21 / 158
七将編(剛腕将軍グラドン)
第16話 保育士じゃない勇者
しおりを挟む
坑道の調査を一度終え、一行は重い足取りで地上を目指した。
長い石段を登る間、兵士たちの肩は震え、呼吸は荒い。
背後に残してきた亡骸の数々が、彼らの心に重くのしかかっていた。
やがて岩壁の隙間から淡い光が差し込む。
地上だ――。
外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ兵士たちは、顔を上げて一斉に深呼吸した。
「……生きて、戻れた……」
「陽の光が……これほどありがたいとは……」
誰もが震える声でそう漏らした。
ただ一人、悠だけは眠そうに欠伸を噛み殺しながら歩き、陽の光を鬱陶しげに目を細めていた。
鉱山都市の中心、領主館。
重厚な扉を抜けると、領主が青ざめた顔で待ち受けていた。
後ろには数人の書記官や家臣が控え、緊張が館全体を覆っている。
「勇者殿……! 調査の結果は……」
リオネルが一歩進み出て報告する。
「坑道の奥にて、多数の鉱夫の亡骸を発見しました。腐敗が進み、もはや救出は……」
声がわずかに震える。それでも言葉を継いだ。
「さらに、魔物の群れが跋扈しており……その力は人間の手に負えるものではありません。背後に、魔王軍の関与があると見て間違いないでしょう」
「……っ!」
領主は息を呑み、椅子に崩れ落ちるように腰を下ろした。
顔色は紙のように白く、手は小刻みに震えていた。
「やはり……魔王軍の影が……」
館に集う重臣たちがざわめき、恐怖と不安が広がる。
「王都へ急ぎ伝えねば……」
「だが、この都市を守る兵はどうする……」
騒然とする空気を、悠の気の抜けた声が切り裂いた。
「……だからって、ぜんぶ俺に押し付けんなよ。面倒くせぇ」
場の空気が凍り付く。
だが悠は欠伸をしながら耳を掻き、続けた。
「まぁ……逃げてもどうせ追ってくるんだろ? だったら、いずれ片付けなきゃいけねぇのは分かってるけどさ」
冷たく聞こえた一言の裏に、本音がにじんでいた。
リオネルはその横顔を見て、微かに目を細める。
その日のうちに噂は街中に広がった。
「坑道で鉱夫が大量に殺されていた」「魔王軍が動き出した」――。
市場では商人たちが品を片付け、酒場では酔客の笑い声が消えた。
母親は子を抱き、父親たちは剣を握りしめ、誰もが不安げに空を見上げた。
夕刻。領主は夜間外出禁止令を発布する。
兵士たちが通りを駆け回り、触れを叫ぶ。
「日没以降の外出を禁ずる! 家の戸を固く閉じよ!」
門は固く閉ざされ、広場の篝火が強く焚かれた。
街は早々に静まり返った。だが、沈黙は安堵をもたらさず、むしろ不気味な重苦しさを残した。
そんな中、館の前に人々が集まり始めた。
勇者を一目見ようと、あるいは助けを求めようと。
「勇者様! どうか街をお守りください!」
「夫を……息子を……どうか!」
涙を流し、声を震わせる人々。
その中で、一人の子供が悠の服を掴んだ。
泣きはらした目で見上げ、嗚咽混じりに叫ぶ。
「お父さんを……助けて……勇者さま……」
悠は露骨に顔をしかめ、耳を塞いだ。
「……俺は保育士じゃねぇんだよ。泣かれても困る」
それでも群衆は祈るように勇者を呼び続けた。
リオネルが前に出て、群衆に声を張り上げる。
「勇者様は必ず解決してくださいます! 恐れるな!」
その言葉に群衆は歓声を上げ、涙を拭った。
人々は希望を託すように、勇者を見上げる。
悠は空を仰ぎ、大きなため息を吐いた。
「……ほんと、世話が焼けるな」
投げやりな声色とは裏腹に、その目にはかすかな決意が宿っていた。
群衆は気付かぬまま、「勇者様」と叫び続ける。
鉱山都市は今や、ただ一人の存在に希望を託していた。
