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七将編(剛腕将軍グラドン)
第16話 保育士じゃない勇者
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坑道の調査を一度終え、一行は重い足取りで地上を目指した。
長い石段を登る間、兵士たちの肩は震え、呼吸は荒い。
背後に残してきた亡骸の数々が、彼らの心に重くのしかかっていた。
やがて岩壁の隙間から淡い光が差し込む。
地上だ――。
外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ兵士たちは、顔を上げて一斉に深呼吸した。
「……生きて、戻れた……」
「陽の光が……これほどありがたいとは……」
誰もが震える声でそう漏らした。
ただ一人、悠だけは眠そうに欠伸を噛み殺しながら歩き、陽の光を鬱陶しげに目を細めていた。
鉱山都市の中心、領主館。
重厚な扉を抜けると、領主が青ざめた顔で待ち受けていた。
後ろには数人の書記官や家臣が控え、緊張が館全体を覆っている。
「勇者殿……! 調査の結果は……」
リオネルが一歩進み出て報告する。
「坑道の奥にて、多数の鉱夫の亡骸を発見しました。腐敗が進み、もはや救出は……」
声がわずかに震える。それでも言葉を継いだ。
「さらに、魔物の群れが跋扈しており……その力は人間の手に負えるものではありません。背後に、魔王軍の関与があると見て間違いないでしょう」
「……っ!」
領主は息を呑み、椅子に崩れ落ちるように腰を下ろした。
顔色は紙のように白く、手は小刻みに震えていた。
「やはり……魔王軍の影が……」
館に集う重臣たちがざわめき、恐怖と不安が広がる。
「王都へ急ぎ伝えねば……」
「だが、この都市を守る兵はどうする……」
騒然とする空気を、悠の気の抜けた声が切り裂いた。
「……だからって、ぜんぶ俺に押し付けんなよ。面倒くせぇ」
場の空気が凍り付く。
だが悠は欠伸をしながら耳を掻き、続けた。
「まぁ……逃げてもどうせ追ってくるんだろ? だったら、いずれ片付けなきゃいけねぇのは分かってるけどさ」
冷たく聞こえた一言の裏に、本音がにじんでいた。
リオネルはその横顔を見て、微かに目を細める。
その日のうちに噂は街中に広がった。
「坑道で鉱夫が大量に殺されていた」「魔王軍が動き出した」――。
市場では商人たちが品を片付け、酒場では酔客の笑い声が消えた。
母親は子を抱き、父親たちは剣を握りしめ、誰もが不安げに空を見上げた。
夕刻。領主は夜間外出禁止令を発布する。
兵士たちが通りを駆け回り、触れを叫ぶ。
「日没以降の外出を禁ずる! 家の戸を固く閉じよ!」
門は固く閉ざされ、広場の篝火が強く焚かれた。
街は早々に静まり返った。だが、沈黙は安堵をもたらさず、むしろ不気味な重苦しさを残した。
そんな中、館の前に人々が集まり始めた。
勇者を一目見ようと、あるいは助けを求めようと。
「勇者様! どうか街をお守りください!」
「夫を……息子を……どうか!」
涙を流し、声を震わせる人々。
その中で、一人の子供が悠の服を掴んだ。
泣きはらした目で見上げ、嗚咽混じりに叫ぶ。
「お父さんを……助けて……勇者さま……」
悠は露骨に顔をしかめ、耳を塞いだ。
「……俺は保育士じゃねぇんだよ。泣かれても困る」
それでも群衆は祈るように勇者を呼び続けた。
リオネルが前に出て、群衆に声を張り上げる。
「勇者様は必ず解決してくださいます! 恐れるな!」
その言葉に群衆は歓声を上げ、涙を拭った。
人々は希望を託すように、勇者を見上げる。
悠は空を仰ぎ、大きなため息を吐いた。
「……ほんと、世話が焼けるな」
投げやりな声色とは裏腹に、その目にはかすかな決意が宿っていた。
