童話短編集

木野もくば

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魔性(ましょう)のフグ

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 ある晴れた日、り好きの青年のヌカスケは、海釣うみづりを楽しんでいた。

「おっ! かかった!」

 ルアーに当たりが来て、竿ざおから何かの手応てごたえを感じたヌカスケが力いっぱいリールを巻き上げる。

「おっと、コレは!?」

 り上げたのはフグだった。

「……何だ。フグか」

 フグは、内臓ないぞうどくがあるので海に帰すしかない。しかし何にでもらいついてくるので、よくれた。びとにとっては、厄介者やっかいものだった。

 ヌカスケは大きなため息をつくと、フグをフィッシュグリップでつかんでながめた。
 するとフグは、上目遣うわめづかいでヌカスケをじっと見つめてきた。
 思わずドキッとしたヌカスケは、あわててフグを海へがした。

 また別の晴れた日、ヌカスケはふたたびフグをり上げた。やはり、フグは上目遣うわめづかいで見つめてくる。
 ヌカスケは、その視線しせんからげるようにフグを海に帰した。

 あるばん、ヌカスケは夢を見た。フグと一緒いっしょに海の中を泳ぐ夢だった。フグが上目遣うわめづかいをして見つめてきたところで目が覚めた。

「ハアハア……何て夢だ」

 そう言うとヌカスケは、思わず自分のむねをおさえた。大きくドキドキと高鳴たかなっていて苦しかった。

 それから何度も同じ場所にりに行ったが、フグをることができなかった。

「今日もダメだったか……」

 フグをあきらめきれないヌカスケは、来る日も来る日も、何度も何度も、海に行ってりをした。
 それでも、フグをることができなかった。

 やつれきったヌカスケは、ある天気が悪い日、足をすべらせて海に落ちてしまった。
 ライフジャケットを着ていたが、どうすることもできずに海面をただよっていた。やがて、だんだんとヌカスケの意識がうすれていく。

 気が付くと、ヌカスケは見知らぬ場所の砂浜にいた。他の人間を探して歩き回ったがだれもいない。どうやら、気絶きぜつしているうちに無人島むじんとうに流れ着いていたようだった。

 やがて、空腹くうふくを感じ始めたヌカスケの目の前に、突然とつぜんばりが現れた。

 おどろいたヌカスケが上を見上げると、空からり糸がたれている。迷いながらもばりをつかんだ瞬間しゅんかん、ヌカスケの意識がとぎれた。

 だれかの声が聞こえてきた。

「おい、兄ちゃん! 大丈夫かい!?」

 どうやら近くにいたびとが、たおれていた自分に声をかけてくれていた様子だった。

「よ、よかった。気がついたか。あんた、竿ざおを持ったまま気絶きぜつしてたんだぞ」

「大丈夫です。はらりすぎてたおれていただけなので」

「ほ、本当に大丈夫か!? それに、これも何だい?」

「えっ?」

 ヌカスケがびとが指差した方を見てみる。そこには、切れたり糸が文字の形になり置いてあった。

「なになに、ツギハナイワヨ……。何だこりゃ?」

「……オレにしか分からないメッセージですよ」

 その後もヌカスケは変わらず、りを続けた。

「よし、きたぞ!」

 ヌカスケは、り上げたフグをフィッシュグリップでつかむと頭上ずじょうにかかげて、上目遣うわめづかいで見つめた。

 フグは、視線をそらしたまま見つめ返してこなかった。ヌカスケはフグを海へ逃がすとしずかにつぶやいた。

「オレは決してあきらめないぞ」

 



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