長い石段を登る間、兵士たちの肩は震え、呼吸は荒い。
背後に残してきた亡骸の数々が、彼らの心に重くのしかかっていた。
やがて岩壁の隙間から淡い光が差し込む。
地上だ――。
外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ兵士たちは、顔を上げて一斉に深呼吸した。
「……生きて、戻れた……」
「陽の光が……これほどありがたいとは……」
誰もが震える声でそう漏らした。
ただ一人、悠だけは眠そうに欠伸を噛み殺しながら歩き、陽の光を鬱陶しげに目を細めていた。
鉱山都市の中心、領主館。
重厚な扉を抜けると、領主が青ざめた顔で待ち受けていた。
後ろには数人の書記官や家臣が控え、緊張が館全体を覆っている。
「勇者殿……! 調査の結果は……」
リオネルが一歩進み出て報告する。
「坑道の奥にて、多数の鉱夫の亡骸を発見しました。腐敗が進み、もはや救出は……」
声がわずかに震える。それでも言葉を継いだ。
「さらに、魔物の群れが跋扈しており……その力は人間の手に負えるものではありません。背後に、魔王軍の関与があると見て間違いないでしょう」
「……っ!」
領主は息を呑み、椅子に崩れ落ちるように腰を下ろした。
顔色は紙のように白く、手は小刻みに震えていた。
「やはり……魔王軍の影が……」
館に集う重臣たちがざわめき、恐怖と不安が広がる。
「王都へ急ぎ伝えねば……」
「だが、この都市を守る兵はどうする……」
騒然とする空気を、悠の気の抜けた声が切り裂いた。
「……だからって、ぜんぶ俺に押し付けんなよ。面倒くせぇ」
場の空気が凍り付く。
だが悠は欠伸をしながら耳を掻き、続けた。
「まぁ……逃げてもどうせ追ってくるんだろ? だったら、いずれ片付けなきゃいけねぇのは分かってるけどさ」
冷たく聞こえた一言の裏に、本音がにじんでいた。
リオネルはその横顔を見て、微かに目を細める。
その日のうちに噂は街中に広がった。
「坑道で鉱夫が大量に殺されていた」「魔王軍が動き出した」――。
市場では商人たちが品を片付け、酒場では酔客の笑い声が消えた。
母親は子を抱き、父親たちは剣を握りしめ、誰もが不安げに空を見上げた。
夕刻。領主は夜間外出禁止令を発布する。
兵士たちが通りを駆け回り、触れを叫ぶ。
「日没以降の外出を禁ずる! 家の戸を固く閉じよ!」
門は固く閉ざされ、広場の篝火が強く焚かれた。
街は早々に静まり返った。だが、沈黙は安堵をもたらさず、むしろ不気味な重苦しさを残した。
そんな中、館の前に人々が集まり始めた。
勇者を一目見ようと、あるいは助けを求めようと。
「勇者様! どうか街をお守りください!」
「夫を……息子を……どうか!」
涙を流し、声を震わせる人々。
その中で、一人の子供が悠の服を掴んだ。
泣きはらした目で見上げ、嗚咽混じりに叫ぶ。
「お父さんを……助けて……勇者さま……」
悠は露骨に顔をしかめ、耳を塞いだ。
「……俺は保育士じゃねぇんだよ。泣かれても困る」
それでも群衆は祈るように勇者を呼び続けた。
リオネルが前に出て、群衆に声を張り上げる。
「勇者様は必ず解決してくださいます! 恐れるな!」
その言葉に群衆は歓声を上げ、涙を拭った。
人々は希望を託すように、勇者を見上げる。
悠は空を仰ぎ、大きなため息を吐いた。
「……ほんと、世話が焼けるな」
投げやりな声色とは裏腹に、その目にはかすかな決意が宿っていた。
群衆は気付かぬまま、「勇者様」と叫び続ける。
鉱山都市は今や、ただ一人の存在に希望を託していた。
12
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる