『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI

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Mission6: 魔物の脅威を退けよ

第3話 初めての訓練

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昨夜から続く不安を断ち切るため、悠真は翌日の朝から若者たちを広場に集めた。

 「今日から訓練を始める」

 その言葉に、若者たちは不安げに槍を手に取った。槍といっても作ったばかりの
粗削りのものだ。木の柄はまだ生乾きで、石の穂先は縄で括りつけただけ。
 彼らの手は汗で滑り、腕はわずかに震えていた。


 悠真は彼らを見渡し、かつて会社で部下に仕事を振り分けた日のことを思い出す。
 (役割を与えると、人は迷わず動ける。漠然と「頑張れ」では誰も動けないんだ)

 「まずは役割を決める」
 悠真は指で地面に円を描きながら説明した。
 「槍で前に立つ者、盾を構えて守る者、弓で後ろから狙う者。それぞれの役割を明確にすれば、怖くても動ける」

 戸惑いながらも若者たちは頷き、位置についた。


 広場の中央には藁を束ねた人形と、木の板を組んだ標的が立てられていた。
 「まずは槍で突け。深く考えるな、前へ出して引くだけでいい」

 一人が槍を構え、ぎこちなく突いた。
 「えいっ!」
 しかし力が入らず、槍の先は藁人形をかすっただけで逸れてしまう。

 別の若者も挑戦したが、勢い余って体ごと倒れ込んだ。周りの者たちが笑い声を漏らしたが、それは恐怖を和らげる小さな笑いだった。

 「最初から上手くできる奴なんていない。大事なのは繰り返すことだ」
 悠真の落ち着いた声に、失敗した若者は照れ笑いを浮かべて再び立ち上がった。


 次は弓だ。木の枝を曲げて麻縄を弦にしただけの簡素な弓。
 一人の青年が矢をつがえ、藁人形に狙いを定める。
 「と、飛んでけっ!」
 弦が鳴り、矢は――見事に的を外れ、村長の足元に突き刺さった。

 「ひゃあっ!」
 村長が飛び上がり、広場は爆笑に包まれた。笑いながらも青年は赤面しつつ矢を拾いに走る。その姿を見て、硬かった空気が少しだけ柔らかくなった。


 その時、声が上がった。
 「私も……私も手伝う!」

 ユナだった。
 彼女はまだ槍を握れる年齢ではなく、腕力も足りない。だが真剣な眼差しで悠真を見つめていた。

 「ユナ……」
 「わたしだって、役に立ちたいの。矢を拾ったり、縄を結んだり、できることはあるはず!」

 迷う悠真に、ユナは一歩踏み出した。
 「ただ見ているだけじゃ嫌。守られるだけなんてもっと嫌。わたしも一緒に守りたい!」

 その言葉に、若者たちの頬が赤く染まった。小さな少女でさえ前に立とうとしている。その姿に、彼らの心に火が灯る。

 「……分かった。矢取りを任せる。頼むぞ、ユナ」
 「うん!」

 ユナは嬉しそうに返事をし、矢を拾うために広場を駆け回った。


 訓練は拙く、槍の突きは浅く、弓矢は的に届かないことの方が多かった。
 だが、確実に声は大きくなり、槍の動きも少しずつ鋭さを増していった。

 「突け! 声を出せ!」
 「うおおっ!」

 掛け声が広場に響き渡る。昨日まで恐怖に押し潰されていた若者たちが、今は汗を流しながら必死に的へ挑んでいた。


 夕暮れ時、藁人形は槍の跡でボロボロになり、矢も何本かは的を貫いていた。
 それを見た村人たちがざわめく。
 「形になってきたな……」
 「本当に、戦えるようになるかもしれん……」

 悠真は胸の奥で小さく頷いた。
 (まだ恐怖は残っている。だが、彼らは確実に前に進んでいる)

 ユナが矢を抱えて駆け寄り、誇らしげに笑った。
 「ね、役に立てたでしょ!」
 「ああ、十分すぎるくらいにな」

井戸を中心に広がる広場に、再び若者たちが集まった。
 昨日までは槍を突く練習、弓を射る練習、それぞれの個人訓練に過ぎなかった。だが、今日は違う。

 悠真は地面に棒で線を引き、簡単な図を描いた。
 「いいか。魔物は人より大きく、速い。個人の力では止められない。だが――槍を並べて壁にすれば突進も防げる」

 その言葉に若者たちは顔を見合わせ、緊張で喉を鳴らした。
 「槍の壁……そんなもので本当に止まるのか?」
 「やってみなきゃ分からない」
 悠真はきっぱりと言い切った。


 翌朝、まずは槍を持った若者たちを並べ、横一列に立たせる。
 「突き出した槍の先を揃えろ! 槍先が乱れれば突破されるぞ!」
 「は、はい!」

 必死に腕を伸ばす若者たち。しかし槍先は揃わず、列もすぐに乱れてしまう。
 「お、おい! 肩がぶつかって痛い!」
 「列を崩すな!」

 悠真は声を荒げる。
 「敵は待ってくれない! 仲間と呼吸を合わせろ! 肩がぶつかるなら一歩ずつ下がれ!」


 何度もやり直しを重ね、ようやく槍先が揃った。藁の人形を突進役に見立てて引きずり、槍の列にぶつけると――。
 「ぐっ……!」
 槍は大きく揺れたが、列は踏ん張り、藁人形は跳ね返された。

 「……止めた……!」
 歓声と共に驚きの声が漏れる。
 悠真は頷きながらも言った。
 「まだ甘い。実際の魔物はもっと重く、もっと速い。足がすくめば一瞬で突破される」


 次は弓兵役だ。槍の後ろに立ち、矢をつがえて構える。
 「槍で止め、弓で撃ち抜く。それが基本だ」
 若者たちは必死に矢を構えるが、的を外す者も多い。
 「狙いは大きな胴体だ! 細かい場所を狙うな!」
 悠真の指示で、矢は次第に藁人形へ突き刺さるようになった。


 訓練の合間、ユナが桶を抱えて駆け寄る。
 「みんな、水を飲んで! 喉が渇いたら動けなくなるよ!」
 彼女の声に、緊張していた若者たちの顔がほころんだ。

 「……俺たち、やれるかもしれない」
 「昨日は槍を持つだけで震えてたのにな」

 誰かが呟くと、仲間が笑って頷いた。


 夕暮れ、槍の列は以前よりも固く、弓矢も狙いが定まり始めていた。
 悠真は広場を見渡し、深く息を吐く。
 (これなら……初撃くらいは耐えられる。あとは恐怖に負けない心を育てるしかない)

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