『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第30話 面倒でも進む勇者

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翌朝、まだ日も昇りきらぬうちに、鉱山都市の大通りには人々が集まっていた。
 領主邸での懇願を受け、鉱山の再調査が決まった――その知らせは、瞬く間に市中に広がっていたからだ。
 老若男女問わず、人々は勇者の姿を一目見ようと集まり、通りはぎっしりと埋め尽くされていた。

「……おいおい、また人だかりかよ」
 悠は宿の扉を押し開けた瞬間、目の前に広がる群衆にうんざりした表情を浮かべた。

「勇者様! どうかご無事で!」
「頼む、鉱山を……家族を……!」
「勇者様なら必ず!」

 割れんばかりの声援が飛び交う。だが当の本人は眉間を押さえ、露骨に顔をしかめた。
「……ほんと、騒がしいのが一番嫌いなんだよな」

 隣のリオネルが、苦笑しながらも毅然とした態度で手を上げ、人々に落ち着くよう促した。
「皆の気持ちは勇者様に届いております! どうか道をお開けください!」

 人々が左右に割れ、ようやく馬車の通り道ができる。
 悠はその中央を、ため息をつきながら歩いた。


 鉱山へ向かう一行は、勇者とリオネルを中心に、兵士二十名、さらに市民から志願した鉱夫や若者たちを加えた編成だった。
 「勇者様と共に戦えるなら」と息巻く者もいたが、その大半は街を守るために死を覚悟している顔つきだった。

 悠はそんな空気を背中に受けつつ、馬車の中で欠伸を漏らした。
「……なあ、俺ひとりで十分だろ。なんでこんなに連れてくるんだよ」

 リオネルが真面目な顔で答える。
「市民にとって、勇者様の戦いをこの目で見ることが、何よりの安心になるのです。それに、彼らも自分の街を守る覚悟を示したいのですよ」

「覚悟とか、勝手にすればいいだろ。俺に見せなくても」
 悠は窓の外を眺め、肩を竦めた。

 馬車が石畳を抜け、やがて街外れの山道へ差し掛かる。鉱山都市を象徴する煙突の群れが遠ざかり、代わりに岩肌むき出しの山脈が迫ってきた。


 鉱山の入口に着くと、一同は息を呑んだ。
 そこには、昨日までにはなかった異様な光景が広がっていた。

 坑道の口全体が、紫黒の膜のようなものに覆われている。
 ぬめるように揺れ、光を反射しては消し込むそれは、まるで生き物のようだった。

「……結界だ」
 リオネルが険しい声を漏らした。

 兵士たちがざわめき、不安そうに顔を見合わせる。
「中に入れない……」
「魔王軍の仕業か……?」

 悠は眠そうな目を半分開けただけで、その不気味な膜を眺めた。
「……意味ねぇだろ、こんなの」

 次の瞬間、彼は片手を軽く振るった。
 衝撃波のような圧が走り、結界はガラス細工のように粉々に砕け散った。

 兵士たちが目を見開き、息を呑む。
 市民の志願者たちは口を開けたまま言葉を失った。

「……よし、解除完了。帰って寝たい」
 悠が踵を返そうとするのを、リオネルが慌てて止めた。
「勇者様! これからが本番です!」

「分かってるよ。……分かってるけど、気持ち的には帰りたい」
 ぼやきながらも、悠は渋々坑道へ足を踏み入れた。


 内部は、以前よりも濃い瘴気に包まれていた。
 空気は重く、息をするたびに胸に鉛が沈むような圧を感じる。
 松明の火は弱々しく揺れ、闇に呑まれる寸前のようだ。

「……なんか、前よりジメジメしてねぇか?」
 悠が顔をしかめる。

 兵士の一人が喉を鳴らした。
「ひっ……! こ、これが魔王軍の結界の名残か……」

 足元で小石が転がる音に、数人が飛び上がる。剣を握る手は汗で滑り、震えが止まらない。

 リオネルはそんな彼らを励まそうと声を張った。
「落ち着け! 勇者様が共におられる、大丈夫だ!」

 その言葉に、兵士たちは小さく頷いたが、足取りはなお重い。

「……いや俺も帰りたいけどな」
 悠の気のない一言に、一同は一瞬凍りついた。
 だがすぐにリオネルが咳払いし、「じょ、冗談だ!」と取り繕う。

 笑う者はいなかった。


 そのとき――奥の闇から、地鳴りのような振動が伝わってきた。
 石壁が震え、天井から細かな砂がぱらぱらと落ちる。

 兵士たちは剣を構え、背中をぶつけ合うようにして身を寄せ合った。
「な、なんだ……!」
「地震か!?」

 いや――違う。

 悠は眠そうな瞳を少しだけ鋭くした。
 坑道の奥から押し寄せてくる圧は、自然の揺れではない。
 獣のような、巨人のような、存在そのものが大地を揺るがす気配だった。

 そして次の瞬間、耳を裂くような咆哮が坑道に響き渡った。
「グオオオオオオオオオォォォォ!!」

 岩壁が震え、松明の炎が吹き消されそうになる。
 その声は、地底深くから響き渡る、獣の王の咆哮。

 兵士たちが顔を真っ青にし、リオネルが叫んだ。
「まさか……! グラドンか!」

 悠は深くため息をつき、肩を落とした。
「……あーあ。やっぱり来るんだよな、こういうの」

 眠気を押し殺すように目を細めながら、勇者は再び足を進めた。
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