だと思ってた。でも、持ってみたら良いもんだったよ。独りの時とは違って大変なことは増えるけど、それが気にならないってくらいには嬉しいことも増えた。まぁ、俺は条件に守られてるところが大分あるけどな。アセウスには向いてないところが見つからないから、寿命を終える前には作りなよ」

「あ……はぁ、……はい」


 笑顔のタクミさんと、目を伏せるアセウスと
 急に変な空気になった。
 俺、というかエルドフィンの記憶はその理由を少し知っている。


「……俺さ、アセウスには感謝してるんだ。お陰でたくさんの天使と家族に恵まれて幸せに生き続けてる。俺はそれを伝えたかっただけだから、あんまり考え過ぎないでくれなー。あと、子どもが何人産まれよーが、俺の一番の天使ちゃんはアセウスだから。これも忘れないでくれよ。どう生きようと何が起ころうと、タクミはアセウスの味方だよ」


 これが大人の包容力かっっ。
 ゆる~い笑顔に、底知れない安心感を抱いた。
 アセウスが子どもの頃に戻ったように懐くのも分かる気がした。
 このおっさんが親戚にいたら、俺もコミュ力の高い子どもになってたかも知らん。


「何言ってんですか、タクミさんの子どもたち差し置いて一番とかっ。……でも、俺もタクミさん大好きな人だから、そう言って貰えるのはすげー嬉しいです! ありがとうございます!」


 タクミさんに満面の笑顔を返したアセウスは、エヘヘッてはにかみながら俺を見た。
 なんでそこで俺を見る!? 要らねーわ!!
 このおっさんが親戚にいても、俺はこーはならねぇ。間違いなくならねぇっっ。


「で、三人をベルゲンへ送ればいいのか?」

「はい! 頼めます? 三人でいくらになりますか?」

「要らない要らない。これは仕事じゃなくて俺が好きでやることだから」

「じゃあ、……甘えさせて頂きます。タクミさん、すごく優しい! ありがとう!」

「出たー! それなっ! 8年ぶり!!」


 二人のデカゴツい男が心の底から大笑いしている……。
 なんなんすか、このノリ。


「なんか、楽しそうで良かったです……。すみません、タクミさん、ありがとうございます、俺らまで」

「ぜ~んぜんっ! どうする? すぐ出発する? 俺としては昼飯ご馳走したいって気持ちでいっぱいなんだけど、時間ゆっくり出来そうか?」

 タクミさんの言葉に、半笑いの俺と、真顔のジトレフがアセウスの方を向く。
 「ほらな」と、どや顔のアセウスの答えは分かってた。


「もちろんっ! やったぁー! 8年分、積もる話を聞いて貰いますからね!!」




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