群衆は気付かぬまま、「勇者様」と叫び続ける。
鉱山都市は今や、ただ一人の存在に希望を託していた。
長い石段を登る間、兵士たちの肩は震え、呼吸は荒い。
背後に残してきた亡骸の数々が、彼らの心に重くのしかかっていた。
やがて岩壁の隙間から淡い光が差し込む。
地上だ――。
外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ兵士たちは、顔を上げて一斉に深呼吸した。
「……生きて、戻れた……」
「陽の光が……これほどありがたいとは……」
誰もが震える声でそう漏らした。
ただ一人、悠だけは眠そうに欠伸を噛み殺しながら歩き、陽の光を鬱陶しげに目を細めていた。
鉱山都市の中心、領主館。
重厚な扉を抜けると、領主が青ざめた顔で待ち受けていた。
後ろには数人の書記官や家臣が控え、緊張が館全体を覆っている。
「勇者殿……! 調査の結果は……」
リオネルが一歩進み出て報告する。
「坑道の奥にて、多数の鉱夫の亡骸を発見しました。腐敗が進み、もはや救出は……」
声がわずかに震える。それでも言葉を継いだ。
「さらに、魔物の群れが跋扈しており……その力は人間の手に負えるものではありません。背後に、魔王軍の関与があると見て間違いないでしょう」
「……っ!」
領主は息を呑み、椅子に崩れ落ちるように腰を下ろした。
顔色は紙のように白く、手は小刻みに震えていた。
「やはり……魔王軍の影が……」
館に集う重臣たちがざわめき、恐怖と不安が広がる。
「王都へ急ぎ伝えねば……」
「だが、この都市を守る兵はどうする……」
騒然とする空気を、悠の気の抜けた声が切り裂いた。
「……だからって、ぜんぶ俺に押し付けんなよ。面倒くせぇ」
場の空気が凍り付く。
だが悠は欠伸をしながら耳を掻き、続けた。
「まぁ……逃げてもどうせ追ってくるんだろ? だったら、いずれ片付けなきゃいけねぇのは分かってるけどさ」
冷たく聞こえた一言の裏に、本音がにじんでいた。
リオネルはその横顔を見て、微かに目を細める。
その日のうちに噂は街中に広がった。
「坑道で鉱夫が大量に殺されていた」「魔王軍が動き出した」――。
市場では商人たちが品を片付け、酒場では酔客の笑い声が消えた。
母親は子を抱き、父親たちは剣を握りしめ、誰もが不安げに空を見上げた。
夕刻。領主は夜間外出禁止令を発布する。
兵士たちが通りを駆け回り、触れを叫ぶ。
「日没以降の外出を禁ずる! 家の戸を固く閉じよ!」
門は固く閉ざされ、広場の篝火が強く焚かれた。
街は早々に静まり返った。だが、沈黙は安堵をもたらさず、むしろ不気味な重苦しさを残した。
そんな中、館の前に人々が集まり始めた。
勇者を一目見ようと、あるいは助けを求めようと。
「勇者様! どうか街をお守りください!」
「夫を……息子を……どうか!」
涙を流し、声を震わせる人々。
その中で、一人の子供が悠の服を掴んだ。
泣きはらした目で見上げ、嗚咽混じりに叫ぶ。
「お父さんを……助けて……勇者さま……」
悠は露骨に顔をしかめ、耳を塞いだ。
「……俺は保育士じゃねぇんだよ。泣かれても困る」
それでも群衆は祈るように勇者を呼び続けた。
リオネルが前に出て、群衆に声を張り上げる。
「勇者様は必ず解決してくださいます! 恐れるな!」
その言葉に群衆は歓声を上げ、涙を拭った。
人々は希望を託すように、勇者を見上げる。
悠は空を仰ぎ、大きなため息を吐いた。
「……ほんと、世話が焼けるな」
投げやりな声色とは裏腹に、その目にはかすかな決意が宿っていた。
群衆は気付かぬまま、「勇者様」と叫び続ける。
鉱山都市は今や、ただ一人の存在に希望を託していた。
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